表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/129

第八十五話 「砂塵の霊宮 Ⅲ」


  「どわーっ!! オズ! リンカーフェイズだ! こりゃヤバい!!」

 

穴に落とされた俺達は、かなりの勢いで風を切るように滑り落ちている。 このまま落ちて水ポチャ。

 なんて事はまず有り得ない。 俺はあわてて一緒に滑り落ちるオズの腕を…ちょっと遠い!!

摩擦で背中の服が破けかなり熱い! バランスを保ちつつ姿勢を起こし、前に転がる。


かなりの勢いで滑っているので、転がる勢いも激しく頭を強打したらしく鈍痛が走る。

 しかし離れていたオズに一気に近づけたので、オズの手を握り強く引き寄せる。

  「オズ! 早く頼む!」

オズも危ない事を察したのか、俺の胸元に手をあてる。

  「…しんぱくどうき…あくせす…」


どんどん行き止まりが近づいてくる中、影に包まれ鷹の姿を一部借りたホークマンに近い姿の俺。

 そして、肩に二頭身化したオズが影から突き抜けて出てくる。 そのまま翼を広げ風を受け止めてブレーキをかけた。


然し狭いので、余り翼は広げられず、速度が速度。 中々勢いも収まらず段々行き止まりが…。

  

  「ご丁寧に壁に剣山かよ!!!!」


近づいてくる太い針の山。 それには何人も落とされたんだろう。

     かなりの数骸骨が刺さり、砕けたモノが四散している。

  「畜生!」


俺は強引に翼を広げて、翼を周囲の壁に押し当て勢いを更に弱めようとする。摩擦か壁についている砂か、

  どちらか分からないが煙を上げてどんどん滑っていく。 更に足の爪を地面につき立てブレーキをかける。

  「イテェ!!」

爪が砕けた様だ。 だが、かなり勢いが落ちる。 

  「んな一発目のトラップで死んでたまるかよ!!」

翼がへし折れんばかりに周囲の壁にに押さえつけ…。 辛うじて剣山一歩手前で止まった。

 全身から血の気が引いたのか、寒気が一気に襲ってくる。 オズも相当怖かったのだろう強くしがみついてくる。

とりあえず、その剣山の横にある通路に移動し、腰を下ろす。


  「ふはー…即死トラップばっかか、ここから先は…」

  「…こわい」

オズが怯えて、顔に強くしがみついてくる。それを右手で撫でる。

  「おー、すまんな。迷宮自体は俺一人かアルドと二人でくるつもりだったんだが…」

取りあえずさっきの戦闘と、今の落下による擦過傷。それ再生能力にまわして回復を待つ。

     その間に後から落ちてきた松明を拾い、少し考える。


確か、本に入り口は一つだけじゃない。 元々は自然の監獄だったのをリーシャが作り変えた。そう書いてたな。

 てことは、迷宮に落ちろと言ってたから。ここ以外にも落とし穴があると考えて良いか。 

それと、気になるのが、『最近ここを嗅ぎ回っていたのは』だ。 俺達は昨日からだ。

 誰か他に嗅ぎ回っているのがいる。 そう考えるのが妥当だわな、折角なので利用させて貰ったが。

これでその誰かも動きやすくなっただろう。 味方であると信じたい所だが…誰かは分からん。


それから十分程で、傷の再生が終わり、刺さっていたナイフも何かに使えるだろう。腰の荷物袋に入れる。

  「良し、そろそろ行くか。 何があるか分からんからな。

    リンカーフェイズした状態で進もうか」

  「…うん」

暗い通路の奥から、腐臭とカビと湿気の強い臭いが流れてくる。 取りあえず定番は風の方向に…だな。

