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ショッピングモールに飾られた七夕の短冊がカス過ぎる話

作者: me

 夏の強い日差しが照りつける7月。

 冷房の効いたショッピングモール館内は、外の地獄のような暑さを忘れさせてくれる。

 大学の講義が午前で終わり、特にあてもなくうろついていた俺は、モール内の一角いっかくに色鮮やかな飾り付けがあることに気づいた。


 近づいてみると、そこには笹飾りが立てられ、たくさんの短冊が揺れている。

 白紙の短冊が何枚も積まれたスペースには、ペンも一緒に置かれており、誰でも書いて飾っても良いらしい事が伺えた。


 もうすぐ七夕だったな、と俺はぼんやりと思う。小学生の頃、授業かなにかで自分の夢を書いて飾ったのを思い出した。


 あれから10年は経っているだろうか。平成から令和へ、時代が変われば願いも変わるのだろうか。

 俺は短冊の一枚一枚をなんとなく目で追った。




─────────────────────────


 +―――++―――+

 |   ||   |

 | 家 || 志 |

 | 族 || 望 |

 | み || 校 |

 | ん || に |

 | な || 合 |

 | が || 格 |

 | 健 || で |

 | 康 || き |

 | で || ま |

 | い || す |

 | ら || よ |

 | れ || う |

 | ま || に |

 | す ||   |

 | よ |+―――+

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+

 

─────────────────────────



 自分の目標や夢、周りの人の幸せを願う短冊に心が温まる。

 俺は穏やかな気持ちで別の短冊へと視線を向けた。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | お |

 | 好 |

 | み |

 | 焼 |

 | き |

 | が |

 | 綺 |

 | 麗 |

 | に |

 | ひ |

 | っ |

 | く |

 | り |

 | 返 |

 | せ |

 | ま |

 | す |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「願うほどでもなくない?」


 思わず口から本音が漏れた。

 お好み焼き屋に行った際、友達か家族の前で恥をかいたのだろうか。こういうのも、微笑ましくて良いかも知れない。俺は別の短冊を見る。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 横 |

 | の |

 | 人 |

 | の |

 | 願 |

 | い |

 | が |

 | 叶 |

 | い |

 | ま |

 | す |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────

 


「へぇ」


 つたない文字ながらも、他人の幸せを願う温かみのある内容に、俺は心が洗われるような気持ちになる。

 俺はこの短冊のすぐ隣の短冊へと視線を移す。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 金 |

 | ! |

 |   |

 | 金 |

 | ! |

 |   |

 | 女 |

 | ! |

 |   |

 | 女 |

 | ! |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「おい! 横の人!!!」


 俺は思わず大きな声を上げてしまった。欲望だけが書かれた短冊に、清らかな気持ちが一瞬で汚された。


「台無しだよ全く」


 俺は呆れた気持ちで別の短冊へと視線を移す。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | ホ |

 | ル |

 | モ |

 | ン |

 | を |

 | 飲 |

 | み |

 | 込 |

 | む |

 | タ |

 | イ |

 | ミ |

 | ン |

 | グ |

 | が |

 | 分 |

 | か |

 | る |

 | よ |

 | う |

 | に |

 | な |

 | り |

 | ま |

 | す |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「それは自分でなんとかしろよ」


 確かにホルモンって噛めば噛むほど、いつ飲めば良いのか分からなくなる時あるけど。天に願う内容ではない。

 ホルモン嫌いの俺の友達は『ガムみたいに最後吐き出して良いなら食べられる』って言ってたな。

 そんなことを考えながら、俺は別の短冊を見やる。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 錠 |

 | 剤 |

 | の |

 | 薬 |

 | を |

 | 2 |

 | 粒 |

 | 以 |

 | 上 |

 | 同 |

 | 時 |

 | に |

 | 飲 |

 | め |

 | る |

 | よ |

 | う |

 | に |

 | な |

 | り |

 | ま |

 | す |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「これも自分でなんとかしろよ」


 確かに子供の頃は1個ずつ飲んでたけどね。2個以上は怖いから。どうか天に願わず自分で慣れて欲しい。次! 俺は別の短冊へと目を向けた。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 紙 |

