第六十六話 「代償」
六十六話目の投稿となります。
今回はメディメイン。
明かり一つ無い闇。オーミ…どこ?
手探りで見えない闇の中を探す。
感触があるのは、何かが私を縛り付けている物だけ…。
感触はあるけれど、寒さも熱さも感じない。
息は元々ここでは必要が無いのか…苦しくも無い。
ただ何かに縛り付けられている。
髪が上に向いて靡いている。
その感覚を頼りに暗闇に引き摺りこまれて行く。それだけが判る。
それ以外に何も見えない、感じない。
身動きも取れない。
ただ落ちていく感覚だけがある。
…怖い…
次第に、落ちていく感覚が恐怖へと変わり、
涙があふれ出て声を出そうとする。
けれど、口にも何かが縛り付けられていて声も出せない。
ただ落ちていく事に恐怖を植えつけられ、次第に一つの感情が私を蝕んでいく。
…怖いよ…
動かない右腕を上に必死に伸ばそうと足掻き。
喋れない口で必死に声を出そうと喘ぐ。
音…頭の中にじわっと広がりつつある音。
それが頭の中で耳鳴りの様に響き渡る。
酷く煩いそれが耐え切れない大きさになり、
それから逃げようと必死に動こうとする。
けれど…音が大きくなるのを妨げる事が出来ず。
その音が次第に痛みへと変わり精神を蝕んでくる。
…オーミ…リセル…シアン義姉さん
…蝕まれた精神が、記憶を壊していく。
だんだんと…記憶にある温もりが音を立てて…。
最後に…オーミとリセルの声が…。
「ぐ…ちくしょ・・・メディ!!」
「いました…わね!」
記憶…じゃない?
見覚えの在る綺麗な銀色…フェンリ…ル?
オー…ミ。 きてくれ…たの?
「うるぁぁぁあああああっ!!」
眩しい銀色が暖かい。
暗闇を照らし出す。その明かりに照らし出されたのは…オーミ達。
私だけじゃなく、彼等も捕らえ様として沢山の…あの鎖が。
「フェンリ…ルの50%ナメんじゃネェ…ぞゴルァ!!!」
目で追えない、物凄い速さと…力強さで鎖を打ち砕いて近づいてくるオーミ。
「メディ…! しっかり…しなさいです…わ!」
リセルまで…。
感覚が無いけれど、確かに暖かい銀の光が、数多の鎖を打ち砕いて近づいてくる。
…危ない。 心の中で叫ぶ。 多くの鎖がオーミ達を囲み捕らえた姿を見て。
「ちっくしょ…! 斬っても砕いてもキリがネェ…!!」
「どうしますの!? 私もそう…長くは持ちませんわよ!!」
「…ゆぐどらしる…」
あの子供は…オズ…ちゃん?
あの子まで…。
「だぁぁぁぁぁっ!畜生!! フェンリル! …もちっと力寄こせ!!」
「無茶ですわよ!!」
オーミ? …その瞬間。 私の体を縛っていた鎖が打ち砕かれ、彼に抱きとめられる。
「ぐは…こいつは…キツ!!」
「…無茶苦茶…しないでっ!」
「…にげる…」
私達を抱き抱えた、オーミが上へと駆け上がる。
後ろを見ると、まだ無数の鎖が迫ってきている。
「オーミ…後ろに沢山きてるよ」
「…く…そったらぁっ!!」
彼が暗闇の底に向かって、強く蹴り払うと、銀色の刃の様なモノが向かってきた鎖を全て打ち砕く。
「…やべぇ。 気を抜くと呑まれ…る」
「オオミ!? しっ…かりなさいお馬鹿!!」
フェンリルの力を限界以上に出しているのか、とても苦しそう。
上を見ると、オーミの生まれる前の生き物が見えてきた。
「おっしゃ!…抜けた!! リセル早くリンカーフェイズを解いてくれ!!」
「がっ…外部連結…接続終了!!」
その瞬間、目の前が明るくなり。見たことのある森へと。
セアドの森…?
