1:偽りのない契約、危険への誘い
初めまして、作者です。
このカラフルパレットが初めての作品になります。
楽しんでくださったら幸いです。
神と人間の世界、お楽しみください。
まずは希望の始まり..."希望への序曲"としましょう。
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「走れ!振り返るな!お前は生きろ!」
辺りを囲う炎と、それに身を焼かれる者達の悲鳴が、絶望を作る。その絶望を切り裂くような叫びが、小さき命を奮い立たせる。
「ここでお前が殺されてしまえばっ!..うっく..仇討ちすらも叶わんぞ!」
その声に応えるように、小さき魂は振り向く事なく走る、ただただ、走り続ける。
辺りの音すらも無視し、自身の心音、果ては血流の音が聞こえるほど、必死になって。
走り着いた先で、小さき魂は、声に届かぬ悲鳴をあげる。何度も何度も、喉が破れ、血が吹き出すまで。
そして黙り込み、静かに誓った。
──"奪われたモノ、全てを奪い返してやる"──
...西側の窓から、日の光が刺す。部屋の中には、広さに見合わないエレクトーンピアノと、その上や床には、雑に置かれているトロフィーや賞状が散らばっていた。
「...ん、うぅん......今何時だ...?」
さっきまでベッドに寝転がっていた少年...?いや少女?...すまない、言い方が分からん、少年で良いか。
「スマホ..ん、もう17時か...なんだ?声が..」
少年が起き上がって最初に違和感を持ったのは、自身の声だった。風邪をひいて喉を痛めた時のしゃがれた声ではない。普段から聴いている、自身の声よりも少し高く、柔らかいものに変わっていたからだ。
「頭痛てぇ...それになんだこれ...赤い..毛?」
頭痛で自身の頭を触ると、自身の髪がボリュームを増し、肩を覆うほどに伸びていることが分かった。
天パは元からなのだろう、少年はそこに疑問は持たなかった。
「おや、お目覚めかな」
今の声は、少年の声ではない。
「──ッ!?」
その謎の声に驚き、同時に警戒心が芽生えた少年は、声の主を探すように部屋を見渡す。
「そんなに探さなくても、ここに居るよ」
聞こえてきたのは、少年自身の右肩。
じっと見つめていると、その肩を覆う髪からヒョコっと手のひらサイズのナニカが姿を表した。
「やぁ、結構居心地が良かったよ」
「えキッッッッッッッッショ」
あまりの気持ち悪さで、少年は投げ飛ばすより先にチクチク言葉を吐く。で、投げ飛ばした。
「酷いじゃないかいきなり」
「え?何?なんなの?生物?」
投げ飛ばされ、そのナニカは壁にめり込んだが、壁に損傷はなく、めり込んだと言うより、"すり抜けた"と言った方が正しかった。
「ごめんね、自己紹介が遅かったね」
少年の警戒が解けないことを察したナニカは、自身の肩にかけたポーチから、古びたオカリナを取り出す。
「私は、君たち人間の言う付喪神。
もっと簡単に言うと、"音楽の神様"なんだ」
神様...そう言うには、ぬいぐるみのような丸っこい二頭身の身体と、気の抜けるようなヘラヘラ面で、少年からしたら神様と信じるのが難しかった。
「神...こりゃ夢なのか?居たとしてもそんななりなのか?」
「現実だよ、この広大な世界、神様はみーんなこんな姿なんだ。そして確かに、現実に存在する。物や概念の数だけ、神様は存在するんだ」
少年は自身の顔をつねると言う、古典的な方法で現実を確認した。
「ガチかぁ..え?てかなんで神様が俺に?なんか用?」
「うん、君には用があるんだ、その用の一つはもう済ませた」
そう言うと音楽の神は、ポーチから手鏡を取り出して少女に向ける。
「四次元ポケットかよ...ん?え?...誰?」
鏡は自分に向けられているのだから、自身の顔が映るのは当然...だからこそ疑問を持つ、そこに映ったのはルビーのように輝く赤い瞳と、整った顔立ちを持つ"少女"だったからだ。
「........................ん?」
「この鏡に仕組みはないよ」
首を動かし、左右上下と方向を変えて顔を見て見るが、鏡に映るのは変わらず、見知らぬ少女だった。
「スゥ──────...おい」
どう言うことか説明しろと言わんばかりに音楽の神を少女はじっと見つめる。
「どうやら私との"契約"で体まで変化してしまったようだね、でも大丈夫だよ、日常生活に害はないから」
少女は自身の体を見る。服がブカブカになっているのに胸周りはきつい、理由が分かった、分かりたくなかったけど。
「ははっ、寝て起きたら変なのが居て?そんで男から女になって?ベタすぎだろ展開作り下手かよ」
何故だかこっちに飛び火してきた。
そして少女はふと神に背を向け、更に下を向いて何かを確認する。
「ん?待てよ...待て待て待て待て」
この小説は健全な物語を目指しているのでハッキリは言わないが、16年間命を共にした相棒が、初めて姿を消していた。
「なぁ、俺のち◯こ無いんだけど」
健全と言ったな、あれは嘘だ。
「ち◯こが何かは知らないけど、人間は可愛いものに目がないと聞いたことがあるし、良いんじゃないかな?」
決して煽りではない、音楽の神なりの慰めだった。しかしそれが、少女の怒りに油を撒くことになる!
