第六十四話 「縛鎖」
六十四話目の投稿となります。
今回も主人公メイン。
ここから輪廻と世界の構成部分がでてきます。
エルフィで朝昼晩寝ずのアレコレが続き、疲労が相当溜まっていたのか。
廃墟となったイグリス。その瓦礫の傍で明け方から寝て起きた時には、既に日が落ちて結構立っていた。
起き上がり、周囲を見回す。
メディも寝ていなかったのか、金髪の細く長い髪が無造作に散らばり、気持ち良さそうにヨダレを垂らして寝ている。
その髪を右手で軽く整えて、近場に掛けてあった毛皮を彼女の肩から下が隠れる様に被せる。
それから視線を夜空へと移す。 月が既に落ち始めている所をみると深夜か。
再び、仰向けに寝そべり軽くメディを抱き寄せ、この世界の事を考える。
眠気もあったのか、結局教え方がバラバラだった気もしなくも無い。
時間の出来た今の内に整頓しておこう。
この世界は、仮に恐竜が絶滅していなかったら…等まぁ、所謂並行世界。そんな所だろう。
目に見えないが、薄皮一枚向こうには、俺の居た世界があると。
天体の位置もそうだが、地図から確認した地形がまんまだもんな。焼けて確認出来なかった部分はあるにせよ。
で、ケルド。コイツはどうやら北欧神話に出てくるロキ。
何かしら…いや輪廻に関してのアーティファクトを持っていて、その一部を分け与えたモノがリンカーフェイズ。
何故分け与えたか。 ヤツが単純に争いから起こる結末を見るのが楽しいから。そんな所だろう。
もしくは、生物の持つ感情の高ぶりを見て楽しんでいるのか。 それは判らない。
後は、朝になるだろうがメディとリンカーフェイズして、真偽を確かめにいくだけだ。
そうしたら大体の事は明白になるだろう。
問題はソレに対してケルドが残した言葉、行くと後悔する事になる。だ。
顔を横にし、メディの顔を見る。
相変わらずいっちゃ悪いがヨダレ垂らして、幸せそうなマヌケ面で寝ている。
風の音が聞こえる…少し冷えてきたな。メディにかぶせている毛皮に入り、
横向きになり、彼女を暖める様に胸元に抱きしめる。
その姿勢から見える周囲の景色。 随分と瓦礫が除去され道が整理されだしている。
パッと見る限りではこの当りに遺体は無い。
だがまだ周囲に見えている大きい瓦礫。家の残骸には遺体が下敷きになっているのだろう。
そんな物思いにふける俺の頭に影が一つ落ちる。
俺はその影の主に、視線を移す。
赤い髪をやや短めで無造作に生やして、片目だけ隠す様に垂らしている。
釣り目で褐色の肌。健康的な体のライン。 後は暗くていまいち良く判らないが…どうみても姐御だ。
「どうかしたんスか?」
俺は尋ねると、彼女はメディの反対側俺の隣へと座り込む。
「相当疲れてたんだね? ヴァランはどうだったい?」
仰向けになり、夜空を見つつ苦笑いをして答える。
「あ~…気性荒いと聞いたけど、そうでもなかったスな。 冗談も言えば知的といった方が良いかもスな」
一緒に姐御も夜空を見上げる。
「そうかい…。アイツも丸くなったモンだねぇ」
「それはいいんスけど、お陰で頭が見事な事になっちまったっスよ」
皮のタオルで隠している頭を左手で撫でる。
それを見た姐御は軽く笑った後、口を開く。
「まぁ、死ななかっただけ大したモンさ。それに…」
寝転んで俺に近づいてきたぞ。やめろメディの誤解招く様な真似は。
俺の耳元で囁く姐御。
「女も免疫ついた様だね君」
顔が青ざめる。 どこまでこの人はお見通しなんだ。
「シアンさん。あんた…ケルドより怖いっスわ」
姐御は軽く笑うと、隣で仰向けになり夜空に視線を戻す。
「まぁ、気にするな。 で…これからどうするんだい?」
「どうするも何も、取り合えずケルドが死んで、残るはエルフィの封印のみ。
エルフィには強力な術師やら自然の要塞みたいなものもあるんしょ?
