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第八十話 「プレート」

  「以上っスな。 最初は相当な化物絡んでると思っていたスけど、結局宗教間の小競り合いつーか」

  「そうかい。調査だけでよかったんだが…あの少人数で。

        それも血を流さずに解決までしてきてくれたのかい」

  「力だけで解決してもロクな事にならんスからねぇ」


姉御の私室。白基調で赤茶色のレンガの様な床。大きい割りにこざっぱりとした部屋。

 左右に3つずつ木製の本棚と、正面の奥に大きい木製の机と椅子。 他は何も無い。

 その本棚の一つの前でイストは本を手にとって読んでいる。 本の虫化してきたぞ。

そこで俺とイストは姉御にデイトでの一件の全てを話し終えていた。

 アルドとオズは、帰る途中でレガートに。 ネーレはイグリスから徒歩3日という所にある、港町。

レリアスという比較的小規模ながらも活気があり、リカルドが布教を続けアルセリアの教えが広まった港町、

 港町の人間も彼女を快く受け入れてくれた模様。ネーレの方はこれで一先ず安心という所。

  「あ、そうそう。コイツを忘れていたっスわ」

  「ん? なんだい」


そういうと、姉御に右手の掌を上に向けて、水が中途半端に固まったような半固体。

 それに入っている花びらを渡す。

  「花びら…土産かい?」

  「いや、双極竜セオ、その嫁さんだろうティシアさんって人が、過去の戦いで花にかえられた。

    そのティシアさんの遺骨ならぬ、遺花ってとこスかね。 ネーレさんが持っていたので」


そういうと、俺の手から優しくソレを手にとり。目を瞑ってそのご立派な胸元にあてがっている。

 …やっぱ母親か。 するってーと、シーフィの言っていた二人ってのは、

 人間に化けてたセオさん、そして魔人のティシアさんって所か。

  「そうかい…じゃあ、親父の墓と一緒に埋めておくよ」

やっぱ寂しそうだな。 いつもの豪快極まる風貌が全く感じられない。

  少し押せば倒れそうな弱さが少し伺える。 目がとても悲しそうだ。

  「そうっスね。 然しセオ爺さん凄いんスな。 イグリスだけでなく、デイトまで護っていた。

           そう言う事になるっスな」

ん? 部屋の本棚の所で本を読んできたイストがこっちにきたな。飽きたか。

  「この話はワシが聞いて良かったのかの?」


ああ、成る程。 そっちが気になったのか。 その言葉に姐御はいつもの調子を取り戻し笑い出す。

  「ん? あはは! 構わないさ! イスト君は今回の功労者だろ? それぐらい知る権利はある」


…悪かったな。 最終的に役立たずでよ!! ちょい拗ねた顔をした俺の方を姐御が見てくる。

  「で、どうやら今後は、より厄介な事になりそうだね。今回の大津波はイスト君やネーレ君。

    レガの力があって何とかなったけどね」

  「ああ、そうっスな。正直俺は最終的に何も出来なかった」


ん? 俺の肩を叩いてきたな。

  「いやいや、ちゃんと中立の立場で居続けたじゃないか。 中々出来る事じゃないさ。

    最後も再び均衡状態に戻してきたのも大した判断力だよ」

ちょっと照れくさそうに頭をかく俺。

  「そ…そっスか。 けど…だからこそ、俺もちゃんと強くなっておかないといけない。

     頭だけじゃどうにもならない事があるっスから…。そこで、ちょいとお願いあるんスけど」

 

