第九十八話 「言視の神伐戦 Ⅵ」
---------------- 10日目・昼 ------------------
相変わらず意識が飛びそうなこの暑さ。 カラッと暑いのでまだマシ…なんてレベルじゃない。
乾燥しようが湿ってようが、暑過ぎてそんなモノが関係無くただ暑い。
遠くを見れば陽炎が揺らいでいて、その視線の先には相変わらずパワフリャな蛇神。
全長5km以上は軽くある浅黒いムカデとウナギを足した様な体に、顔は蛇に近い。
そんな容姿を覆い隠す程に舞い上がった砂煙の中で、どうやってるのか判らないが
タガラクの飛翔騎兵200騎は、近接戦闘のみで戦い、未だに死傷者がほんの十数名。
戦い慣れていると言うべきなのか、どう言えば良いのか判らない。
一見優勢に見えるが、劣勢に変わりは無い。 言視術自体はなんとかなったものの、
あの巨体を一瞬で消滅させるような大火力が存在しない。 弱点すらいまだ不明。
それを俺は相変わらず鷹にリンカーフェイズし続けている。 鷹の目は便利なモノで、
かなり遠くでも見えるし、おまけに飛べる。 単純に攻撃力はこの場にいるリンカーの中では最弱だろう。
魔物のリンカーでは無く、ただの動物なもんで当然といえば、当然。
そんなホークマンと化している俺の肩では、相変わらず風の禁術を封じてある玉を解読しているイスト。
あれからまだ解読出来たモノは無いという事。 現状このイストが最も攻撃力の高い奴である。
だが、それに耐えうる体が出来ていないらしく、それを一部封じている。
…。
視線をイストから、姐御に移す。 そこには姐御とイグナが何か話している。
少し気になったので、傍に行き、話に混ざって見た。
「ん? スヴィア君か、何かわかったかい?」
「や、調子はどうだ」
女性陣の三大巨頭といえばいいのか? その内の二人。 単体で恐ろしい近接戦闘能力を有している。
「いや~、何話してるのかなと」
軽く笑われた。 なんなんだ。
「何、アンタが見かけによらず乱暴な男だってこだよ」
んな話を真昼間からしてんじゃねぇ!!! 慌ててイストの両耳を塞いで自衛する俺。
「あはは、大丈夫さ。 それよりもガイトスが動き出したみたいでね。 ほら」
ん? 紙? 姐御に手渡されたモノによれば…。
ガイトスより1000騎強がタガラクへ進行中。 同時にコチラにも2000騎。
うーわー…そうきたかよ。 俺は眉間にシワを寄せて姐御達を見た。
二人も表情がマジになっているので、冗談は言わないでおこうか。
「で、スヴィア君的にはどうする? こんな時は」
「ああ、アタイも知りたいねぇ」
うわー、ちょいまって。 そう言うのは苦手なんだっつの…。
俺は頭をかきながら、取り合えず情報が足りないので聞いてみた。
得た情報はこれ。 ガイトスの戦力。
タガラク同様に、翼竜を移動手段としている。 総数は五千強。リンカー五千って事は実質一万か。
飛行性能があるってことは、あの地割れは通用しない。
相応に強い敵兵と見ていいか。
コチラに向かっている大将が、ファリア=イズ …女ってこた…リンカー無しで大将かよ。
タガラクに向かっている大将が、サイス=バルタ こっちは男。 こっちがよかったなぁおい。
国としては、領土を広める事を第一にしている様だ。 典型的な大陸統一目的か?
