第九十六話 「言視の神伐戦 Ⅳ」
第九十六話 「言視の神伐戦 Ⅳ」
ふと空へと視線を移し、月の位置を見る。 三時ちょいって所か…明朝に増援が来るという話。
現状は、イグリス勢残り200前後。 それにタガラクの先発隊が400騎。
飛翔騎兵…竜騎兵という事は、小型のワイバーンか何かの竜騎士か? …総勢600か。
3部隊に分かれて、ローテーション組めば、朝・昼・晩に分けられて、食料やらの確保にもまわせるな。
水は、封印のあった遺跡の近くにオアシスがある。 事前に調べておいてこの辺りは助かったが…。
何にせよ弱点だなぁ…。 あの力場も使ってこない、血液が無い…判らん部分があり過ぎるな。
まだ何か隠しているんだろう。 再び、視線を月から5km程離れた所で戦ってる場所へと移す。
鷹の目がこういう所で役に立つとは思ってなかったが…。 この距離でも良く見える。
どうやら読みは当たっていた様だ。 何かに怯えたり逃げ惑っている様子は無い。
遠距離攻撃をしつつ、一定の間合いを保って尾撃のみ警戒して戦っている。
ダメージは与えられないが、下手に近づいて無駄に死人を出すよかマシだわな。
たまに蛇神の体の一部が吹き飛んでいる所をみると、イグナさんだろう。
我慢し切れずに近距離攻撃していると思われな爆発が…。
視線を近くにいる姐御に移し、少し気になる事を聞いてみた。
「シアンさん、ちょい気になる事があるんスけど」
こちらを見て内容を聞いてきた。 その内容はこれ。
ディエラさんやオーマ。 三年・四年はもっと居た様な気がしたので、その辺りの事を聞いた。
答えは単純だった。
「ああ、イグリス空っぽには出来ないだろう? ああ見えて敵国もそれなりなんだよ」
「あ、成る程スわ。 流石に全部こさせるワケには行かないスなそりゃ」
それに頷くと、視線をイストに移した。 俺もイストを見てみると…よだれくって寝てやがる。
「まぁ、出番くるまでゆっくり寝かせてやるといいさ」
「スな。 でも、彼女の力は余り使わせない方がいいスからな。
単純な力は一番大きいと思うっスが、その反動に体が耐え切れないって事らしいスし」
軽く頷いて、今度は俺の方に歩みより、小声で聞いてきた。
「で? イグナとはどうだったんだい?」
…バレてるよ。 つか最後まではやってねぇぞ? 貞操は守ったぞ俺!!!
「勘鋭いスな…。 最後までやっとらんス、それだけは嫌っスからして」
「そうかい。 だがね。何度も言うが君はもうオオミ君じゃ無い。
それに彼女は、数少ない神とまともに戦える奴だよ。 悦ばして繋ぎとめときな」
ひでぇな。俺を生贄にすんなっつーの!! だが…確かにあのフザケた戦闘能力は敵に回したく無いな。
姐御の言う事はまぁ、正しいわな。 だが…俺にはメディが!!!! はぁ…甘い事いってられないか。
「へいへい…、利害関係きっちりと確立させて敵に回さない様にもしろって事スな」
軽く俺の肩に右腕を回してきて、更に小声で耳元に囁く。
「ああ、その通りだ。時には自分の体を使ってでも、相手に取り入る事も覚えときな」
生々しいなおい…。金で動く傭兵も居れば、イグナさんみたいなのもいて、
タガラクみたいな仁義礼知信にて動く奴もいる。 その時その時に応じて味方を増やせと、教えられた。
人それぞれってことか。
「で、相変わらず弱点はまだ見えないかい?」
「すなぁ、一番の問題は、あのフザケた巨体スわ。
あれを一瞬で消滅させる大規模な爆発なんざ核でも持ってこない限り無理スよ」
「リーシャ程の使い手でもそれが不可能だった。 つまりリーシャ自身に匹敵すると言わしめたイスト君。
彼女をもってしても完全消滅は不可能ってことかい?」
どうだろうなぁ、完成版の対神空間圧縮魔法まだ一度も見てないしな。
いや、リーシャは魔族の使う魔法全てを修めたといってたしなイストが。 効かないと断定していいか。
兎に角デカ過ぎんだよな。 んだよあの全長5kmは軽く超えてる長さはよ!!!
