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第八十三話 「砂塵の霊宮 Ⅰ」

  「ふぃ~。ようやくトアに着いたな」

  「は…早く じ じ じ 地面に降りるのじゃ!!」

  「高い所怖いのかよイスト!」

  「…村」


テイド港に着き、町の人と話しもしてみたかったが、取り急ぎトアへと飛んで現在は、トア上空。

 俺達はトアの村へと降り、リンカーフェイズを解いて周囲を見回す。

  「さて、ラナさんは…と」

全てが木造建築で、一階建て。 家と家の間に木々が生い茂っていたりで、自然と半ば一体化している村。

 どの家にも煙突があり、釜の様なモノがある。 村人全員が鍛冶職人なのか知らないが。

とりあえず、あの頑健オバチャンを探して、町を歩き回る。 程なくしてそれは簡単に見つかった。…理由はこれ。

  

  「しつこいね! いくら金貨積まれたって駄目さ!! アンタにゃ分不相応だね!」


お~、セレンさんの言う通りの様だ。 頑固職人という所か。 すげぇデカい袋を叩き返す所を目撃してしまった。

 金貨入ってるんだろう袋を抱えて飛ぶ様に逃げていく男。 あんなんが契約の血族…ひでぇな。

そして、俺達に気づいたのか、ラナさんが大手を振って手招きしている。

  「お! 着たね! 待ってたよ、アンタしっかり解決した様だねぇ。 

    アタシが世界に二つと無い奴を打ってやるからさぁおいで!」


さっきの奴とは偉い違いだな。 そう言うと、両手を広げてこちらに招いている。

 然し、両手を広げると更にデカいな。 

 髪は茶に白髪も混じり、髪をうなじの所でまとめて三つ編みにして腰ぐらいまで伸ばしている。

 顔はもう結構な年齢なのか、シワがはっきりと。それでも元は相当な美人であった事は顔の造形からよくわかる。

 だが、体はもうなにフトマシイとタクマシイを混ぜて、完全に重力に負けて垂れた胸。

 そして、白い前掛けの上からでも分かる段々腹。 二の腕も太く並みの男なぞ簡単に押えつけるだろう。

 屈強なガタイとふとましさを兼ね備えた頑健オバチャン。 何気に気前も良かったりする。

  「どもス。 あの時は沢山の食べ物ありがとうございました」

ぐぁっ! 礼儀正しく挨拶したのにっ。 最早張り手といって良いソレで背中を連続で叩かれた。

 むせる俺を見て、全員が笑っている。 人事だと思って…。くそ。

  