 まぁ、どちらにせよこの道しか今は無いが。 俺達は松明の明かりを頼りに壁には一切触れず、

慎重に足元に注意して進む。 足元に注意して進むのは理由は一つ、トラップそのものもそうだが。

 こういう場合は遺体がトラップの存在を教えてくれるからだ。 壁や天井は触らなけりゃトラップは発動しない。

そのトラップを発動させるのが大抵…早速かよ。


明らかに、一定範囲だけ鋭い何かに、いくつも切断された骸骨が散らばっている。

 頭蓋骨が二等分にされていたり、体の骨もだが。…見る所はそこじゃない。 切り口だ。

体の骨だと確認し難いが、頭蓋骨の切れ方が全部横になっている。 ということは。


慎重に左の壁際に横移動して、顔を壁につけて右目を閉じ、左目をこらして壁の先を見る。

 僅かだが隙間が確かにある。 しかし、埃が詰まって無い、何かしら魔力のトラップでもあるのか。

 

  「成る程…何か飛び出してくるってか。 察するところ…」


松明を地面にかざすと、文字。 こいつは読めるなリーシャが作ったモノ。

 つまり比較的新しいモノで、遺跡のソレとは関わりが無い。という事か。いや、断定は良くないな。

取りあえず、屈み込んで手短な文字から見ていく。 遠くは暗くて流石に見えない。

  

  「ケリ…アル…。 双星の神の名前だろうなこりゃ。…ランダムな文字配列に混じって…成る程」


つまり、リーシャの信仰している神が正解か。 ……どっちだよ。 んなもん調べて無いぞ!!

俺はヒントでも無いかと、壁の埃と土を取り払って探ってみる。そうすると、

 古びたプレートみたいなモノが埋め込まれていて、文字が彫られている。

  「お。 …愚か者には風の裁きを…か」


風…確かアホ鳥はケリアド側だったな。 つことは当然正解はケリアドだ。 余裕余裕。

 俺はケリアドの文字配列の一つ目を踏もうとする…が、踏む瞬間に足を止める。


  「待てよ? わざわざこんなヒント残すあたり、あからさまにケリアドを踏ませようとしてるよな…」


少し考え込む。 オズがジッと俺の方を見ているが…まぁそれは置いといて。

 なんでわざわざヒントを残す? そりゃもちろん浅はかな奴。つまり愚か者をハメる為って所か。……。


  「キリシタンを見極める為の踏み絵だったか? アレかもしれんな。

     つー事は、信仰を試す為の罠。 と考える方が妥当か」


てことは、ケリアドを踏んだらアウトだな。ん? オズが俺の耳を引っ張ってくる。

  「…飛ぶ」

  「いやいや、風の裁き。 リンカーの存在を知らない筈が無い。多分飛んで行くと…」


俺は、近くに転がっている砕けて落ちた壁の一部を、トラップのあるだろう其処へと投げつける。

  その瞬間、壁の破片が見事に砕け散った。

  「見ての通り、埃が詰まって無い。 高密度に圧縮された風圧みたいなモンが微量に出続けてるってとこだ」

  「…あう」

  「どんまい」


そういうと、俺はアルセリアの文字。最初のイニシャルに右足をかける、冷たい汗が体を伝う。

 まだ正解であったとは限らない。 何よりこの奥からの風で、左右から出てきているだろう風の刃。

それが止まったのか判断つかないからだ。 おそるおそる慎重に姿勢を低くし、

 両手を軽く広げて余計な文字を踏まない様に次のイニシャルへ。

  「ル…。 セ…。 リ…。 ア…と」


反対側だろう、文字が終わった所にたどり着くと緊張が一気に解けて大きく安堵の息を漏らす。

  「ぶっはー! 何とか正解を選んだ様だな…やべぇ。 鳥肌が止まらん!!