爪の水圧カッターも有効な手段だが、アレは連射できねぇ。一度撃ったら暫く使えなかったからな。
微塵切りには出来ない。 再び使うまでに復元させてしまう。 アイツには不向きだ。
水泡も単体だと意味が無い。 せいぜい皆の飲み水やら顔洗う時ぐらいだろ。
イストのは…余り使わせたくないんだよな。 あんまり強力なの使わせるといずれ五感を潰す事になるとか。
まだ体が出来てないからか?威力に体が耐え切れない。神経系にダメージいくとか…。
フェンリルもそうだ。 精々50%引き出せたらいい所だろ。以前に70%出せたのは奇跡に近い。
性能的に押すという事は出来ても、消滅は出来ないだろうしな。
再び視線を蛇神の方へと移し、アレコレと考えつつも、これ以上は援軍を待つしかなかった。
-------------- 蛇神キュグラ近辺 イグナ -----------------
「あーっ!! もう。 ドタバタ暴れんじゃないよ!!!」
ババアやイグリスの連中が尾に警戒して、遠距離で攻撃してくる最中、
一人だけ蛇神の中腹の脚から、脚へと飛び移っている。
体を捻り暴れまわる蛇神の脚から脚へと移動して、頭を吹き飛ばそうとソコへ向かう。
然し、地面に側面を叩きつける回数が多く、中々頭には辿り着けない。
そもそも頭を吹っ飛ばしても復元すんだよね!
言葉は喋るなと言われたが、要は不利になる言葉を喋らなきゃいいって事だろう。
愚痴ぐらいはこぼしても問題無い。
蛇神がしつこくのた打ち回り、砂煙を上げまくるもんで視界が悪い。 酷いもんさ。
それにまぎれて尾撃がとんでくる。 もっとも、胴体に近ければ当たりはしないがね。
再び、脚に掴まり、脚から脚へと飛び移って頭を目指す。
地面に退避を繰り返し少しずつと頭へ近づいてきた。 そろそろ見えてきたね。
目があるのか? 無いのか判らないが、口が無駄に大きく、牙が口の先端部分に二つ。
長い舌をたまに出しては引っ込めている。 そこに至るまでの脚が無くなったが、迷わず粘液に足からつけると。
ねっとりと絡み付いてきて、それが膝元までくる。 とてもじゃないが動ける様なモンじゃない。
ったく…こんな分厚い粘膜をよくまぁスヴィアは吹っ飛ばしたモンだね!!!!
一度脚に戻り、また地面が迫ってきたので、叩きつけられる前に跳躍して地面に転げ落ちる。
駄目だね。頭を狙おうにもそこまで行けない。 一旦引くか…。
一度砂煙の中を音を頼りにイグリスの連中がいる方へと走り、砂煙を抜けた先にババアが居た。
何してたって顔してるねぇったく。 アンタは遠距離用のあるがアタイにゃ無いんだよ。
喋れない攻撃出来ない、やる事無いじゃないかいアタイは。
ふと空を見上げると、朝日が昇り始めている。 そろそろタガラクの援軍がくる頃か。
…ん? ありゃスヴィア。 …成る程ね。
タガラクの先発隊が来ても、言視術の正体を知らないだろう。それを伝えに言って被害が出るのを避けるのか。
行ったという事は傍まで来てる可能性が高そうだね。 とりあえずアタイは様子見しておくか。
然しイグリスの連中は下手糞だねぇ。 リンカーフェイズの力だけしか使って無いじゃないか。
もうちょっとこう…まぁ、言っても無駄か今は。
それから暫く尾に気をつけつつ、周囲を探っていると結構な数の騎兵が来たね。
スヴィア君が内容は伝え…ん? ありゃ下がれか? 手で合図を…。
「一旦引くよ!!!」
言視に使われない単語で周囲に号令を出すと、全員が一斉に引く。 そしてその後を任された様に
タガラクのおかしな鎧を着た騎兵200ちょいか? アタイ達に代わって足止めしだしたね。
