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第九話「生きるという事」

第九話目の投稿となります。引き続き、目的地への珍道中です。

  「い…息がっできっ…くる…しっ  ひっ」

勢い良く走り出したはいいものの、やはりというか当然ながら、結構峠が近くに見えて来た辺りで完全に力尽きた。

 ま…まぁ、まだ結構後ろに皆いるし、少し休んで…やす。


              …ぞくり…


確かに結構後方にいるのに、あたかも真後ろにいるような凄まじいプレッシャーが首元を撫でた。

 駄目だ。休んだらえらい事になる。何か判らんが俺の第六感がそう叫ぶ。尚更危険だと。

動かない体を無理矢理ひきおこ…ん?いつの間に居たんだこの子。つか、なんつー生気の無い顔してんだよ。人形みたいじゃないか。

  「何か用…かな?お嬢ちゃん」

まともに呼吸すら出来ない状態を無理矢理平静に整えて、尋ねる俺。良く見ると後ろに連れの男性もいるな。こっちはそれなりだ。

 つか何?何でさっきから俺の顔ジッと無言で、目に光が入ってない様なダークグレーの目でそんな至近距離見るかな。

髪は茶色で、やたら短く切った髪。ベリーショートだな。見事にオデコが露出している。思わず叩きたくなったがそれは流石に不味いだろう。

  「ん?なんなんだよ」

しつこく俺の顔をジーッと見続ける。良く判らん。

  「ちょっとそこの連れの兄さん、この子どうしたんスか?」

何か敬語が板についてきたな。俺。

 その言葉に反応したのか、黒髪で全身黒ずくめの連れの男が返事をしてきた。

  「ああ、すまないね。ちょっと変わっている子なんだよ」

確かに変わってるっつーか意識あるのかこれ? 試しに耐えられなくなったのかオデコを軽く突付いてみた。

 反応はいかに…       …駄目だ無反応。ん?何か俺の顔を見飽きたのか、素通りしていきやがった。

  「じゃ、失礼するよ」

  「ああ、はい。道中お気をつけて」

なんだったんだ?良く判らん。ま、まぁ取り合えず先を急ごうか。大きく深呼吸をして、またしても駆け出した。

     










  「結構頑張るな!大したもんだよ」

  「ですね。信じられない体力してますね」

  「知能はスライム並みだけに、体力だけはオーガよりありそうですわね…」

  「ちょっとそれひどいよ~リセル」

  「アハハハ!いいじゃないか!片方に偏っていてもそれもまた良し!」


うんうん。大したタマじゃないか。こりゃ鍛え方次第じゃ数日で化けてもおかしくない。

 久しぶりに鍛え甲斐のある若者を見つけたもんだよ。

リセルもリカルドもあれだけ泣き入ってたのにな。もう少し厳しくやってもよさそうだな!


  「…シアン義姉さん、顔がにやけてる。もっと厳しくしようって思ってる・・加減してあげてね」

全くこの子は甘い事ばっかり言うな。あの時見ていたが、明らかに精神力の欠如が原因の暴走だろう。

 そんな甘えは今のオオミ君には必要無いんだ。

  「メディ。アンタはオオミ君を戦闘で死なせたいのかい?」

  「そんなことない!」

  「だったらアタシに任せておくんだね」

  「メディさん…あの、その。シアンさんは彼の為に厳しくしているんですから…そのあのえっと…」

  「あーもう!相変わらずまどろっこしいわねゼメキス君は。スパッと男らしく言えないのかい?」

  「ご…ごめんなさい」

全く、でもま。これがゼメキス君の強みだからね。仕方ない。

  「はは。然し会長がコレ程に入れ込む所を見ると、本当に強くなる素質があるという事ですからね」

  「ですわねぇ…。無理はさせるけど、必要以上の事は決して致しませんものね」

  「もう…シアン義姉さんは…」

  「ま、任せておきな!素手でオーガ程度殴り倒すぐらいに鍛え上げてやるさ!」

アタシは、腰に腕を当てて、大きく笑った。

  「そんな事出来るのシアンさんだけですわ!本当にどっちがモンスターかわかりませんもの」

  「本当で御座いますね。実際に殴り倒しましたからねぇ」

  「その内ドラゴンも素手で殴り倒すかもしれないね…シアン義姉さん」

  「無茶言わないで欲しいわね!アタシだって乙女だよ!?」


む…何か反応に困るって表情で全員こっち見てる。そんなにアタシが乙女って言葉に合わないのかい全く。

 ん?前から誰かくるね。旅行者か?

