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第七十一話 「イストラード Ⅰ」


大きく溜息をつきつつ、学園を出て赤茶色のレンガ造りだろう街並みを歩く。 

 半分以上は既に相方が決まっているらしく、飛んでいったり駆けていったりと、目的地へと先に行った様だ。

俺はそんな事気にもせずにダラダラと歩いている。…後ろにはコバンザメの様にぴったりと尾行してくるこの娘。

 ややウェーブの掛かった薄紫色のツインテを揺らして後ろをぴったりついてくる。

リセル似なんだろう、将来的にそれはそれは見事なスタイルに…なるのかこの幼児体型。

そんなイストラードという覚え難い名前の娘の視線が背中に突き刺さる。

 動物として何回も生まれて死んだ俺だから判るのか、明らかに獲物を狙う視線を感じる。

悪いが俺の相方は、永久欠番なんだよお嬢ちゃん。 そんな視線に耐え抜いて、

 ようやく紋様の彫り込まれている城壁までたどり着き、そこから外に転移して、外側へと出る。

未だにこの転移の仕組みが意味不明なんだよな。よくよく考えたら。


そのまま逃げる様に早歩きで、集合場所の川を越えた先にある崖。

 そう初めてこの世界に来た時に、あの崖のてっぺんから見た光景は衝撃的だったな。

絶景な上に、見たことの無い建造物と、自然の大パノラマだったからな。 

 過去に思いを馳せつつ、崖のふもとに行くと、既にほとんどリンカーフェイズを済ませて、

組み手といえば良いのか、既にそれをしている。 さて、どう乗り切ろうかね。

 よし、取り合えず定番!! こいつの性格は把握済みだ。

俺は、リカルド調で体調悪そうにオーマに話しかける。


  「あの…美しいオーマ先生。無理して学校きたのですが。ちょっと…戦闘訓練はキツいのですが」


我ながら吐き気がする言葉だ。その言葉に振り向いたオーマ。 うげぇ直視したくねぇ。

  「あらっ!? 美しいだなんてっもう…体調悪いのにくるなんてっ学園すきなのねっ!?

    いいわっ! そこで休んでみていなさいっ」


楽勝。軽く頭を下げてそそくさと崖の下に座り込む。 仮病はサボりの定番だわなやっぱ。

 ん? 何か横に気配が…テメェは相方探しにいけよ。お嬢ちゃん。

俺の隣で堂々と座っている。…たまったもんじゃネェぞおい。 俺は追い払おうと声をかける。

  「なぁ、体調悪くないだろ? 相方見つけに行った方がよくね?」

俺の目を、その釣り目を細めて凝視してくる。 うが…気に触った事いったかすら。

  「ワシの相方は主と決めておる」

勝手に決めんな! 俺の相方は永久欠番なの! 判って? ねぇ判って???

 そんな視線を彼女に返すと、続けて喋って来る。

  「どいつもこいつも、ワシに相応しいリンカーはおらぬ。 

    ワシの眼鏡に適ったのは主だけじゃ。 主は力を隠しておるな」

目力だけは卓越しておりますよこのロリババア。 然し隠し通す所存!!

  「ただの人間だっつの」

右腕をつっかえにして、釣り目を細めにじり寄って来るロリババア。

  「嘘をついても無駄じゃ。 ワシの目は誤魔化せんのじゃぞ」

  「お前の力にあんな簡単に押し潰される俺に、どんな力があるってんだ」

ん? 何か俺の胸元を指差し…しまったぁぁぁぁあっ!! クァの刻印が入ったユグドラシルの実!!

 それを突付きつつ、俺を睨みつけてくる。

  「精霊一体につき、世界に一つしか無いユグドラシルの実。

    しかもその刻印は疾風の印。 疾風の大精霊クァ。その契約の血族じゃろ」

うぎゃーっ!! ぬかった! ついネックレスがわりにしてたん忘れてた。

 更に顔を近づけ…やめい息が掛かるぐらいに近寄るな!!

  「確か、ヤサカオオミが契約の祖。主は明らかにその血族じゃろ」


いや、自己紹介した時点でそれは判るだろ?

 と、返してみたら呆れた顔で答えてきた。

  「ヤサカオオミが名前じゃろ? 主はスヴィア=ヤサカ。 違うではないか虚けが」

いやまて。ヤサカオオミで一つの名前と思ってるのか? どんな名前だよおい!!

