ポリュポンテーの物語
Antoninus Libcralis『変身物語集 Μεταμορφώσεων συναγωγή』に抄録されたボイオス Βοῖος『鳥類の系譜'Ορνιθογονια』に、ポリュポンテーの物語が伝わる。これを要約すると、次の通り。
ヒッポノオスとトラーサの娘ポリュポンテーは、女神アプロディーテーに背を向け、狩猟神アルテミスの気晴らしに付き合って山に向かった。軽んじられ怒った女神は、娘が熊に恋い焦がれるよう仕向けた。この娘のやらかしを察知した処女神アルテミスは、毛嫌いして野獣たちに襲わせた。これに恐れをなしたポリュポンテーは、父の家に逃げ込み、やがてアグリオスとオレイオスを産んだ。この二人の息子は巨大な体格と絶大な力を持つ男に成長し、神にも人にも敬意を示さず、誰に対しても横柄な態度をとった。見知らぬ者を片っ端から連れ去り、その肉を食べた。こうして彼らは大神ゼウスの怒りを買い、ゼウスは彼らを罰するためにヘルメスを遣わした。ヘルメスは手足を切り落とそうとしたが、ポリュポンテーの父祖に当たるアレスがこの運命から彼らを救った。 しかし、母も息子も鳥に変えられてしまった。ポリュポンテーは「夜な夜な飲み食いもせず泣き叫び、頭を下に足を上にして止まり、戦争と内乱の前触れである」ヨーロッパコノハズクとなった。 オレイオスは「凶兆の鳥」 λαγώςとなり、アグリオスは「あらゆる鳥の中で神々と人間に最も嫌われ、人の血肉を絶えず渇望する」ハゲワシに変えられた。
Polyphonte, daughter of Hipponoos and Thraissa, spurned Aphrodite and went to the mountains as the companion of Artemis in her sports. Angered by the insult, the slighted goddess caused her to become madly enamored of a bear. Upon discovering her plight, Artemis in bitter hatred turned the wild beasts against her. Then Polyphonte fled in fear to her father's house and in due time gave birth to two sons, Agrios and Oreios. These became men of huge size and immense strength. They showed no honor to god or man, but were wantonly insolent towards all. They bore away all strangers they came upon and feasted on their flesh. Thus they incurred the wrath of Zeus, who sent Hermes to punish them. He was going to cut off their hands and feet, but Ares, to whom Polyphonte traced her lineage, saved them from this fate. Both mother and sons, however, were transformed into birds. Polyphonte became "a strix that cries by night, without food or drink, with head below and tips of feet above, a harbinger of war and civil strife to men." Oreios became a λαγώς, "a bird that is seen for no good," and Agrios was changed into a vulture, "of all birds most detested by gods and men and possessed of a constant craving for human flesh and blood."
λαγώς:「長い耳」を意味し、ギリシャ語では専ら野ウサギを指す。ここではミミズクの類と思われる。日本古来の呼び名でも、フクロウ一般をツクと称し、耳の形(羽角)が見えるものを特にミミヅクと称した
結局、ポリュポンテーと息子2人は、獣姦の罪でフクロウ・ミミズク・ハゲワシに変身させられたという話。オウイディウスの話と併せて考えると、ハゲワシとフクロウは別種なのに、どうやら「死に関わる鳥」として、同じ扱いをされてきたようだ。そういえば最近にも「ハゲワシと少女」という物議を醸した写真があって、撮影者はピュリッツァー賞に輝きながら、その後の批判に耐えられず自殺した。ハゲワシに喰われそうな少女を放置して撮影とは何事か。というのだが、これはおかしい。腐肉食性のハゲワシは死骸を啄むのであって、生きている嬰児を襲うなどとは聞いたことがない。実際、赤子を置いて用足しに行った母親が戻る前に、様子を見ていたハゲワシは何もせず飛び立った。と、同行者も言っているではないか。何故ハゲワシを食人鬼扱いするのか。と、訳者は長らく疑問に思っていたのだが。以上のような話を幼少時から刷り込まれているラテン系の人たちにしてみれば、「フクロウやハゲワシは嬰児を襲う」という話に疑問の余地はなかったのであろう。しかし、これは事実ではない。ハゲワシにもフクロウにもたいへん失礼な限りで、冥府からでも謝罪と訂正と求めたいところである。