第七十話 「入学式」
七十話目の投稿となります。ここから三幕の本編に入ります。
キャラもほぼ一新されますし、ここから読む方もおられると思いますので、
簡単なあらすじを。
---------あらすじのようなもの-------------
八坂大海という少年が、古びた神社で気の強い彼女が欲しい。
そう強く願い、突如開いた黒い穴。落ちた世界は住んでいた世界とは別の進化過程を遂げた平行世界、アルセリアであった。そこで出会った大精樹ユグドラシルが産んだ命の種であるメディという少女。 その少女にイグリスへと招かれ、初戦闘で自身の内に北欧神話のフェンリルが潜んでいる事を知る。 そして幾度かの戦いの末、イグリスは崩壊し、壊滅の憂き目に会う。残された学園の者達とリンカーフェイズと言う、自身と前世とを繋ぐ力を持って敵国であるレガートを壊滅するに至る。その戦いの元凶であったケルドも討ち果たすものの、現世では殺せない事を知ると同時にメディが奈落の咎人の鎖に捕らえられ、大きな代償を払いそれを助ける。主人公は輪廻転生する際、記憶を持ったまま生まれ変わり、ケルドを追い詰める役割をフェンリルより任され、250年の歳月を経て人間へと転生し、現在に至る。
あれから、何回生まれ変わったのか数えるのも、死因を思い出すのも嫌だ。
虫だったりクラゲみたいなモノだったり、色々だ。 しかもどれもこれも死因が捕食されて死ぬという。
どれだけ人間が恵まれた種であるか、身を持って実感した。
それを繰り返し、俺はようやく人間。それもイグリスという奇跡的ピンポイント生誕を果たした。
イグリスから少し離れた、セアドの森へと続く道。その道にある澄み切った川のほとりに俺はいる。
静かに耳を澄ますと、川のせせらぎや、木々のざわめき。小鳥のさえずり。
人間がやっぱ一番良いなと心底痛感している今。
川に掛かっている橋の上で見事に立ち直ったイグリスを望んでいる。
相変わらずの城壁ともいえる星型の高く分厚い壁。向こうが霞んで見える程に長大。
その中には、赤いレンガの様なもので建てられているスペインの街並みに似た建造物が立ち並んでいる。
そして、その中央には一際大きい一見城にも見える建物。 イグリスのリンカー育成機関を担っている学園。
道順は変わってしまったものの、その懐かしい街並みを、学園に向かって歩いている俺。
隣にメディが一緒に居ないのは、非常に残念だが、外れにいけばメディにはいつでも会える。
俺は足早に学園へと、遅刻すると姐御にぶん殴られるしな。
…然し、250年ちょい経ってもまだ若いまんまとは…どこまで長生きなんだろうか姐御は。
そんなこんな考えつつ、俺は入学式の行われる学園の別館へと。
そこには、何人だうかザッと見ても500~600人はいるだろう新入生。
俺もその一人だ。懐にある札を見つつ席を探して、そこに座り開始を待つ。
…ぶっちやけ、こういうのタルくて嫌いなんだよな。 フケようかな。
と、思うと脳裏に姐御の『ぶん殴るよ』が過ぎる。 ダメだ、真面目に出ておこうという結論になると。
まぁ、可愛らしい事で緊張して体が硬直している子やら、緊張を紛らわすのに周りの奴に必死に話しかけている奴。
様々なソレを観察して気を紛らわしている。 そんな中、開始したのか最前列より少し前にあるいわゆる舞台。
そこに一際デカい机があり…マイクは無いんだよな。機械とかそういう文明無いモンで。
その舞台横から見慣れた魔人…姐御が出てくる。
無造作に首元ぐらいまで伸ばした赤い髪。左目を隠す様に垂らしている。
目は釣り目気味だが普通といっても良いそして赤。褐色で健康的かつちょっと筋肉質。
胸も結構大きく、胸元の大きく開いている白い学園服が良く似合っている。
然し、教師にあたる人なのに、学園服でいいのか?と思う俺。その姐御が机を激しく叩くと、
その音で場内が静まり返る。さーて、長話か。 と、覚悟を決めて耳を澄ます。
「ようこそ新入生! まぁ、適当に頑張んな!」
ん? そういうと、舞台から降りてきた姐御。 おい! それだけかよ!!しかも適当にってなんだよおい!!
