第八十四話 「砂塵の霊宮 Ⅱ」
完全に夜もふけて、気温が極端に下がり肌寒いを通り越して痛いに近い寒さ。
そんな中を石作りの宿の部屋で分厚い毛布に包まって皆寝ている。 ベッドは三つ。
イストとアルドはそれぞれ個別で、オズは相当俺が懐かしいのか、寝る時はしがみついてくる。
それは良いとして、皆寝ているのに何で俺だけ起きているか。
それは、治安が悪い=盗人宿 の確立が高い。 という事になる。
それに、寝ている間にオズかイストが、さらわれでもしたら困るしな。 警戒しておくにこした事は無く。
寝ている振りをしつ、オズのオデコを影でベシベシ叩いて遊んでいる俺。
面白い事に寝ているのに、腕でソレを払ってくる。 相当オデコを叩かれるのが嫌なのか。
然し…眠い!! 映画とかだとこう…眠そうにないけど実際やると眠い!!!
油断するとまぶたがシャッターの様に閉まりそうだ。 ソレを我慢し続ける事数時間。 足音は完全に殺している。
が、窓の隙間から僅かにこぼれる月明かり。それが差し込んで空気に土煙が舞い上がっている。
石作りだけに足元に砂が沢山ある所為だな。 分かりやすい程に誰か着ている。
一応荷物に手をつけるまでジッと待つ。 少し物音を立ててどうやらイストの荷物に手をつけた様だ。
ここまで近づくと良く分かる。 即座に起き上がり、腕を掴んで捻り上げる。
室内に響き渡るうなり声。 イスト達の誰とも違う大人の声。 多分店主だろう。
「オッサン。 何やってんだコラ」
「ち…畜生!」
そういうと、片方の手で刃物か何かを振り回してきた。 ちょい油断してたので避けそこなったのか、
左頬に焼ける様な痛みが走る。 が…。
捻られている腕を忘れているのか、関節技自体知らないのか、その勢いでオッサンの肩が鈍い音とともに外れ、
酷く煩い叫び声が部屋に響き、足元の砂を巻き上げ左肩を抑えて転げまわっている。
その声で皆が起き上がってきた。 俺はテーブルの上のランプに火を点す。辺りがほんのりと明るく揺らぐ。
その地面に…やっぱりここの店主だな。 顔は隠してるが体型がまんま、服つか緑のローブ。
「やっぱ盗人宿かよ」
「なんじゃ?それは」
「ん? ああ、泥棒が営んでいる宿だよ」
「成る程のう…で、どう致すのじゃ?コヤツ」
取り合えず、オッサンを押えつけて、首元に転がっているナイフを押し付ける。
ちょっと悪役気味の方がいいんだよな。 こういう治安の悪い所だと。
「さて…早速死んで貰うか」
「ひぃっ…たすけてくれ!」
少し喉にナイフを走らせて、血の筋が出来る程度に斬る。
「ひっ…ひぃぃぃ」
その血のついたナイフを喉から離し、オッサンの目の前に持ってきて少し上下に揺する。
揺すったナイフがランプの光に当たり、ほんのりオッサンの目の辺りに光が集まり上下する。
「人のモンに手~つけて、命乞いが通じるとでもおもってんのか?」
…本当に主人公かこいつ。
辺りが暗く、オッサンの表情はよく見えないが、多分に顔面蒼白と行った所だろう。
「たっ…頼む! 知ってる事はなんでも喋るから命だけは助けてくれ!」
「知らんなぁ…」
そこに面白半分でアルドが割り込んできた。
「ニーチャン。コイツのチンチン切り落としてしまえよ!」
「ああ、そりゃいいな」
アルド。お前はいつまで下半身に拘ってるんだよ。まぁ、面白いから乗ってみるか。
「か…勘弁してくれ!」
「はぁ? しらねぇってんだろ」
うげ…。 小便漏らしやがった。 そこまで怖いか? まぁいいか。
「何テメェ部屋で漏らしてんだよったく。…で、
どこまで知ってる? 内容次第じゃ生かしてやらんこともないが」
「あ…ああああ。遺跡の所に蛇神をいまだに崇拝していいいいるる。
奴等が…ほ…本当だ。 そそそそ…ソレ以上は知らん」
使えないなおい、既に入手済みじゃないか。…取り合えずそう言うのは夜にやるってのが定番だからな。
朝一で探りにいってみるか。
「よし…まぁいいだろう。 ただ俺達が探りいれてる事を他言したら…わかってんな。
あと、ローブを一着用意しろ。 それで命は助けてやる」
「わ…わかった! いますぐ持ってくる」
そういうと、オッサンを開放すると、右肩を抑えながら転がる様に部屋を出て行った。
ふう…ん? なんだお前等俺の方見て。
「ス…スヴィア。どちらが悪人かわからぬぞ今のは…」
「ニーチャン色々と知ってたりするな!!」
「…ちょっとこわい」
あーあ、オズが怯えちまったよ。 まぁ…やりすぎたかすら?