一応反撃を警戒してこっちに二千も送ってきている…か。
…。
色々あれこれと考えている俺を見て、姐御が質問してきた。
「で、どうだい?」
「そうっスね。 コッチに二千も送ってきている。 これはイグリスを脅威とみなしている。
そう言う事になるっスな」
それに二人して頷く。
「そりゃアンタ。 典文に載っているリンカーがそれだけ脅威とみなされているってこさ」
「見てみたいもんだね。 その銀色のリンカーフェイズとやらを」
気軽に言ってくれるなおい。 だが、タガラクみたいな猪突猛進では無い事は判る。
良し、少し危ないがやはりやるべきか。 俺は考えるのをやめて姐御に話す。
「シアンさん、俺にタガラクの兵200騎とレガ貸してくんねっスか。
その2000騎は、多分にイグリスを恐れてる。そこを突けば止められるっしょ?」
伝えたのはこれ、イグリスに脅威を感じている。
それなら姐御か俺の名前で一時停戦を申し出。 足止めをする。
それを聞いた姐御が少し頭を抱える。
「だがねぇ、ココもそうだけど、アンタにもしもの事があったら」
「どう見てもあのデカブツが、急に変形するとか思えないスしな。
何よりレガつれていくんで、いざ戦いになったら優勢には変わりないスよ」
暫く考えていた姐御は、俺を見て黙って頷いた。
「うス、んじゃ早速交渉にいきますか。
取り合えずその大将だけでは、判断出来ない事を持ちかける。
そうすりゃ、総大将なりに判断仰ぐしかないスからね」
実際これが妥当だろう。 それがうまくいきゃタガラクの千騎も下げられる。
「判ったよ。 まぁ、無茶はしないでおくれよ?」
「コイツとレガにタガラクの騎兵200だろ? 交渉するには良い威圧だと思うぜ?」
威圧。確かに威圧だわな、疾風の直系と風魔王の直系、火竜レガ。 その上でタガラクの騎兵もいるんだ。
俺は、軽く手を振ると足早に日よけの下で休んでいるタガラクの騎兵に声をかけ、
人数を集めて貰う。 そしてその後にレガの元へと。
「おース。レガ、ちょっくら一暴れしにいくか?」
「暇を持て余していた所だ」
即答で返事してきた。一応内容を告げると少し不服そうだったが、相手が攻撃手段を取った場合、
手加減無用で暴れまわって良いと言うと、喜んで応じた。 こいつもこいつで…。
その後、レガの背に俺達は乗り。 タガラクの飛翔騎兵二百騎をつれてガイトスの兵の下へと。
------------ サルメア大砂漠・砂漠西部 -------------
うおー、結構デカいオアシスあるな。 相当地下に大きい水脈でもあるのか?
元々、あの蛇神が砂漠に変えたって話しだもんな。 地下に何があっても不思議じゃない。
俺達は、見渡す限り大砂漠の上空を飛んでいる。 レガの飛行速度に他が追いついてこれないので、
レガには結構速度を落として貰っている。
「レガわかってんな?」
「ああ、交渉に応じる気が無く、武力行使してきたら暴れても構わんのだろう」
「その通り」
一応確認しておかないとな、いきなりあのブレス吐かれたら洒落にならない。
お? と、そんなこんな考えてる内に、やっこさんおいでなすったな。
タガラクとは違い、鎧はつけておらず服は白基調か。 まぁこの砂漠で黒はなぁ…。
向こうもこちらに気づいたのか、陣形を横一列に広げ始めている。
判りやすいな、レガを多い囲むつもりかよ。 で、中心にファリアってのがいる筈だな。
俺は、後方にいるタガラクの騎兵に待機を命じて、単機でレガのデカい声が届く距離まで近づく。
イグリスよりオオミ=ヤサカの直系が停戦交渉に来たという事をレガに叫ばせる。 便利だぜこの大声は。
そうすると、相手側が暫くの沈黙の後、砂漠に次々と降り立った。 交渉に応じた様だ。
俺達も後方に降りる号令を出して、砂漠に降り立つ。 そしてレガをつれたままガイトス兵の下に。
白系の厚手服ですっぽりと包んでおり、見た目がどうとかじゃなく、
