第七十七話 「イストラード Ⅷ」
俺達は朝食を済ませ夜まで寝て待った後、レガと分かれた灯台の付近に来ている。灯台といっても、
レンガの様なモノで出来た砦みたいな形をしており、不恰好だ。
火の元は何なのだろうかと思うが、確認している程、暇でも無く。
アルド達がリンカーフェイズしてレガを探しに山へと行っている間、俺とイストは待機して待っている。
「これから戦いになんのに、何で双魔環つけて幼児化してんだ?」
「主達の身が持たぬでな。これをつけて戦わぬと」
「成る程…天災級ってのがイマイチ良く判らんが」
「……それを言った者は数少ない理解者じゃな。 別の呼び方は…」
ん? 何か沈んだ表情になったな言わない方が…お? 別の呼び方が…ってレガが来たのか、
会話を邪魔する様に、少し離れた処、以前に降りたあそこに激しい縦揺れと土煙を巻き上げて降りてきた。
「うげぁ。相変わらず垂直落下だなアイツ」
「じゃな、周りの物が根こそぎ吹き飛んでおる」
俺達は降りてきたレガの足元に往くと、アルド達は背から身を乗り出してコチラを見ている。
「おーい! ニーチャン呼んできたぞー!」
「…レガ、久しぶり」
オズは懐かしいのか、レガの首を撫でているな。 その声に俺達に気付いたのか顔をこちらに向ける。
「どうやら、原因が判った様だな」
「まだ半分ってとこだけどな。 取り合えずネーレって奴に会いに行く必要がある」
大体の事を話し、歌の事も話し終えると、レガは楽しそうに答える。
「面白い、歌もそうだが、海を操るか…実に面白そうだ」
「相変わらず戦闘好きだな。 どうだ、やってくれるか? レガ」
「無論だ。 これ程楽しい事はそうは無い」
「戦い好きなのじゃな。主は」
そういうと、レガの背に乗り、一旦空へと。既に日が落ちて辺りは暗く月明かりのみ、視界は当然宜しく無い。
月明かりが海面を照らし、夜光虫だったかそれが居るのか…それとも魚の群れなのか。
飛行速度が速い所為だろう、レガが小さい光の群れを追い抜く。
「ニーチャン、本当に出るのか? そのネーレとか」
「判らん、取り合えず油断はすんなよ」
「…あれ」
イストは相変わらず高いのが苦手なのか、目を瞑っている。そしてオズが指差した先、
明らかに霧が掛かっている場所が見て取れた。
「あそこか…取り合えず話をするが…歌いだしたらレガ・アルド、頼むぞ」
「判っている」
俺達はそのままかなり深い霧の中へと入っていく、思ったより視界は悪くは無いが…どこだ。
数分かそのあたりか、飛び回り探し、それらしい岩陰を見つけた。
レガがそれに近寄ると、岩陰に動くモノがあったのでネーレだと確認するかの様に俺は話しかけた。
「アンタがネーレか?」
レガが少し離れた処で、羽ばたかせ、ホバリングに近い状態を維持している。
「…誰だお前は」
「おっと失礼。 俺はスヴィア、シーフィって奴からアンタを止めてくれと頼まれてな。
止める止めない以前に、話しをしに来た」
「シーフィ…話…か。 今まで来た者は。攻撃的だったがお前は違う様だな。 いいだろう」
お、話の判る奴で良かった。 彼女がそういうと、霧が晴れてあたりの視界が良くなる。
月明かりに照らされた岩場。 そこに見えたのが、淡い金色といえばいいのか、真珠色といえばいいのか。
そんな髪の色で腰ぐらいまでの長髪。 …モロに人魚だな。やっぱセイレーンか何かか。
「これで、話もし易いだろう? で、話とはなんだ?」
「ああ、簡単な事だ。ここの港町の人間やらが行方不明になってんだが、
何か知ってるなら教えて貰いたいだけだ」
ん? 視線を双星に移したな。
「私が花と変えた…お前の様に話を先ずしてこれば…そうはならなかったモノをな」
成る程。 先に手を出したから返り討ちにあったって事か…じゃあ、手遅れだな。
イスト達は余計な事は言わない方がいいと悟ったのか、俺とネーレの会話を静かに聞いている。
「そうか、それはすまなかったな。 じゃあ話を変えるが、もし気に触った事を言う様なら許してくれ」
「…セオとティシアの…事か」
「ん? 今…セオったか? 双極竜セオか?」
視線を双星から俺に向けたネーレ。
「なんだ、セオを知っているのか。
その二人がこの海域に居たグリムヴァートという海獣と戦った…」
「ん? 待て、ネーレが暴れたんじゃないのか?」
「…シーフィらしいな。…で、そこにいるのだろう? シーフィよ」
なんだ? いるのか? 俺達は周囲を見回すと、
いつ間に居たのかコイツと同じ種族だろうそれが取り囲んでいた。
「異端者ネーレ。大人しく罪を償いなさい」
異端者? …何がどうなっ…まさか。
「ちょっと待ってくれ、シーフィさん。 どういうこったよ。話がおかしいぞ」
「スヴィア、悪く思わないで下さい。 彼女は異端者、ケリアドの教えに背いた者」
んだぁ? つこたネーレはアルセリア側ってことになんのか?
