6:守るため
この山は、俺のモノだ。
(誰か!助けて!助け──)
傍若無人?
(嫌だ...嫌ダァァァァアア!!)
自分勝手?
(◾️◾️◾️様!約束だよ!)
どいつもこいつも...俺のモノをガラクタみてぇにグシャグシャにしやがって...
だったら俺も...テメェら全員...!
───────────────
『グジャグジャにしてヤルゥゥゥゥゥウウ!!!!』
遊戯の神は、奏に吹き飛ばされた頭を即座に再生し、喉から巨大な剛腕を吐き出した!
「──ッ!!」
剛腕は奏に向かって拳を振るうが、それを察知した奏は演奏の激しさを増す。
その演奏によって、辺りをこだまする無数の音符が遊戯の神に襲いかかった。
『ガァァァァアア!!アアァァァァァア!!!』
音符は奴の外皮に触れた瞬間爆烈し、轟音を咲かせる。
「危ねぇな...今のは予想出来なかったわ...」
マシンガンのように遊戯の神を襲った音符を、奏は演奏で再び呼び集める。
「さっきので懲りてねぇなら..もっとやるよ!!」
しかし奏が攻撃を仕掛けようとした次の瞬間、背中の黒い汚れから無数の腕が生えた。
「なっ!?はぁ?!」
(さっきの唾液が...!)
その腕にしがみつかれ、動きを止められた奏は、再生を済ませた遊戯の神の剛腕に殴り飛ばされてしまう!
「奏!!!」
奏は痛みを叫ぶ暇もなく、後方の木に激突し、衝撃で気絶してしまった。
『ハァァ....これで終わりだ...!』
その光景を見た叶途は、遊戯の神に錆びた刀を向ける。その切先は、怒りと憎しみでガチガチと震えていた。
「ざっけんじゃねェ!!テメェはオレがブッ殺す!!!」
頭から血を流し、骸のように座り込む奏の姿が、叶途の覚悟を刺激する。
今の叶途は、もはや自分の無力さすらも忘れていた。
「黒橋叶途、大丈夫だ、奏は生きて..」
「うるっせぇんだよ!!黙ってろやァ!!!」
叶途を安心させようと声をかけた音楽の神だったが、声をかけたこと自体が間違えだったようだ。
『害虫が...せいぜい足掻いてみろよ...』
遊戯の神は、その巨体を動かし、叶途目掛けて突進した。それに対して叶途は刀を構える...と思いきや、なんと地面を蹴り、高く宙へと飛んだ!
『動けるな...』
遊戯の神も負けじと地面を強く蹴り、頭上の叶途に向かって口を開けながら飛ぶ。
『避けれねぇよ!』
しかし、遊戯の神が思っていたより、叶途は"早く"、地面に向かって落下し始めていた。
そして落下の途中で、叶途は遊戯の神の額にしがみつく。
「一回死んどけよ」
叶途は錆びた刀を逆手に持ち、そのまま遊戯の神の眉間に突き刺した!
「ガァァァァァァアア!ナンダァァァアア!!??」
錆びた刃は引き抜くと同時に、周囲の肉を絡め取って乱暴に引きちぎる。そのため、眉間から噴水のように血が噴き出た。
「汚ねぇシャワーだなおい、目に入ったらどうすんだよォ!」
更に叶途は、付近にあった遊戯の神の眼球を刀で突き破る。
『アァァァァァ!!ァァァァアア!!!』
痛みは感じるのか、遊戯の神は地上に落下した後、全身を痙攣させながらもがき苦しむ。
そんな遊戯の神の額を蹴って、叶途は再び後方に跳んだ。
「痛てぇか?ならあと無限回味わわせてやるよ」
「...すごいね、ただの人間がここまでやれるなんて」
音楽の神は奏の回復を補助しながら、叶途の勇姿を眺めていた。
『クソが..!クソがクソがクソがクソがァァァァァア!!!』
遊戯の神は無数の目を血走らせ、叶途を凝視する。
「...まさか!叶途!右へずれろ!」
音楽の神がそう叫んだ次の瞬間!
