9話
10 瘴気をまとう巨影
地面が揺れた。
それは一定のリズムを刻む重い衝撃で、明らかに巨体の足音だった。
木々を押し分けて現れたのは、三メートルを優に超えるオーガ。
灰色の皮膚は斑に黒く染まり、筋肉は異様に膨張している。
両目は血のように赤く輝き、口元からは瘴気を帯びた蒸気が漏れていた。
「……これ、ただのオーガじゃない」
蓮の鑑定眼が淡く光る。
【変異オーガ】状態:瘴気汚染(深度80%)/知性値:通常種の3倍
弱点:関節部(瘴気硬化前)
「来るぞ!」
ガイルが前に出る。オーガが棍棒を振り下ろすと、大地が砕け、土埃が舞い上がる。
11 劣勢の戦い
ガイルは棍棒を剣で受けたが、衝撃で膝が沈む。
蓮が横から切りかかるも、オーガは片腕で簡単に弾き飛ばした。
その動きは鈍重ではなく、むしろ素早い。
「速っ……!」
ミリアが回復魔法を唱えるが、オーガは魔法の光を見て即座に投石。
石は彼女の足元をえぐり、土が跳ね上がった。
「ミリア、下がって!」蓮が叫ぶ。
——まずい、このままじゃ削られる。
蓮は頭の中で高速に戦術を組み立てた。
12 罠と弱点
「ガイルさん、時間を稼いでください!」
「おう!」
蓮は周囲の木に成長加速をかけ、太い枝を急速に伸ばす。
同時に地面の蔓を這わせ、オーガの足元に罠を仕掛けた。
ガイルが挑発し、棍棒を振らせる。その瞬間、オーガの右膝がわずかに露出した。
「そこです!」
蓮が叫び、ガイルが膝関節に剣を突き込む。
オーガが苦痛に咆哮し、体勢を崩す——その隙を逃さず、蓮が伸びた枝を操作し、棍棒を絡め取った。
「今だ!」
三人が一斉に攻撃し、ついにオーガの巨体が崩れ落ちた。
13 黒い結晶
荒い息を吐きながら、蓮はオーガの胸を調べる。
そこには、漆黒の結晶が脈打つように埋め込まれていた。
【瘴気結晶】用途不明/強力な魔力と瘴気を内包/危険度:高
「こんなもの……初めて見ます」
ミリアも眉をひそめる。
「持ち帰って調べよう。だが……」
ガイルの声が途中で止まる。
——ドォォォン……。
森奥から、地鳴りのような音と獣の咆哮が響いた。
14 次なる決断
「まだ何かいる……」
蓮の背筋を冷たいものが走る。
「どうする? 奥に行くか、ここで戻るか」
ガイルが問いかける。ミリアは唇を噛んでいた。
結晶は、きっとこの異変の核心に近い。
だがこの先には、今倒したオーガよりも強い存在がいる——直感がそう告げていた。
蓮は剣を握りしめ、森奥の闇を見据える。
その向こうに待つのは、危険か、それとも真実か——。
そして、三人は互いに頷き合った。
次の一歩が、街の未来を左右することを、まだ誰も知らない。