「待て、ちと納得がいかないぞ。 説明してくれネェと、ネーレを守るかもしれない」
「スヴィア…そういえば貴方は互いの教えに良し悪しはある。そう申しておりましたね。
良いでしょう」
双極竜セオとティシア、そしてシーフィの一族がケリアドの教えに従って居た事。
そして、グリムヴァートとネーレがアルセリアの教えに従っていた事。
そして、グリムヴァートという海獣を愛し、共に教えに従いシーフィ達を説得していた事。
ただシーフィ側が異端者と言い、殺そうとしてきた事。 成る程。
「大体の事は判ったスけど、そりゃつまりネーレは悪いこたしてねぇって話スな?」
「ケリアドの教えに逆らう事自体が許されない事です」
狂信者かよ。 この手のタイプは確か言う事聞かないんだよな。
「ああ、まぁ、ケリアドの教えを悪く言う気はさらさら無い。
とりあえずそこだけハッキリしておくっスわ」
「判っています。 で…貴方はどうするのですか?」
「どうするも何も、俺の目的はこの出来事の原因究明と、出来れば解決。
血を流さずに済むなら、ソレに越した事は無い」
シーフィとレーネが俺の方を向く。
「スヴィアと言ったな。 行方不明者の原因は、この通り。
霧を解いた私を捕えようと…その時に通りがかった船やらも巻き込んでな」
「異端者を罰する為。 多少の犠牲はやむを得ません」
…成る程。 最初の原因を作ったのはシーフィ。 そのトバッチリを受けたのがネーレか。
どうりで話の判る奴だと思ったわ。
「成る程…それは判った。…で、最近っても200年前後か?
一度眠りについたネーレが何かの理由で目覚めたと」
「そう…。恐らくは双星の封印がいくつか解けたのだろう。
アレの影響が各地に出ているかもしれない」
「それで、私達が再び異端者を罰する為に、追い詰めていたのです」
この場合どうすっかねぇ。 まぁ大体の流れは判ったが。
「で、それは良く判ったが。 シーフィさんはどうして俺達を騙した?」
「多くを殺めた事に違いはありませんよ? 過去も、そして今もこの事に関して調べにきた者も」
「過去は、アンタ達から手を出したんじゃないか? 彼女がアルセリアの教えに従っているとしたら、
自分から何かしてくるとは思え無い。 精霊セアドがそうだしな」
「スヴィア。お前はセアド様の友なのか? …数少ない同胞なのか?」
うお? 嬉しそうに俺を見ているネーレ。 そこまで少ないのか…まぁ判るが。
「残念だが俺はどっちにも従っちゃいねぇよ。
が、どう見ても今回はシーフィさん達に非があるだろう。
教えが違う。それだけで殺生や監禁は良くないな。それも他者を巻き添えにしても良いとは」
「…スヴィア、貴方はケリアドを愚弄するのですか?」
ええい! 宗教間の戦争はタチが悪いからな!! どうするよ。
「リーフィさん。俺はケリアドを愚弄する気は無い。 ただその方法が強引過ぎるといってるんだ。
価値なんてのは、それぞれだろう? アンタは自分の価値をネーレに押し付けている」
「貴方も異端者か…」
おいおい、何故そうなるかね。 シーフィが血相かえてきたぞ。
「…まぁ良い。今は引いておきましょう。 ネーレだけでなく竜族や疾風の血族まで相手にすれば、
我等なぞ瞬く間に殺されてしまいますしね」
「待て、争う気はネェっつうの!」
「ネーレ…どうして判らない。 お前のそれが憎しみを増やし続けるだけという事に」
「黙るが良い異端者」
だーめだこりゃ。 まるでどこぞの国だぞおい。険悪な雰囲気のまま、シーフィ達は海へと潜っていった。
残ったのは俺達と、岩場にいるネーレ。
「なんじゃ…何と言うか、ついてゆけぬ」
「あのな。まぁ、神の教えの押し付け合い。 それのトバッチリを受けたのが行方不明の発端。
そんで、それに怒ったリンカー達がネーレに攻撃してきて、仕方なくネーレは撃退したと」
ん? まだ判らんのか? 首を傾げて…おい。アルドとオズに至っては寝てやがる!!!