"キィィィィィイイ!!!ィィィィィィイイン...!!"
...遊戯の神の口から、彼方を狙って、前方を切り裂く程の超音波を放出させた。
「──ッ!!」
叶途の身体はそれを紙一重で躱すが、刀の切先がその音波に触れてしまった。
それによって、錆びた刀身は粉々に砕け、もはや武器として使い物にならなくなってしまった。
『あははは!!こりゃ良い!!こりゃあ便利だ!!』
「今の攻撃...私の足だ、奴は食ったモノの力を使えるんだ」
「ハァ!?先に言えや!!」
叶途の頬に、冷や汗が伝う。武器を壊されたならどうする?拳を振るうか?それとも奏を連れて逃げるか...
どちらも現実的じゃなかった。
「クソが...」
しかし叶途は、刀身の付いていないただの柄だけになったアーティファクトを、遊戯の神に向かって握りしめる。
「あぁ?それで俺を殺せんのか!!」
殺さない、分かってる、だがここで逃げれば、奏は奴に殺される。だからこうするしかない。
「あぁ、思ってるよ。俺は欲張りだかんな、テメェを殺して奏も助けんだよ...!」
その時、音楽の神のポーチから、再び黒い液体が溢れ出た。
「ん?あれ...思ってたより早いね」
その液体は、まるで意志を持っているかのようにうねうねと起動し、叶途を指す。
「あっ、でも良いね、教育してみた甲斐があったよ。
じゃあそのまま...」
音楽の神がポーチを開けると、その液体は叶途へと飛びかかった!
「"彼の力"になってくれ」
液体は柄だけのアーティファクトに纏わりつき、刀身を創ろうように切先へと伸びる。
「はっ!?なんだ!?」
「黒橋叶途、それは君の力になってくれる。君は今何を願う?何になりたい?誰よりも強く想ってみろ、そうすればその刀は、"希望"にも"絶望"にもなり得る」
意味が分からなかった、しかし今は、それに縋るしか無かった。叶途は柄を握りしめ、強い決意を噛み締める。
(倒す!守る!...そうだ、守るんだ...アイツに助けてもらった分、絶ッッッ対に...)
「"守ってやんだよォォォォォ!!!"」
『ウルセェェェエエエエエエ!!!』
"ゴォォォオオオオオ!!!ォォォォォォオオ...!!"
先の倍の威力、更に直撃...それに関わらず、叶途は無傷。更に折れた筈のアーティファクトは、錆を捨て、太陽を思わせるほどの輝きを持つ刀身を露わにしていた。
「な...なんじゃこりゃ...」
更に刀身は、意志を抱ているかのように伸び縮みする。
『おい...オイ!!なんでテメェみてぇな害虫が...!
使えんだよ!!』
「久しぶりだね、"幻陽刀"。君の目玉だよ、わざわざ送ってくれた分身を有効活用したまでさ」
幻陽刀...叶途は直感で理解した。この刀は、自身の力になってくれると。
「気をつけてね、その刀、"10分"しか持たないから」
「10分...やるしかねぇことばっかだな...」
幻陽刀の輝く切先が、遊戯の神を捉える。
「じゃあまずは...お返しだ!」
叶途は刀をふり振り上げた。その勢いで刀身は鞭のようにしなやかになり、遊戯の神に向かって伸びる!
『フザ...ゲンナァァァァ!!!』
遊戯の神は斬撃を無数の腕で止めようとしたが、それすらも次々と切り伏せて、最終的に本体を一刀両断した。
「凄ぇ..!今ならなんでもできる気分だ...!!」
しかし遊戯の神もこれでは死なない。即座に体を再生させ、高く跳ぶ。
『どいつもこいつも...面倒なんだよ!!』
そしてなんと空を蹴り、叶途へ空中から突撃する。
それを察知した叶途は、何を考えたか刀を鞘にしまい、膝を落とす。
「言ってみたかったんだわ..."居合抜刀"...」
遊戯の神の頭突きが直撃する寸前、叶途は今際の際で幻陽刀を抜刀し、今度は遊戯の神を上下に両断した!