暑さよりも直射日光から守っている服装をしているな。
そんな連中が周囲に取り囲む中、一人の女性が出てきた。 身長170cmぐらいで細身。
グレーの髪を肩ぐらいまで伸ばしている。目は普通で茶色。
後は白の厚手服とローブで覆っていて良くわからない。
「君が、疾風の直系か?」
俺を見るなりいきなりだなおい。 あんまり融通利くタイプじゃなさそうだ。
俺は黙って右袖をまくりあげて、手首の方を彼女にむける。
「疾風の紋様は典文に記されていただろう?」
それを確認したのか、頷いて尋ねてきた。
「で、停戦交渉とは?」
「ああ。コッチに来たってことは蛇神は知ってる筈だ。 アレを今退治してる最中でね。
タガラクの方もそうだが侵攻を中断して欲しい」
「我等に何の利があるのだ? この機を利用せずして」
まぁ、そうなるわな。 にらめ付けてくる彼女を睨み返す俺。 ここは弱気になったらいかん。
強気とハッタリとレガを使うべきだ。
「見ていないのか? 確かに蛇神は退治するのにまだ日数がかかる。
その蛇神の能力と現状をどこまで知っている?」
首を横に振ってきたな。 まぁ、そりゃそうか。 俺は彼女に一歩近寄る。
そうすると、周囲の奴等が構えたが、彼女はそれを右手で止めた。
「蛇神は確かに強いが…耐久力が高いだけに近い状態に追い込んだ。
言視術を半ば破ってな…最早時間の問題だ。 タガラク200騎もあれば蛇神は止めていられる。
そちらの二千騎でこの火竜レガ・雷竜ヴァランに火塵のラナとその娘イグナ。
イグリスの指導者シアンと主戦力リンカー・疾風の直系を…どうにかできるか?」
俺は左下に水天を移し、脅しがわりに強く空の雲に向けて、爪の水圧カッターを撃つ。
その場の奴等が全員、見事に切り分けられた厚い雲に視線を上げて、驚きの声をあげる。
それに続ける様に喋る。
「水天月晶石の埋め込まれた、火塵のラナの最高傑作。疾風の直系魔精具・無形」
そして、肩で暑そうにしているイストを摘んで見せる。
「そして風魔王エヴァリアの直系。 スレイワードに匹敵すると本人に言わしめた人魔。
これだけをたった二千騎で止められると思うか?
その気になれば、この場の俺達だけでガイトスを完全に消滅させられるが」
「手加減はせぬぞ」
その瞬間、場の空気を読んだのかイストとレガも調子に乗り出した。
同じく両手を空に掲げたイストが、周囲に強烈な砂嵐を巻き起こし、
レガが、大気が震える程の咆哮をガイトス側に向けて放ち、その砂嵐を消し飛ばす。
周囲の奴等は流石に怯んだのか、大きく後ろに下がった。流石にこの一人と一頭の存在感は圧倒的だ。
体を軽く開き、姫さんの視線をレガに向ける様に仕向け、俺は答える。
「ちなみに…この火竜レガは気性が荒くてな。 従えているワケじゃないぞ?
強すぎるレガが戦闘相手として俺達を選び、その利害関係で共にあるだけだ」
大きく空に吼え、その後にお姫さんに顔をズイッと近づけて相槌を打つレガ。
「イグリスに屈したのでは無い。
イグリスに住むスヴィアとシアンを好敵手と認め共に居るだけ…」
目を閉じて軽く息を吸い込む。そして一気に吐くと同時に、目を見開いて怒りにも似た声を発するレガ。
「…娘! 貴様はどうだ俺とその身一つで戦えるか!!!」
その大声の風圧で髪が全て後ろになびき、目を丸くして体を仰け反らせて驚く姫さん。
ちょい可哀想になってきたぞ…そこまで苛めんな。
まぁしかし、ほとんど脅しだなこりゃ。 実際に力を見せ付けてレガもいるんだ。
内容も内容だ、一個大将だけじゃ判断なぞ出来はすまい。
俯いて考え出したな…ん、こちらを見たが…冷静だ。
気丈だなおい。 レガに凄まれて一瞬怯んだが…取り乱しては無いな。
「…私はファリア=イズ。 ガイトス王の娘だ、疾風の直系の者、名はなんと言う」
ぐぁー…お姫さんがこんなトコでてくんなおい!!! あれか、おてんば姫か貴様は!!!