取り合えず、人数は増えた。 こっから持久戦かい。
さっさと全員を連れて後退していき、シアンの居る所まで戻ってきた。
「タガラクの先発隊届いた様だね」
「ああ。これで三部隊に分かれて戦えるよ。 ラナさんとイグナ・ギア・ロド君達のね」
スヴィアは相変わらず戦闘参加させてやらないのか。 まぁ、弱点見つけて貰わないとだからね。
アタイもその手のは自信あるが…どこにもそれらしいモノが無いんだよねぇ。
「ただいまっス」
お、スヴィア君も戻ってきたのか、降りてきたな。
「竜騎士期待したのに、なんつー竜武者」
「なんだいそりゃ…」
たまに意味不明な事を言うんだよな。 シアンが首傾げているよ。
まぁ、独特な民族だからね…。 元々どこぞの島国だったが、
水神から逃れて大陸に移ってきたとか聞いたしな。
「にしても…、すげぇっスな!! 少数部族でも粒の揃った精鋭揃いって感じっスか?」
何か懐かしそうな目で、彼等の鎧見てるな。 見た事でもあるのか。
まぁ、ココは暫く見物といくか…。
アタイはシアン達から離れて、蛇神の方へと視認出来る位置まで歩いていく事にした。
------------- 同位置 スヴィア ---------------
んだよ!! 竜騎士期待したのに、どう見ても鎧武者じゃないか!! …微妙に違うが。
赤と黒の二種類の部隊に分かれており、旗も二つ。 白地にそれぞれの色に対応している色。
菊みたいに花弁の模様があり、真ん中に一文字入っている。 義と信の二つだな。
つか日本から離れてるだろここ。 似たような文化になったとしてもだ。離れすぎてるだろ。
視線をドッタンバッタンと土煙を上げて暴れる蛇神に移す。 相変わらず知性が無い。
これもよくよく考えると可笑しいんだよな。神族の癖に知性無いとか魔物だろ?
いや、神族だから賢いという固定概念がおかしいのか? 判らんが。
しかし、強いなおい…。 あの視界の悪い砂煙の中に、なんていうんだ。
武者鎧的シェルターつけた翼竜と、武者鎧の様なモノをつけたリンカーが、ここぞとばかりに飛び込んでいく。
最初は危ないだろと思っていたが、中でどうやってるのか知らないが、ただの一騎も弾かれて飛び出してこない。
むしろ、砂煙がだんだんと移動している所を見ると押しているのか? 判らんが…。
どこの戦闘民族だよ。 強過ぎるだろ。
とか何とか考えていると、一騎だけ砂煙を巻き込んで飛び出たな、そのままコッチに来ている。 用事か?
それを目で追い続けると、結構な速度でるもんなんだな。
飛び出てきた一騎が、早々と姐御の傍に降りた。
翼竜から降りて姐御に話しかけ、俺はその降りてきた奴をジッと見ている。
ん? そいやイグナどこいった? 見当たらないが…まぁいいか。
「シアン殿、タガラクより400騎。義により助太刀致す」
「相変わらず堅いねぇ…。 ギア」
ギア。確か書状に飛翔騎兵長のサインつか…血文字みたいなモンでサインしてあったな。
黒漆でも塗ってるのか? 黒い鉄兜を取ると、流石に髷は結ってないか。だが布を頭を巻きつけているな。
それに紺色の厚手の服に、黒系の…材質不明の武者鎧に近い一枚鉄板の胴と、
複数枚重ねた長方形の薄目の肩部、右肩だけ反り上がってるな。
腰にも三枚それがあり、全体的に動きやすさを重視していそうだ。
篭手もあり、脚具もあり。 ズボンは鳶装束みたいなアレだ。名前は知らんけど。
それに地下足袋みたいなものも。 武器は…剣みたいだが、鞘に納まっていて判別不能。
リンカーフェイズしているのに、その攻撃力に耐え切る武器を持っているという事か。 魔精具なのか?