ともすりゃ、イグリスの再興手伝いつつ、あの双星の様子を見てるしかないスな」
再び俺に視線を移す。
「勘が鋭いねぇ。じゃあ君には話していいか。
あの双星は、二人の神が封印されていると同時に、
別の封印の効力を強める役割もあるのさ。砕けた鎖を見なかったかい?」
姐御の方を向いて答える。
「そんな所だろうと思ったっスわ。が…まだまだそれは先の話になるんじゃないスか?」
「ああ、その通り。まだ何十年も先だろうね」
再び視線を夜空に。
「何十年スか。 まぁ、元の世界に帰る気も失せたっスし。
ここで骨を埋めるのもいいかもっスね。醤油が恋しいスけど」
「なんだいそりゃ? …まぁ、イグリスを…学園を再興して再びリンカーを育てないとね」
起き上がって、立ち上がる姐御。
それを見て答える。
「そっスねぇ。 それに何より明日…いや今日の朝にフェンリルに会いに行く。
それであらかたの事は判るっスし」
俺達から去るように背中を向けて、ゆっくり歩き出す姐御。
「ま、朝までゆっくり寝ておきな」
「そうさせて貰うっスわ。 おやすみ」
「ああ、おやすみ…」
そういうと、姐御は街の外れの方へと、まさかまだ遺体処理やらやってるのか?
どれだけタフなんじゃあの姐御は。
再びメディの方へ向き抱き寄せる。
そして、そのまま目をつぶって寝る。
冷たい風と、朝日が顔を照らし目が覚める。
「うへ、さぶっ」
流石に外で地べたに寝ると体温取られるな。
メディは…毛皮に潜って俺の腹付近で丸くなってやがる…猫かよ。
「お~い、朝だぞ。起きろーい」
毛皮をめくり上げると、身震いして目をつぶったまま右手で毛皮を探す様に振っている。
「…おもろ」
その動作が面白かったのか、探している右手に毛皮を少し当ててみると、
それを掴み必死で引っ張ってくる。
「寝起き悪そうだなメディは」
ぐいぐいと、両手でつかみ出して毛皮を引っ張ってくるのを引っ張り返す俺。
「何をしているんですのよ貴方達」
ん? この声はリセルか。
薄い紫の軽くウェーブの掛かった髪が、朝日に透けて中々に綺麗。
とどめに顔立ちも良く、細い体に似合わず出るところは出ている。
服を着替えたのか、服が新しくなってい…ん? 男用のと女用のを右手で抱え込んで…。
「わぷっ」
俺の顔に投げつけてきた。 相変わらずだな。
「そんな布みたいなモノいつまで巻いているのですの?」
「これしか向こうなかったんだよ。 ヴァランの雷撃で学園服ズタボロになるしよ」
起き上がり、座り込んで服を着替えだす。
「ちょっと…瓦礫の影で着替えるとかしなさいよ」
何で目をそらして顔赤くしてんだったく。
「男の着替えがそんな恥ずかしいかい? リ セ ル ちゃ~ん?」
やっちまった。 この後蹴りの一つも飛んでくるだろ…その瞬間、2m程吹き飛んでいた俺。
起き上がってリセルの方を見て見ると、顔を真っ赤にして、両手をかざしていた。
「おま! 冗談で言った相手にそれ使うか!?」
「自業自得ですわお馬鹿!!」
「さいですか」
ったく。 アイツに風を使う力は凶器だろもう。
その騒ぎに目を覚ましたのか、
寝癖でアホ毛が至る所から跳ねているメディが目をこすりながら起き上がってきた。
「むぃ…」
とぼけた面で左右を見て、そのまま呆けている。
「相当寝起き悪いのか?」
俺はリセルの顔を見て尋ねる。
「ですわね」
頷くリセル。 とりあえず水でも汲んできてやるか。
俺は右膝に右手を当てて、よっこらせと言いつつ起き上がる。
…うわ。すげぇ嫌そうな顔でコッチ見やがった。
「年寄り臭いですわよ・・・あら? ソレより貴方その右腕・・・」
ん? リセルの視線が俺の右腕に。
「ああ、疾風の精霊の契約者とかなんとかまぁ…俺の世代じゃ無意味いわれたけどな」
腹を抱えだして笑いやがった。
余程うけたのか、苦しそうにその場に膝を着いて尚も笑っている。
「お前な…」
喋れない程ウケたのか、ひたすら笑い続けるリセル。
「…悪かったな使えなくて」
「たっ…体力だけ奪われ続けるのですの? わ…笑いがとまりませんわっ」
「うっせぇな!!」
笑い転げているリセルを放置して、
