最凶最悪の魔女と、せめて食事がしたい
「うーん、見た目は良くないけど、香りは良いわね。」
僕もカレーの匂いを嫌悪する民族を寡聞にして知らないが、こっちでも大丈夫そうでよかった。
後は味覚の問題なんだけど・・・シンプルな味付けしか知らないけど、それに飽きたって人はどういう風に反応するんだろう?
取り敢えず皿に盛って、オーラムに差し出す。少し逡巡しつつも、スプーンを口に運ぶ。
「へえ!面白いわ!毒か薬にするしかない、臭くて食用に向かない植物だろうと思ってたけど、こんな使い方があったのね!!」
そういや、カレーって、そもそも薬膳料理の類だったって聞いたことがあったな。
でも、それなら香草と煮込む程度の発想は、あってしかるべきだと思うんだけど・・・
「うーん、その程度なら、あるっぽいけど・・・大部分は薬屋に置いてたし、高価だったからねぇ・・・あと、このカレールゥだっけ?獣骨を長時間煮出した成分が入ってるね?みんな食えもしない骨なんかを茹でてる時間なんてないんじゃないかしら?あ、骨ごと茹でた方がスープがおいしいってことぐらいなら、みんな知ってるわよ?」
庶民では、食べ物に創意工夫をする余裕のない文化水準なんだろうか?貴族階級ではどんなもんだろう?さっき、お館様って呼ばれてる人がいたから、階級社会ではあるようだけど・・・
「まあ、いいもの食べてるわね。その辺、何処の民族でも変わらないんじゃない?ただ、ケンの世界ほど、種類が豊かではないわよ?」
それはそうだろうな・・・ああ、いかんいかん、まずは、温かいうちに食事をしよう。後でも考察はできるんだし・・・
「んふふふ、食事なんて時間の無駄って思ってたけど、そうでもなかったのね。このカレーっていうの、おいしいわね!」
まあ、気に入ってくれたなら何よりだ。
・・・・・・・
ふあぁ・・・ちょっと寝過ごしたか。ゆっくり寝てても大丈夫ってのは良いな。さて、昨日の残りのカレーでも食べるか・・・あれ?二日は持つように、それなりの量を作ったはずなんだけど・・・
「ケン!ケン!もうカレーなくなっちゃったよぉ・・・もっと作ってよぉ・・・」
そこには目に涙を浮かべて、スプーンを咥えたまま肩を落として座り込む、ポンコツ魔女がいた。
なあ、お前、「なんで?必要ないじゃない。森から常時、膨大な魔力が吸収できるんだから。ケンに分配しても生命維持には有り余る量よ?」って、昨日盛大にドヤってたじゃないか!
「仕方ないじゃない!仕方ないじゃない!こんなにおいしいもの、今まで食べてこなかったんだもの!!」
・・・確か、有名な俳優さんで、若くて金がない頃、カレーばっかり一年間食べ続けてたら、汗が黄色くなったって言ってたなぁ・・・なんか他の物も食べさせてみよう・・・