第八話「鍛と錬」
第八話目の投稿となります。では、どうぞ。
「お~し、早速向かいますかねぇ!」
どうも学校は生理的に嫌いな俺。学園を出た途端に開放感に包まれる。
「…貴方、学園…学業嫌いですわね?」
「いかにもですねぇ」
しまったぁぁっ!よりによってリセルに見抜かれた!!やばい…やばいぞこれは!
うっ…黙ってそんな目でこっち見ないでメディまで! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
「いや!いいぞ!体力が有り余ってる証拠だ!!」
お?やや後方から、聞き覚えのある豪快な喋り方。姐さんか、何か用事でもあるのか?
「あれ?シアン義姉さんどうしたの?」
「げ…」
お?リセルが珍しく嫌そうな顔をしたな。姐さんがウィークポイントか!
「さぁ、屋敷で準備を整えて行くぞアンタ達」
「あれ?シアン義姉さんもついてきてくれるの?」
「これは心強いですね。四年の中でも飛びぬけて強い方が護衛についてくれるとは、光栄です」
あ~…やっぱ強いのかこの姐さん。リカルドはお世辞は言うが過大評価はしない性格だろうしな。事実なんだろう。
「アハハハハ!!残念だが手を貸すつもりは無いがな!!」
「…監視ですか?シアンさん」
「シアン義姉さん一度行った事は絶対曲げないからねぇ~。ホントに見てるだけかも」
…監視っつーか、この姐さんもリセルと同じクチじゃないのか?タイプは違うがリセルに通じる部分が無いわけでも無い。
「ん。そんな所だね。まぁ危なくなったら軽く助けてやるさ」
赤竜相手に軽く助けるとか言うかこの人。何かこう…嘘は言わない性格だろうしな。勿論過信もしそうにない。
「シアンさん…でいいっスか?ちなみにシアンさんもやっぱ才能あったりするんスかね?」
「才能? 馬鹿いっちゃいけないよ。そんなゴロゴロ才能が転がってたまるものか。
たんにアンタ達とは経験が違うってことだよ。リセル君とリカルド君を除いての話だが」
「また謙遜を。一対一の戦いともすればシアンさんの右に出るモノはいませんよ」
「うん…あれは反則だよねぇ」
「はは。確かに反則といえますね。」
その二人の言葉に胸を張り、腰に手を当てて笑い飛ばす姐さん。…もう姐御でいいか。
「ん?羨ましいかい?いいだろう?だがそれはアタシの力じゃない。そこのゼメキス君の力に他ならない!
褒めるならアタシじゃないさ」
お~…なんつーか慢心も過信もしない…そう絶対的な信頼を相方に置いてるのか。つか反則ってどんなだ?
「あ…あのどうも…ありがとうございます」
コッチは相変わらずだな。こんな見るからに頼りない奴がそんな反則的な力っつーか魔?アレがあるのか?
「反則ってどんな反則なんスかね?」
「ん?ああ、そりゃ簡単。当らなければ死にはしないという事さ」
当らなければ…何かどっかで聞いたセリフだな。まぁ、それが本当に可能なら確かに反則だわな。
「いまいちピンとこないんスけど。動きが早いとかそういう類っスかね?」
「違う違う! まぁ、その内わかるさ。そんな事よりさっさと行くよほらほらほら!!!」
だー!本当にマイペースだな!自分の空気以外関係無いって感じだぞこれは。リセルがさっきから黙ってるのもこれが原因か!!
ぐいぐいと背中を強く押されつつ、修繕中の街中を歩き、セオさんの屋敷へとやってきた。
「さて、連絡はいってる筈だから準備は出来てる筈だな」
姐御が屋敷内に入るのを確認して、俺達も中へと。そして入り口に並べられたリュックの大きさたるや。
一個に全て詰め込まれているのか、かなりの大きさだ。然し一個。嫌な予感がしてきました・・・ぐえ!!
予感する間もなく俺の頭の上に降って来た。つかこんな重たいもん軽々と投げたぞこの姐御。
「ほれ!新入りのアンタが全て持つんだよ。ついでにその弱い足腰も鍛えてやろう!!」
…要らんお世話だっつーの。普通にわけてくれよ。こんなもん持って移動なんてできるかよ!!!!
「あん?何か文句あるのか?」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!怖っ!すげぇ怖っ!超至近距離でガン垂れくらった!心臓止まるかと思ったぞ。
「スンマセン!」
「宜しい。じゃあ気合いで頑張れ。帰る頃には結構鍛えられてるだろう。何せ往復4日だからな」
…四日?歩いて?これを?無茶な!!