  「20歳前後の男と、10歳?ぐらいの女の子がこっち着てるね」

  「え?あの…会長?まだ粒ぐらいにしか見えないのですが」

  「どう言う視力してますのよ」

  「アンタ達もちょっと鍛えなおした方がよさそうだね!」

  「シアン義姉さんがおかしいんだってそれ!!」


…またこれだよ。全く最近の若者は軟弱でいかんねぇ。

 と、そんなこんな話していると、前方の二人が近づいて来た。そろそろ声が届く範囲だね。

  「いい天気だね!旅行者かい?この辺りはコボルドが結構いるから気をつけなよ!」

  「そういえば、先にいったオーミ大丈夫かな…」

  「そうですわね。案外コボルドに囲まれていたりしませんこと?」

  「危ないですね。相当体力も消費しているでしょうし、何よりメディさんもここにいますし」

  「あ~丁度いいじゃないか、ちょっと半殺しぐらいに鈍器で殴られておいた方がいいね!」

  「もう!シアン義姉さん!!」


先に居るオーミ君に視線を向け、大きく笑う。にしてもさっきの旅行者愛想悪いねぇ、挨拶したのに挨拶もなしで素通りかい?

 全く気に入らないね。 後方になった二人を軽く振り向いて睨むが、溜息をついて前方を向く。

  「ま、人それぞれか」





  

  「ヤバイんですけど」

何かやたら背の低い犬っぽい獣人。コボルドか?多分そうだろう姿がそのまんまだ。

 いや、それはいいが…どうすんだよ。メディもいないぞ。まさか…やれと?RPG宜しく戦えと?

 武器も無く素手で、6匹も?無理だろ!物量的にも体力的にも無理だ!!!

 一歩、峠の方に下がる。一歩、コボルドの群れが近寄ってくる…。

 だめだ、やる気だこいつら。…仕方ないこうなったら。

  「三十六計逃げるが勝ちだったかなんかそんな言葉あったよなで戦略的撤退!!!!!!!」

 どこにそんな体力があったのか、物凄い速度で重量もなんのそので加速して逃げる俺!

 漫画だったら絶対土煙あげてるぞこいつは!!

 主人公だからといって絶対に戦わないといけないなんて事は無い!逃げる奴がいてもいいじゃないか!

 俺は生きる為に逃げるぞ地の果てまでも!!! 後方から追い上げてくるコボルドを必死で振り切ろうと更に加速して逃げる。

 

  「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!ざけんなっ! 

   彼女つくれないまま死んでたまるかこんちくしょぉぉぉおおおおおっ!!!!」


 誰もいないのか腹の底から大声を上げて必死に逃げる俺。

 奴等も必死で追い上げてくるっつか早ぇぇぇぇえっ!!!!

 汚らしいボロ布を纏った茶色いっつーか茶黒い?犬の獣人も必死で追い上げてくる。

 だーっくそ!予想以上に早いぞ!!!!

 ん?前方にまた人!?助かった! 一人のトコを見るともしかしたら強い人かも知れない!よっしゃぁぁぁっ!!

 俺は残りの気力を振り絞ってそこまで駆け抜けた!

 そして腹の底から助けを求めた!

  「たっ助けて下さい!死ぬっ死んでしまうっ!!!」

  「…?」

 …何か、おかしくないですか。肌の色。なんかこう青っていうか青白いし耳が尖ってませんか?

  というかやたら露出高い美人だけど、何か触れたらダメな雰囲気醸し出してませんか!?

  こ…こいつもモンスターかよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!?

  「あれは…コボルド? クス。あんなのに必死に逃げるって人間って可愛いわねぇ食べてしまおうかしらぁ…」

 うげあーっ!やっぱモンスターかよ!何か言葉喋ってるけどモンスターかよ!!終わった!去らば我が青春の日々!!

  その場に力尽きて両膝をついてガクリと肩を落とした瞬間、

  何か目の前が眩しく光ったと思った直後、後方から物凄い爆発音と突風がこっちに飛んできた。

  おそるおそる後方を見ると、うげあ…周囲の草とか木どころか地面がなんか抉れてるんですが!つか何?たすかっ・・・うへ!?

  今度はまたしても頭の上に柔らかい感触が!さっきのモンスターの胸か!?

  嫌だ!そんなもんのっけんじゃねぇ!!!!