さっきの一撃で擦り傷がいくつか出来た体を起こす。
そして、近くの川から汲んで溜めている所に水を汲みに行く。
まだまだ朝も早いってのに、既に再興に取り掛かっている人も多く居る。
パッと見て助かった人が多く思えるが、その何倍も死んでいるの、良く判っている。
さて、積み上げられているバケツみたいな容器に水を汲む。
取っ手が無いので手が水に浸かるワケだが…痛いぐらいに冷たい。
だが、それが気持ちいいとも思える。
先に汲んだ水で、顔と手を洗う。
そして、手ですくって軽く飲む。 無味無臭、カルキの臭いも当然ながら無い。
これがうまい水といえばそうなんだろうが、通でもないので判らない。
再び、木製の容器に水を汲み、先程の場所へ…お? オズとアラストルだな。
何やら早速瓦礫のけたりしてるが、行動早いなおい。
とりあえずメディの元へ急ごうか。
俺は足早に戻ると、着替えたメディその髪の毛を溶かしているリセルが居た。
「こうしてみるとまんま姉妹だよな」
メディの髪の毛をとかしつつ、俺を睨んでくるリセル。
「また吹っ飛ばされたいのかしら?」
容器を地面に置いて、両手を下げて軽くおちょくる俺。
「不意をつかれなきゃ、俺にそれは通じないぜ?」
「お馬鹿」
口で反撃された。
まぁ、再び水の入った容器を取り、メディの膝元に置く。
まだ寝ぼけてるのか、顔が呆けている。
「相当寝起きが悪いな。 疲れてるのかどっちかしらんけど」
「心身ともに疲れてたのですわよ」
「さいですか」
それから、準備なりなんなりで時間を費やして、昼の少し前になる。
街の中心部に設置されたスラクの毛皮と骨格で作られたテント。
そこに集まった俺組・姐御組・リセル組・ガットは…いないな。とオズ姉妹。
「さて、準備はいいかい? オオミ君とメディ」
右手を軽く振り回して答える俺。
「あいよ!」
軽く頷いて、早速俺の胸元に手を…なんでフェンリルの場合だけ抱きついてくるんだ?
コレもなんか理由あるのか知らんが。
「じゃ、サックリと頼むよ! …一応用心していくんだよアンタ達」
「あいあいさ」
「うん」
そういうと、俺は目を閉じてからだの力を抜く。
「心拍同期…解析開始」
外では影に包まれているんだろう、そして、いつもの輪廻の中。
アッチ側の世界の俺の前世の窓といえばいいのか、それが現れては消える。
そして、そこではなく、フェンリルを探して深い暗闇の底へ…んが?
その瞬間、闇の底から何か鎖の様なモノが飛び出して、俺達を囲う様に通り過ぎていく。
「なんだ!?」
「な…何?」
俺はメディを庇う様に抱きしめるが、
ブーメランの様に戻ってきた鎖が、器用に俺だけ弾き飛ばした。
「ぐぁっ!」
あまりの事で無風活殺で弾く事も出来ず。
視線の先には、鎖にからめとられて暗闇の底に引きずり込まれていくメディ。
その瞬間、俺は輪廻から弾き飛ばされたのか、意識が戻り、目を開ける。
「メディ!!」
慌てて周囲を見渡すと、足元で倒れこんでいるメディと心配そうに抱えている姐御。
その様を心配そうに見ているリセル達。
「な…なんだったんだよ一体」
俺に気が付いたのか、姐御がコッチを見て尋ねてくる。
「オオミ君は戻ったのかい? こりゃ一体何があったんだい!?」
「いや、鎖みたいなモンが飛んできて、俺は弾き飛ばされて、
メディだけ闇の底に。 …正直わけわからんス」
考え込む姐御達。
「一体なんだったんスかね…これがケルドのいってた後悔…とすると」
姐御が再び俺の方へ視線を移す。
「鎖ってのが何なのか、わかんないけどね。 アタシも流石にわかんないね。
早い所セアドの所に連れて行った方が良さそうだ」
意識を失っているメディを抱き抱えたまま、姐御が立ち上がる。
「スね。 何か知っていると思うスし」
俺達は、街の入り口の方に居るレガの方へと駆けて行く。
これが後悔とすると、メディが戻ってこない。 そう考えるのが妥当なのか?
ったく。ケルドの奴、とんだ置き土産残して死にやがったなおい!
六十四話、最後まで読んで頂いてありがとうございました。
ケルドのろくでもない置き土産。 これも一幕の複線の一つとなります。