判らん。…が、相当強い事は遠くで戦ってる奴等が実証済み。その大将ともなりゃ相当だろう。
顔立ちは、やはりアジア系って感じだな。鼻が少し低め。年齢は40付近…ってとこか。
眉毛は太く、眼は黒目で無精ひげか。 物腰は穏やかだが、どこか怖い雰囲気がある。
身長は170ちょいと言う所か、胴は長く足が短い。典型的に日本人体型。
リンカーフェイズをしてるにしちゃ、人間そのままだが。 不明だ。
魔人がどこかに潜り込んでいるのか見当たらない。
「で…先程から拙者を見ている礼儀知らずは…何者かね」
ちょっ!! 俺の事かよ!! 明らかに俺に視線を向けて睨みつけてきたぞ。
姐御がギアの肩を叩いて軽く答える。
「あはは! まぁ、タガラクのその鎧に見惚れているんだろ? 許してやったらどうだい」
ナイスフォロー姐御!!! つかまぁ、この手のタイプは扱い易いわ。
「失礼しました。 お初にお目にかかります。俺はスヴィア=ヤサカ。
シアンさんの言う通り。鎧の性能とか色々と考えてたら見惚れてましたっスわ」
無言で、こちらに歩み寄ってきた。うわ…何か変な事いったか俺。
そのまま俺の肩を右手で強く握り込んで…どんな握力してんだ痛てぇよ!!!
「左様か。 この鎧をどう見る?」
んだ? ああ、目を試したいのか? んなもん武者鎧は元々日本刀の攻撃力の前には無意味だからな。
動き易さと回避能力、それに弓矢に対する防御だけだったような。 記憶違いかもしれんが。
俺は、軽く足元から胴体まで見てから答える。
「そうっスね。 一言で言うなら、勇ましさ。 防御に頼った様な性能はしていないスな。
肩部が片方反り返っているのも、武器の為っしょ?」
どうよ。 何か考え込んで俺の方をジッと見てる。 うわ、俺の背中に冷や汗が。
姐御は姐御で面白そうに見てるな。 助けてくれよおい。
「一つ聞きたい。 君にとって戦とはなんだ」
また、答え難い質問してくるなこのオッサン!!!!! どうする? この民族に合わせて話すべきか?
さっき姐御に言われたばっかだしな。 …いや、そんな事が通じる様な奴じゃなさそうだぞ。
「そこは、まだ若造っスから。 答えられないスな」
ん? 俺から姐御の方に向いて歩き出した。 何か言ってくれよおい!!!!
そのまま姐御に話しかけてるギア。
「中々に見所がある若者の様だな。 …か、言葉がなっておらん様だ」
遠くで寝ているヴァランに右手を向けつつ、笑いながら答える姐御。
「見所どころかアンタ。 あそこの雷竜と単身。リンカーフェイズ無しで互角に戦う様な奴さ。
同時に、あそこの蛇神の能力も見抜く眼も持っているよ」
…そんなフォローの仕方やめて!!!! ほら見てる! 睨んでる…ぎゃー! 剣抜いた!!
…ん? 日本刀みたいだが、波紋つーの? あれが無いぞ…斬れるのかあれで。
いや、それどころじゃないだろ。 中腰になって構えだしたぞ俺に向かって。
「真実かどうか、試させて貰おう」
試さんで良いから!! つか無駄な体力使うんじゃねぇ!!! うわ…他の騎兵もコッチ見てる。
姐御止めろよ!!! 何、両手組んで笑いながら見てんだよ!!
ん? 周囲の奴が一人来て、俺にこの歯入れのしてない刀みたいな剣を。
「使え」
使えるか!! そんな使ったこともないモン使ったら余計に戦えんわ!!!
俺はそれを両手を振って断った。
「いや、触った事の無い物だと逆に戦いにくいスから」
そう聞くと、腰の鞘に収めて戻っていった。 その瞬間、背後に寒気が走ったので咄嗟に左に転がって逃げる。
その瞬間、俺の居た場所の砂が大きく跳ね上がった。 殺す気かよ、何の躊躇いも無く振り下ろしてきたぞ。
そのまま即座に、右肩付近に柄が来る様に両手で掲げて、すり足でジリジリと間合いを詰めてくる。
無言かよ…ガン付けがすげぇぞ。 威圧感つーのか、それがすげぇ。
やべぇ、まともに見たら呑まれるわ。 俺も流石に遊んでたらマジで殺されると判断したのか、
砂地に視線を落として、影のみに集中する。 日本刀だとしたら早過ぎるからな。
その瞬間、砂を蹴る音が聞こえ、一気に影が詰め寄って来て、右側からほんの一瞬影が見えた。
その一瞬に辛うじて反応し、後ろに飛びのいた。ヴァランの雷撃クラスに速いぞこの斬撃。
「あっぶねぇ…無風活殺使う暇が無いっつか、風を斬ってるから掴まえられネェ!!」
改めて知る、日本刀の恐ろしさ。 歯入れしてなくても骨が砕けるぞ…あんなもん喰らったら。
冷や汗を垂らしながらも、次に来る一撃を警戒して…ん? 鞘に収めた? なんだ。
「どうやら、嘘では無い様だ」
そのまま後ろを向いて姐御の方に行ったな。 つか恐ろしいオッサンだなおい。
「で、この後は?」
「ああ、そこのスヴィア君に聞いてくれないとね。 今回の戦いの要が彼さ」
だから、ソイツを俺に振るなぁぁぁぁぁぁぁっ!! 苦手だ! こういうタイプは苦手なんだ俺は!!!
