表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/129

第八十二話 「船旅 Ⅱ」

  「で、どうするのじゃ?」

  「だな、取り合えず鷹か」

俺達は、周囲は全て暗闇。そこに走馬灯の様に現れては消える記憶。輪廻の中に居る。

 輪廻の中で俺の数多い前世から一つを探している。 しかし…こうしてみると、うん。

 良いスタイルだ。細身に頃合にツンとした胸に小さめのお尻。 何故かここにくると裸になっている。

 前世の記憶そっちのけで、年相応版のイストの裸を横目で見ている。

  「ええい、ジロジロと見るで無いわ」

  「バレとったか。 じゃま、そこの鷹と繋いでくれ」


なんだよ、鷹の目の前に来ると怖気づいたかの様に躊躇っている。

  「確かこやつは…飛ぶのじゃよな」

  「ああ、飛ぶぞ。 空高く」

  「…」

明らかに高所が嫌なんだろう。 然しそんな事いってる暇なぞない! ドサクサ紛れに小さく可愛いお尻をパーンと叩く。

  「なっ! 何をする…」

  「気合い入れてやったんだよ。 ほれほれ繋がないともう一発はたくぞ尻を」

  「わ…分かったから、たたくな…」


躊躇いながら記憶の映像と俺の間に入り、左右の手を広げる。

 と、同時に平行世界。俺の住んでいた世界にある前世の鷹が、こちらの世界に引っ張り出される。

  

  「心拍同期…接続確認…魂連発現リンカーフェイズ!!」



  