  「さぁ…きて早々だけど。…いやその前にボウヤ、名前はなんてんだい?」

  「あ、俺はスヴィア=ヤサカといいます。んでコッチは相方のイストラード=メギスン」


紹介すると、イストは軽く頭を下げる。 その下げた頭を鷲づかみにして笑い飛ばすラナさん。

  「へーっ。 こんなちっさい子が? …ん? 双魔環…成る程。そういうことかい。

                いや、小さいといって悪かったね」

  「わ…分かれば良いのじゃ」

頭の髪をグシャクジャにされたイストが、不機嫌そうに髪を手で直している。

  「で、コッチの赤髪の元気の良いのが、アルド=レッド。 そっちの緑髪のオデコちゃんがオズ」

  「そうかいそうかい! いやー…一気に子供が沢山出来たみたいで嬉しいね!」


何か…姐御と被るなこのオバチャン。

  お? 笑いが止まり真剣な顔して俺の腕を掴んできた。そして袖をめくり上げて。

  「さーて、早速だけどアンタは…直系だね。 じゃ、ちょいと我慢しなよ」


というと、地面に腰に下げている袋かせら、オガクズみたいなモノを地面に落とした。

  「それをどうするんスか?」

  「ん? 直系魔精具は、唯一無二。 その姿は持ち主の血が選ぶのさ」

  「へぇ~…血。 ん? てまさか…ちょっ!!!」


問答無用で、手の甲を斬られ血がジワーっと切り口の両端から泡を少し立てて流れ出てくる。

 それを平坦にしたオガクズみたいなモノの上に落とされる。 

  「どれどれ…」

  「いてぇ…よりによって、神経集中している手の甲スか…」


痛みを抑えて、全員が覗き込んでいるオガクズ。 それに俺の血で何かが浮き出てきた。

 なんじゃこりゃ?  篭手の様にみえなくもなく…。

  「コイツはガントレットだね。 それも見た事が無い…特殊なガントレットの様だ。

    これは腕が鳴るねぇ! こんなタイプは初めてみたよ…」


何かラナさんだけが分かった様だ。 すげぇ納得して期待している様だ。

 確か世界有数の名工だろ? そんな人がそこまで…うぉお楽しみになってきた。


  「つか、持ち主の依頼通りに作るんじゃないんスね」

  「ああそうさ。 この粉は燼王と言う木から削った特殊な粉でね。

     呪術やらに良く使われる粉で、武具を選定するにも使われるのさ」


全員が興味深そうに、それを覗き込んでいる。 そして、ラナさんが一言。

  「だけどまぁ、見た所。相当強力な魔精具の様だ…ちょっと在庫にある月晶石じゃぁ…」

  「ああ、純度の高い奴が必要なら、砂塵の霊宮にあるという話を調べてあるので、

     今度の依頼がてら取ってくるっスわ」


うお? 表情が強張った。 そして俺の両肩をガシッと掴んで…肩が砕ける!! なんて握力だよ。

  「アンタ。あそこがどんなトコか知っててソレを言ってるのかい?」

  「男のロマンが詰まっている所っス」

そう言うと、今度は笑い飛ばすラナさん。 表情コロコロ変わるなこの人。

  「あはははは!! 大した度胸だ。ますます気に入った!!