姐御が軽く笑いながら、一枚の依頼書みたいなモノを差し出してくる。

  「ちょうどソイツの近辺だ。 行っといで。 何よりアンタが港町で会った女性だが…」

  「なんじゃ? 主…ワシの知らぬ間に女と会っておったのか?」  

  「待て、もう年食ったオバチャンだよ。 素手でスラク倒しそうな頑健極まるオバチャンだ」

  「そ…そうなのか。」


変な嫉妬された様だ。 ともあれ、姐御がそのオバチャンを知っているらしく、

 依頼書と一緒に話をしてくれた。


火塵のラナ。 若い頃にはあの大陸で向かう所敵無しの火の精霊使いだったらしい。

 同時に、魔精具という武具を打つ事も出来る数少ない魔人という事。

トアより北東にある砂漠地帯。そこにある町、サルメア。

 そこで天に届く程、巨大なサンドウォームを倒したという経歴もあるという事。

中々に恐ろしいオバチャンだったワケだ。

で、今回の依頼内容が、そのサルメアで人攫いが続出している。という事。

 それの調査。 出来れば解決。 という事らしい。


砂漠の町といえば奴隷商人とか居るはずだよな。 砂漠を旅するのに、

 体温調節に奴隷を抱いたりしていた。というのを本で読んだような。とりあえずその線を探ってみようか。


  「成る程っス。 今度は封印というよりも、奴隷商人とかっぽそうっスね」

  「なんだい? 心当たりでもあるのかい?」


不思議そうに俺を見ている姉御とイスト。

  「んや、俺の世界だと砂漠の国ではそういうのがあったって事で」

  「成る程。…まぁ任せるよ」

  「変な所だけ、主は知恵が回るからのう」

  「うっせぇ!!」


姐御が軽く笑うと、俺達に何かプレートみたいなのを手渡してきた。 なんだこりゃ。

 長方形に形作られた銀製のプレート。

 この学園のシンボルだろう三つ目の竜が彫りこまれ、裏には留め金がついている。

  「が…学園長。これは…ワシ等が頂いて良いのじゃろうか?」

んだ? イストは知ってるのか。 なんだこりゃ。

  「ああ、アンタ達に見合った報酬っちゃなんだが…コイツをつけておきな」

  「なんスか? これ」

  「主…知らぬのか」


いや、こんなんあったの知らんし。 呆れた顔でイストに見られている。それを見た姐御が説明してくれた。


所謂ランク付け。 金 銀 銅の三種で、成績や実績で与えられるモノらしい。

 一年で銀は異例らしく、二年や三年でも余りいなく、それでイストが驚いているのか。

  「成る程、でもいいんスかね?」

  「アンタ達は力で全て解決せずに、知恵も同時に使って無血で早期解決してきた。

    それもイグリスの貿易に関わる大事をだ。 当然さね」

  「うむ。ありがたく頂いておくのじゃ」


こういうのつけると、嫉妬の対象になるんだよなぁ。あんまり付けたくない。

 それを察したのか姐御が睨んできている。

  「スヴィア君? そのプレートを貰った者は学年に関わらず、模範となる必要があるんだ。 

    そのプレートを貰ったら必ず付けておきなよ?」

  「う…うス」

見抜かれてる…見抜かれてるよ!! いやだ目立ちたくない。静かに目立たなく地味にひっそりと…。

 うへぁ。 睨んできてる睨んできてるよ姐御!!!