「スヴィアよ。 お前は互いの教えを良く理解し、中立に立っている様だな」
「ああ、つか。ネーレさんはもしかして、迎撃せざるを得ない状態に陥って、
ケリアド側の奴等を殺め、その説得が通じないと判り場を治める為。
そして、殺めた者に対する罰で自ら封印された。 という事でいいのか?」
「その通りだ。 …だが私は存在しない方が良いのか。 私が居なければもう、
この海域で行方不明者は出ないだろう」
まぁ、どっちかが居なくなりゃ確かにそれで丸く治まるわな。
「ネーレさんはそれでいいのかよ? アルセリアの教えは、
その厳しさに進む意思にこそ、その意味があるんだろ?」
「その通りだ…然し」
「はぁ…、まぁ。そうだなメギアスに着たらどうだ? あそこならシーフィ達も来ないだろ?
それにイグリスにゃ、アルセリアの教えが広まりつつあるからな」
うお、嬉しそうな顔をしてるなぁ。つか泣いてないか?
「居るのか? 同胞が…イグリスには」
「ああ、ある神父が生涯をかけて広め続けたからな」
「そう…か。私は…そうか。 弱気になっていた様だな。 …共に往こう」
お~、無血決着!!! 俺えらくね? 行方不明者は流石に戻らないが、これでもう行方不明者は出ないだろ。
「ああ、アッチの大陸の人間は快く受け入れてくれるぞ」
「そうか…」
「それは良いのじゃが。 本の内容気になって仕方ないのじゃワシ」
ん? ああそうだな。 詩っぽいし、ネーレなら知ってるか。
「そうだな。 ネーレさん 『夜霧の哀花』これの原文しってたら、教えてくれないか?」
「わかった…」
そういうと、語りだしたティシア。
「深い霧に夜の君
光を嫌う夜の君
何処より来て浜辺に立つ
空に浮かぶ双星を望み 何を想う
夜を好む夜の君
何を求める夜の君
浜辺に立ち続け 夜空を望む
波の数程時は経ち 尚も君は望む
私を愛した君は共に
魂に罪を刻み 眠りにつく
私は君を護り続ける
破れた私は
花と散る 私の涙が海に落ち
海は牙を剥き
大陸を飲み干した」
…。 最後が余り判らなけりゃセオの爺さん側にも読めるなこりゃ。それをシーフィが利用したって処か。
つか最後の牙がグリムヴァートって奴の大津波なのか。これもグリムヴァートが記したものなのか判らんが。
「成る程っス。さしずめネーレさんとグリムヴァートの哀歌ってとこだな。
最後が何か物騒だが、まぁ…わからなくも無いわこりゃ」
「つまりなんじゃ? グリムヴァートとやらが、ネーレを護りきれず。
今際の時にシーフィ達を道連れにしようとした。…でよいのじゃな?」
「…そうだ」
興味深そうにレガから身を乗り出して、更に聞くイスト。
「じゃけれど、道連れにしたのは判ったのじゃが、
その後に生き残った者がどうして主を襲わなかったのじゃ?」
「セオが止めたのです。彼等もまたグリムヴァートと同じくして、ティシアを失った。
これ以上はやるべきでは無いと、セオが身を挺して止めたのだ。
セオの力が私達よりも遥かにに上回っていたからな、
以来イグリスとデイトが貿易も含め友好関係になった」
成る程ねぇ。そんな奴だったのか爺さんは。結局あんまり会えなかったからな。
話から察する所、ケリアドが暴れる前か。…そしてそれを見てもあの盲信通り越して狂信ぶりかよ。
「良く判ったスわ。 まぁ何にせよ、血を流さずに解決出来そうで何よりスわ」
「そうじゃな。…レガ。主は不服そうじゃの?」
「当然だ!! 楽しみにしていたのだ!!」
「相変わらずだなおい。 じゃあ、明日の昼に灯台の近くに来てくんねぇかな?」
「…残念だが私達は…」
ああ、夜の君。そういう事か。 日光に弱いのか知らんがまぁ。
強い光を恐れているんだろう。少し脅えた表情をしているネーレ。
「夜の君って部分だな。 判った、んじゃ明日の夜そうだな…月が今ぐらいの高さの時に」
「判った。では灯台の付近で眠っておこう」
「ああ、悪いね」
「んむ。これで万事解決じゃな」
「お前はたんに本の内容知りたかっただけじゃないのか?」
図星だな、両手を振って誤魔化しだした。
「ちっ…違うのじゃ! ワシも解決方法をだな!!」
「はいはい。 そうしておきますよ」
そう言うと、軽く頭を下げたネーレは海へと消えた。俺達もまぁ、
すげぇ不機嫌そうなレガの背に乗って、灯台の方へと帰っていった。
そして、再び灯台でレガと別れ、港町へ戻り、室内へと。
「何か寝てる間におわってたなニーチャン!!」
「あのな…戦うよりややこしい事になってたんだぞ」
「じゃな。 それもスヴィアとレガ、ネーレの力を恐れて逃げただけじゃ」
「ああ、だがネーレをイグリスに連れて行けば、もうこの事件は起こらないだろ」
俺達はまぁ、そんな話をぼちぼちやっている。その横でいまだに寝ているオズ。
「取り合えずこれでイグリスに帰れるな」
「じゃな。 早く帰りたいのじゃよ。ここは潮風が…」
…肌とか気にしないんじゃなかったのか? まぁいいか。
然し、あのまま引き下がるのか? 再びネーレにちょっかい出している。
という事は、セオの死を知っているという事になる。
教えの為なら騙しや他者を巻き込んでも構わない。 …狂信者だからな。
こちらの油断を誘う為に引いたと考えるべきか。 とすれば…ん?
