7話
1 正式依頼
ギルドの大広間に集まった冒険者たちのざわめきは、いつもより張り詰めていた。
前日の報告が全員の耳に入っているのだろう。赤目ゴブリンが街近くまで出没したのは、長年でも稀なことらしい。
「では、依頼内容を再確認します」
受付嬢のクラリスが羊皮紙を手に読み上げた。
「依頼名——《北の森異変調査》。依頼ランクはC。調査対象は森奥で発生しているモンスター活動の異常、その原因の特定。討伐は任意ですが、自衛手段を取ること。報酬は銀貨三十枚、加えて発見物や討伐証拠品は買取」
ガイルが頷き、蓮とミリアも横でそれを聞く。
「よし、正式に受けよう。……蓮、ミリア、準備はいいか?」
「もちろんです」
「わ、私も大丈夫です!」
2 出発準備
まず三人は鍛冶屋へ向かった。
鍛冶屋の中は鉄を打つ音と熱気で満ち、奥では屈強な男が金槌を振るっている。
「おう、ガイルじゃねえか。また剣を折ったのか?」
「いや、まだ現役だ。ただこいつらの装備を見てもらいたくてな」
蓮は自分の剣を差し出す。
「ふむ、悪くはねえが……新人用にしちゃ軽い。切れ味はそこそこだが、森の魔物相手じゃ刃こぼれするぞ」
鍛冶屋は棚から鋼製の片手剣を取り出した。
「これを持ってけ。重量は増すが耐久も切れ味も上がる」
「ありがとうございます!」
ミリアは防具屋で革の胸当てを受け取り、荷物も最小限に整える。
道具屋ではポーションと解毒薬を補充し、罠用の麻縄や小瓶も購入。
「蓮、これ、罠作りに使えるよね?」
「ええ、成長加速で強度を上げれば……応用できそうです」
3 不穏な警告
街の北門へ向かう途中、蓮たちは一人のハンター風の男に声をかけられた。
無精ひげに日焼けした顔、腰には長弓。
「おい、あんたら森に入るのか?」
「そうだが……何か知ってるのか?」ガイルが警戒する。
男は低く言った。
「最近、森奥から戻らねえ奴らが増えてる。赤目ゴブリンはまだマシだ。もっとヤバいのがいる」
「もっとヤバい……?」
「詳しくは言えねえ。だが忠告だ——奥には入るな。命が惜しけりゃな」
それだけ言って、男は人混みに紛れて消えた。
ミリアが不安そうにガイルを見る。
「どうしますか……?」
「引く気はねえ。俺たちは調査に行くんだ」
ガイルの声に迷いはない。蓮も頷いた。
「情報はありがたいです。でも、このままじゃ街が危ない」
4 森への再出発
北門を抜け、見慣れた森の入口が近づく。
しかし空気は以前より重く、濃い靄が漂っていた。
蓮は鑑定眼を発動する。
【環境状態】魔力濃度:通常の1.8倍/瘴気:微量
「……魔力が増えてます。瘴気も混じってる」
「魔物が活性化する条件だな」ガイルが剣を抜く。
森の奥からは、まだ朝だというのに獣の遠吠えが響いてきた。
蓮は胸の奥で緊張を感じつつも、剣の柄を握り直した。
——この先で何が待っていようと、退くつもりはない。