「いや…あの、移動用の動物とかいないんスか?」
「いるよ?ちょっととぼけた顔してるけど凄い力持ちの鳥が」
鳥なのか。馬とかじゃなくて。…何か黄色いアレを思い出したぞ。
「アンタの鍛錬も兼ねて行くんだからアレは必要ないな!」
「ははは。頑張って下さいオオミさん」
「がんばってね~」
ひ…ひでぇ~。
一体何kgあるのか。体感的に70~80kg成人男性を背中に乗せてる感じがするぞ?つかサイズ的におかしくないかこの重さ。
「あの~シアンさん?」
「なんだい?」
「この荷物…見た目より何か遥かに重いんスけど」
「そりゃそうさ。三分の一ぐらい砂鉄を詰めてるからね」
まてこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!死ぬわ!あかん…たどり着く前に不慮の事故死じゃなくて過労死するわこりゃ。
「頑張ってねオーミ!」
「無様ですわね…」
「頑張りましょう。会長自ら鍛えて下さるなんて、滅多にありませんよ?」
そ…そうなのか。つかリセル貴様…何ひっそり言ってんだよ。ったく。
ようやく街の城壁をまたあの転送っぽいもので出て行き、ここに来た時とは逆の方向へと、
俺達の足跡は続いていく。若干一名分やたら地面にめり込んで。
「ふむ…少々誤算があったが…まぁ結果的に、この国の主戦力足り得る三組が4日の不在と相成ったか」
「左様で御座いますな。既に先方には連絡済みです」
「うむ。中々に手際が良いな。実権を握った暁には重役を任せよう」
「ありがとう御座います。イストル殿」
…然しだ。主戦力の三人を欠いたとて、まだまだそれに匹敵する実力者は多数いる。ともすれば以前の様にスライムが有効か。
エルフィ族も現在はこの地に着ていない。確実に戦力を削るにはこれが一番か。
然し、レガートの連中があれほどの術者を再び寄こすかが問題だ。前回の件で著しく信用を失ったであろうしな。
ふむ…。どうしようか。
「イストル殿。先方が現在実験しているドールのテストをここで行わせる。というのは如何でしょうかな?」
ふん…この者も余り信用ならんな。頭が切れ過ぎる上に情報量がおかしい。時がくれば排除した方がいいな。
「ほう。ドール…名前は聞いた事があるが具体的にどんなものなのかね?」
「は…。繋ぐ者。つまり魔人。その赤子を人為的に進化させた物。そう伺っております」
「ほう。人為的に進化させた…人道から大きく外れておるな。レガートめ」
「綺麗事なぞ、無意味で御座いますよ?」
「は!…確かにな」
「そして、ドールというのも現段階での研究名称であり正式名はまだ決まっていない様子で御座いますが」
「ふむ。成る程。まだまだ実験を重ねなければならない段階。それのテストともなれば喜んでこちらに寄こしそうだな」
「はい。お喜びいただけると存じまして、既に手は打っており、こちらへ向かっております。」
…抜け目の無い奴め。ますます信用ならんな。だが利用出来る内は利用させて貰うとするか。
「素晴らしい。本当に頼もしい臣下を持つたものだよ私は」
「お褒めに預かり恐縮に御座います。次期イグルス閣下」
「む?それはまだ早いのではないかな?ケルド君」
「はは。いやいや最早決まったも同然で御座いましょう?」
「そうかね。ははは…さて。念の為に、オリエとナグアはどこかに行かせておいた方がいいな」
「…そうですね。あの者達はかなり厄介でしょう。現状残った者達の中では抜きん出ていますからな」
「うむ。飛ばす先は任せる」
「は。畏まりました。では、早速手配してきますので失礼致します。」
「頼んだぞ」
軽く礼をして私室を出て行くケルド。さて奴の排除も追々考えておかないとな。レガートの差し金だろうどうせ。
「駄目だ」
「コラ!まだ歩いて5時間ぐらいしか経っていないぞ!根性が無いな最近の若者は!!!」
「いや…シアンさんも若者…っス」
ついに体力の限界が来たのか、リュックの重みに耐え切れず地面にめり込むぐらいの勢いで前のめりに倒れこんだ。
「大丈夫…?オーミ」
心配してくれるのはありがたいが、その枝で突付くのやめてくれないか?俺は汚物か!!!!
「いやいや、会長のシゴキに5時間も先ず耐えたのが素晴らしいではないですか。
どうでしょう。この辺りで少し休憩をとりませんか?先はまだ長いですし」
お~ありがとうリカルド…もうマジで動けんのよ。
「無様ですわね。」
リセル貴様それしかいわんのか!!!つか何で口数がここまで減る?
姐御に絡まれるのがそんなに怖いのか!?