  慌てて飛びのいた俺が見たのは、えらく物静か…ってか何か酔っ払ってそうな雰囲気。

 腰までかかる黒髪のストレート。青白い肌に尖った耳。黒い眼球に赤い眼。翼もやっぱりある。

 骨の形がうっすらと見えた、赤黒い皮膚の様なものがついている翼。

 そして何より、恐ろしくスタイルが良い。特に胸がもう…服はほとんど何もつけていないに近い格好。

 然し、見た事無いぞ!なんだこれは。

  「大丈夫?ボウヤ可愛いから特別に助けてあげたわよ…?」

  え?助けて…くれたのか?モンスターが!?

  「ふふ…お礼にお姉さんと遊ばない?」

  …ふと脳裏に過ぎる言葉。魔族。

  「どうしたのぉ?ほらそんな重そうな荷物なんておいてこっちに…」

 道から外れた所にある、森の木に寄りかかり、腰を前にやや突き出して、

 右手を下腹部になぞるようにあてがっている…う。鼻血でそう。

 つかこの淫乱っぷり。ほとんど裸の容姿で魔族…まさか。

  「助けてくれてどうもっした…失礼な事聞くかもしれないっスけど。お姉さんひょっとして…」

  「あらぁ…?魔族は見た事無いのかしら? 貴方達と共に歩む者なのに…寂しいわねぇ…」

  「あ!いやすんません!そんなつもりは無いんですよ!この世界きたばっかで!その!」

  「…?! 異界の住人? 珍しいわねぇ。アスラのボウヤもそうだったけれど…」


 ん?今アスラったか?阿修羅の事か!?つかこの魔族何歳だよ・・・。

  とんでもなく高齢な・・・いや気付かれたら命なさそうだから考えないでおこうか。

  「え、阿修羅…っスよね。会った事があるんですか?」

  「クス…懐かしいわね。とても可愛いボウヤだったわよ?」

  「え?阿修羅ってこっちだと、魔神として扱われてるみたいなんスけど」

 その言葉に、含み笑いをしつつ答える魔族のお色気姉さん。

  「あら…そういう風になってるのね。正確には、普通の人間。ただ内に秘めた力が阿修羅…そう呼ばれていたわよ?」

  「な…成る程っス。つまり俺と何も変わらないただの人間。

    でもアスラって・・・俺の世界と違うのか。」

  「それは判らないわね…例えばボウヤの名前は何かしら?」

  「ヤサカ オオミですけど。あ、オオミでいいっスよ。」

  「オオミね…ボウヤがこの世界で名前を残したとして、

時が経てば、名前が少し変わってるいかも知れないわよ?場所により」

 ああ!成る程。神話も結構地域次第で呼び方違うもんな

  「どうやら納得した様ねぇ…さあお姉さんと遊びましょう?」

 またしても、エロい仕草をする。右手で自分のやたら形の良区大きい胸撫でたり、

  左手で下腹部より下、つまり股間部…つより股下にくぐらせたり。子供には大変目に毒な仕草を。

  然し、こいつは明らかにアレだもんで誘われるままになつてしまうと大変危険なのは百も承知。

  伊達にゲームやってない…!!

  「あ、あのつかぬ事をお伺いしますけれど、お姉さんもしかして…サキュバス?」

  「あら、私の種族を知っているのね。じゃあ…遊んでくれそうにないわねぇ…」

 残念そうにしているサキュバス。つかえらい素直だな。普通騙してでも精気吸い取らないか?

  「何か、悪い人…いや魔族じゃなさそうっスね」

  「種族が違うだけで、善悪なんてモノは人間にもあるでしょう…?」

  「あ、そうか軽率でしたすみません。」

  「いいわよ…でもどうしてこんな所で一人で、大荷物抱えてコボルドに追いかけられてたのかしら?」

 言っても問題無いだろうな。どう見ても何か害を及ぼそうって感じしねぇし。

  それよりも相当後ろの連中と突き放したけれど、夜までに届くのか?この距離。

  「あ、実はここからえ~と。ん?正確な位置は知らないんスが、

   イグリスという街から2日程した所にある森に届け物を。

    後ろの方に5人ほど遅れてきているんスけれど」

  「イグリスから…セアドの森に…?ああ、それは私が頼んだ物じゃないかしら…」

 ん?なんだこの人っつか魔族が届け先の二人の内の一人なのか? 