それで良いのか聖職者ぁぁああああっ!!! …まぁ、楽でいいかと思い次は何するのかと思ったら。
「良し、全員立て!! 丁度、人間と魔人が半々だ。 各自相方を此処でみつけちまいな!!」
相変わらず豪快っつーか。なんつーか、うん。 姐御はどれだけ時間立っても姐御だわな。
その声と共に自己紹介の声やら、中には告白めいた声まで聞こえる。おいおいおい。
途端に騒がしくなった場内を、両手に腰を当てて見ている。こういう人だからなぁ。
ちなみにまだ、メディ以外に正体を明かしていないので、当然姐御も気付いていない。
同時にメディ以外とリンカーフェイズする気も無いので、俺は隅っこに退避。
騒がしい場内を見ながらアクビを一つ。 そんな俺を見つけたのか、えらい威勢の良い子がケンカを吹っかけてきた。
「おいお前! 学園長が探せといってんだからキチンと探せよ!!」
いるんだよな。こういう奴一人は。 相手にするのも馬鹿らしいので、軽く右手でシッシッと追っ払う仕草をする。
そうすると、顔を真っ赤にして怒り出し、何か汚い言葉を吐きまくっているが、完全無視。
そしたら何と驚いた事に、既に相方は入学前から決めていたのか、リンカーフェイズして…なんだこりゃ。
ワータイガーってとこか? そんな感じの奴になりやがった。…はぁ。
周りが声で必死で止めているが、聞こうともせずに生身の俺に殴りかかってくる。
子供は加減しらないから怖いんだよねぇ。特にこんな力持つと尚更。
勢いよく飛び込んで右腕を突き出してくる。 それを左で受け流しざまに足をひっかける。
面白い程に転げまわって壁に激突するワータイガーのリンカー。
「何してんだ? 勝手に転んでお前アホか?」
俺の一言に、場内は爆笑の渦に巻き込まれる。 その直後俺の頭部に激しく鈍い痛みが襲う。
「ぶん殴るよアンタ達」
いや、だから殴ってから言うなっつーの。 場を収め様としたのか、姐御が割って入ってきた。
「はい、すみません」
「おや? 聞き分けが良いね。 じゃ大人しく相方でもみつけてきな」
それに黙って頷くと、また別の隅っこでアクビを一つ。
結構な人だかりで、さっきの奴がどうなったかは判らない…というよりもどうでも良い。
俺はのほほんと騒がしい場内をただ見ている。 あんな惨状だったのがここまで活気が戻っている。
姐御苦労したんだろうな~と、ただ感嘆の息しか出てこないワケだ。
さて、俺はそろそろ外に出ようかと、別館の出入り口へと。 そこで俺は呼び止められる。
んだ? 声すれど姿が…。
「ここじゃ!」
何かこう高めの声に、婆さん口調っぽい語尾だなおい。周囲を見回すが姿は無く。
その瞬間、足元に激痛が走る…踏みやがった!! 初対面の人間の足を踏みやがった!!
「ここじゃと言うておろうが…戯けが!」
改めて足元を見てみると、周りの奴等よりも一回り小さい魔人の子供が…つか何で婆さん口調だよ。
薄紫に少しウェーブの掛かった髪を両サイドで縛った…ツインテかよ。目は釣り目で緑色。
それに見事なまでの幼児体系。 折角胸元が大きく開いている学園服が酷く彼女を哀れに思わさせる。
…ん? 薄紫のウェーブ?…それにどっかで見たことある面影…。
「な…なんじゃ。人の顔をジロジロと」
ちょっと頬を赤らめて照れてるな。 可愛い可愛い。 思わず頭をグリグリと撫で回してしまった。
「ぶっ…無礼者がぁっ!!」
その瞬間どこのどいつか確定した。 この風空自在…空気の塊をすぐぶつける凶暴さ。
リセルの子孫かよ。 俺は出入り口横の壁に勢い良く叩きつけられる。
力は加減したのか、幸い怪我は無いが…。
「危ネェな! 風空自在をそんな軽々しく人に使うんじゃネェよ!!」
あ…思わず口から出してしまった。 静かに学生ライフをエンジョイしようとしてたのに。
よりによって一番関わりたくない奴に関わってしまった。 そんな昼下がりの俺。
うわ…見てる。睨んでる、怪しんでる。 ゆっくりと歩み寄って、中腰になり俺に顔を近づけてくる。
「ほう…何故この力の事をしっておるのじゃ? 主は何者か?」
「ただの人間です」
その瞬間、空気の壁の様なもので、壁と壁のサンドイッチにされた俺。
か…体の骨がキシむ。 圧死させるつもりかこのロリババア!!!