     じゃ、手に入れておいで! 長い年月眠り続けた月晶石だ。アンタの魔精具には相応しいよ」


ようやく肩を離して、一歩下がったラナさんが俺達を軽く見回す。

  「ふむ…後は…契約の血族はいない様だけど、そこのえーとイストかい? ちょっときな」

  「な…なんじゃろうか」


今度はイストの双魔環を触って弄り回している。

  「なんだいこりゃ…質の悪い双魔環だね。 …誰がこんないい加減なモノを。

     よし、アンタ達が帰ってくる間に双魔環を作っておいてやるさ。

     それも飛び切り強力な奴をね」

  「ほ…本当じゃのか? 然し…持ち合わせが」

ズン!と擬音が出ても可笑しくない勢いでイストの肩を叩いたラナさん。

 それに耐え切れなかったのか、中腰というか前かがみになるイスト。

  「なーに! アンタもアンタで、自分の力に見合って無いモノをつけてるからね。

    そんな中途半端なモノだと色々大変だったろうに…」

  「そ…そうじゃったのか」


何がどう中途半端なんだろうか、俺はラナさんに尋ねてみた。

  「ん~? そりゃアンタ。 内側に溜め続けるしか出来ない中途半端なモノってことさ。

     アタシが打てば、常に微量な魔力を外に逃がす奴が作れるさ」

  「そ、それはありがたいのじゃ! 感謝致す」


深々と頭を下げたイスト。 その頭めがけてまたラナさんの重い手がズドン。

  「うっぐ…重いのじゃ」

  「あはは!! さ、ここで油売ってないで、とっとと依頼こなして取るものも取ってきな!」

  「そっスね。 じゃ早速いってきますわ」

  「ああ。…死ぬんじゃないよ。 あそこはアンタが思っている以上に危険だからね」

  「うス!!」


そう言うと、各自リンカーフェイズして、再び空へ往きサルメアへと。

 下の方で怒鳴り声にも似たラナさんの声が聞こえるが、振り向かずにそのままサルメアへと飛び立った。




----------砂漠の町 サルメア-----------


   「さぶ! 日が暮れてきたな!」

   「ニーチャン何でさっきまであんな暑かったのに、こんな寒いんだよ!!」

   「砂漠はこんなもんだよ」


俺達は、地面に降りてリンカーフェイズを解き、荷物から毛皮の服を着込む。

 息が白くなってるところみると既に零下近いのか。 早いところ宿を探すとしますか。

全員が毛皮を着こんで周囲を見回す。 全体的に砂の色と同化した建築物。

 インドとかそのアタリみたいな町並みが広がっている。 

 レンガというよりも岩を四角に削って積み上げた建物。 その内の一つに宿らしい一際大きく、

 それらしい看板が見受けられた。

  「どうもあそこっぽいな。 さっさと入ろう」

全員が頷くと足早に宿の入り口に。 外見同様、中も石づくりのクリーム色。 これはこれで面白いな。

 俺は石造りのカウンターにいる店主だろうオッサン。

頭にターバンを巻きつけて、緑色のローブみたいなものを着込んでいるオッサンに話しかけた。

  「と、すんません。宿借りたいんスけど4人」

俺達をジロジロと見てからめんどくさそうに答えた。

  「金貨12」

どう見てもボッタというか足元見てるな。 外国でも良くある事だが…露骨過ぎるだろ。

  「もう少しまけられないスかね? ここの調査でそこまで費用貰って無いんスわ」


取り合えず交渉の餌に調査という言葉を使う。 反応したのか肘をカウンターにつけて聞いてくる。

  「何の調査だい?」

  「イグリスからここの人攫いの調査頼まれてね」

暫く考え込んで、めんどくさそうにまた答える。

  「 四人全員で四日金貨1でどうだい。」

それでも金貨取る気か、 まぁいいか。妥当なのかもしれん。

  「あいよ、んじゃ前払い」


俺は懐から金貨一枚取り出して、カウンターに置く。 そうすると鍵を一つ。

  「そこの突き当たり右の部屋だ」

  「どうも」


無愛想だが、まぁ、気にしてたらキリが無い。 他の三人も余りいい顔をしていないな。

 黙っているが明らかに不機嫌だ。


 取り合えず、全員で部屋へ入ると、見事に風情も何も無い。石を削り取って作った棚やらテーブル。

 ベッドだけ木製3つ。 それに窓が一つ。 あんまり長居はしたくない部屋。

 然しベッドが一つ足らんが、どうせオズが侵入してくるからいいか。

  「なんじゃ殺風景じゃのう」

  「なんもないな…」

アルドとイストが不服そうだ。 然し、常に風景も綺麗で居心地の良い所にありつけるとは限らない。

 それを二人の頭を軽く叩きつつ教えて納得させた。 次に訴えてきたのは空腹。

とりあえず、アルドに見張り番させてイストとオズも居残り。 俺だけで食料買いに行く事にした。

 寒いし、あんまり治安も良く無さそうだ。 アルドがいりゃ並大抵の賊なぞ相手にもならんだろうしな。




俺だけ宿を出て、酒場か食料売ってそうな場所を…あん? 何かいかにもな奴が声をかけてきたな。

  「兄さん、どうだい一晩金貨3でいい娘いるよ」