「良いわけねぇだろ疫病神がァァァァァ!!」
「まぁ落ち」
そのままの勢いで、少女は強烈な右フックを神の顔面にめり込ませる。
「酷いと言いたいところだが、まぁ無理もないね。これは私が悪かった」
「はぁ..はぁ..ふざけんなよマジで...うっ..」
少女は強張った体の力を抜き、胸に手を当てて深呼吸をする。
「ふぅ...よし、落ち着け..大丈夫..大丈夫..」
「大丈夫かい?体は大切にしないと」
ニヤニヤしながらそう言う音楽の神に対し、少女は怒りを超えて呆れていた。
「神かなんか知らんけど、お前初対面で印象最悪だからな」
「それは困るね、君とは契約がしたいんだ。それがもう一つの用だ」
「...さっきからお前が言ってる"契約"ってなんだ?やっぱお前悪魔なのか?」
契約、神が吐くその言葉には、何か強い力がこもっているように感じた。
「良い質問だ、答えよう。契約とは、人間と神が互いの目的や夢のために利用され合う関係..."神と人間の共依存"その到達地点なんだ」
「神と人間...その理論だと、お前に目的があるみてぇだな。音楽の神だったか?音楽関係でなんか叶えたいことでもあんのか?」
「そんなところだね、"メロディの普及と復活"...目的はこれで良いかな」
その言葉、偽りかどうかは怪しかったが、嘘を吐いている様子は感じられなかった。
「そうか、じゃあ頑張れよ。俺はそんな大層な夢の力になれなさそうだから断る。あと体戻せ」
「いや、力になれるよ。あそこにある大量の賜り物を見れば分かる」
こういうことがあるから、普段からトロフィーや賞状は片付けておくべきなんだなと少女は思った。
「それに...良いお母さんが居るそうじゃないか」
その瞬間、奏は音楽の神を睨み、今までにないほどの殺気を向ける。
「神様ならなんでもやって良いのか?あ?」
「私が何かする訳じゃないよ、でも...これからの未来、この世界は確実に"危険"を呼び起こす。その時、君は大切な者を守る力を求めるだろう」
そんなものはヤツの妄想、確証なんてない妄言...何故だか、そう思えない。少女の脳裏に浮かぶのは、大切な友と、母の顔だった。
「守る力って...戦闘系の話、いつからしてたんだ?」
「私の目的の話だよ、私の願いは、危険への導きだ」
少女は目を瞑り、過去を思い返す。
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「別に弱くて良いだろ、それで困ったら俺がお前を助ければ解決だしな」
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(良くないんだよ...俺が守らなきゃ)
かつての友の言葉とは裏腹に、奏は力を求めてしまっていた。自身の細い、貧弱な腕を見ながら。
「はぁ...クソが、俺の願いは高ぇぞ」
「もちろん、全額支払うよ」
少女はたった今、後戻りできない所まで足を踏み入れてしまった。そんな少女を見て、音楽の神はヘラヘラ面を剥がし、悟られぬよう不気味な笑みを浮かべた。
「何が欲しいんだい?夢を叶えようか?」
「自分の夢は自分で叶えるから結構、そうだな...うーん...決めた、"教えない"」
予想外の答えに、音楽の神はただでさえ丸い目をもっと丸くする。
「教えない...これまた珍しいことを言うね」
「お前の目的を追ってるうちに考えてやるよ、度肝を抜いて無理だって言えるようなやつを」
この時少女は、完全に神に対して対抗心を燃やしていた。言いなりになるのはごめんだと。
「良いよ、わかった。そういえば君、名前を聞き忘れてたよ、契約者になるんだから、聞いておかないとね」
思い出したように名前を求める音楽の神に対して、少女は素直に答える。
「俺は"白石奏"、奏で良い」
「そう、よろしくね奏」
音楽の神が奏の名を呼んだ直後...
"ピーンポーン"
一階の玄関からチャイムの音が響く。
「母さん?...じゃないな、まだ帰りの電話が来てないし」
「...あれ?ここまできちゃったかな?」
音楽の神は何か知っているのか、奏の手を引いて一階に誘導する。
「は?ちょっ、なんだよ」
「ごめんね奏、早速だけど"初仕事"だ」
「は?」
奏がそのまま玄関まで行き、目の前に立つと、外から聞こえるのは聞き覚えのある声。
「ただいまー!奏ー?居るー?鍵忘れちゃって入れないのー!」
なんだ母さんか、そう思いたかった。しかし、玄関口の様子を映すモニターに映されたのは、黒いもやだった。
「なんだこれ...故障か?」
「残念だけど違うよ、こいつは私と同じ神様だ」
「はぁ!?神様!?」
さっき音楽の神が話していた通り、別種の神がいた。
しかし、音楽の神の見た目と比べると、悍ましいほどドス黒かった。
「ねぇかなでー?いるー?」
「本体じゃないから擬態が下手くそだね、これなら初めての戦闘も問題ないだろう」
「はじめてのお使いみたいに言うな。てか本体とかあんのか?なんでここに来てんだ?」
「細かいことは後で説明するよ、時間がないから今は...」
"ガチャ"
奏の頬に冷や汗が伝う、鍵がかかっていたはずのドアが開いた。
「なんダ、イるジャナイか」
奏が口を開く前に、黒いモヤの怪物は、鋭い爪の生えた剛腕を、すでに振り下ろしていた。