  馬鹿かと思ったら天然入ってるのかよ。

  「いや、ヤサカオオミと続けるんじゃなくて、ヤサカ・オオミ。ヤサカが俺の名前にも入ってるだろ」


目を丸くして両手を縦に叩いた。 馬鹿と思ったら天然かよ。

  そして再び迫り来る質問責め。

  「そういえば、そのオオミでよいのか? 何やらワシと対を成す力を持っているそうじゃな」

対を成す? ああ、俺のは確かに防御技だからな。…防御にしちゃ攻撃的だが。

  「無風活殺、動けば風は起こる物。つまり攻めて来た相手には絶大な攻撃力を伴う防御。

        動かねば風は起こらない。 つまり攻めてこなければ、何も起こらない。そういう力」


彼女は近寄りすぎた身を引いて、崖に持たれかかりこちらを見る。

  「主は本当に詳しいな」

その視線から逃げる様に、格闘練習している子達を見る。

  「まぁ、ほれ。知識だけはそれなりにな」

それに釣られたのか、この子も視線を其処へと。

  「成る程のう…。 ふむ、どうやら言っても本性見せぬ様じゃな主は」


まだ疑ってるのかよ。 いい加減見限ってくれよ!! …無理か。コレみられたし。

 視線を首にぶら下がっているユグドラシルの実へと向ける。

ん? 彼女が諦めたのか? 崖を上れる所へと向く。

  「結構前から、この崖の上の奥にある社。 そこに竜が住み着いていると聞く」

 

んな物騒なモン住み着いてるのかよ。 んでどうしろっての? まさか倒せと? ヴぁかな。

  「ワシは往く。 主が助けてくれぬなればワシは死ぬだけじゃ」


おいおい。脅しかよ。 脅しには屈せぬぞ!!

  「相方がおらぬのなら、ワシが人生に意味なぞ無い。こなければ今生の別れとなろうぞ」


そういうと、足早に行ってしまった。…何か、マジで死ぬ気な気がする。

 リセルの血を引いてる当り、マジでやりかねない。アイツはマジで一途だったからな。

洒落にならんぞ。おい。 俺は慌てて追いかけて、彼女の肩を掴むが、振り向かずに言ってきた。

  「止めても無駄じゃ。 主が力を見せぬ限りは…主はワシを止められぬ」


た…確かに風空自在まともに食らったらヤバいわな。 …はぁ。

 まぁ、実も見られたし、力ぁ見せるぐらいはいいか。

  「わったよ。 マジで死なれたら洒落にもならんし。 つか竜にケンカ売りに行くのはやめようや」

  「いやじゃ」


おい!! 折れたろ? 俺ちゃんと折れてやったろ? 行く必要どこにあるよ!!

 人の呼び止めも聞かず、どんどん崖を登る為の坂をツインテを揺らしてあがっていく。

何度も呼び止めたが聞く耳持たず。完全無視。 30分程か? ついに崖のてっぺんに。

  そのまま絶景を見る事も無く、奥へと進んでいく。



懐かしい風景が立ち並ぶ山道。 無駄にデカい木々が無造作に生い茂る。

 そして、俺がこの世界にに落ちてきた場所。魔神阿修羅の社。勿論ズタボロ。

俺が落ちた跡をそのまま残し、半壊した社と、ひび割れて雑草が生い茂っている石畳が見えてくる。

 上部のもげた鳥居を潜り、ついに社へと。 だめだ竜が出ない事を祈るばかり。

  

  「なんだ。子供か? …何をしに来た」


何か聞いた事のある声が上から…テメェかよレガ!!! なんでンナトコに住み着いてるんだよ。

 身の丈10m近くある巨大な赤竜。 当然ながら強さもハンパじゃない。

が、レガで助かった。 コイツは気性荒いが何気に気さくな面もある。

  

  「主を退治しに来たのじゃ。 赤き竜」


おい!! そいつにそれは禁句!!!   ソレ言ったら…。

  「面白い事を言うな。 それ程の強さがあるのか…判らんがいいだろう!」


大きく翼を広げて、軽く咆哮したレガ。 駄目だ完全に戦う気満々だよ!!

 ん? お嬢ちゃん。 なんで俺に指を指す。

  「こやつが主を退治すると言っておるのじゃ。 ワシではないぞ」


まてやー!! 勝手に話を作るな!!! 

 慌てて弁解しようと身振り手振り全身と口を使って必死にレガをなだめようとする。

  「成る程…。ガットの事もある。小僧とて油断はせんぞ!!!」


懐かしい名前でたなおい。 コイツとアレからそいややり合ったんだよな…っつか うぉぉぉおっ!!

 ひでぇ! 容赦なしに踏みつけてきやがった、間一髪かわしたが、

 踏みつけた地面からの爆風と土煙に呑まれて吹き飛ばされ、後方にあった鳥居に激突する。

  「げはっ…!!」

俺を遥か上から見下ろすレガ。

  「どうした。俺を退治するのではなかったのか? 小僧」

無茶言うな! いや…待てよ。ここでみっともない格好すれば…危機こそ絶好の好機!!

 ちょいみっともないっつか凄まじく嫌だが、俺はわざとらしく、みっともない大声を上げて逃げ回る。

  「…なんだそれは」

よし、呆れたぞ。 そのまま呆れて止まってくれ。

 よしよし…翼を折り畳んだ。 とどめだ!  必死で泣きっ面を作り鳥にの影に隠れてレガを見る。

  これで完璧だろ!!? その場に座り込んだレガが凄まじくデカいため息を吐く。

  「消えろ小僧ども」


その言葉を待ってました!! 俺は一目散に逃げ出した! あの調子ならお嬢ちゃんも安全…ん?

