8話
5 森の異常
森の奥へ進むにつれて、景色は徐々に変わっていった。
木々の幹は太く、葉は濃い緑を通り越して黒みを帯び、地面を覆う草は腰の高さまで伸びている。
花のような鮮やかな色を持つキノコが木の根に群生し、触れると小さく光を放った。
「……植物が成長しすぎです」蓮は鑑定眼で確認する。
【対象:魔力異常成長種】原因:高濃度魔力/瘴気による突然変異の可能性
「食べられるのか?」ガイルがキノコをつつく。
「食べたら多分、死にます」
「……だろうな」
6 異形との遭遇
森の静寂を破るように、低く唸る声が聞こえた。
茂みの向こうから現れたのは、通常の倍はあろうかという巨大な狼——《フォレストウルフ》。
毛並みは灰色ではなく、瘴気を帯びたように黒ずんでいる。
眼は赤く光り、口からは粘つく唾液が垂れた。
「おいおい、こんなの森の中級依頼じゃ出ないはずだぞ……!」
ガイルが剣を構える。
フォレストウルフが地面を蹴り、一瞬で距離を詰めてきた。
7 連携戦闘
ガイルが正面で受け止める。
その瞬間、狼の爪がガイルの胸当てを浅く裂いた。
ミリアがすぐに回復魔法を詠唱するが、蓮は後方から狼の動きを観察していた。
【動作パターン解析】
攻撃前に右耳が動く→跳躍または突進の予兆
「右耳です! 動いたら回避を!」
「了解!」
蓮は成長加速で近くの蔓を瞬時に太くし、地面に転がして罠を作る。
狼が突進した瞬間、前脚が蔓に絡まり、体勢が崩れた。
そこへガイルの剣が脇腹を切り裂く。
しかしフォレストウルフは怯まず、鋭い牙で蓮に噛みつこうと跳びかかった。
「——っ!」
間一髪で蓮は転がって回避し、地面に転がった小石を投げて注意を逸らす。
8 決着
ガイルが狼の背に飛び乗り、首筋へ剣を突き立てた。
獣が断末魔の叫びを上げ、やがて動かなくなる。
荒い息を整えながら、蓮は鑑定眼を使う。
【フォレストウルフ(変異種)】
状態:瘴気汚染/通常種より筋力+50%、敏捷+40%
「やっぱり……瘴気の影響で変異してます」
「ってことは、この森の奥に瘴気源があるってことだな」
ガイルの顔が険しくなる。
9 情報提供者
戦闘の後、近くの木陰からよろよろと一人の冒険者が姿を現した。
革鎧はぼろぼろ、腕には包帯。
「助けてくれ……食われるとこだった……」
水とポーションを与えると、男は震える声で言った。
「お前ら……奥には行くな。赤目ゴブリンだけじゃねえ……オーガだ。それも……人の言葉を喋る」
「人の言葉……?」蓮が眉をひそめる。
「聞いたんだ……『主のために』って……」
その言葉を残し、男は気を失った。
森の奥からは、重い地響きが少しずつ近づいてくる——。