程なくして、オッサンがローブ一着持ってきた。 そして足早に出て行く。
「えらい怯えておるのう…」
「小便漏らしてたもんな!」
「そんな怖かったかよ」
さて、これで盗人はこないだろうが…一応、荷物に入れていたロープを取り出して、荷物から荷物に繋げる。
どれか一つ引っ張ったら俺の腕も引っ張られる仕組み。
ドアもロープで縛り付けたし、窓も外側からじゃ開かないタイプ。窓でも割れば即わかるしな。
これで一安心…と。
「よーし、寝ようか」
そういうと、ベッドに潜り込んで…おいお前等。
「何で全員俺のベッドにくるんだよ!!」
「ち…ちょっと怖いのじゃ実は」
「俺も!」
いやアルドお前は楽しんでるだけだろ絶対に!! つか狭いベツドに四人も鮨詰めておい!!
「狭いから自分のベッドで寝ろと。 もう来んからよ。 着たとしても即分かる」
「わ…分かったのじゃ」
「ぶー!」
ぶーでお前。 オズは相変わらず張り付いて離れないな。まぁいいか。
これで俺も寝れる…。
----------明朝-------------
窓の隙間から朝日が差し込み、部屋が明るくなって目が覚めた。 まだ少し寒いな、毛布から出たくない。
その上、オズが寒いのかしがみついて離さない。 とりあえずもう少し暖かくなるまで待つか。
ん? 目が覚めているのか、毛布に包まっているイストがこちらを凝視している。
「起きてたのか。 つかどうした?」
「なんでも無いのじゃ」
というと毛布に潜り込んだ。 羨ましいのか? オズが。 まぁ、それはさておきとして。
朝一に様子を見に行くとしてもだ。 あんまり内部に入ると監視がいるだろうから…さて。
良し、もう少し偽装すっかね。 オズにゃちっと悪いが…。
「おーし、起きろ。そろそろ朝飯食うぞ」
そういうと、もそもそと起き上がってくるが…お前等毛布に包まって移動してくるな。
「毛布汚れるからベッドに置いて来い」
「寒いのじゃよ…」
「ええい! 子供は風の子だ!」
そういうと、イストとアルドとオズの毛布を引き剥がして、ベッドに置く。
全員身震いしてやがるよ。 まぁ確かに寒いがじきに暑くなる。
「ほれ、荷物の中の保存食だが食っとけよ。 それとイストとアルドは取り合えず待機な。
オズは俺と一緒に探りにいくぞ」
「ワシじゃ不服なのか?」
「ちげぇよ。 オズが適任なんだわ。お前だと顔に出るからバレる」
「成る程じゃ。分かった」
納得したのか、保存食を食べだした。 俺はアルドの方を向いてこう言う。
「じゃ、アルド。 イスト頼んだぞ。 何かあったら、
リンカーフェイズしてこの宿ぶっ壊しても構わんからそいつ等を捕まえておいてくれ」
「わはっは!!」
「待てワシは主と…!」
「それは分かってるが、万が一だ」
「う…うむ」
その後、朝飯を済ませて、俺は貰ったローブに着替え…くさっ!! なんだこの臭いは。
鼻が曲がりそうだが、仕方ない。 とりあえず着替えて、オズを連れて遺跡の方へと向かう。