  「まぁ、さっさとほら! 胸元につけときな」

渋々とそれを胸元につける。 俺はいいとして、双魔環で幼児状態。それにまっ平らの胸に板って…哀れだな。

 つけたのを確認したのか、姐御が追い出す様に急かす。

  「さぁ行った行った。 今度は船で行ってもらう事になるからね。流石にレガに何度も頼んだら悪い。

    取りあえず今日は向こうの資料でも集めて、明日から向かってくれよ」


と、言いつつ姐御に背中を押される様に、部屋から追い出された。 

 姐御の私室のドアが閉まり、その前で立つ俺とイスト。 …イストは余程嬉しいのかプレートを弄っている。

  「んじゃ、とりあえず資料室で本借りて、教室で下調べするか」

  「ん? ああ、そうじゃな」


俺達は、赤茶色のレンガの床と白い壁に囲まれている通路を進む。 男は腕に、女は襟に線があり、

 その線で学年が決まる。 一本線に銀プレートが珍しいのか、二本 三本 四本線の生徒の視線が胸元に…。

目立ちたくないっつーのによ。 ひたすら通路を足早に進み、資料室へとやってくる。

 ここは初めて入る。図書館の様なモノだろうと思い、茶色く豪華な模様が掘り込まれた木製の扉を

 左右に押し開くと、本の数よりも本棚の数に圧倒された。


少し暗い感じはするが、高い位置から日の光が差し込み、いい感じに暖かみのある室内となっている。

 床は相変わらずの赤茶色だが、他は全て茶色に近い。 いかにも書庫という感じがする。

よく見ると、入り口から少し歩いた左側にカウンターがあり、当番の娘だろう人が居る。

 黒髪を肩まで伸ばし、黄色い肌。縁が黒い眼鏡に、目は少し垂れ気味の茶色。胸もそこそこありで。

 白の襟には青の四本線。 む? 胸元には金のプレートをつけている所を見ると優秀な魔人という所だろうか。


俺達は資料室に入り、とりあえずその四年生の女の子の所へと。 俺達に気づいたのか、

 コチラを見て…胸元みてるなやっぱ。それから俺の腕と、イストの襟を確認してから顔を見てきた。

少し驚いている様だが、余り顔には出さない様な人なのか。 

 資料室も相まってか、知的な美人という雰囲気を醸し出している。

  「いらっしゃい。ここは、初めてのようね。何かお探し物?」

プレートをいきなり突付いてこない所を見ると、相手の心情も察してくれる優しい人みたいだぞこれは。

  「あ、どもはじめまして。スヴィアといいますけど。

    トアとサルメアについて資料になる本を借りたくて」

ん? そいえばイストはどこにいった? うお。 早速本棚に飛びついてやがるな。

 威圧するが如くに立ち並ぶ本棚。それ見ながら奥へと歩いていってる。

  「あら、ご丁寧に。私はセレン=ディーナ。資料室の管理を任されております。

    トアとサルメアですね? 具体的にどの部分をお探しになるのでしょう?」


たまらん…何この優雅というか、おしとやかというか。リセルも口調は丁寧だったが。

 …格が違うっつーか次元が違うっつーか。 全てにおいて上品といえば良いのか。

  背筋を伸ばして座る仕草からも、知的な魅力がでている。

  「あ、えーと。トアは魔精具について。 サルメアは土地柄、風習とかそういったモノを」


少し、考え込んで俺の胸を再び見て、右腕に視線を移し、俺の目に視線を戻して答えてきた。

  「精霊の血族の方ですか。 では、トアについは私がお教えしましょう。

    その後に、サルメアの風土資料をお渡しすると、効率は良さそうですね」


うほ、助かる。つか良くわかったな。

  「あ、どもス。というか良く分かったっスね。 精霊の契約してるって」

うっすらと微笑んでくれた。 やべぇ何このお姉さん。

  「トアを調べる必要がある方の大半は、契約者の血族だけですから。

    でも打ち手で、質が大きく上下しますので、気をつけて下さいね」

  「そうなんスか。 デイトで知り合った頑健なオバサンで、

    シアンさんが言うには、火塵のラナという人だったらしいんスけど」


む? 大当たりなのか? 目を丸くして右手を小さな口に当てている。

  「その方は…大変優秀な打ち手です。 この世界でも持っている方は極少数。

    どれだけ金貨を積んでも…決して打たない事で有名ですよ」


うほー。名工なのか!! こりゃ楽しみだ。 ん? 何か興味ありげに右腕見てるな。

 ああ、その名工が打ちたがる様な精霊に興味があるのか。

俺は、右腕の袖を捲り上げて紋様を見せた。

  「これは…見たことが無い紋様ですね。 ですが直系の方ですね。

    失礼ですが、精霊の名前を聞かせて頂けませんか?」

  「ん? う うス。 疾風の精霊クァというアホ鳥スわ。

    というか、何で直系ってわかるんスか?」


またこう驚く仕草も優雅なもので、というか驚いている様には見えない。

 さっきと同じく、手をゆっくりと口に当てて喋る。

  「あら…これが大精霊の…。疾風という事は、貴方はオオミ様の直系の方なのですね?

