5話
4 森への出発
翌朝。
まだ朝靄が残る街の門を抜け、蓮たちは北の森へ向かった。
道中、ミリアは薬草や毒草の特徴を説明しながら歩く。
「この辺に生えてるのは《ヒーリングリーフ》っていう薬草です。乾燥させると回復薬の材料になります」
「鑑定眼でも出るな……品質B、効力は標準」
「えっ、品質までわかるんですか!? すごい!」
興奮気味のミリアに、蓮は少し照れた。
この世界では鑑定持ちは希少で、しかも戦闘と生活の両方で活用できるのは珍しいらしい。
5 薬草採取と小競り合い
森に入って一時間ほど、採取は順調に進んだ。
だが、茂みの奥からガサリと音がする。
「出るぞ——!」
ガイルの声と同時に、小型の狼型モンスター《フォレストウルフ》が飛び出してきた。
鑑定眼を起動。
【フォレストウルフ】
HP:25/25 攻撃:8 防御:4 素早さ:9
特徴:牙に軽い麻痺毒あり。群れで行動する傾向。
「牙に毒! 噛まれるな!」
蓮の警告を受け、ガイルは間合いを詰めて首筋を狙う。
蓮も拾った石を投げて注意を引き、ガイルの一撃で仕留めた。
「……やっぱ、鑑定があると戦いやすいな」
ガイルは狼の耳を切り取り、報酬用の袋に入れる。
6 異変の兆し
その後も採取を続けていたが、森の奥へ行くにつれて妙な違和感があった。
静かすぎるのだ。
鳥の声も、虫の音も、ほとんどしない。
「……なんか、嫌な感じがします」
ミリアの言葉に、蓮も同意した。
やがて、地面に黒ずんだ血痕を見つける。
血痕の先には、頭部を潰されたゴブリンの死体。
だが、普通のゴブリンではない。
赤く光る片目。
そして腕には不気味な黒い紋様が浮かんでいる。
鑑定眼が自動的に発動する。
【赤目ゴブリン(斥候)】
HP:36/36 攻撃:12 防御:6 素早さ:10
特徴:夜目が利く。毒矢を使用可能。魔族領からの侵入個体。
「……赤目ゴブリンだ。普通はこの辺に出ないはずだ」
ガイルの表情が険しくなる。
7 戦闘の予感
蓮たちは慎重に周囲を確認するが、血痕はまだ新しい。
つまり、近くに仲間がいる可能性が高い。
「一度引き返そう。群れに見つかったら終わりだ」
ガイルの提案に全員が頷き、帰路につこうとした——その瞬間、木陰から低い唸り声が響いた。
茂みをかき分けて現れたのは、赤目ゴブリン一体。
しかし、その動きは普通のゴブリンよりも滑らかで速い。
毒矢をつがえた短弓が、蓮たちを狙う。