「"弦月斬"...!」
その斬撃は刀身をしならせ巨大な半月を描いた。
『は...ア...?』
遊戯の神は、あまりに早い斬撃に理解が追いつかなかった。しかしすぐさま、煮えたぎるほどの怒りが思考を襲う。
『ア...アァ...!アアァァァァァァァァァァ!!!!』
地上に落ちた遊戯の神は、強烈な咆哮を恐山全体に響かせる。
それを聞くは、"無数の霊魂"。
「...ん?なんだ、地震か?」
「彼、この山に散りばめられた魂を喰らう気だ」
「それってつまり...?」
「めっちゃ強くなる」
炎のように揺らぐ無数の霊魂が、自ら遊戯の神の口に飛び込む。
その行動が力となったのか、遊戯の神は今より二倍近くデカくなり、腕、口、目、足と、千手観音の如く体のパーツを増やした。
「いや...いやいやいやデカ過ぎんだろ...!」
『コロスコロスコロス!!!皆殺シダァァァ!!!』
遊戯の神は叶途と距離を取りながら、無数の手足を伸ばして殴り潰そうとする。
「うをッ!!」
(早い!それに密度も...!)
叶途は刀で全てを斬り伏せようと考えていたが、捌き斬れないと判断し、出来るだけ攻撃を加えながら避けることにした。しかし、本体の元に刃を届けようとするも、あまりの猛攻で近づくことすら許されない。
「...これはまずい」
遊戯の神の思惑を察した音楽の神は、奏の回復に全神経を注ぐ事にした。
『オレノモノ!!!コノ山ハオレノモノォォ!!!汚スヤツハ許サネェェェェ!!!」
(クソッ!!全然進めねぇ...!それどころか...)
叶途は攻撃を躱してる内に気づく、自身がジワジワと"山頂"へ追い詰められている事に。
(攻撃が激し過ぎて抜け出せねぇ...だったらせめて!奏が逃げる隙を俺が作らねぇと...!)
そして攻防を続けている間に、5分が経過する。
タイムリミットまであと5分...叶途は奏の為に、わざと追い詰められる事にした。
しかし遊戯の神の攻撃は時が経つたびに素早さを増し、もはや叶途は、攻撃をいなすだけで精一杯になった。
「ハァ..!ハァ..!」
足を狙った拳を、叶途は間一髪で避ける...
『結局ハ何モデキズニ野垂レ死ヌ!!害虫ノ最後ニ相応シイジャネェカ!!』
だが、それはただの誘導。
宙に飛んだところを狙い、巨大な剛腕が叶途の眼前まで迫る!
(アッ...わりぃ奏、俺死んだ...)
どれだけ打開策を練ろうとしても間に合わない、叶途は完全に諦めてしまった。
(ごめんッ...!)
"フォォォオオオ!!!オオォォォォォォオン!!!"