    大精霊の、それも直系の魔精具。 まだ世界では事例がありませんね。

    直系の方には、ほら…ここにセリアと読める紋様があるのです」

無いのかよ! …ああ、確かドラゴン並みの生命力無いと契約した途端に干物だったな。

 それから、いくつか手に入れた情報。


トアの魔精具。直系のみ特殊な効果が付き、その形状も唯一無二であるという事。 

 その他の血縁だと、直系に比べると大した力も無く、形は統一されているという事。

 直系の紋様には、セリアと読める古代文字らしいモノが手首の裏にある。

  意味は永久と親愛を意味するものらしい。

直系魔精具のみ、恐ろしく希少な月晶石というモノが必要になるという事。

 同時に、精霊の力を借りる時に必要な触媒。エルフィの千年樹で作られた小刀が必要だという事。

 ただ、大精霊の契約者の事例が無いので、千年樹の小刀で力を引き出せるかは不明らしい。

 …ひでぇな。 まぁ、それだけ強力な精霊なんだろあのアホ鳥は。

  「成る程っス。つか…セレンさん。凄い知識量持ってそうですね」

  「此処の資料の大半は読んでおりますから。 でも、それはあくまで本の上での知識。

    文章が必ずしも正しいという事ではありません」

  「あ~。確かに。特に詩は、聴く側を楽しませたり、権力者を称える為やらまぁ。

    理由は様々スけど、真実を捻じ曲げたモノが大半スからね」


その返答に、これまた美しい気品のある笑い方。口を軽く右手で隠して小さく笑う。

  「ええ、その通り。権力者に脅されて真実を隠さねば家族の命を奪われる。

    真実が余りにも酷過ぎて、詩にしても食べていけない。理由は様々です」

  「スな。結局の所、真実を知るには自分の目しか無いという結論に至るワケで」 


ん? 少し待ってて下さいと言うと、セレンさんがゆっくりと立ち上がり、足音もさせずにカウンターの裏にある部屋に。

 暫くすると、ティーカップのセットとお茶菓子もってきた。 どうやら気に入られた様だ。

  「お待たせ。そこの椅子にお座りください。 もう少しお話したく思います」

  「あ、俺なんかで良ければ」

気に入られたのか? 話が合うのか? …まぁ折角なので、

 お茶を頂きつつ話をする。彼女が振ってきたのは双星神話。

 成る程、俺の直系の俺…て何か変な言い方だが、直接聞いただろう内容を知りたいのか。

そのあたりの話。ユグドラシルの所在だけを省いて話す。

  「成る程…、アルセリアとケリアド。リカルド様が遺された本に書いてある通りですね」

  「スな。言った通りの内容なら。ただ…、まだその教えのいざこざが残っている様スけど」

そういうと、眼鏡を右手の人差し指で軽く押し上げて、その意味を尋ねられた。

 余程興味があるのか。 事細かく…まるで取り調べだなおい。

  「ああ、デイトの行方不明の事件が、それに関わっていたのですか。

    そして、貴方達が血を流さずに均衡状態に持ち直し、一時的とは言え解決したと」

  「そうなるっスね。 またいつ均衡が破れるか分からないスけど、

    双極竜セオの名前とクァの名前。それにあいつらの全力。

   ソレを事も無げに押しつぶしたイストの力もある。当分は恐れて何もしてこないっしょ」


それを聞くと、奥で本を物色しているイストにセレンさんは視線を移す。

  「水平線を覆い隠す様な大津波を、事も無げに海へと返した…確か、彼女はリカルド様の直系の方ですね」

  「そっスな。 とんでもない魔力持ってた奴の子孫。 その上、人魔とかなんとか言う希少な魔人」

  「ですから双魔環をつけているのですね。 …スヴィアさん? 余り彼女に力は使わせてはいけませんよ?」

  「どういう事っスか?」


精神的ダメージの他に何かあるんだろうか、心配そうにイストを見ているセレンさん。

 それから聞いたのが、人魔についての事。