 | ス |

 | ト |

 | ロ |

 | I |

 | を |

 | 推 |

 | 進 |

 | し |

 | た |

 | 人 |

 | に |

 | 神 |

 | の |

 | 裁 |

 | き |

 | が |

 | 下 |

 | り |

 | ま |

 | す |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「裁きとか言うなよ」


 そこまで重罪かよ。俺はファストフード店で出された紙ストローの触感を思い出す。口の中でふやけていく不快感。飲み物の風味を損なう紙の匂い......。


「......そこまで重罪だな」


 俺はこの願いが叶う事を祈りながら、次の短冊へと視線を移した。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | ド |

 | リ |

 | ン |

 | ク |

 | バ |

 | I |

 | で |

 | コ |

 | ッ |

 | プ |

 | を |

 | 置 |

 | く |

 | 場 |

 | 所 |

 | を |

 | ミ |

 | ス |

 | っ |

 | て |

 | 虚 |

 | 空 |

 | に |

 | ド |

 | リ |

 | ン |

 | ク |

 | を |

 | 注 |

 | い |

 | で |

 | し |

 | ま |

 | う |

 | 悲 |

 | 劇 |

 | が |

 | も |

 | う |

 | 二 |

 | 度 |

 | と |

 | 繰 |

 | り |

 | 返 |

 | さ |

 | れ |

 | ま |

 | せ |

 | ん |

 | よ |

 | う |

 | に |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「そんなに悲観する事でもないだろ!」


 俺は思わず声を上げた。悲劇はオーバー過ぎる。


「てか、この短冊長くない????」


 短冊というには長過ぎる。端が地面に付いていた。前にブックオフでラノベを山ほど売った時のレシートが、ちょうどこんな感じだった。気持ちの悪い短冊に思わず鳥肌が立つ。

 次! 俺は別の短冊へと視線を向けた。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | コ |

 | ニ |

 | ク |

 | ロ |

 | 全 |

 | 品 |

 | 10% |

 | オ |

 | フ |

 | 実 |

 | 施 |

 | 中 |

 | ! |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────

 


「へえ、宣伝もアリなのか......」


 場違いな内容に一瞬だけ面食らったが、短冊を飾るというのはこのショッピングモールが主催するもよおしである。もしかしたら、これはこれで効率的な宣伝なのかもしれない。

 俺は感心しつつ別の短冊へと視線を向けた。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 地 |

 | 下 |

 | 駐 |

 | 車 |

 | 場 |

 | で |

 | ア |

 | イ |

 | ス |

 | み |

 | た |

 | い |

 | な |

 | ス |

 | ピ |

 | I |

 | ド |

 | 感 |

 | の |

 | あ |

 | る |

 | チ |

 | ョ |

 | コ |

 | を |

 | 売 |

 | っ |

 | て |

 | ま |

 | す |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「薬物の隠語じゃねーか!」


 アイススピードチョコ......売人ばいにんいるぞこのショッピングモール!

 次! 俺は身震いしつつ他の短冊へと視線を移した。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 覚 |

 | 醒 |

 | す |

 | る |

 | や |

 | つ |

 |   |

 | 売 |

 | っ |

 | て |

 | ま |

 | す |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「おい! 下手くそ!」


 隠語の使い方が下手すぎる。なんだよ覚醒するやつって。覚醒剤だろ。全然隠せてない。次!