う。 シアン義姉さんが痛いくらいに抱きしめてくる。
リカルドやディエラさん達も私の方に…。
オーミは? リセルは? オズちゃんは? 私は隙間から三人を探す。
三人とも倒れこんで息を荒げている。…助かった…のかな。
「よくやったよ…アンタ達!!」
「痛いよ…シアン義姉さん」
「あっと、すまないね!」
私を地面に下ろすと、慌てて私はオオミ達の傍に駆け寄る。
「オオミ!? リセル!? オズちゃん!?」
体を揺すって起こす。
「うべぇ…マジでまた自我失うかと思ったわ…50%どころか70%とか…」
舌を出しながら転がって仰向けになったオーミ。その横でオズちゃんが起き上がってオーミを突付いている。
良かった大丈夫みたい…。
リセルは…?
「…」
リセル? 何か表情が…いえオズちゃんみたいに…感情が。
「リセル!?」
私の声に全員が寄ってくる。
「ヤバいねこりゃ…精神壊れて…」
シアン義姉さんの言葉に全員がリセルを覗き込む。
「お、おいおい!」
オーミも心配そうに駆け寄ってくる。
「自分の力量を越えるモノを扱った。 その報い」
全員が白い綺麗な女性に視線を向け、オーミが詰め寄る。
「おい!セアド、何テメェ罪人みたいな言い方してんだコラ!!」
怒ってる…よね。 私も今の言葉は。
「セアドさん…? そんな事どうして…!!」
全員がセアドさんと呼ばれた女性に怒りの声を上げている。
あれ?リカルドさんだけ冷静にセアドを庇う様に立ちふさがった。
「過ぎた知識…力は身を滅ぼす。リセルさんはそれを判ってやったのです」
…確かにそうかもしれないけれど。
「リカルド。テメェそんなんで納得できんのかよ!」
オーミがリカルドの首を掴んで怒っている。
それを…シアン義姉さんが割って入り、オーミを殴り飛ばす。
「取り乱すんじゃないよバカタレ!!
で、何とか出来るのかい? セアド」
セアドが首を縦に振り、腰にあった白い袋から粉を取り出す。
「すぐに治す。それは不可能ですが、
これを飲ませれば時間はかかりますが治るでしょう。
本来は、手を貸す事は許されませんが…」
なんだろう。皆納得したのか、落ち着いた。
リカルドがそれを受け取り、リセルの口に。
「ユグドラシルの種の粉末。 過去に砕かれた種のものです。
完治するまで数年はかかるでしょうが」
数年…。
「ああ。まぁ助かるんならいいスけど。
んじゃ取り合えずフェンリルから聞いてきた事とコレまでの事纏めるっスわ。
セアドも知らん部分あると思うスから、今の方がいいスな」
私が知らない間に色々判ったのかな。
みんなと一緒に、それを静かに聞いた。
この世界が、オーミの世界と同じ世界で、生き物の姿が変わる過程の違い。
その違いで分かたれた一つの世界であるという事。
オーミの世界の神が、ケルドさんであるという事。
私とオーミを引き合わせたのが、魔神阿修羅では無く、フェンリルだと言う事。
そして、フェンリルが何かの理由で、ケルドさんを追いかけていて、
追いかける役を、私を助ける為に、オーミがとても辛い条件をのんだという事。
同時にそれが、完全に殺せないケルドさんを殺す方法にもなるという事。
皆がそれを聞いて納得して、その場に座り込む。
シアン義姉さんが心配そうにオーミに尋ねる。
「それは判ったけど、アンタ…正気かい? 記憶持ったまま生まれ変わるってことは…」
「ああ。虫か何かにでも生まれ変わったら、そりゃ悲惨スな。 が…選択の余地もなかったスし。
しかも有限なのか無期限なのかすらわかりゃしねぇ」
オーミの肩に軽く触れ、頭を下げるセアドさん。
「異界の人間。 貴方の覚悟…感謝致します」
オーミ…私…私。
私はセアドさんを押しのけ、オオミの傍に駆け寄り泣きついた。大声で何度も謝りながら…。
六十六話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
メディを助ける為に、二人が払った代償。
主人公は、記憶を持ったまま生まれ変わり、ケルドを再び追い詰める事。
リセルは、精神崩壊。
次回は主人公メイン。 二幕の最終話となります。