第六十八話 「輪廻転生 Ⅰ」 第三幕開始
六十八話目の投稿となります。
少しの間、主人公メインが続きます。
ん。おっすおらご…ごほごほ。 案の定、俺は人間以外の生物に転生した様だ。
生れ落ちてすぐに記憶があると言うのも、変な気分なもので…いやそれ以前に
食い物に慣れる事に苦労した。 『生』 だからな 『生』
割と、近場に転生したらしく、見覚えのある道が続いている。
その道の左右には森があり、挟む様に小高い山が続いている。
空気が澄み切っているから、遠くまでハッキリと見える。
水も透明度が恐ろしい程に高い。 結構深いのに水底どころか、
埋まっている岩に張り付いている苔みたいなものまで見える。
そんな川で水を飲んでいるんだが…。 その川に映った自分の姿に絶望する。
虎似の顔と毛並みに、マンモスの巨体。素晴らしくミスマッチなこの珍妙な生き物。
生前でも大変ご厄介になった食料・毛皮。 スラクである。
我輩は猫である。ではなくスラクである。 なぞと余裕ぶっこくぐらいに慣れてしまったこの日常。
今日も今日とて、獲物を求めて川辺に来たんだが…。
俺も俺で獲物なんだよな。 イグリスの奴等からすれば。
そして噂をすればなんとやら、イグリス方面から若いリンカーが大量にくるわくるわ。30人程。
何故スラク一頭に、そこまで大量に来るか…理由は一つ。
転生した俺だからだ。
イグリスの学園では、俺を仕留めたら単位が貰える。
なぞと言う言葉を耳にした事があり。ふざけんなこの小童どもが!と、毎日蹴散らしている毎日。
リカルド同様にガーゴイルがいたり、中にはドラゴンのリンカーも混ざっている。
そんな多種多様な強力なリンカー相手に、
いくら10m近い巨体とはいえたかが動物がどうして戦えるか。
それはこいつらの言葉を聞いてくれ。
「いたぞ! 森の精霊獣だ!」
「囲め!」
などとまぁ、精霊扱いされておりまして。
顔が虎の癖にどう聞いても鳴き声が象の雄たけびを上げて、その精霊と言わしめる姿を現す。
大きな地響きと共に、10mを越す巨体で立ちあがり前足だらりとさせる。
こんなザマで無風活殺を使い、イグリスの若いリンカーを弾いたり吹き飛ばしたりしているのだ。
判りやすく言えば、格闘マンモス。そんな感じだ。顔だけ猫に近い虎だが。
5組ぐらいのリンカーが、正面。 左右に5組ぐらい、残りは背後に回り一斉に掛かってくる。
俺は静かに目を閉じて、風を巻き込んで飛んだり駆けたり、
まぁ突っ込んでくる小童どもの風を捕らえて別方向に弾き飛ばす。
右ストレートを左手で外側から流す。そういう感じのモノ。
ただ、それに風が伴って…。
「ぐぁ!! 腕が…!」
「ちょっと大丈夫? うわ…骨が突き出てる。再生能力に全て回すから援護お願い!」
てな具合となる。 叩いた部分を風の刃、もしくは鈍器で0距離強打・斬撃が可能なのだうわははは!!