 何か爆発音が…。 ぎゃーっ! レガに空気の塊ぶつけやがった!!!

  「小娘…貴様たばかったか!」


再び起き上がり翼を広げて威嚇しているレガ。

 両手をレガに向けてにらめつけているんだろう。正面みないでも判る。

  「うるさいのじゃ、ムシケラが」

おまっ…竜らムシケラ言うかよ!! つかマジで死ぬきかよ!!

  「小娘…後悔しても…。もう遅いぞ!!」


一際激しく前足がお嬢ちゃんの頭を確実に捉える。 しかしそこから一歩も動く気配が無い…あーっクソ!! 


 


  激しい爆風と土煙が巻き起こると同時に、強い振動が石畳を踊る様に跳ね上げる。

 土煙が晴れると、そこには倒れてコチラを見ているレガと、

  お嬢ちゃんを庇う為に無風活殺でレガの前足を弾き飛ばした俺。そしてその影にお嬢ちゃん。

  「小僧…!! それは無風活殺。…オオミか!!」

何度もやりあったから体で覚えてたんだろうな。 モロにバレた。

 幸い周りに人はいない。 溜息を漏らして俺は答えた。

  「ああそうだよ。 久しぶりだなレガ。相変わらず元気そうだ」

倒れた姿勢から起き上がると座り込み。俺に顔を近づけて喋るレガ。

  「どうやら人間に転生した様だな。 長かったぞ貴様を待った250と余年」

なんだよ、アレからまだ待ってたのかよおい。

 お嬢ちゃんが俺のズボンの裾を掴んでくる。

  「やはりヤサカオオミの転生した者じゃったか主」


やっぱそっち方面で怪しんでたのかこの子。

 諦めた俺はその場に座り込んでハッキリ言う。

  「そう。おれがオオミだ。 残念だけど俺の相方はメディだけなんだ。

    だから君とは相方になれない。 すまないな」

そして、レガの方を向いて立て続けに喋る。

  「まだやり足りないのか? つか俺よりも姐御…あいや、

    シアンさんならいくらでも相手になってくれるだろうが」


レガの方を向いた俺の耳元にお嬢ちゃんが囁いてくる。

  「主がオオミの転生した者じゃと…学園内に言いふらしてもいいのじゃな?」


こ む す めぇぇぇぇぇ…。 顔に怒りを露にしながら振り向く。

  「あのねぇ? そういう事したら本気で怒るよ?」

  「怒ってどうするのじゃ? ワシを殺すか? 好きに致せ。 主を相方に出来ぬなら死んだも同じじゃ」


顔を引きつらせる俺の後ろでレガが馬鹿笑い。ひとしきり笑うと俺にむけて喋りだす。

  「どうやら、貴様よりもその小娘の方が一枚上手のようだな。

    それに先程は本気で死ぬ覚悟だったぞ」


まじかよ…。 やめてくれ。

  「あのな。 リンカーフェイズってのは信頼関係が大事なんだ。

    お前のソレのドコに信頼関係がある?」

むくれた顔で、俺の前に座り込むお嬢ちゃん。

  「そんなもの、後々築けば良いではないか…虚けが」


うつけっておまえ…年長者に対してうつけっておま!!

 また後ろで馬鹿笑いしているレガはおいといて。

  「あのなぁ…。いい加減マジで怒るよ? お嬢ちゃん」


  「いやじゃ。 主じゃないといやじゃ!!」

うわー。地面に寝転んで駄々をこねだした。

 なんなんだこの子は。頭がいてぇ。

見事なむくれっ面で、デパートで玩具を強請る子供の様に転がって駄々をこねている。

 

 …どうするの? これ。

はぁ。どうにもならんなおい。 …つか何で俺なんだよ。

  「じゃあ聞くが、何で俺じゃないと駄目なんだよ」

ピタッと駄々こねをやめて、起き上がり答えてくる。 なんつーか感情の起伏が激しい子だなおい。

  「幼少の頃より、伯母上から主の話を聞いて育ったからじゃ。 

    ワシの相方は主以外に考えられぬ」


伯母? 両親はどうした・・・ああ何か身内に不幸でもあったんか。

 で伯母さんの口調がうつったってとこかよ。はぁ…こりゃ諦めてくれなさそうだなおい。

  「そういう事かよ」


割って入る様に、頭上に顔を持ってきたレガ。

  「オオミ。どの道もうメディはリンカーフェイズは出来ない。

    この小娘を相方としても良いと思うがな」


まぁ、メディにも見つけろと言われてるしなぁ…。

 だがそんな簡単に相方捨てる様な事したくネェんだよ実際問題。

  「あー、わかった。 だが、少し考える時間くれよ?

    お嬢ちゃんが考えてるよりも長い間相方としてきた奴だからなメディは」

  「うむ。判った。色よい返事を期待しておるのじゃ」


ぶへー。断るとまた無茶な事しそうだぞこりゃ。


 レガの方へ苦笑いを飛ばすと、我知らずとソッポを向いて、森の奥へと去っていった。



  あー。行き先不安で頭イテェ…。 


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