  まぁさっきの力見る限り契約していそうな感じがしなくもない。

  「そ、そうなんスか?でも一応、後ろの奴等がくるまで渡すのは待ってほしいんスけれど」

  「あら…見かけによらずしっかりしているわね…早くそれが欲しくてこっちから出向いていたのよねぇ。

   少しここで待っててねぇ…?」

  「え あ、はい…て消えた!?」

 なんつーか、何かもうアレだ。わけわからん。色々起こりすぎだ!少し整理しようか。

 取り合えずさっきの長生き魔族が言うには、魔神阿修羅は人であって神じゃなく、中に潜んでいたのが俺と似たようなモンだったと。

  で、荷物の届け先がさっきのサキュバスと。

 ・・・もう一人はもしかしたらインキュバスか?そんな予感がするな。

 よしOK。次に出てきた時にはもう驚かないぞ。


  「おー!こりゃ楽だわ!」

  「相変わらずですわね。ディエラ」

  「いや~、助かりましたよ!」

  「あ、オーミだ!」

  

 なんだよ!?お前等楽し過ぎだろ!? 羨ましすぎるわ!!!!

 いきなり目の前に現れた連中に怒りというか嫉妬というか、兎に角ムカついた俺。

  「おまたせ、ボウヤ…」

 ギャーッ!突然真横に現れたサキュバスに頬にキスされちまった!!!精気吸われるっいやだ!

  「あはは!大層気に入られた様だね!」

  「…オーミ…」

 うっわ…メディの視線が痛いっ痛過ぎるっ!!!!!!

  「さ、早く荷物の片方、紫色の箱の方を渡してくれないかしら…」

 っとそうか。どうやら本人っぽいので早速リュックを下ろして開け…おい。

  どこが三分の一だ? どう見てもほぼ全部だろこれ。

  つか食料とか寝具とかどうした!?何も無いのに野宿なんて出来るかよ!!!!

  と、とりあえず中にあった荷物の内の一つ。それをサキュバスに手渡した。

  「ありがとうね…ボウヤ」

   ごふっ胸におもっきり顔を押し付けられた!たまらんっこれはたまらっ……視線が痛い。

  「ちょっ 茶化すのやめて下さいっスよ!?」

  必死でサキュバスのハグから逃げ出した俺は、距離を取った。

  「オーミー…」

  「うわー!不可抗力だっ!メディこれは不可抗力だ!!」

  「鼻の下。伸びてますわよ」

  げ!しまった!!!!

  「あはは!まぁ男だしね! メディも嫉妬するならしてやればいいじゃないか!」

 豪快過ぎるぜ姐御…。

  「シアン義姉さん!もう!!」

 いやしかしナイスフォロー。上手いこと誤魔化せたくさくないか?

  「さて!ちょっと予定より早いけど、ここで野宿するか!

   準備してくるからアンタ達は適当に休んでな」

  「はいですわ」

  「宜しくお願いします会長」

  「は~い…」

  「あ…いってらっしゃい」

  え?道具無い…よな?食料も…まさか現地調達?全部? どうやってだよ。

 まぁとりあえず疲れた。ぶっ倒れよう。 その場におもいっきり倒れこんだ俺、もう動きたくない。

  「ハハ…いや凄い体力ですねオオミさん。あの距離を走り続けたのですか?」

  「おかしいわ貴方…」

  「凄いねぇ。どんな体力してるの?オーミ」

  「本当ですね…僕だととてもじゃないけど…」

 ふははは!もつと褒めろ!褒め称えてくれ!

  「本当にスライム並みの知能しかない分、体力が凄まじいですわ」

 褒めてねぇだろそれリセルてめこら!!!

  「体力っつーか…コボルドっぽいのに追い掛け回されたんだよ!!!」

 その言葉に、サキュバスを除いた場の全員がやっぱり。といわんばかりに笑い出した。

 それを横目に、サキュバスが全員を見回してから口を開く。

  「おや…?良く見るとイグリスの主力ばかりじゃない。

   そんなにこの荷物大変でしたかしらねぇ…?」

  「あ、それはですね。学園の上部の人間がよからぬ事を企ててまして、

   そこのオオミさんと、メディさん。

   数日前に、積層型の魔法陣がイグリス上空で発動されまして、

   厄介なスライムを魔法陣ごと消し飛ばしたまではよかったのですが…」

  「へぇ…一組だけで物理攻撃しか無い貴方達が…魔法陣ごとスライムを・・・?