まぁ、軽く礼をして答える。一応王族なら礼儀は出しておくべきか。
「こりゃ失礼。ガイトスを良く知らなくてね。姫君だったとは。
俺はスヴィア=ヤサカ。 コイツはイストラード=メギスン」
同じくして、軽く頭を下げたお姫さん。
「構わない。 この決断は私では手に余る」
まぁ、そうなるわな。 結局一応成功したんだが、俺達だけガイトスにいかなければならなくなった。
まぁ、レガつれてきゃ速攻戻れるから問題無いが。
「構わないが、蛇神の事もあるんでレガは連れていくぞ」
「…どういう事だ」
「言視術は半ば無効化した。が、倒す方法だ。
つまりあの巨体を一瞬で消滅させる方法を探している。見つかれば即座に戻らないとだからな」
それに成る程と頷いたお姫さんは、レガ同行を認め、俺達は一路ガイトスへと行くことになる。
ガイトス側はさっきのデカいオアシスの所で待機。
タガラクの騎兵はシアンさん達の所へ戻り、侵攻は一時中断の報告に。
それから、俺達はガイトスへと大砂漠の上空を飛んでいるワケだが…。
「なんでアンタがレガの上に乗っているんだ? さらわれたらどうするんだ」
「君はそういう事をする人間では無い。 先程の交渉もそうだ。
極力血を流さずに済ませたいのだろう?」
俺をジッと見て喋る姫さん。 中々見透かされてましたな。
「まぁ、その通り。 綺麗事が好きなモンでね」
「じゃが、こう見えて悪人になったりも致すぞ? こやつは…」
「ありゃ仕方ないだろ治安が治安なんだよ」
首を傾げて見ているが、 どうも悪役って感じじゃねぇなぁ…。
その後、レガに興味津々といった感じで、あちこちを見てまわっている。
そんな彼女を見つつ、ガイトスへと飛んで行く俺達だった。
----------- サルメア大砂漠・南部イグリス駐屯地 シアン -------------
「うまくやってるかネェ? まぁ、スヴィア君にイスト君にレガだ。
仮に戦闘になっても死にはしないだろうけど」
「相手の大将がガイトスの姫さんだからね。 交渉には応じるさ」
だろうね。 視線を暴れている蛇神へと移しながらイグナに話す。
「ガイストへ向かう事になるだろう? レガも同行させるだろうから、時間的には問題無い。
ガイトス王相手に、素人のあの子が巧く交渉出来るか、そこが問題なのさ」
「ああ。そっちかい。 まぁ…ちょいとキツい決断迫られるだろうね」
軽くため息をついて、頷く。
丁度、スヴィア君には辛い決断を任せる事になっちまうからね。
ガイトス王の出す条件を飲むか、断るか。 どちらにせよ悪手になっちまう。
かといって、実力行使に出るとタガラクの信用が地に落ちるだろう。
「全く、自分から厄介ごとに首突っ込んでいくねぇあの子は」
「それを全てどうにかしてきたんだろ? 今回もなんとかするんじゃないか?」
「お気楽だねぇ」
深くため息をつき、砂漠の西を見ている。 そこへ、ギアが部隊交代して、
戻ってきたのか、ギアがこちらに歩いてきて、尋ねる。
「あの若者が見当たらない様だが」
「ああ、ガイトスに交渉にいったのさ。 レガつれてね」
悩み込むギア。 まぁ…見た目の歳だと心配だよ確かに。
「停戦交渉をあの若者に?」
「ああそうさ。彼の事だ、無血決着・和解を望んでいる筈さ」
口元に少し笑みが浮かんだね。 まぁ、そういう奴等だからねぇ、
世界は違えど民族性は似ているってとこかい。
「ふむ。 期待しよう」
期待よか心配なんだよ。 どっちに転んでも悪手になるからねぇ。
その決断をあの子に任せるのは少々早い気がするよ。
「そういや、アンタのとこの宝を狙っているって聞くけど、宝ってなんだい?」
それに首を傾げて答えるタガラク。 なんだアンタも知らないのかい。
「我等の宝は仁義礼知信のみ。 それを奪う事は不可能だ」
てことは、タガラクの地に何かあるのを狙っているってことかい。
ソレに気づいてくれると良いんだがねぇ。
視線をガイトスのある西へ向けて、頭をかいてため息を吐く。
「ま、なんとかしてくるか…あの子なら」