2話
5 初めての戦い
音の正体はすぐにわかった。
ぬるりとした半透明の塊——直径一メートルほどの、青いスライムが木の陰から姿を現す。
ぷるぷると震えながら、こちらにじりじりと迫ってくる。
「……これ、ゲームでよく見るやつだよな」
そう呟きながらも、蓮の背中を冷たい汗がつたう。
相手は現実のモンスターだ。可愛い見た目でも、触れられればただじゃ済まない。
「鑑定!」
無意識に声が出た。視界の右端に、淡く光るウィンドウが浮かぶ。
【ブルースライム】
HP:12/12
攻撃:3 防御:6 素早さ:2
特徴:物理攻撃に強い。火属性に弱い。
危険度:Fランク
「……本当に出た」
情報ははっきりと頭に流れ込んできた。どうやら【鑑定眼】は発動方法すら自然にわかるらしい。
だが、武器もない蓮にとっては厳しい状況だ。
じりじりと距離を詰めるスライム。ぬめる足音が耳に嫌な感触を残す。
「……逃げるか、戦うか……」
考える暇はなかった。スライムが弾丸のように跳ね上がり、蓮の顔目がけて飛びかかってきた。
「うわっ!」
とっさに横へ転がる。
地面の草と土の感触が生々しい。息が荒くなる。
近くに落ちていた太めの枝を手に取る。
「やるしか……ない!」
スライムが再び跳び上がる瞬間、蓮は力いっぱい枝を振り下ろした。
鈍い感触とともに、スライムの体が弾け、地面にべちゃりと落ちる。
【ブルースライムを倒した!】
経験値+5
レベルが1から2に上がりました。
「……上がった!? え、早くないか?」
【成長加速】の効果だとすぐに理解する。
まだ息は乱れていたが、背筋にぞくりとした感覚が走った。
これなら、この世界で生き残れるかもしれない。
6 初めての街
森を抜けると、丘の上に石造りの城壁が見えた。
その内側には赤茶色の屋根の家々、煙突から立ち上る煙、行き交う人々の姿。
「……おお、本当にゲームみたいな街だ」
胸が高鳴る。初めて見る異世界の都市。
門の前には槍を持った衛兵が立っており、簡単な身分確認をされる。
「新米か? ならまずはギルドで登録だな」
衛兵の言葉に従い、街の中央広場へ向かう。
石畳の道の両脇には、露店が並び、香辛料や焼き肉の匂いが漂う。
行商人や旅人、獣人やエルフらしき人影まで混じっており、まさにファンタジーの世界だった。
7 冒険者ギルド
広場の一角に、大きな木製の扉を構えた建物があった。
看板には剣と盾のマーク——冒険者ギルドだ。
中に入ると、酒場のような賑わいと、依頼が貼られた掲示板が目に飛び込む。
受付カウンターの奥には、茶色の髪を後ろで束ねた若い女性が立っていた。
「いらっしゃいませ、新規登録ですか?」
「はい」
手続きを進めるうちに、この世界の冒険者制度について説明を受ける。
ランクはFから始まり、依頼達成や戦果によって昇格する。
依頼は討伐、採集、護衛など様々。もちろん、失敗や違法行為には罰則もある。
最後にギルドカードを手渡される。銀色のプレートには、名前とランク、そして蓮のレベルが刻まれていた。
「これであなたも冒険者です。健闘を祈ります」
カードを握りしめた瞬間、胸の奥から熱い感情が湧き上がった。
——この世界で、生きてやる。