第八十六話 「砂塵の霊宮 Ⅳ」
足元に無残に積み重なる全裸の女の死体。それの上でやっているだろう儀式、その最中。
鈍い音と共に左右に天井が開いていく。 かなり明るい光が差し込み、周囲に落ちてきている土煙が良く分かる。
その土煙を突っ切り。 勢い良くその儀式をしている祭壇があるであろう其処へと飛び出した。
勢いあまって天井付近まで飛び出し、翼を羽ばたかせてホバリングしつつ見下ろすと、いるわいるわ。
50~100ってとこか。ローブを着た奴が土下座みたいなポーズを揃ってしている。
そしてその土下座ポーズの先には、岩を削って作られた祭壇が…無いなおい!!
祭壇の変わりに、地面が大きく掘られていて、そこに大量の血が溜まって…デカい影…何か潜んでいるな。
そして、その血の海の前で黒髪を伸ばした褐色の女性、当然ながら素っ裸が…まだ斬られていないみたいだな。
その隣に、さっきの紫のローブの奴が手にナイフをもって、俺達を睨んでいる。
それに気づいた他の奴らも立ちあがり、こちらを睨んできている。 つかなんで血の海に…。
まぁ、考える余裕も無いし、それ以前にあのネーチャンだな。 俺は勢い良く急降下して、紫のローブの奴を蹴り飛ばす。
そのまま裸のネーチャンを抱きかかえて再び天井に。 こういう奇襲は鷹の十八番だからな。…問題はここから。
天井付近の突き出た岩場に、裸のネーチャンを置く。 何か言って来ているが…それどころじゃあない。
「危ないからそこに身を隠しててくれよ」
視線は下に向けて、そのネーチャンに言うとその場から離れる。 紫ローブの奴が合図をすると、
俺の方に向けて大量のナイフが飛んでくるが…アホか。 この高さで届くかよ!!
文明の低さが目に付くわ。 隠し方が下手糞だわナイフ投げの射程距離も分からんわで。
高い位置でホバリングしつつ、相手を見下ろし、俺は周囲を確認する。
火が結構な数で灯されていて、影を作るには申し分無い。 それにあれだけ密集していたら、
接近戦にならざるをえない。無風活殺の独壇場だな。
俺は、そのまま急降下して敵のど真ん中へと、 着地した瞬間、津波の様に押しかけてくるローブを着た男達。
風を巻き込んで飛び掛ってくるので、それら全ての風を捕らえ、体の内部に風を叩き込み、手や足を切刻む。
周囲に血飛沫が舞い続け次第にローブの男の数が減る。 警戒しだしたのか、俺を囲み出し手を出してこない。
つかこいつら…妙に意思が薄いっつーか。 意思はあるけど…何か変だな。
然し、こうなると厄介なんだよな。 相手が動かないと風が起こらない。つまり攻撃力が0になる。
暫く互いに睨みあう状態が続き、 遠くからさっきの紫ローブの奴が怒鳴り声にも似たソレを飛ばしてくる。
「貴様…何者だ! 何故我等の邪魔をする!!」
「理由なぞ必要無いだろ?! んな人間を生贄にしてる様な奴等にはよ!!
コッチもテメェ等が何でこんな事してるか…聞く必要も無い!」
更に怒り狂った様に声を荒げてくる。
「どういう意味だ貴様!!」
「分からんかよ!? 一人でも生きてりゃ…地獄の責め苦を味合わせて吐かせるってんだよ!!」
「貴様…かかれっ!!」
手と声で合図はしたものの、俺に近寄ると周囲に転がっているソレ。
口から吐しゃ物や吐血を撒き散らしのた打ち回っている奴。
足や手をミキサーに突っ込んだ様にミンチになった部分を押さえて悶えている奴。
その二種類の悲痛の叫びが邪魔をして、誰も命令に従おうとしない。 それを確認した俺は一言。
「次はどんな死に方がお望みかね!? 両手両足だけ吹っ飛ばしてやろうか?
胴体に風穴あけてやろうか? それともテメェ等の一物だけ抉り取ろうか?!」
勿論そんな器用な使い方は出来ない。 0距離強打と斬撃の二種類だけ。
だが、脅しの効果はあったのか、怯え出して下っ端だろうローブの男が後ずさりし始めた。
それを見逃さずに一言。
「今まで殺した女の分…キッチリと苦しんで貰うぞ一人残らずな…」
そういうと、似合わない笑い方で体を仰け反らせた。そうすると、口々に狂ってやがるだの何だの。
それを行って逃げ出し始めた。 こいつ等は実際どうでもいい。
それよりも信仰の対象だ。さっき血の海を見た時に、微かに影が揺らいでた。しかも相当デカい。
コイツさえ倒したら信仰の対象を失う事になる。 後はそこの紫ローブだけとっ捕まえりゃ解決だ。
紫ローブの男は何か、血の海の方で祈っているが…チャンスだな!!