その瞬間、包んでいた影を取り払い、視界が開け船外が現れる。 俺は周囲を見回すと先ほどのシィルド。

 それが程なくここに到達するだろう。 それを見た瞬間、翼を広げて飛び立とうとするが、野太い声に止められた。

  「おう! そこのリンカー。 コイツは俺達の獲物だ。横取りすんじゃねぇ!」


んだよ。飛び損ねて軽く前によろけた俺は声の方へ向く。 そこには茶色のちょい汚い破れた服。

 妙にデカく垂れた帽子に、黒いふっさふさの髭。 やたら大きい鼻と、頑健を絵に描いた様な体。

目つきは鋭く猛獣の様だ。 そんな見た目40前後のオッサンに呼び止められた。

  「ん? いやでも危なくないっスか?」

  「ぶわはははは! 取るに足らん小物だ! 危ないもクソもあるか!」


というと、やっぱり危ないのか船首に走り出し、船首に届くと、手信号を送っている。

 左手を大きく右から左に。取り舵一杯の合図か? わからんが。

ぐいーっと帆がバタバタという音を立てて、船が前進しつつ取り舵(左)へと。

  「うおお!? なんだなんだよ」

  「どうやら余程、戦いなれた海の男の様じゃな」

俺の肩付近でフヨフヨと浮遊している2頭身化したイスト。

 そのイストが届いていない短い腕を組んで、さっきのオッサンを見ている。

 俺もオッサンの方へと歩いて行きながら答える。

  「そうなのか? つかこの世界の船乗りは海兵みたいなものなのかよ」

  「ん? 主の世界の船乗りは、乗客の安全を守らぬのか?」

  「いや、まぁ…安全というか快適というか。それ以前にあんな化物イネェよ」

  「そうなのか」


と、オッサンの付近まで行くと、再びシィルドの方へと視線を向ける。 …おーこりゃまた。

 曲芸みたいに、細やかな手信号でマストの向きを変えて、船の側面をシィルドへと向けていた。

その瞬間オッサンの掛け声と共に、轟音と黒い煙が足元から。

 見事にシィルドの側面を捉えて、砲撃のほとんどが命中し、シィルドが水しぶきを上げ横転する。

  「うっひょー。 すげぇっスね。 船がまるで自分の手足みたいに」

その言葉が嬉しかったのか、俺の方を見てまたあの馬鹿笑いをする。

  「ぶわはははは!! たりめぇよ! 船は体の一部だ!! まぁ見てなシィルドの倒し方見せてやろう」


というと、再び手信号を送り、今度は前進しつつ面舵(右)へ、

 そのままぐるりと大きく海に円を描いてシィルドの正面近くへと。…ん? 音で乗客やらやっぱ出てきたな。

つか何? 何その格闘技見に来た様な観客っぷり。 両手を挙げて喜んでたり、シィルド見て興奮してたり。

 どう見ても…怖がってません。 俺の感覚がおかしいのか。 そんな観客とかした乗客の中から、アルドがこっちにきた。

  「おー! シィルドきてんな! ニーチャンはリンカーフェイズして…観戦?」

  「ああ、船長さんだろか? そこのオッサンに止められた」


と、頭をかきながら苦笑いして答えた。 そうするとオッサンに聞こえたのかまた馬鹿笑い。

  「ぶわははは!! 海の上は俺達のモンだ! リンカーは陸で戦ってりゃいいんだよ!」


なんつーか…おもろいオッサンだ。 そしてアルドも観戦しだし、船から身を乗り出してみている。

  俺とイストもまぁ、観戦する事になったわけで。


再びシィルドの正面に来た船が、今度は小さく取り舵(左)へと曲がりだし、直後に帆を裏打たせた。

 そうすると、かなり勢いがなくなり減速し、さっきの一撃で弱ったシィルドに横付けに近い状態になる。

  「でけぇ…。 あんまり美味しくなそうだな」

  「こやつは食べられぬぞ。 身が硬くての」

  「そうなのか」

外見がクジラにも見えるので、美味しいのかと思ったら不味いらしい。 残念だ。

 その直後…うは! 超至近距離からの砲撃で、シィルドの体がはじけとぶ。 

 赤い血と肉が飛び散り、内臓も船のあちらこちらに降って来る。 マストも赤に染まり、

 よく見ると、内臓の一部が垂れ下がっている。 甲板にも肉片が転がり、壁にも血と一緒に張り付いている。

当然俺達も…血と肉のシャワーを食らってしまった。 ぐほぁ。 気持ち悪い。

  「ぶわはははは!!! どうでい。 あんな小物なんざ相手にもならん!!」

  「確かに余裕っスな。 いやおみそれしました」


取り合えず話を合わせておこう。 …血がべっとりついたのを不機嫌そうに拭っているイスト。

  「もうちょっと…離れてやれぬのか。 血と肉がまとわり付いてきもちわるいのじゃ」

  「まぁ、確実に倒す方法とったんだからいいじゃないかよ」

  「う…うむ」


今度は、手際のいい事に船員達が甲板を洗い出した。 この世界にもデッキブラシはあるらしい。

 それを擦る音がやかましいぐらいに、沢山。

俺達はたまらんと船内に。 取り合えずは風呂か。俺達もそうだがアルドも血でベットリ。

 船内でリンカーフェイズを解き、取り合えず俺だけ半裸にその場になって船室へ荷物を取りに行った。

船室ではオズはあれだけの砲撃の音がしながらも寝ている。 どれだけ寝つきがいいんだよ。

 と、三人分の荷物を取ると、二人のいる通路へ戻り荷物を渡す。

そのまま、浴室へと行き男と女に分かれる。



 木製の湯船に水がなみなみとはいって、波で大きく揺れている。

 中々入ると面白いんだが…先に洗わないとな。 俺達は浴槽の前に座ると、タオルで体をあらっ…おい。

  「コラ、アルド!! そのまま入るな!! あーっ!!」

  「んだよ?!」


だー…湯船に血と肉が浮いて…。


  「取り合えず早く出ろ! 後から入る奴の事も考えろ!!」

  「しゃーねぇーなぁ…」

渋々と出てきたアルド。 その後を必死で木製の風呂桶で湯水をすくって捨てる。それを繰り返しまぁ…なんとか。

  「ちゃんとあらえ!! 殴るぞつぎやったら」

  「わかったよ…ニーチャン…」

  「んだよ」

なんだよ、人の股間ジロジロと。

  「デケェな…」

  「人のそんなトコもジロジロ見るなっつーの!!」

全く、そんなこんな髪と体を洗って、湯船に浸かる。 船の揺れと一緒に、座りつつ湯船の中で体が滑っていく。

 なんとも妙な入り心地だ。 その横で泳ぎまくるアルド。

  「泳ぐな!!」

  「えーっ!!」

行動が一々子供…ああ、子供か。それは仕方ないと、湯船の水を顔に軽くかける。

  「ふー…いい湯加減だ」

  「爺くさいなニーチャン」

  「いや、もう爺だぞ俺は」

  「どこがだよ!!」


まぁ、身体年齢14だしな。 仕方ないか。 さて…そろそろ湯船から上がり、

 浴室入り口にある真水が溜めてある所で水を被り海水を洗い流す。

  「つめたっ。 これがどうしても慣れないな」

アルドはまだ湯船で遊んでいる様だ。 俺は一足先に体を拭いて寝室へと。



部屋をあけるとイストは既に入り終わっていたのか、ベッドで寝転んでいる。 オズは相変わらず俺のベッドで…。

 はぁ…。まぁオズを少し押しのけて俺も寝転ぶ。 それをジッと見ているイスト。

  「んだ? 何か用か?」

  「いや…仲が良いのうと」

  「一緒に寝てやろうか?」

  「う…虚けが…」


あらら、シーツを頭まで被って寝やがった。 嫉妬でしてるのか? まぁいいか。

 俺はぼちぼちまたあの本でも見ている。 既に見すぎて頭にはいってるが、見るものが無いので仕方ない。

それから暫くして、アルドが戻ってくる。そしていきなりイストのシーツをめくりあげる。

  「なっ…なんじゃアルド。いきなり」

  「なぁなぁ! 聞いてくれよ」

  「ふむ? なんじゃな?」


なんだ? 何かあったのか、イストに珍しく話しかけているアルド。 俺はそれを横目で見ている。

  「あのな、ニーチャンの…」


おい…。

  「ふむ?」

  「チンチンでっけー!!」


お前!! 変な事を…。 子供らしいっちゃらしいが、腹いてぇ。 少し反応が楽しみなのか、

 腰を前に出して、股間あたりでホースを持つ様な仕草のアルドと、

 目を丸くして表情がフリーズしているイスト。 二人を見て必死で笑いを堪えている。


お? 段々体が小刻みに震えだして…瞬く間にシーツに頭から被り出した。

 そして、アルドがシーツをぐいぐいと引っ張り連呼する。

  「なぁ聞けよ!? ニーチャンのチンチンでけぇって!! こう…ぐぉっと!」


シーツをめくりあげて必死でジェスチャーしているアルド。 

 両目を閉じて顔を真っ赤にして怒っているイスト。

  「しっ…しらぬ! 黙れ!!」

  「聞けよ!! ほらこーんな…」

更に、両手でジェスチャーするアルド。 …駄目だ、腹筋が千切れる…腹イテェ。


  「黙れといっておろうがぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」



ついにブチキレたのか、顔を真っ赤にしながら叫び、アルドに小さい空気の塊をぶつけたイスト。


 暫くはこの股間会話が続き、残りの暇な時間が潰せた。




少し予想より早い九日目の朝、目的地の中間地点であるデイト港が見えてきた。

  さて、これからまた忙しくなりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