   にわかに信じられないわねぇ…」

  「私も信じられませんわ。けれど事実は事実ですのよディエラ」


 何か会話が弾んでるが・・・混ざる気力も無い俺はただ倒れつつ聞いてるだけだ。もうマジで指一本うごかねぇよ。

  「そう…このボウヤとそちらの可愛らしいお嬢ちゃんが、そんなに…そういえば、

   一人だけリンカーが見つからない子がいたそうだけどまさか…」

  「はい。その通りで御座います。そちらのメディさんがその人ですよ」

  「あら…貴方なのね。話は聞いてるわぁ。イグリスに異才を持って生まれた魔人がいるって…。

   でも、物理攻撃に強い耐性を持っているスライムを魔法陣ごと消し飛ばす…」

  「それなのですわ。一体どうやってやったのか。本人達も判らないの。

   オオミに至っては暴走してましたのよ」

  「あら、力に耐え切れなかったのね…?でも今はここに居るという事は…」

  「ええ、なんとか自我を取り戻しましたわ。」

 取り戻したっつーか、フェンリルに踊らされた感じじゃないか?アレは。

  「うん。取り戻したというよりはフェンリルがわざと耐え切れないぐらいの力を貸してたの」

  「成る程ねぇ…器を試されたのね…?とても賢い様ねぇ。」

  「話によると、オオミさんの世界の神々を食い殺した獣の様ですね。」


 お?何かサキュバスっつかディエラさんか、ちょっと顔色かわったな。

  「あら、神を殺せる程の力を…成る程。ともすれば推測だけど…」

 何かどうやって倒したのか心当たりありそうだな。

  「心当たりありますの?ディエラ」

  「なんでしょう?とても気になりますね」

  「うんうん」

  「どんな力だったのでしょうか…僕も気になります」

 全員の視線が無駄にエロいディエラさんに向く。

  「そう…ねぇ。私達魔族同士の戦いは、魔力のぶつけ合い。

   互いに対魔法障壁を張ってるのは…ご存知かしら?」

  

 全員知ってるのか、同時に黙って頷いた。俺だけ知らないようだ。

  「では簡単。互いに魔力に対する抵抗力が強い。けれど…魔力をぶつけて倒すのよねぇ…。

    つまり…単純にスライムの物理抵抗力を遥かに上回る物理攻撃で倒した。

    と、私は考えますねぇ…」

 成る程。確かに言われてみれば在り得ない話じゃないかもしれないが…抵抗力を上回る破壊力で吹っ飛ばしたのか。

  何かすげぇなぁ。ほんとに扱いきれるのか?俺が。

  「それもそうですわね。どんなに硬い石でもその強度を上回る衝撃を加えれば砕けますし」

  「答えは意外と単純でしたね。何か特殊な力かとおもっておりましたが」

  「う~ん…そんな感じだったのかなぁ。一瞬だけど空間歪んだ様に見えたけれど…」

 

 なんだメディが何か見てたってか一番近くにいたもんな。

  「それは…多分空間自体も物理的な衝撃に耐え切れなかったのじゃないかしらね…。

    余りに早過ぎるとそういう…空間の壁とでもいえばいいのかしら…それを打ち破ってしまうのよねぇ…」

  「く…空間の壁を打ち破るとか。そんな事が可能ですの?」

  「どれだけの速度で駆ければそんな事が可能なのですか?」

  「無茶苦茶っぽいなぁ」

  「もう…僕は凄いとしか」

  「残念だけど、私でも不可能だから判らないわねぇ…」

 どうやら音速を超えた時の事をいってる様だ。これは俺だけしか判って無い様だな。

 