うわ…俺を睨んでコッチに来いと目で合図してる。 はぁ・・・。
すごすごと、姐御達のもとへと歩み寄る。 足が止まるのを見るや否や質問してくる。
「スヴィアと言ったな。 策を聞こうか」
口数も少ないなおい。 取り合えず俺は、三部隊に分けて二十日間の持久戦を伝え。
その間に弱点を見抜きつつ、ガイトスの動向も探る必要があると答えた。
「…。 奴と少々相対してきたが、弱点らしき物は無かったが」
「確かに弱点無さそうスがね。 どれだけ強大な奴でも弱点は必ずあるっスわ。
その証拠に何かから守る様に、粘液が体に付着していたっしょ」
その言葉に、軽く頷いて視線をデカブツに移し、すぐに俺の方へと戻す。
「確かに」
だから口数すくねぇ!! 確かに強いが、猪突猛進て感じなのか。
「どれだけ強かろうが、相性ってのがあるっスわ。
弱点を見抜いてそこを的確に突けば、勝てる可能性はあるっス。
それを見抜かずして逃げるのは俺は避けたいっスな。
さっき戦とは、って聞かれたけど、コレが俺の答えかもしんねっス」
ん? 何か変な事いったか? 俺。 オッサンの顔が…強張って…姐御の方を向いたな。
「どうしたんだい? そんな血相変えて」
そりゃそうだ。 何か変な事いったか? 俺は冷や汗を垂らしながら、ギアの言葉を待つ。
「シアン殿。 此度の戦、勝ち戦となるだろう。
その後、彼を軍師として、我等の元に来させて貰えないか?」
「ん? そりゃ構わないが…どうしてだい?」
待て、…しまった!! 墓穴掘った!!!
再び俺の方へと視線を移すギア。 それにつられて姐御も見てくる。
「祖先の地を、彼となら取り戻せる。そう確信した」
「ああ、確か水神だったかい? そりゃ彼だけじゃない、イグリス・レガートも出来る限りは支援するさ」
軽く姐御に向けて深く頭を下げるギア。
「かたじけない」
うげぁ…。 待って、水神。その容姿で水神ったら…ヤマタノオロチ系の水害の神だろ!!
ひでぇ…、俺じゃなくてスサノオ呼べ! 俺じゃ無理!!!!
そう言うと、近場で休ませている翼竜に載り、あのデカブツのもとに飛んでいったギア。
それを唖然として見ている俺の肩を姐御が叩く。
「どうやら次の依頼は、ご指名の様だね。スヴィア君」
いらん!! そんなご指名マジでいらん!!!! 嫌そうな顔を全力で露にする俺の耳に囁く姐御。
「彼等の強さは見ての通りだ。 アンタの頑張り次第で、これからずっと友好関係を結べるんだ」
「洒落んなってねぇスよ。 多分その水神、津波やら操る巨大な八つ首の竜スよ?」
必死で嫌がる俺を見てか、軽く首を傾げつつ答えた。
「なんだい知ってるのかい? その水神を」
「知ってるっつーか…俺の住んでいた所の歴史上、最強のバケモンっスわ。
退治はされたみたいスけどね」
「じゃ、もう一度退治すればいいじゃないか! それに…」
んだ? 耳に囁いてきた…。
「彼の所は美人が多いらしいよ」
「良し引き受けた! …なんて言うと思ったスか! 俺はメディ一筋だっつーの!!」
がー、笑いながら背中叩くな!!! ったく…。
ケルド見つけるどころか、それどころじゃないバケモン相手にしなくちゃならんとは。
前途多難というか前途女難つか…はぁ。