「もう一度問う。 主は な に も の か?」
「だから、どう見ても人間でしょうが。 その目は節穴か?」
ぐぁああっ!! 更に圧力が増した。やべぇ…目がマジだ。 素直に話しておこうか殺されかねない。
「わ…わかった。言う。言うから落ち着け、そしてここだと言えないから人気の無い所に」
その瞬間、圧力が消え去り俺は壁に背をつけたまま、地面へずりずりと尻を落とす。
「よかろう…。じゃが、変な事をしたら粉微塵に吹き飛ばしてくれようてな…覚悟致せ」
上等じゃないか、油断しなけりゃ負けやしねぇっつの。
そんなこんな、名前も知らんリセルの子孫を連れて、イグリスの街外れに。
周りに人気も無い。ここならいいか。
「ひ…人気の無い所に連れてきてどうするつもりじゃ」
おい、何で脅える。さっきまでの強気はどこいったお前。まぁ、それはどうでもいいか。
取り合えず、自己紹介。
「俺は、オ…じゃない。スヴィア=ヤサカ 見ての通り人間だよ」
「ワ…ワシは、イストラード=メギスン 魔人じゃ」
まぁ、耳みりゃわかるしな。 メギスン。確かリカルドの…やっぱあいつ等の子孫か。
俺に一歩詰め寄り、薄紫のツインテを揺らしながら覗き込んでくる。
「で、主は何者じゃ? 先程の身のこなし。只者では無いと睨んだのじゃが…」
大した目力で…。
まぁ、リカルド達の子孫なら殆どあの事は伝えられてるだろうし、
取り合えず探りがてらいくつかに聞いてみた。先ずは、俺の事。
「ヤサカオオミの事か? 何故に主はそれを知っておるのか?」
「質問を質問で返すものじゃありません!」
うわ、睨んだ。 こういう所はリセルの血が濃そうだなおい。
「す…すまぬ。 うむ。 細かい所まで書物に残しておられての、
ヤサカオオミという者が記憶を取り留めたまま、
転生を繰り返しケルドという神を追い続けていると」
つことは大体しってるのか。
「まぁ、その縁者ってとこか。俺は」
なんだ? 興味深そうな顔でにじり寄ってきた。
「そうなのか? 是非情報交換を申し出たい」
うげぁー。ヤブヘビだった!! そして…この後、夕方近くまで質問攻めされつつ逃げ回るハメになった。
どうやら巧く撒いた様で、周囲にイストラードという子の姿は無い。
そのまま警戒しつつ、家に帰る。 家は街外れ、メディの木のある傍に建てた。
両親は居るが、一人立ちしたいという建前でここに住んでいる。
実際の所、俺の前世の直系にあたる。見事にピンポイントで転生したモンだが…
多分フェンリルが手伝ってくれたのか? そう思える…が、確認しようが無い。
そして、俺は家を横切り、先にメディの居る木へと。
あれから250年とちょいデカくなったモンだよ。見事に気になる木になっている。
「あ、お帰り~スヴィア」
「ただいま。 色々疲れるよこの歳で入学式とか…」
木から現れたのは、綺麗な金髪のストレートを肩まで伸ばした、痩身の女性。
細い目に蒼い瞳。 胸は残念だがいい女になつてくれたモンだ。
つか、精霊になると若返って年齢固定されるのか。 知らんが明らかに若返っている。
「もう。若いんだよ? そんな年寄りみたいな事いったら駄目でしょ?」
腰に手を当てて、怒ってきた。 何か子ども扱いされてね?俺。
「へいへい」
ゆっくりと木に歩み寄り、もたれかかる様に座る。
その俺を覗き込んでいるメディ。
「ねぇ。 相方はちゃんと見つけた?」
「いーや。 俺は相方はお前だけだっつーの」
あ…頭軽くこづかれた。 完全に子供に見てやがる。確かに14だが。
「いてぇな。つか子ども扱いすんじゃねぇっての!」
溜息をついて、俺の隣に寄り添う様に座ってくる。そして視線を俺の方に向ける。
「私を想い続けてくれるのは嬉しいケド。 貴方はもうオオミじゃないのよ?」
「そりゃそうだけどよ? 記憶があるからなぁ…」
俺は視線を空に向ける。 それに釣られてかメディも空に視線を移す。
「もう…。貴方が人間に転生したって事は…これから何かあるかもしれない。そうでしょ?」
「そりゃ判ってるよ…けどなぁ」
軽く、メディの肩を抱くと、手を払われた。
「駄目。もう貴方はオオミじゃない。 そこの所はきっちり分別しなさい」
駄目だ。完全に母親モード入ってるよ。 切ないねぇ。
「だけどなぁ・・・」
俺が溜息を一つつくと、俺を一度見ると、姿を消したメディ。
「お、おーい。 メディ?」
それから暫く待ったが姿を見せない。…だめだこのパターンは相方見つけるまでは、絶対姿見せないぞ。