       いや、ホークマンで鳥だが今」

  「…いく」

  「だな。 さっさと進むか」


再び、足元に松明を照らしつつ、先へと慎重に進む。 しかし精神力削るなおい。

 映画とかだとカッコいいのに、いざその立場になってみると口から心臓が飛び出しそうだわ。


引き続き、酷い臭いのする風を頼りに、足元の骸骨に注意して進む。 暫くして分かれ道に出た。

 一つは上。 一つは下…か。

 風は…両方から来ているが、上が酷く生臭く、下が乾燥した空気が流れてきている。

  「生臭い…てことは、上に行くとさっきみたいな落とし穴の先がある。

    下に行くと、死体が古いのか、もしくはそこまで行った奴がまだ居ない。そんなとこか」


分かれた道を、一度見て考え込む。


先に財宝を…いやいや、先にまだ生贄か何かにされている女助けるのが先だろう。

 生臭いってこた、まだ死体が腐っている状態のもある筈。 剣山に串刺しだったら洒落にならんが。

それでどんな事をしているのか。それも調べられる。 人命優先! 


…いや、美女みたいとかそういう下心は…大いにある!!


財宝より美女を選んだ俺は、生臭い風が降りてくる左の道へ行くことにした。

 引き続き壁には触れず、足元に松明をかざして身を屈め、慎重にすすむ。

  「なぁオズ…」

  「…なに?」

  「こっから先は目を閉じて、俺の背中の羽に隠れとけ。 多分、目に優しくないぞ」

  「…うん」


そういうと、ミニマム化したオズが背中の羽にもぞもぞと入り込んだ。 それを確認して再び進む。

 トラップは無かったのか、 暫く進むと大きめの広い部屋に出た。

  「うげ…すげぇ臭いだなおい」

余りの腐臭に鼻が曲がりそうだ。 確実に日が浅いのも混じってるだろう。

 生臭さが凄まじく、鼻どころか目が痛くなる。 あの時のイグリスみたな臭いだ。たまらん。

 

少し高い位置に松明を掲げると、周囲をほんのりと照らし出してある程度視界がよくなる。

  「こいつはまた…」


全裸の女の死体が、無造作に重なっている。 結構な高さから捨てられたんだろう、

 首元から骨が突き出ていたり、背骨が背中から肋骨と一緒に飛び出ていたり。内蔵も良く見たら散らばっている。

 当然ながら、それを貪る蛆虫の量も半端じゃない。

  「たまらんなこりゃ…イグリスの遺体処理手伝ってなかったら俺も耐え切れんわ…」


その余りの惨状。 全裸の女の屍の山へと歩みより、一番新しそうな死体を手で掴んで仰向けになる様に転がす。

 

  「あんだこりゃ。おかしいな…生贄にしちゃ。 心臓とか抉り取った跡が無いな」


一体なんだ? 何を…蛇神キュグラ。 蛇ってのは男のナニを連想させるモンだよな。

  失礼ながら、死体の股を押し開いてみる。血の跡は無し。…いやおかしいだろ。


蛇神崇拝ってのなら、処女だけ捧げて後は捨てるなりだろうが、血がおかしい。

 これだけ大量の死体の割りに、周囲に血の跡が少ない。なんだこりゃ。

吸血能力でもある魔物が居るか? それが蛇神キュグラになりすましている?

 分からんが、明らかにこの新しい死体もそうだが、血が無さ過ぎる。


再び、死体を掴み体の隅々まで調べてみる。 手首や首に斬った跡があるな。

 頚動脈やら出血の多い部分だけ刃物で斬っている。 つまり処女の血だけを必要としている。

 そういうことになるな。


何でだ? そいつを捧げているのか。 勿体無いなおい…まぁそれはいいとして。

 成る程、確かに何かの儀式だろうソレはやっている様だ、それもこの頭上で。


出口も分からない、さて…どうする…ん?


 考える俺の頭上から、鈍い音が響き、ゆっくりと天井が開いてきている。

  成る程儀式の最中だったか…一人助けそこなったが…仕方ない!!


これ以上増やさん為にも、ちょいと暴れてやるか。

  

 俺は、ゆっくりと開く天井へと向かって、翼を広げ羽ばたかせ、地面に風を叩きつけ飛び上がった。 

 




 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