そんな疑問の目をリセルにこっそりぶつけていた俺。その首元が突然がっちりロックされ、胸が後頭部に押し付けられた。
後ろで見えないが、こんな豪快にキモチイイ事するのは姐御しかいない。つかなんだよ!!
「リセル君の口数が減った事がきになるんだろう…」
ちょっいやっ耳元で囁かないでっ何か感じちゃうから!!!
「あれはな…アタシが鍛えてやった所為だよ」
うわー…そこまで酷いシゴキなのか。つかリセルの方を鍛えたってリカルドじゃないのか?
「え…リカルドの方じゃないんスか?」
小声で向こうに聞こえない様に会話する俺。
「ああ。リカルドも勿論鍛えてやったさ。中々にタフな男になったよ」
…どんな鍛え方したのかは聞かないでおこう。
「な…なるほどっス。でもリセルの方を鍛えるって一体」
「なぁに…アイツは元々な気が弱いお嬢様だったからな。アタシがちょっと弄ってやったわけだよ」
まてまてまて。ちょっとで性格がそんな変わらんだろう?一体どんな地獄を見せられたんだ。すげぇリセルに哀れみを感じたのか視線を送る。
「おい。哀れみなんて余裕だしてたら…アンタの体が壊れるぞ?自分のの身だけを心配してればいいさ」
こわっ。ちょっとハンパなく怖い!俺が顔だけ怖いとかあるが…そういやこの世界にきてから怖がられないな。
…ああ、魔物なんぞいるからか。基本的な恐怖の度合いが違うのか」
「それと、いい事を教えてあげよう。君は鍛錬という言葉は一つで意味を成すと思っているかい?」
「へ?そっスね。鍛錬で一つの意味。自らを鍛えるって事じゃないんスか?」
「まぁ、これはアタシの勝手な解釈だけどね。鍛で体を鍛える為に日々精進。錬でそれを続ける継続力。強い精神力を練るんだ。
つまり、どちらかを欠いては鍛錬にはならない。肉体と精神は同時に鍛えなければ意味は無いという事さ」
「うっわ…言われてみれば確かにそっスね。なんつーか二つ上の人には思えなくなってきたっスよ」
「はは。そうかい?まぁ生きてる環境の差とだけでも言っておこうか」
「やべぇ…変な意味で惚れそうっス」
「バカタレ。アンタはメディだけ見ていりゃいいんだよ」
いでぇっ!そっちの意味じゃないっつーのに頭小突かれた!! つか何て硬い拳してんだ姐御!!!
「ま、そんなとこだ。安心しな手加減は一切してやらないから頑張りな」
いや、普通手加減はするから頑張りな。じゃないですかね!?そういうとロックを外してさっさと向こうへいってしまった。
然し、いい感触だった。後頭部に残る胸の余韻に浸りつつ地面に這い蹲る俺。
「おーし休憩終了!日が暮れるまでにあそこの峠付近までいくぞ!!」
あそこの峠…?うっわー…何kmあるんだよありゃ。空気遠近で白くうっすらぼんやりだぞ!ひでぇ!!!!死ぬ…死んでしまう!!!
殆ど動こうとしない体。やっぱだ…うわ姐御の眼光が突き刺さる。ええいくそ!!
半ばヤケクソ。脳内にエンドルフィン大量生産しそうな勢いで、俺は走り出した。ちんたら歩いてたら死んでしまいそうだ!一気にいくぞ!!
「おるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!」
「お~!やるじゃないか。まだあんな体力残ってるとはねぇ」
「シアン義姉さん。残ってるというより、ヤケになってる感じするよ?」
「どう見てもヤケになってますねぇ」
「あははは!!いいじゃないか!ヤケでもなんでも動いてる事に変わりは無い!」
「…途中で倒れてそうですわ」
「アンタは泣き言散々いって…あそこまで根性なかったじゃないかリセル君」
「ちょっ…やめて下さいですわシアンさん」
「あはは、オーミに知られたくないからだんまりだったんだよねぇ」
「そうですね」
「ち…違いますわよ」
「…そうですね」
「ゼメキス貴方ほんっと影薄いですわね。」
「う…ごめんなさい」
全く…よりによって鬼のシアンがついてくるんですの?確かに頼もしい護衛には変わりないですけれど…。
ああ…過去のトラウマが蘇りますわ。思い出したくも無い地獄の日々が。
でも、オオミを鍛えてくれるみたいですし。願っても無いですわね。この方、実力も確かですけれど、
それ以上に鍛えるのが本当にお上手ですから。…やり方は酷いものですけれど。…ああ胃がキリキリしますわ。
第八話。最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
前回から出てきたキャラクターも含め。そろそろ立ち回りや展開も頭をフルに使う事が多くなっていきそうです。