徒歩1時間という所か、もう周りは砂漠しか無い。 まぁ、町は見える範囲に遺跡があるので迷う事も無いわな。
その遺跡の概観をまずは探る。 石造りで全体的にクリーム色。
あちこちに亀裂が走っており相当年月が立っている様だ。
何かの石像が砕けた跡と、石像が丸々残っている…羽がついてる…天使かなんかか。それが数十対。
入り口へ向けて並んでいる。 その先に見る限り地下へと続く入り口の様だ。
他に目乏しいモノもない。遺跡の内部へ続く入り口の崩れかけた石造りの建造物だけだな。
小さい柱や彫り物が細かく、世界が世界なら重要文化遺産になってても可笑しくは無い。
さて、概観はさして怪しい所もなく、俺はオズの手を引きつつ入り口へと入っていく。
光が無いのか、一応持ってきた松明に火を点して地下へと降りていく。…うおっ。
冷たい風が地下から音を立てて吹き上がってくるな。 オズが怖いのかしがみついてくる。
まぁ…普通に怖いわな。 俺はワクワクが止まらないが。
取り合えず…崩れた階段を注意しながら下りていく、まさかこんなところにトラップは無いだろう。
やはり無かった様だ、何て事も無く地下一階。広くなった所に出てきた。
松明を上に掲げて周囲を見回してみると、何やら文字やら彫り物が壁に沢山。
これは流石に読めないな。 古代語って所だろう。 が…イストは本の虫だからな何か分かるかも知れん。
腰に下げている荷物から、折りたたんだ紙を取り出して壁に押し付ける。
そして、足元にある砂をまぶして手でこすりつけ、写したモノを折りたたんで荷物に入れる。
ふははは。遺跡がある事が分かっていたので、こういうモノとか色々使えそうなモノを家から持ってきていたのだ。
ガキの頃に冒険モノの映画見て憧れてたのでヘンな知識だけある。他には砂袋とか用途は色々あるし、
ロープやナイフも。 あー…たまらん! こういうのやってみたかったんだよなぁ…。
更に奥に進んで行くと、んだよ。 いきなり突き当たりで他に部屋らしい部屋は無いな。
松明を今度は足元に向けて周囲を丹念に見てまわる。 出入りしているという事は分かってんだ。
足跡が残っているはず…と。 あったあった。 いくつも足跡が壁に向かって入って行ってるな。
ここかな? 軽く壁に耳を当てて、叩く。 音が軽い…明らかに向こう側が空洞だ。
その瞬間、俺の顔の真横にナイフが突き刺さった。 お出ましか。
オズを後ろに隠すと、松明を前方に掲げると、ローブで顔を隠した男が立っている。
「やはりここか。 女はいるか?」
そういうと、オズを前に出す。 男は俺とオズに視線を何度かいったりきたりさせると口を開く。
「商人か。…先程、壁に紙をつけていたが何をした?」
なんだよ、そこまで見てたのか。 つかその程度も知らんレベルかい。
「ああ、ちょいとここの遺跡の事にも興味があってな。
ホレ、砂塵の霊宮の関わりかなんかありゃなと」
「それには近寄らん事だ。商人が行ってどうにかなるモノじゃあない」
「そうか。 そりゃ残念だ。で、この女は見本でね。どうだい?