精神的にもダメージは当然くるが、それ以上に、肉体に中々治らないダメージが蓄積されていくという事。

 使い過ぎると、その内五体の感覚、つまり五感の何れかが損なわれてくるという事。

つまり、脊椎とか神経系に負担がかかるって事なのか。まぁ、余り使わせない方が良さそうだ。

  「分かったっス。 なるべくは俺のフェン…うげ!」


口が滑った!! ヤバい! この博識な女性にこれはヤバい!…うわー…見てる、睨んでる。

  「口が余り達者では無いみたいですね。 隠している様ですので…他言は致しません」

なんて人! 優し過ぎる!! でもやっぱ知りたいんだろう、

 自分を押し殺しているのが顔に出ている。

  「すんませんっス。けど、これから知り得た過去の知識は、伝えにくる。

    これでどうでしょ? 口止め料つーかなんつーか」

俺も大概にセコいな。 だが、それに納得したのか静かに頷いた。

  「あら…それは有難く受け取っておきますね。では、そろそろサルメアの本を」


そう言うと、持ってきてくれるらしく、ズラリと並ぶ本棚の海へと消えていったセレンさん。

 俺は、椅子に座り茶菓子をかじる。

…お? うまいっつか。なんとも妙な。 シナモンじゃなくて、おがくずみたいな香りがして、

 ほんのり甘い。 何かの木の実だろうかそれを砕いてクッキーみたいにしたモノの様だ。

 結構クセになりそうな味だわこりゃ。 それを食いまくってるとセレンさんが本を持ってきて、

 それを目の前のカウンターに置く。 俺は早速手にとってそれを見る。


余程湿度とかの管理が行き届いているのか、古い本に反して痛みが少ない。何かの皮で作られた本だな。

 それにあのグーデンベル…なんたら聖書の様に、判子で印刷した様な文字列。

早速その本のページをめくり調べていく。


かなり広大な面積の砂漠。 歩いて横断すると何ヶ月もかかるらしい。

 その砂漠の南東に位置するのがサルメアか成る程。…やっぱ奴隷商人もいる様だ。

それに何かの蛇? の様なモノを崇拝している宗教。

  「セレンさん、この蛇みたいなものナンすかね?」

  「ああ、蛇神キュグラ。今はもう信仰も無くなっていると聞きますが、

    女性を生贄にして祈りを捧げていた。 そう記されています」

  「成る程…どもっス」


そっち方面かも知れないな。 邪教集団って線もありえる。コイツは覚えておこう。

 でと、…やっぱいるのかサソリ。 まぁ刺されない様に注意…注…2mてなんだよおい!!

デカ過ぎるだろ!! どんなサソリだよ。


気温は昼が40度前後…深夜は-5度かよ。 まぁ、砂漠こんなもんだったわな。

 乾燥地帯なので、水分確保もちゃんとしておかないとな。


お? ちょっと俺好みのモノ発見!! 砂塵の霊宮。…ほうほう。

 サリメアから北西二日程にオアシスがあり、そこから見える砂嵐の中に…。

財宝!! ちょ… い き た い !! よし行こう!! 解決したら意の一番に!!

  「セ…セレンさんあの」

  「顔に出てますよ? リーシャの財宝ですね。色々な伝承が残っています。

    金銀財宝が眠っている。 非常に純度の高い月晶石が眠っている。

    でも…そこには恐ろしい魔物と、罠が沢山あり、帰ってきたモノは数少ない。

    そう他の文献にありますね」

  「や…やっぱばれました?」

  「男性なら冒険と財宝には憧れますからね」

わー。嫌味が全くない微笑みで見抜かれた。ついでに色々と教えて貰った。

 砂漠の盗賊リーシャ。その死後に隠された様々な財宝が、今も確実に残っている。

確実に、という確証も既に取られているとの事。


何よりもそのリーシャの考えたトラップを掻い潜れたモノが存在しないという事。

 …然し純度の高い月晶石…。 大精霊…。なるだろうなぁ。 まぁこれは楽しみだ個人的に。


それと、デイト・トアとの食料交易も盛んな様で、言語は二種類。

   つまりここの言葉でも通用するって事か。  助かった!! 