  「1秒で340m走れれば可能っスよ」

 今度は全員の視線が俺に向く。然しmとか単位が通じるのか?まぁ大体の距離を伝えればいいか。

  「メートルってなんですの?」

  「オオミさんの世界の何かの単位でしょうか?」

  「よくわかんないよ~」

  「…あら。貴方の世界ではそれが可能の様ですわねぇ」

  「ええ、普通にガンガン破りまくってますよ。音速の壁は」

  「オンソク?ってなんですの?ちょっともう少し判りやすく説明してくださらないかしら?」

  「ああ、すみません。340mは、今この位置からそうっスね。丁度向こうにある大きめの岩。あの辺りまでの距離です」

  「あ・・・あそこまで1秒で走るわけですの?」

  「無茶苦茶ですね。ガーゴイルでも不可能ですよ」

  「それをやっちゃったのかぁ。フェンリルは」

  「転移じゃあ…だめなのかしら…」

 うお~雪崩のように畳み掛けられる言葉。とりあえず次は音速か。

  「音速は。音の速度っス。つまり1秒であそこまで走れたら音よりも早くあそこにたどり着くってことっスよ」

 皆揃って岩の方を見る。まぁ、科学なんて俺もさっぱりだし記憶違いがあるかも知れないが、確かこんな感じだったきがする。


  「つまりですわね。オオミとメディの力は、音よりも早く走ってしまうって事かしら?」

  「いや単純に走っただけでそうなったんじゃないっスかね。力自体はまだ不明っスし」

  「た…単純に走っただけで…あの破壊力ですの? 冗談じゃありませんわ。敵に回らなくて本当よかったですわね」

  「本当ですね。それも力をかなり加減してそれ。という事になりますよね。恐ろしい」

  「下位神と戦う為に最低限必要な力だっていってたよ?フェンリル」

  「ふふ…本当に戦った事があるのね。その獣は。実際とてつもない力ですからねぇ…」

 そういやこのサキュバス。当事者っぽいんだよな。

  「そういえば、ディエラはその時から生き続けてるのですわよね。ディエラも戦ったのかしら?」

  「うふふ…どうかしら、忘れてしまいましたわねぇ…」

  「もったいぶらないで下さいよディエラさん」

 戦ったどころか殺った部類だろこの婆さん。出てくる奴出てくる奴、皆化物染みた力もってるしな。

 最早何が出てきても驚かない自信がついたぞ。うん。

  「それはそうとして…大丈夫なのかしら…?貴方達全員が、こちらにきている様ですけれど…」

  「…そういえばそうですわね。頭に血が昇って思わず出てきてしまいましたけれど。」

  「まぁ、他の方々もいますし。大丈夫でしょうね」

 いや、またスライムでも上から垂らされたらヤバイんじゃないのか?

  「スライム忘れて無いっスか?」

  「それは大丈夫よ。あんな巨大なもの、召喚出来るのがそんなにゴロゴロいませんわ」

  「ですね。レガートでも一人か二人いれば良い所ですよ」

  成る程。そういう考えもあるのか。だけど何か嫌な予感つーかまぁ、…うん。

  「それに、同じ失敗はセオ様はしませんことよ?

  今頃は、イグリスにエルフィ族が数名きていると思いますわよ」

  「ですね。」

 エルフィ族。自然と共に歩む事を強く望んでいる国。というか部族。

 この国だけ魔族では無く、精霊と仲が良い。

  と、定型文が脳内にあるな。成る程。スライムを倒せる様な種族ってことか。


  「おーし!準備出来たぞ!こっちに来い!!」

 お?豪快かつマイペースな声は、姐御か。

  準備ったって道具も無いってのに…まぁ気になるから行く…行…け ね え。

 指一本動かんぞ…最早気力も底をついた。

  「大丈夫ですか?相当無理しておられましたからね。肩をお貸ししましょう」

  「あ、どもっス」


  「じゃあ…私は一足先に森に戻ってますわねぇ…お待ちしております…」

 というとまたスッと消えちまった。エロいが何か優しい感じの魔族だな。皆あんな感じなんだろうか。

  然し…デカかった素晴らしく柔らかくデカかった!!!

  「オーミ…鼻の下」

 うげ!!!!!!しまった!

  「バカ…スケベ!」

  「無様ですわね…」


ぐーあー。 全く持って主人公なのに良い所なくないか俺。もっとこうヒーローっぽく格好良い所…そんな都合よくいかんか実際。 

 さて、気になる姐御の準備でも見にいこうか。行くっても…連れられていくわけだが。…疲れた。兎に角寝たいわもう。

 連れられて、道よりズレた所にあったちょっとした森。 その中に入り、少し奥へ進むと途端にちょい広いぐらいのスペースが開いていた。

 そこには驚くべきことにっつか、どうやって建てた。木の枝やら器用に重ねた小型のシェルターっぽいのがいくつか。

 そして真ん中には、既に火がついた焚き火と、横に何か妙に太った猪っつうか豚っつうか良く判らん動物が横たわっている。

 なんだ。何があったんだ?あの短時間で。 シアンさん…逞しすぎるだろう。

 わんぱくでもいい逞しく育ちすぎてないか!!

 絶対生まれてくる性別間違ってるぞこの人は。


 取りあえず、皆が焚き火を囲む様に座る。何か…いいな。RPGっぽい。ファンタジーっぽい野宿。

  これで横にあるこの良く判らん動物が、丸焼きになれば完璧じゃないか!

  是非マンガ肉になってほし・・・おい。

 ちょっと待て!切り分けて大きい葉に乗せて配ってるぞ!? 

  生かよ!!!!焼いてくれ!せめて焼いてくれよ!!!