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | ム |

 | ラ |

 | サ |

 | キ |

 | と |

 | ア |

 | ガ |

 | リ |

 |   |

 | 売 |

 | っ |

 | て |

 | ま |

 | す |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「えーっと、これはただの醤油とお茶!」


 寿司屋の隠語に違法性はない。なのにさっきの不穏な短冊のせいで違法性を感じてしまう......。

 俺は気分を入れ替えるように次の短冊へと目をやった。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | ケ |

 | ン |

 | ト |

 | で |

 | す |

 |   |

 | 賢 |

 | い |

 | 人 |

 | と |

 | 書 |

 | い |

 | て |

 | ケ |

 | ン |

 | ト |

 |   |

 | 彼 |

 | 女 |

 | 募 |

 | 集 |

 | 中 |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「なんだこれ?」


 短冊を出会いの場として使うのはどうなんだろう。切実な願いなのか、それともウケ狙いなのか、判断に迷う。おちょけた高校生がやりそうな事だ。

 俺は呆れ半分で別の短冊へ目をやる。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | サ |

 | オ |

 | リ |

 | と |

 | 申 |

 | し |

 | ま |

 | す |

 |   |

 | 左 |

 | に |

 | 折 |

 | れ |

 | る |

 | と |

 | 書 |

 | い |

 | て |

 | サ |

 | オ |

 | リ |

 | で |

 | す |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



左折させつじゃねーか!」


 親はどんな願いを込めてこの名前を付けたんだ。『左に曲がって欲しいなぁ』と考えながら出産したのだろうか? なんだそれ。

 次! 俺は別の短冊へと視線を向けた。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | 自 |

 | 転 |

 | 車 |

 | の |

 | 後 |

 | 輪 |

 | に |

 | 付 |

 | い |

 | て |

 | る |

 | 小 |

 | っ |

 | ち |

 | ゃ |

 | い |

 | 2 |

 | つ |

 | の |

 | 輪 |

 | を |

 | 早 |

 | く |

 | 取 |

 | れ |

 | る |

 | よ |

 | う |

 | に |

 | な |

 | り |

 | た |

 | い |

 | 4 |

 | 0 |

 | 歳 |

 | で |

 | す |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「40歳かよ!」


 子供の願いじゃないのかよ。補助輪くらい勝手に取ってくれ。

 次! 別の短冊へと視線を移す。





─────────────────────────


 +―――+

 |   |

 | お |

 | 前 |

 | が |

 | こ |

 | れ |

 | を |

 | 見 |

 | て |

 | い |

 | る |

 | 所 |

 | を |

 | 俺 |

 | は |

 | 見 |

 | て |

 | い |

 | る |

 | ぞ |

 |   |

 +―――+


─────────────────────────



「怖っ!!!!」


 なんて恐ろしいことを書くんだ。イタズラと分かってはいるが、俺はつい思わず後ろを振り返った。


「!!!!」


 すぐ背後に、こちらを黙って見つめるスーツ姿の男が立っていた。俺は思わず後ずさる。警戒心が全身を硬直させる。男はゆっくりと、俺に向かって歩いてきた。俺は動けずに固まる。


「......あ」


「あのぉ......すみません......」


 俺が何か言うより先に、男は丁寧な口調で話しかけてきた。スーツのネームプレートが、このモールの関係者である事を示していた。


「......他のお客様から、短冊に対して一人で叫んでいる男がいるとの報告を受けまして......」


「あっ......」


 短冊に熱中するあまり、周りが見えていなかった。

 俺はスミマセンと蚊の鳴くような声で言い、その場をそそくさと後にした。

 やってしまった。恥ずかしくてしばらく、このショッピングモールには来れない。具体的には、一年くらいは。

 来年の七夕に会いましょう。織姫と彦星のように、俺とショッピングモールは分断されたのだった。


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― 新着の感想 ―
自分の努力次第な願い事が多いですね(≧▽≦) ホルモンと錠剤は凄く分かりますけど(同類)それでも願い事レベルではない。 紙ストロー、フニャフニャになった経験はありませんが、ストローの味で飲み物が台無し…
賢人と書いてケンジ…それはあまり賢そうな名前ではないかな… 普通ケントだろ〜人をジと読ますのはDQNだけだよ? 左に折れるで左折サオリと読むのは確かに可能だけど…親が明らかに共産主義者だよね…本人可哀…
錠剤2錠同時が駄目な人はお医者様にお願いすると粉砕処方して貰えますよ!と言いたい。
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