  「間に合ってます」


しつこく着いてくるが、無視して…いやまてよ、こういう奴だから裏の事を知ってる場合があるな。

 振り向いて、金貨1枚取り出して、手渡そうとする。

  「コイツでちょい情報を売って欲しいんだがね?」

  「女じゃなくて情報? …まぁいいがなんだい?」


ん? 少し用心した様な顔つきになったな。 関係者という線があるか…。

 迂闊に聞けないな…ああそうだ。

  「何、簡単な事さ、確かに女買う気できたんだが別件でね。 いい所を探してるのさ」

…少し睨んで、俺の表情から嘘かどうか探ってるな。…分かりやすい奴だなこいつ。

  「俺の顔に何かついてるか? 出来れば若い子供がいいんだがね。

    さっき俺がつれていた子を見かけたなら…分かると思うが」

  「ああ、確かにつれていたな。 …成る程。 最近ちょいと入荷が間に合わなくてね。

     明日の晩…今ぐらいに此処に来てくれないか? 何人か仕入れとくよ」


取り合えずは、足元掴んだな。 大抵こういうのは表に平然と出てきてるからな…。

  「ああ、頼んだよ。 ちなみに俺が連れてているのをかっ攫って、持ってくるのは無しだぞ」

  「分かってるよ。 で女か? 男か?」

  「女だ。 アレに使うんでな。 なるべく穢れたモンは持ってくんなよ?」


小難しそうな顔してるな。 そっち方面の取引が頻繁なら…。

  「やっぱりアンタもかい。 ちょいと難しいな…ったく生贄だかなんだかしらねぇが。

    そんなポンポン処女ばっか頼まれても困るんだよ」

  「ああ、すまない。 だが礼は弾ませて貰う。 

     それにここだと目立つの。 どこか目立たない所がいいな」

また考え込んで、こちらを見て答えてくる。

  「そうかい。 じゃ、なんとかしてこよう。 目立たない場所ならアンタの同類の近辺がいいだろう。

    そこの大きい岩から北東に少し行った所にある遺跡だ」

  「そうか、分かった。 じやあ取り合えず明日に現状の連絡という事で一度会おうか。

       こっちも準備があってね。人数かまだ定まってなくてな」

  「ああ、期限は明日じゃなくてもいいのか、そいつぁ助かる。 分かったよ」

  「じゃあ、頼んだ」


そう言うと、男に金貨を手渡してやると。男はそそくさと砂漠の闇へと消えていった。

 

ふう…どこかで見た刑事ドラマの真似。やってみるもんだなおい。 

 内心ドキドキしてたけど…アーッこういうのやってみたかった!!

見えない様に毛皮の下で拳を握り締め、余韻に浸りつつ酒場へと。


 酒場に入ると、…やっぱアルド達つれてこなくて正解だったな。 布一枚のネーチャンがそこかしこに。

俺は、足早にカウンターに行き店主に声をかける。

  「オッサン。酒と何か適当な食いモンを四人分詰めてくれないか?」

  「…兄さん、えらい若いな。まぁ金さえもってりゃいいが」


カウンターに銀貨10枚程置く。

  「これぐらいでいいか?」

  「ああ、結構。 少し待っていな」


カウンターに両肘をついて周囲を見回す。 もう風俗店だなこりゃ、男が女にやりたい放題。

 目の保養にはなるが…あんまいい女はいないみたいだな。良し突付いてみるか。 

  「おまたせ。 どうしたい?」

  「ん? ああ、店主さんに失礼かも知れんが、あんま良い女イネェなと。

     人攫いがあるってウワサ聞いたが…上玉の女ばっかかい?」


見えない角度で金貨1枚を店主の腕の傍に置く。

  「あ~…だねぇ。町の女。それも男しらネェのばっか連れ去っていく連中が最近多くてヨ。

     蛇神だかなんだかしらねぇが…商売上がったりサ」


ビンゴ…。

  「成る程。 その生贄ってのが、あそこの岩山の向こうの遺跡の地下で行われてるってことか」


店主が顔を近づけてきた。息がくせぇ!!

  「兄さん何者だい?」

  「ちょいと頼まれ物を届けにね」

  「兄さんもあいつ等の仲間かい…悪いがコレ持ってさっさと出て行ってくれないか」

  「試した様ですまない。 逆だ」

目を丸くして答えてくる店主。

  「大した用心深さだね。 ま、気をつけてな」

  「ああ、情報ありがとよ」

  「なに」


そう言うと、酒と食料だけ受け取り、酒場を出る。そして毛皮の下でまたしても拳を握り締めている。

 やってみたかった…! 金をこっそり渡して情報聞き出すのやってみたかった!!!!


その後足早に部屋へ戻ると、全員ちゃんといるな。 飯を取り出してテーブルの上に置く。

  「ニーチャンなにしてたんだよ!!」

  「情報でも集めてたのじゃろう」

  「…あぐ」


あぐって口で言ってたべるなっつーに。 まぁ、随分特定できたな。 

 飯を食べているイスト達を見つつ、窓の傍の壁にもたれかかり俺は酒を呑む。

窓から見えるのは、さっき教えられた岩山。 …さて取り合えずは明日の晩だな。


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