  「ちょ…シアンさん焼かないんスか?この肉」

  「あー?この肉焼いて食ったら硬くて不味くて食えないぞ?」

  「そ…そうなんすか?」

  「そうだよ。こいつは生じゃないと食えない動物でな」

  「ですわよねぇ」

  「ええ、焼いてしまうととてつもなく硬くなるんです。刃物も通らないし、

   それに非常に腐りにくくなるので、エルフィ族は建物の一部に使っているぐらいですよ?」

 なんと!食料兼建材なのか! なんてありがたい動物なんだこいつは。

  て、ちょっと姐御、俺の分の肉焼いてどうするんだ。

  「実際焼いてやるから食ってみるといい」

 いや皆食べれないっていってるから、いいよ!焼かないで焼いたら駄目勘弁して!

  …既に遅し。焼かれちまったよ。明日持つのか?俺。

  「何事も経験ですわよオオミ」

 そんな事で纏めるなよリセル貴様。

  「ほれ、焼けたぞ試しに食ってみるといいさ」

 試しっつーか明らかに俺の分だよそれ。仕方ない。食ってみるか。

  

      <バキッ>

 「いてぇっ!歯がっ顎がっ!!!!」

 本日二度目のバキッ! しかも今度の硬さはハンパじゃあない。最早鉱物化してるぞ!!!

 確かに食えない。食おうにも噛めない。例え飲み込めたとしても消化もしそうに無い。なんつー硬さだよ。

  「アハハ!どうだい?硬いだろう。鍛えれば武器にもなるんだよそれ」

  「武…武器っスか!?」

  「ですね。エルフィ族の槍の先端はみなこれですよ?」

  「無知ですわねぇ」

 無知っつか、武器食わすな!!!!!!!!!!!!!

  全く・・・。お?メディが自分のを半分分けて持ってきてくれた。

 流石メディ。やっさしーい。

  「駄目よ。メディ」

 ちょ…姐御ぉぉぉぉぉぉ…。

  「え…でも」

  「オオミ君は少し甘えが強過ぎるからね。徹底的に鍛えてあげるさ」

  「これは…会長が本気ですね。耐え抜いたらさぞ強くなっているでしょうねぇ。心身共に」

  「その前に死んでしまうと思いますわ私」

  「うん…シアンさんの本気の鍛錬についてこれた人って今までいませんよ…ね」

 おお!いたのかゼメキスさん。ほんっとーに影薄いな!喋るまで存在自体認識してなかったぞ!

  にしてもだ。シアンさんの本気の鍛錬…考えるだけで恐ろしいんだが。

  本当にやる気…もとい殺る気なのか。悩む俺に視線を送りつつ姐御が質問してたきた。


  「オオミ君。君は生きるという事をどう思ってる?」

 なんだ?らしくない哲学か? どうだろう考えても無かったな。

  「生きる…っスか。考えてもなかったっス」

  「懐かしい。私も尋ねられましたね」

  「私もですわ」

  「精一杯頑張る事?シアン義姉さん」

  「ん~?あはは。まぁ人それぞれだよ。メディの場合はそれが生きるという事なんだろうさ。

   で、オオミ君はどう考える?」

 どうっていわれてもなぁ。…食う為に働く。何ていったら怒られるだろうしな。どう答えればいいんだ?

  「考える程のものかい? まぁ、それが今のアンタに決定的に足りないものだよ」

 生きるという事がどういう事か、それが判らないのが…弱点?ということか?判らん。

  「じゃあ、極端だがアタシの考えを教えておこうか」


 お~、そりゃ助かる。鍛錬の話もそうだが、なんつーか年齢に合わない事言うからなこの人。

  「うス!お願いします!」

  「よくわからないが…いい返事だね! さて、生きる。単純にまず考えてみると良い。

   先ず生きる為に必要な事は何があるか」

  「そりゃもう食う事っスよ。今現状とくに!」

  「そうだ食べる事。食べる為には何をする?」

  「…はた・・・あいや、どうだろう。どうも俺の居た世界とじゃまるで違う答えしか出ないんスわ」

  「そうか。ならば答えよう。食べる為には殺す事が必要になる。

   君に無抵抗な逃げる動物を何の躊躇いも無く殺せるか?」

  「そ…それはちょっと無理っス」

  「だろうな。見るからに甘さの塊だ。覚えておくといい、

   この世界でそれは命を落とす事になるという事をね」

  「う…うス。」

  「それに何も動物だけではない。植物も生きている。

   刈り取るという事は、命を奪うという事だ。それに抵抗は無いだろう?」

  「ああ…無いっスね。平気で取るなぁ」

 

 何か言いたい事がわからなくも無いが・・・良く見えないな。

  「相手に意思があるとどうしても感情が邪魔をする。

   戸惑いというものが生まれる。動物相手でそれだ。

    同じ人間相手で殺しあう事になったら君にそれが出来るか?

