ある異世界勇者の悔恨
俺は異世界召喚勇者だ。
人類と魔族との終わりなき戦いが続くこのファンタジーな世界に、平穏をすため神が遣わした予言の救世主、ってことらしい。
そして、異世界召喚の例にもれず、俺にも神様からチートな異能が与えられていた。
それは、自分や他人に、別の生き物の特性や能力を付与できる、ってもの。
ただし付与できる生き物は、元の世界に生息していた動物限定。
つまり、架空のドラゴンのようにブレス吐くことは出来ないし、絶滅したティラノサウルスの力を使うことも出来ない。
とはいえ、犬の能力を自分に付与すれば嗅覚がめちゃくちゃ鋭くなるし、ヒグマのパワーを付与すれば、普通の人間相手にはほぼ無双できる。
ただモンスターを相手にするにはややパンチが足りない、そんな能力だ。
あと、自分への付与は何種類でも着脱自在だが、他者への付与は2種類までで解除は不可、なんて制限もある。
召喚直後、戦争に巻き込まれるのは御免だった俺は、能力を駆使して逃げ出した。
それから冒険者となってゴリラパワーでほどほどに無双して暮らす日々だ。
近頃は、農場主と契約して乳牛にホルスタインの特性を付与し、牛乳の生産性アップ、なんて平和的利用でちまちま小金を稼いでいる。
この調子で、ほどほどに楽しく暮らしていければそれでいい、そう思っていた。
ある時、冒険者らしく森の探索をしていると、森の深部でしくしくと泣いている美しいドライアドに出会った。
若干の下心もあって、俺が泣いているわけを尋ねると、ドライアドは答えた。
「私たちの大樹が、滅びそうなのです」
聞けば、ドライアド達の親、というか母体となる大樹が弱ってきていて、更に害虫や害獣の被害を受けて、このままでは遠からず枯れてしまうらしい。
可哀そうに思った俺は、彼女たちの親木に、ある植物の特性を付与してあげた。
竹と、葛だ。
こいつらなら、生命力も強いし、成長も早い。きっと、大樹も立ち直れるだろう。
彼女たちからの感謝を受け取って、俺は立ち去った。
数年後、その森からドライアドの大樹が世界を侵食するように広がり始めた。
農耕に適した土地は、瞬く間に大樹に乗っ取られていった。
人々が頑張って切り倒し、焼き払っても、地下深くに伸びた強靭な地下茎から新たな樹が次から次へと伸びてくる。
やがて肥沃な大地の殆どはドライアドたちの大樹に覆い尽くされ、農業に依存していた人類と魔族の生存圏は激減。
既存の社会秩序の消失と共に、両者の戦争は無し崩しで終結してしまった。
見渡す限り、緑の木々に覆いつくされた大地に、無数のドライアドたちが遊び踊る世界。
「あなたこそ、真に私たちの救世主です」
彼女達の世界を救った救世主として、俺は感謝されてチヤホヤされる毎日。
これはこれで嬉しいが、俺は若干後悔する。
ああ、せめて、ミントにしておけばよかった…....