すかさず詰め寄り、壁の方に蹴り飛ばす。背中を激しく強打した紫ローブの男はそのまま気絶した。
「ふう…。 後は…ってうぉおおおおおおっ!?」
目の前にある血の海から、腹ぐらいまで体を出して、こちらを睨んでくる。
なんだこりゃ。 巨人? 俺の20倍以上ある巨大な裸の女? …蛇神…女。
俺は、目を凝らして腹部より下を見る。 うっすらとだが確かに蛇の様な鱗が見えている。
「ラミアか何かかよ…しかしなんで…」
さっきから睨めつけていたそのラミアの類は、俺に声をかけてくる。
「お前は…誰だ。 何故、わらわの入浴の邪魔をした」
「んだ。言葉もやっぱ喋るのか、なら手っ取り早いな。
なんで女の血をこんだけ集めるんだ! この質問がそのまま理由だ」
血の海から身を乗り出し、地面に真っ赤に染まった白い腕を置いてこちらを睨んでくる。
「成る程。わらわの肌の美しさを保つ為だ。 …それがどうした?」
…そっちかよ!! 確かどっかの女王か何か知らないが…やってたよな。
若い女の血で肌の健康を保つとかなんとか。
「どうりで美しい筈だなアンタ! それはいいとして…やべぇ…」
ラミア、人間、それも男ばかり…魅惑能力かよ!! 信仰じゃねぇ!洗脳かよ!!!
俺は慌てて目を閉じたが、そもそもチャームは目でやるものなのか? それすら分からん。
「そうであろ? ほう…わらわの力を知っておるか。 だが…見えないのでは、どうする事も出来まい?」
おふー。 助かった。とりあえず洗脳はさけられそうだが…確かに。
影を見て戦うか? いや効果範囲が分からん。 目と目を見てなのか、それとも別なの…ぐはっ!!
何かで薙ぎ払われた様な衝撃、それが胸部と腹部に叩き込まれ、そのまま壁に叩きつけられる。
「げはっ…畜生…」
「さて、戯れは終いだ。 お前の所為でまた男を集めなおさねばならぬ。
…じっくりといたぶり殺してくれようか」
倒れこみ咳き込む俺。 再び側面をまた何かで薙ぎ払われ別の壁に叩きつけられる。
「うがっ…クソが…」
「どうする事も出来まい?」
今度は握られた。これは見ないでも分かる。とんでもない握力で体を握りこまれ、
腕の骨が砕ける。
「いでぇぇええっ!!」
「痛いか…そうかそうか」
更に激しく握りこまれ、今度は肋骨が内側にへし折られ、肺にささったのか、直後に喉から何かがこみ上げ。
その何かを口から大量に吐き出した。
「ぐはっ…げほっ…」
「男の血は、何の役にも立たぬな」
更に握りこまれ、絶叫を上げたその瞬間、圧迫から急に開放され、地面に俺は土煙を上げて落ちる。
激痛と出血量からか意識が遠のくが、それを必死でつなぎ止め、ラミアの類の近辺を見る。
そいつの、正面に立っている…女? 腕に…何か…火…?
確認する間も無く、そのまま意識を失う。
どれくらい、意識を失ってたのか。リンカーフェイズした状態だったので、
そのままオズが全て再生能力に回してくれた様だ。 傷はほとんど治っている、息も出来るあたり肺も治った様だ。
「ん…ここは」
「お? 気づいたか。 アタイ以外で、ココら一帯の人攫いに探りいれてる奴がいるとはね」
まだ痛みはあるが、無理矢理体を起こして女の声だろう、それを確認する。
茶色の髪を無造作に肩甲骨あたりまで伸ばし、服は上着というか毛皮のベストに胸元に布を巻いている。
ヘソは丸出しというか下腹部がほとんど見えているが、やたら幅の太いズボン。
アサシンといえば、それに近い服装である。胸もこれまた、今まで見た中で一番大きい。
そして、鍛えてあるのか細身だが、引き締まった体をしている。 顔は少し男勝りで野性的というかそんな感じ。
細目で青い眼をして肌色。 いや、それよりも右腕に紋様…契約の血族だろう。
ん? 何か俺に歩み寄ってきて…ぐはっ。 腹に蹴りを入れられて少し吹っ飛んだ。
「何だ。 アタイをジロジロ見て。 で、アンタ何者だい? なんでココを探っていた」
腹を抑えて、体を起こして答える俺。
「あ、そりゃすんませんス。 余りにこう…美しいモンでつい」
げはっ! また蹴られた!! 待て褒めただろ?