    自分が生きる為に相手を殺せるか?

    それに前回の暴走、あれは暴走して良かったと思っているよ。

    今の君がまともに戦えるとは到底思え無い」

 う・・・。

   「無理だろうな。今の君では間違いなく殺される。その甘さを捨てない限りはね。

    …ただ、無心になれというわけでも無い。ただの悪鬼になってしまうからね。

    つまりだ、生きる為に何をするべきか、その時その時最良の選択を選ぶ事。

     それが私の考える生きるという事だ。勿論常に最良の選択を選ぶのは不可能だよ。

     だから、経験を積む必要がある。

     ここにいるメディと君はそれが全く無いんだ。メディはまぁいい。

     だが、君はメディを守らなくてはならない。

     だからそれを必ず手に入れなければならない。判るかい?」

    「成る程。よくわかったっス。」

    「よし、じゃあこれからイグリスにつくまで食料は全て自分で調達するんだ」

 っていきなりそれは無理だろ!? 毒とかあったりしたらそれこ・・・

    「今の君の考えを当てようか、毒に対してだろう? 少し考えてみるといい。

     何で毒があるものが既に分別されているかをね」

    「ああそりゃ、動物に食わせて…ああ!」

    「ん?そういう知識はある様だね。

     ではもう一つ、そこにあるキノコだが。かなりの毒がある」

  指刺した先にある、赤い色をしたいかにも毒キノコというべきモノが

     木の根っこ部分にに生えている。

    「うわ~…いかにも食べたら死にますという毒キノコっスね」

    「ああ、大量に食えば死ぬ。だが少量ならば軽い腹痛や下痢程度で済む」

    「いや程度って…」

    「つまりだ。生きる為に飢えて死ぬよりは、

      毒キノコを食べて体を多少壊してでも体力を回復させろということだ。

      腹を下して出た水分ならば泥水を啜ってでも取れる。

      動物を捕獲する事が出来るならば、動物を狩るのが一番だが。

      動物を狩るのはかなり難しいからな。イグリスに戻る前に捕まえるのはまず無理だろう」

    「じ…じゃあまさか…」

    「考えている通りだ。どんな物かも判らないモノをどうやったら毒性を抜く事が可能なのか。

      どうやったら食べられるのか。任務を遂行しつつ自分で見つけてイグリスまで戻る」


    「か…会長本気過ぎませんでしょうか?流石にそれは…」

    「アタシは無理な奴には言わない。

   少なくとも相当な距離をあの荷物を持ったまま走りぬく。

      それが出来たんだ。必ずやってのけるぞ。彼にはそれだけの精神力が潜在的にあるんだよ。

      問題はその甘ったれた部分が邪魔しているってことだ。

       そいつが無くなれば…断言しようそれだけで強くなる。

      むしろ、それが足りないだけ。ともいえるか」

 何かすげぇ過大評価されてる気がするな。俺。まぁ、精神面弱いといわれりゃ確かに弱いんだろうな。

    「という事で話は終わりだ。水も食料も全て自分でなんとかしろ。寝床は用意あげるからな」


     「厳しすぎますわ…私の時の比じゃありませんわねこれ」

     「同じくですね。

     「ねぇ、死んでしまわない?シアン義姉さん」

     「死んだらそれまでだよ」

 うーわー!きっつい一言!

     「義姉さん!」

     「どの道、遅かれ早かれ死ぬ事にかわりは無いよ」

     「それは…わからないじゃない」

     「黙りなさいメディ。アンタも経験が全く無いのよ」

     「う…」

     「じゃ、アタシはもう寝るよ。おやすみ」


 皆が姐御に挨拶すると、全員もそれなりにやっぱ疲れたんだろう。我も我もと床に入っていく。

 言う俺もそうだ。とりあえず・・・あれ?う ご か な い!! 皆はいっちゃったよ!どうしよう…俺だけ野ざらし?

 ぐ・・・ぬ。…くそ!だめだどうやっても動かない。…仕方ないここで寝ておこう。

  無理だ。とりあえず明日使う体力を少しでも回復させておかないとだ。…寝よう。




 


第九話、最後まで読んでいただいてありがとう御座います。

 どんどんと作者の頭が大変な事になってまいりました!頑張ります。

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