その時だった。1秒前まで眼前だった遊戯の神の拳が、
"塵と化していた"。
「──ッ!!...なんだ今の...音...!」
叶途はあまりの轟音に耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じる...そして目を開けた時、視界に映ったのは、血まみれの奏だった。
「ごめん、寝てた」
「奏!おまっ、大丈夫かよ!?」
奏は叶途を抱き抱えたまま、シブちゃんに乗って宙を浮かんでいた。
「全然痛いし全然怠い、でも頭から血ぃ抜けたからめっちゃ冷静だ」
遊戯の神は再び自身の行動の邪魔をした奏に対して激昂し、響激波を浴びせる。
『シツケェンダヨ害虫ガァァァァァァ!!!」
「遅せぇんだよ!!」
奏は"トランペット"を吹き、相殺どころか音波を掻き消し、波動で遊戯の神の顔面を削った。
「叶途、良い事考えた。動けるか?」
「お、おう!まだまだ!」
奏の耳打ちに、叶途は一瞬驚くも、奏を信じる事にした。
「よーしシブちゃん!マッハで行くぞ!」
奏の声に答え、シブちゃんは一直線に"山頂"まで向かう。
『アハハハハ!!血迷ッタカ馬鹿ガァ!!』
遊戯の神は自ら山頂へと急ぐ奏達を見て、嬉々として追いかける。
「叶途!背中任せたぞ!」
遊戯の神は追いかけながらも、無数の手足を伸ばして攻撃を仕掛ける。
しかし全て届く前に、叶途によって切り落とされてしまう。
「同じ事しかできねぇのかァ!?単調なんだよバーカ!!」
こうなる事は想定内。だからこそ、遊戯の神は口を大きく開け、叶途の弱点であろう超音波を咆哮する。
しかしそれも、突如現れた音楽の神が"スーザフォン"を一吹きし、相殺されてしまった。
「お前に助けられたのは癪だが...まぁありがとな」
「それはどうも。あと一つ、奏はこれ以上能力を酷使出来ない。だから君が頑張ってくれ」
「言われなくても!」
正直、奏は今にも倒れそうな程体力を消耗していた。
でも倒れてる暇はない、それは本人が一番理解している。
故に、血を吐こうが、息が詰まろうが、演奏を止めなかった。
(もうすぐ...もうすぐだ...!ここで遊戯の神...テメェをぶっ倒す!!)
その時、シブちゃんが動きを止め、上空を見る。
それ即ち、"山頂"の合図。
「黒橋叶途、分かってるね、あと"20秒"だ」
「そんなに要らねぇ、"10秒"で殺ってやんよ!」
山頂は遊戯の神が獲物を追い詰めるための場所...
今、その理由が分かった。
空を覆う無数の霊魂、地面に漂うドス黒い霧、確かに、"狩り"には最適な場所だ。
『逃ゲ場ハネェゾ!!ココデ死ネェェェエエ!!!」
遊戯の神は叫び声を上げながら奏達に噛みつこうとする。
10...
「シブちゃん飛べぇぇぇええ!!」
奏の叫びに答え、シブちゃんが今際の際でそれを避けた。しかしそれに対応するように、遊戯の神は軌道を変えて真上に跳ぶ。
9...
「かかったな...よし!叶途ォォ!!」
8...
「あぁ!」
そして、叶途がシブちゃんの背中を降り、遊戯の神に向かって刀を構える!
7...
6...
5...
『コノママ食ッテ殺ルヨォォォォオオオオオ!!!』
4...
「じゃあ斬ってやんよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
3...
遊戯の神は牙を交差させる!
叶途は刃を伸ばし、刀を振るう!
2...
1...!
───────────ッ!!
0...
...叶途の背中からは血が吹き出し、遊戯の神は体が左右に分かれた。
『ヤルジャ...ネェカ...デモナァ...!』
遊戯の神は宙を舞う魂をかき集め、体を即座に再生させた。
『テメェノ負ケダァァァァァァ!!!』
ここまでやっても、本体を傷つけなければ無意味。そして幻陽刀は時間切れ...
そんな絶望的な状況で、何故か叶途の口角が上がる。
「舞い上がってんとこ悪いけど...」
叶途が振り返った先、遊戯の神の後ろで、奏の眼光が
"本体の目"を捉えていた!
「「テメェの負けだよ!!」」
"ドゴオォォォォォォォォォォォオオン!!!!"
───遊戯の神は内部からの爆撃で、身体中の穴という穴から轟音を響かせ、静かになった。
『あ...ガ...クソ...が...』
なんで...こんなガキどもに...俺はこんなところで...やられてちゃなんねぇのに...!
こんな奴等に負けてるようじゃ...
アイツ等から...モノを...
"タカラモノを...守れない"