もうちょい上玉揃えられるが…」
黙り込んだな。 暫くして構えを解いて、俺の後ろにある壁の一部の石を押す。
そうすると、どういう仕組みかは分からんが鈍く低い音とともに壁が左に開く。
そこに男は入ると、手招きして一言。
「俺の一存では判断しかねる。 着いて来い」
「まいど」
そういうと、俺とオズはその男の後を着いていった。
更に空気が冷たく乾燥した地下二階って所か? そこに辿り着く。…んだこりゃ。
まだどこかに隠し部屋でもあるんだろうな。祭壇とかそういったモノが見当たらない。
男が、そこへと行くと、ゾロゾロと似たような服着たのが周囲から沸いて出てたきた。
その中で一人だけ色違いのローブ 紫色のローブを着た爺さんがこちらにきた。
「お前が…最近ここをかぎ回っている奴か」
あははん。まぁ、そうくるわな。
「ああ、アンタ等の所在突き止める為に奴隷商人騙して場所を聞いたよ」
「理由は何だ」
宿のは聞いて無いのか。まぁアイツはただのコソドロだったしな。
あの奴隷商人にちょいと怪しむ様に伝えて正解だったな。
「見ての通りだ。 俺も同業者でね? どうだい?この娘は見本だが…。
必要ならもっと上玉揃えるぜ?」
「…成る程。 そろそろ数も減ってきている。 いいだろう。
明日の夜に此処に来い」
「まいど」
すまねオズ見本とか。然し適任だな、顔色全く変えないからなオズは。イストだったらもうバレてるわ。
「じゃ、帰りますわ」
「待て」
「何か?」
ん~…ちょい予想外。…やっぱうまいこといかんかな? 俺に歩み寄ってきて、オズの腕を掴む。
「いや、見本を取られると困るんだがね?」
「金貨40だ」
「いやいや、コイツは…」
詰んでしまったか。 まぁ、そろそろいいだろう。オズの腕を掴んだ男を蹴り飛ばす。
そのままオズを肩に抱え込んで両手を下げる。 普通の人間相手にこれ使いたくないんだがな。
「貴様…」
「見本取られたら困る。 そういったろうがよ」
「…殺せ」
ったく。リンカーでも無い奴等が俺を殺せるかっての。
前方扇状に居る奴等がナイフを投げてきた。 本数多いな10本ちょいか。
視線を地面に…やべ影が見えない上に片手は松明。 ちくしょ!
飛んできたナイフに巻きついてる空気を捉え、右手だけでいくつか弾き返す。
弾き返したナイフがローブの男数名に刺さったんだろううめき声が聞こえる。
同時に俺も太ももや上腕に焼ける様な痛み。何本か刺さったなこりゃ。
「…かかれ!」
そいつを待ってました! 正直ナイフまた投げられたらやばかった。
飛び掛ってきたきた奴等は足元に置いた松明で、良く見える。
7人。 殴りかかってきた奴4名が巻き込んでいる風を捉えて、纏めて腹に風を叩き込む。
鈍いうめき声と吐血と吐しゃ物を撒き散らして倒れ込む。
つづいて残り三人が蹴り…コイツも風を巻き込んできてるので捕まえて足を微塵切りに。
骨と筋肉がむき出しになり、血を撒き散らして転げまわっている。
「さて、残るはアンタだけだな。…どうやらまだ奥に沢山いる様だが…。
さっきの話からするとまだ女は何人か生きてる様だな」
「貴様…何者だ」
オズを肩から下ろして、ちょっとやってみたかった仕草。 腕にささってるナイフ。
そこから流れ出している血を指で拭って、口で軽く舐めて唾をを吐いた。
「お前等に名乗る名なんて無いな」
あー… き も ち い い。 なんて余裕ぶっこいてたらああた。
「そうか、ならば地獄の迷宮に落ちるが良い」
男の足元の石に一個突き出たものがあり、それを踏みつける。
同時に俺達の足元の床がパッカリと口をあけ、俺とオズはかなり急斜面になっている穴に落とされた。
そして、即座にその穴が閉じて真っ暗闇の中を滑り落ちていく俺達。
しまったぁぁぁぁあああああっ!! 余裕カマしすぎて、典型的トラップ見落としてた!!!
どうしよ。 大した準備道具もってきてないのに…迷宮in!!!