「ケンカうってるのかい? 質問に答えろ」
うわー…冗談も褒め言葉も通じなさそうだ。 俺は再び起き上がり真面目に答える。
「イグリスから、ここの人攫いの調査と解決をしにね。 が…先にアンタがやってたってワケか」
納得したのか、その場にあぐらをかいて座り出した。
「ああ、イグリスからかい。 そりゃ悪い事したね。 まぁ何にせよアンタが手伝ってくれたお陰で
一気にカタがついたよ。 にしてもなんだ? あれは。 近づいた奴根こそぎ…」
周囲で絶命しているローブの男の死体を不思議そうに見ている。敵では無さそうだ、教えて良いか。
「無風活殺。 攻撃を加えてくる者を徹底的に破壊する力スわ」
そういうと、四つんばいになり、いきなり笑いながら肩を抱いてき…ちょっ胸がっ! やわらかぁ…じゃねぇ!!
俺は、慌てて彼女を押し戻す。
「なんだ?照れてるのかボウヤ!! まぁいい。 無風活殺ってことは、風の精霊の血族かい?」
「ん。ちょっと違うんスが、クァっていう疾風の…」
言葉は続かなかった。 またその大きい二つの山で顔を埋めつけられた。
「ちょっ…くるしいっス!!」
彼女の肩をタップし続けると、気づいたのかようやく離してくれた。
「あはは! まさか疾風に血族が居たとはね!! こいつぁ驚いたよ」
なんだ…身に覚えのあるノリだなこの人。
「アタイは火の精霊の血族さ。 ちょいとココら一帯で眠っていたディアリアを追っていてね。
ちなみにディアリアってのはさっきの奴さ。
肌の美容だか知らないがね、男を魅了して女の血を集めさせるのさ」
成る程…。結局ここも封印の影響出てたのか。 どうりで生贄やら邪教崇拝にしちゃ、
マハラジャつか金持ちが居ない。その上に治安が悪いかと。
崇拝していたら大抵町ぐるみだしな、その首謀者が町の大金持ちで、巧く包み隠している場合が多い。
今回のは、どちらかというと、ディアリアって女王蟻が
働き蟻に血を集めさせている。ただそれだけだったわけだ。
「成る程ス。 俺はてっきり蛇神とかなんとかが絡んでるモノと」
「ん? あはは、それは無茶だね。アイツの封印ならもっと別さ、
砂塵の霊宮に封印されてる。とんでもない奴だ、…間違っても解くなよ」
ぐは、睨まれた。 …然しそんな所にいるのか。…つかそこに行かないといけないんだがなぁ。
てちょっと待て? 聞き逃したのが…。
「火の精霊の血族ってまさか。火塵のラナさんの…」
「なんだ。ババアの知り合いか? そうだ。アタイはイグナ。アンタは?」
「あ、俺はスヴィアっスわ」
そういうと、立ち上がりその場を去ろうとするイグナさん。
「ちょ…もう行くんスか?」
「ああ、長居をする気はなくてね。 アタイはまだ他に行く所がある。
まぁ、目的が同じ様だ。いずれまた会う事もあるだろ。じゃあなスヴィア」
そういうと、足早に立ち去っていったイグナさん。
そうかラナさんの娘…確かどっかでほっつき歩いてるとかいってたな。
にしても…何をどうやったら、こんなになるんだ?
血の海の在った場所。 そこら一帯が焦げており、血も全て蒸発していた。
そして大元のディアリアという魔物。…うわぁ…体の殆どが焼け爛れて見るも無残。
顔は絶叫した状態で固まっている様だが、重度の火傷でほとんど分からない。髪も全て焦げてなくなっている。
体はもう…焼き魚ならぬ焼き蛇というか。 八割が爛れと焦げでワケが分からない状態に。
「これが、精霊の一部を借りた力だとすると…とんでもないなおい」
「…くさい」
お? オズが背中から出てきて、肩にのっかかってきた。 確かに臭いわな。腐臭と焦げた臭いが…。
良し、捕まってる人探して一旦宿に戻るか…。 いや…まだ体が痛いな、流石にダメージ受けすぎたか。
俺は暫くそこで休み、 体が回復してから、天井付近に隠した一人を地面に降ろし、
事情を聞いて、囚われている場所に連れて行って貰うと、26人も居た。
ちんたらやってたらどれだけ数が減ってたか、ま…これで一先ず解決と。
俺達は外に出ると既に夜もふけており、よく見ると、あの奴隷商人が気絶している。イグナさんだろうか。
そいつも捕まえて町へと戻る。 然しなんという光景。裸の美女が街中にわさわさと。
とりあえず全員が俺に礼を言うと家に帰った。 …目の保養になりました、ごっちゃんです。
そして、宿に帰ると空腹を訴えるアルドに相当怒られ、イストはヘソを曲げている。
なんちゅうか…この後も後で大変だったという。
まぁ、それよりも…明日は迷宮探索だ!! 月晶石を取って帰らないとな。
依頼よりもコッチが俺的に本命なんだよ!不謹慎だが!!