俺は大体の事を調べ終えたので、セレンさんに軽く頭を下げる。

  「どうも助かりました。 予想以上に事前の準備が出来そうっスわ」

  「いえいえ、私も楽しかったですよ。 帰ってきたら直系魔精具も見せて下さいね。

    後…砂塵の霊宮の全貌も」


行く事バレバレですな。 ま、死なない程度に冒険やってみるか! 

 グーデンベルグ聖書?だったかそのあたりの文明レベルのトラップだろ。楽勝楽勝!!

と、足取り軽く、相変わらず本を物色しているイストの方へと歩み寄る。

  「おーい。 何か目ぼしいモノでもあったか?」

  「む? いや、失われた魔術に関して何か無いモノかとのう」

  「おいおい…。 失われたってのは、大抵禁術でろくでもネェのばっかだぞ」

  「じゃから、気になるのでは無いか」


こういう部分はリセルまんまだな。 興味深々に本棚を物色しているイスト。

 こりゃ引き剥がせそうにないな。 俺は諦めて先に教室に戻る事にした。

  「んじゃ、俺は誰もいないだろうが、教室に戻ってるわ」

  「分かったのじゃ」


本棚から目も離さずに答えたな。 完全に本の虫だ。 …まぁいいか。

 俺はカウンターにいるセレンさんに軽く頭を下げて資料室を出て行く。

赤茶色のレンガの床を進み、階段をのぼ…る所で知らない奴に声をかけられた。

  「んだお前、一年の癖に銀プレートつけて」

…これがあるから嫌なんだ。 嫉妬で恐らく…。 後ろを軽く振り向いて腕を見る。

 三年だな。 で…プレートは無し。 まぁ、当然だろうか。

  「何か用事スか?」

  「用事か? じゃネェよ面ちっと貸せ」

お前いつの時代のヤンキーだよ。 そんな一発系ヤラレキャラの後を付いていく俺。

 いや、無視してもいいんだが、騒ぎになって姐御に怒られるのが怖いワケだ。

学園の外に連れ出されて、一際大きい木の下に俺と、三年が4人。男女一組ずつかい。

  「用件は分かってるな」

  「伝説の木の下で告白でも手伝えと?」

  「は? 何言ってんだお前」

つい、性格からか相手をおちょくってしまった。 にしてもタルい…。

 木の幹に、ダルそうにもたれ掛かる俺。それ取り囲む様に四人が立ちはだかる。

何しようってんだか。

  「一年の分際で銀プレート胸につけてんじゃネェよ」

  「姐御…あいや、そう言うのは学園長に言うべきじゃ?