「む。地震かの?」
「何か段々デカくなってないか!?」
「…そうきたかよ」
窓を左右に押し開けて、夜の海を見ると、遠くの方から馬鹿みたいにデカい津波がこちらに向かってきている。
もう少しでこの港町どころか、山すら飲み込んでしまうぞありゃ。住人を避難させる時間もなさそうだ。
「津波じゃの、それも…物凄く巨大じゃ」
「なんだありゃ!! あんなモンとめられないだろ!!!」
「ったく…。 そうきたかよ。 狂信者にも程があるぞあいつら!!」
夜空の双星が見えなく成る程に高い津波が、この港町に襲ってきている。
こんなデカさと幅…フェンリルならなんとかなるだろうが…俺が耐え切れるかわからんぞ。
海岸から大体10kmぐらいか? その程度の距離でもその巨大さが伺える。
「どうすんだニーチャン!!」
「どうするってもな。 流石にレガでもあれは吹き飛ばせないだろ」
「どう致す? 主とワシがリンカーフェイズして主の中のフェンリルを呼ぶか?」
「無理だ。どう見ても俺が耐え切れない。仮にアレを吹き飛ばせたとしてもだ。
今度は暴走した俺が港町を壊滅させるぞ」
「そ…そうなのか…」
だー。ったく。 そういやネーレとシーフィは同じ種族。つまり海を操れる。
それも向こうの方が力は弱くても数は居る。 不意をつけば一網打尽に出来るって腹かよ。
「む。アレは、ネーレじゃろうか?」
全員が身を乗り出してイストの指差した方を見る、確かに海に人影が一つ。
押し返すつもりなのか、わからんが…無茶だろう。いくらあいつの力が強いったってよ。
俺達は海岸に慌てて走って行く。 そこから声が届いたのか、ネーレがコチラを向く。
「スヴィア達か、 港町の者を早く遠くへ連れてゆけ。
私がここは抑えて見せよう」
「無茶過ぎるだろ? いくらアンタの力が強くてもだな!」
「アレを止める事は出来ないだろう…だが、勢いは弱めてみせる。
これを起こさせたのも、私の責任だ」
「とことんアンタは…しかし、フェンリルだと状況悪化させるしな。
アルド君も無理だ、レガでもあんな津波はどうしようもない」
悩み込む俺を見て、イストが一歩前に出る。
「スヴィアよ、主の上着を貸せ」
「んだ?対神空間圧縮魔法の未完成版でもぶち食らわせるのか?
確かにソイツがありゃ…」
「いや、それとは違う。あれは既に完成させておるでな。 あの津波には不向きじゃ」
「じゃ何か別の? まぁいいほれ」
俺は上着をイストの肩にかける。 イストは海を見たままネーレに話かけた。
「ネーレよ、すまぬが少し時間を稼いでくれぬか? コイツは少々時間がかかるでな」
「娘…。」
何だ。何かネーレは知ってるのか? 判らんがイストを脅えた様に見てるぞ。
イストはその言葉を無視して、横に紐で結んで止めてたのか、服が足元にハラリと落ち、
そして、ツインテの髪留めを外すと、…ぐぇ!! あん時のメディといい勝負じゃないか!!
無茶苦茶な力場。 超重力場といった方が早いそれが圧し掛かかり周りの岩場の一部が砕け出す。
アルドは耐え切れずに地面に叩きつけられ、俺も中腰になつて必死に耐えている。
「スヴィア、あの時言いそびれたな、天災級ともう一つの呼び名…」
「ああ…レガに…邪魔されていったな。…確か」
「それは、厄災者という忌み名じゃ」