俺はハエの様に飛び掛ってくるリンカーを次々と打ち払って、後ろを向く。
そして…。
「コイツ!! 相変わらずふざけてるわね!!」
「屈辱よ!! 動物にお尻叩いておちょくられるなんてさ!!」
短い尻尾をフリフリしつつ、届かない手で尻ならぬ腰の横を叩いて、スキップしている俺。
凄い地響きで足元で回復しているリンカー達が跳ね上がっている。
さて、そろそろお決まりの…。
「一時撤退! もう少し人数集めてくるんだ!」
毎度毎度の事。死者は勿論ゼロ。
そんな彼等を見送って、イグリスの街。その外れに在る山沿い。
そこに若い木が一本生えており、そこへとやってくる。
そこで、ズンと腹を落とし寝そべると、その一本の若い木から金髪の若い女性が姿を現す。
メディである。 彼女は俺よりも早く亡くなり、ユグドラシルとして生まれ変わった。
セアドも寿命が近いのか、メディを生み出したのだろう。
その内、ここも立派な大精樹の森となるに違い無い。
そんなこんな寝そべりながら、考えている俺の顔の横に座るメディ。
顔を撫でつつ、微笑んでいる。
死んで尚、縁があるというのは嬉しい事だ。
「おかしいスラクね。獰猛な生き物なのに穏やかで…。
その上、イグリスの皆を鍛えるかの様に毎日相手をして」
そして、気付いてくれ無いんだよな。俺だと言う事に。
メディは無風活殺見たことが無いからな。意識ある時に。
その所為か気付いてくれない。
地面に字を書いて教えようと試みたが、どう見てもミミズがのたくった跡にしか見えないという。
いかんともし難い現状ながら、このスラクライフを楽しんではいる。
そのままこの安穏とした時間は過ぎて行き、日が暮れてきたので、
寝床に帰る。
…それが何年も続き、近年まれに見るイグリスに大寒波が襲ってきた。
食料となるものも乏しく、俺自体も苦しいワケだ。
だが、それ以上に気になったのはメディだ。この寒さにあの若木が耐え切れるのか。
それが気になって仕方が無い。 寒さには強いが、空腹がどうにもキツい体を起こしてイグリスへと。
降り積もる雪。あたり一面銀世界。 マンモスにはお似合いだとか思いつつも、
急ぎ足でイグリスの外れ、メディのいる若木へと。
…案の定、雪で酷い事になっている。 一応雪はどけられてはいるが、とてもじゃないが耐え切れないだろう。
然し、俺は喋る事も出来ない。助けを呼ぶ事も出来ない。
イグリスの連中もこの大寒波で、食い物やらの確保に必死だろうからな。
だが、雪をかいた跡がある。それも定期的にだ。
でないとこの大雪、すぐに埋もれてしまう。
誰か、…いや考える必要もなかったか。
「なんだい? 森の精霊獣じゃないかい」
相変わらずの気の強い声色した姐御。 容姿も大して変わっていない。
赤い髪がこの銀世界に生え、褐色の肌を露出させた学園服を着ている。
寒くないのか? と思うがそれは良い。
…そろそろ、この体もガタがきた。丁度頃合かもしれないな。
俺は、若木の方へ一度顔を向けると、再び姐御に顔を向ける。
「なんだい。メディがどうかし…オオミ君かい?」
勘が鋭いなおい。
激しく頷いて答える。
「成る程…どうりでウチの若い子らが歯が立たない筈さね」
両手を腰に当て、懐かしそうに俺を見ている。
ソレを無視して、俺は若木から雪を庇う様に跨ぐ。
再び姐御の方を見る。
「やっぱりアンタなんだね…、もう月日が経っちまってさ。
ここの事を知っている連中がいなくてねぇ」
ひでぇ話だな。
ちょいと死ぬ前にイグリス軽く半壊させてやろうか。
そう思わなくも無い。
「で、アンタはメディの為に、その体で小屋を作ってくれってことかい?
本当は別の材料で立ててあげたいんだけどね。見ての通りの寒さと雪だ。
どうにもなら無い。 スラクすらどこか暖かい所を求めて遠くにいっちまったからね」
だろうと思ったよ。
食い物がほぼなくなってきたからな。
「判ったよ。 じゃあ少しメディから離れてくれよ」
頷くと、俺は若木から距離を置く。
そして地面に寝そべり、姐御の方へと顔を下ろして静かに目を閉じる。
「安心しな。痛みなんて感じない様に即死させてやるさ」
その声が最後に、俺の意識は途絶えた。
必ず見にこよう。鳥に生まれたら空を飛び、
必ず見にこよう。獣に生まれたら地を駆けて。
たとえ、大海を跨いだとて、メディを再び護る為。
六十八話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
人間の記憶を持った動物の行動描写。
やってみて面白いものだな。と思いました。