    こりゃ学園長からじきじきに手渡されたんで、

    アンタ等がどうこうするべき事でもないと思うんスが」

取り合えず、正論で詰めてみた。

 うほ、四人の内の一人が怒って殴りかかってきた。遅い右ストレートだなおい。

 避けるのもいいが、とりあえずワザと食らってみた。 ちょっとだけ痛い。

少し、殴られた頬に赤みがさしてるんだろう、熱を感じる。

 それに少し口も切った様で、血の味がしなくもない。

  「こいつ弱い癖に銀プレートつけてやがるぞ」

…いや、相手にしてないだけだが。 …とりあえず殴らせて正当性は我にあり状態にしておこう。

 模範になる必要がある。という事はむやみやたらに暴力を振るうな、という事でもある。

しかしこいつら、人が大人しく殴らせてやれば、腹や足に蹴りくれだしたり、

 首根っこつかんで、顔に膝打ち込んできたり…そろそろ我慢出来ないぞ。

  「こんなもんでいいんじゃネェか?」

  「ったく。銀つけてるからどれだけと思ったら、セレンと同じで口だけかよ」

ん? 今なんつった? 確かにあのお姉さん馬鹿にしたな。

  「アンタ等よか上の人に向かって、それは無いんじゃないスかね?」

  「あんだとコラ!!」

あー、ついヤブヘビ。…つかいい加減ウゼェな!! そろそろ片付けるか。

 殴ってきた右腕を、左手で掴んで時計逆周りにひねり上げ、右手で肩を下に押えつける。

  「ぐぁっ!! いででででで!!!」

  「リンカーフェイズして無い状態で…腕と肩をバキバキに砕いてほしいっスか?」

余程痛いのか、叫び声がうるさいうるさい。

 まぁ、打撃みたいな一過性の痛みよりも、こういった持続性の痛みの方が人間には効くモンで。

直後に周りにいた残り男一人が殴りかかってくるも、関節決めた奴を投げ飛ばしてその男にぶつける。

 そのまま重なる様に倒れた男二人。

  「てめぇ…」

  「先に言っとくスけど…ん?」

決め台詞でも言おうとした瞬間に、別の声に妨げられた。

  「何やってるんだ? …おいおい。三年が一年に負けて見っとも無いな」

もっといってやってくれ。 もっと徹底的にいってやってくれ。

  「で、原因はなんだ…成る程。一年が銀プレートか」

もう警戒する必要も無いと判断した俺は、その声の主を見る。

 茶髪を短く切って清潔感のあるスポーツマンという感じの男。体格も良く、少し切れ目の黒。

 腕に四本線で、胸に金プレート…あんまり居ない筈だよな。セレンさんの相方だろうか。

  「あ、どうもっス。助かりましたわ」

  「ん? いやいや、構わないよ。 たまたま見かけただけでね」

爽やかな笑顔で、歯が少し光ったきがする。 中々の美形でよく似合う。 羨ましいなおい。

 んで、その四人を犬でも散らすかの様な仕草で追い払った後、再び俺の方へと向いた。

  「一年で銀は初めてみたな。僕はロド。宜しく」

軽く頭を下げられた。 こっちも負けじと頭を下げる。

  「あどもス。俺はスヴィアといいます。こちらこそ宜しく」

なんとも俺のペースが乱される。 そのまま彼は興味深そうに銀の事を聞いてきた。

  「一年で銀とは、何か大きな事を成し遂げたのかい? 

    そもそも、一年で依頼を任される事自体余り無い事なんだけど」

セレンさんとは逆に、聞きたい事は遠慮無いな。 

  とりあえず、地面に座り当たり障り無い程度で話した。

  「お~…デイトの事件を。そりゃ凄いね。 これは僕も負けていられないな」

なんつーか、爽やか!もうその一言。 セレンさんとは違うが嫌味が全く無い、その上で余裕。

 ん? 俺の横に座りだして何か色々喋りだし…結局日が暮れるまで付き合わされた。



物凄い良く喋る人で、セレンさんの相方という事が分かった。

 同時にこの学園で金は二組。もう一組はかなり遠い地に調査にいってるという話。

この制度はレガートでも取り入れられているという事も分かった。


色々と、情報を手に入れられて満足気味に、町外れの家へと帰る。

 そのまま家には帰らずに、素通りし、横に生えているユグドラシル。メディに声をかける。

  「たでーま。 相方見つけてきたから、いい加減ヘソをぐんにょり曲げるのやめね?」


…駄目だ。 反応無い。相当ご立腹な様だ。

  「お帰り。 ちゃんと見つけてきたのね?」

お、出てきた。

  「ああ、結局リセルの子孫で落ち着いたみたいだがな」

  「それは良かったじゃない? うまくやりなさいよ?」

  「だからなんで母親みたいな事を。はぁ、まぁいいか」

  「じゃ、私は戻るから」


おいおい素っ気無いな。 ちょっとぐらい胸とか触らせてくれよ!! 

 それを言うなりさっさと消えてしまう。 ンガー。 思ったより厳しいわ記憶持ったまま転生。


まぁ、とりあえず俺は家に入り、明日からの身支度を済ませ、夕食を取る。

 明日の昼ぐらいか? でたとして、夜に港。そのまま出航して、10日前後だったか。

レガなら半日なのになぁ。 遠いわ。 ま、迷宮!!冒険が待っている!!

 なんとも抑えがたい胸の高鳴りを必死に抑えてベッドに転がり込んで寝た。

 

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