あ~頭痛がしてきた。 俺は家に入り、そのままベッドにぶっ倒れて寝た。
-----------翌朝------------------
今日もいい天気だ。 …少し肌寒い風が心地よい朝。嫌々ながら俺は学園へと歩を進めている。
年齢上どうしてもいかなくてはならない。 何より気が進まないのが…
昨日のイストラードというロリババアとエンカウントする事だ。また質問責めしてくるだろうし。
正直タルい。 そんな考えからか、周囲に気を配り学園へと進むその姿は、さながら不審者である。
そして、エンカウントする事もなく、学園の内部へと続く入り口に。
靴箱という概念が無いのか、そのまま土足で入る…楽で良い。
そして、赤茶色のレンガで造られた廊下を進み、これまたレンガの階段を上がる。
一応、教室はあるが授業形式は実地ばかり。 机の上でのお勉強は無い。
で、この前貰った札に書いてある教室へと。…勉強しないので殆ど待合室みたいなモノだが、
中の構造のソレは大学と良く似ている。 何の為にあるのか教壇があり、
その前方に扇状に広がり、四段の高さに分かれた机が一応ある。 そこに数字があり、
俺は窓際の様だ。 そこに腰かけて窓の外を見る。 嬉しい事にユグドラシルが見える。
メディを見つつなら、この席は悪くない。そう思えたのもつかの間。
「む。 主がワシの隣なのか? これから宜しくたのむのじゃ」
ひでぇ…。隣がコイツかよ。これからを考えただけで、うわー頭痛と胃痛がしてきた。
おもっきり嫌!という顔をしてイストラードという子を見る。
「そんなにワシが嫌なのか?」
ん? 寂しそうな声…しまった一人っ子とか。そんなアレなのか?
いや…寂しそうな声は出しているが、明らかに顔は怒って右手を前に出してるぞ。
「あ、いやいや! ちょいと頭痛と胃痛が酷くてな。 それが顔に出てるだけだよ」
収まれ! 収まってくれ!!
「そ、そうか。なれば良い。 ところで…」
俺の席の隣に座ると、ほらきたよ質問責め!もういや助けて!!
右ひじを机に当て顎を乗せ、釣り目を細めてこちらを見ている。
「ケルド…異世界の神は今どこににいるんじゃろうね」
知らん! コッチが知りたいわ!!
コイツ頭良さそうで馬鹿っぽいな!!
俺は軽く肩をすくめて答えた。
「どうだろうな。アイツは輪廻の鎖で過去に記憶を持ったまま、他者の生前に生まれ変われるからな。
その上、神慮思考に変身能力。 見つけるのは困難を極めるさ」
不思議そうに覗き込んでくる。
しまった…そこまで知らんかったのか?
「主…見た目は馬鹿面じゃのに、博識じゃの」
馬鹿イワレタ。子供に馬鹿イワレタ!!
苦笑いしつつなんとか返す。
「あはは、どうも」
それが祟ったのか、その後根掘り葉掘り聞かれて散々な目にあった。
…そしてその質問ラッシュを止める様に、俺達の教師に当る奴がはいってく…お前かよ!!
「あらっ! みっなっすわぁーっん! はじめましてっ! インキュバスのオーマよっ!」
出た。大自然の悪戯とも言うべき容姿のインキュバス。
岩石の様な輪郭に、潰れた鼻と博多明太子みたいな図太く真っ赤な唇。
その癖、目は人形の様に愛らしく、睫も長い。
髪は金髪でクルクルパーマにクロワッサン。 鋼の肉体に鋼色の肌。
なにより、なんで紐ビキニみたいなモンつけてるんだ貴様男だろ!!!
股間のモッコリが激しく気になる歩く猥褻物。
本来色男なインキュバスが逆転し、男色。男好きななブサイクのインキュバスになっている。
あまりに酷いソイツが現れた瞬間、教室内は時が凍りついたかの様に静まり返る。
「あらっ! 緊張してるのねっ? かっわっいっいっわんっ!!」
いや、緊張してるんじゃなくて、脅えてるんだろ!この子達が!
それ以前にそんなフザけた格好して壇上に立つな!!!
「さっ! さっそくっリンカーフェイズの特訓に外にでるわよっ!?」
げ…速攻それかよ…しかも、隣から突き刺さる様な視線を感じる。
隙を見て絶対フケてやるぜ・・・!!
「今度は、逃がさぬぞ? スヴィア」
うわーん! 逃げ道無さそうだぞこれは!!オカーチャーン!!!
七十話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
三幕は学園モノ的なノリ展開と、封印が3つ解かれた為に起こる何かを解決して世界各地を飛び回る事となります。
では、これからも宜しくお願い致します。