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第六話「リセル・ハーネット」

第六話目となります。感想を頂いた事を元に少々再構築をしなおしてみました。

 今後の展開に変化はありません。

そして、またお気に入り登録も増え、ついに二桁に達してしまいました。ありがとう御座います。がんばります!

「・・・セオ殿。然し。忌むべき神族の力を野放しにする事はだね・・・」

「イストル殿、心中お察し致しますが、現状を把握しておられますかな?」


ワシはイグリス学園・・・そう。メディやリセルの様な子を育てる、この国の唯一の政治機関とも言える所。

 その場所の決議場でイストル殿を含めた上部の者達と、話を進めている。


「勿論把握しておりますよ」

「ほう、ではどのぐらい把握しておられるのか、具体的に述べて頂けますかな?

お言葉ですが、イストル殿はご子息を失って正常な判断が出来ていないと見受けられるのじゃが・・・」


その言葉に眉間にシワを寄せ、顔を強張らせて答えるイストル殿。


「彼を処刑する事は、この国のリンカー達との亀裂を生み、そこをレガートに漬け込まれると言いたいのでしょう?」

「左様ですじゃ。然しそれだけでは無い。彼・・・オオミ殿は確かにイストル殿を含めた方々のご子息の命を奪いましたな。

 それは逃れようの無い事実でしょう」

「その通りだ、それに加えて忌まわしい神族の力らしきものまで持っている始末。早々に処刑しておかねば・・・」


ワシも流石に眉間にシワを寄せ、その言葉に重ねた。

「しておかねば・・・なんですかな。ドガ殿。それはメディやオオミ殿を全く信用出来ないと仰りたいのですかな?

 ともすれば、何故メディの力を幾人ものリンカーを犠牲にしてまで求めたのですかな?

 ご子息を失ったのは何も貴方達だけでは無いと思いますがの?」


「ぐ・・・それは」


「失礼ながらこのセオ。どう考えても私怨だけで彼を処刑しようとしている様にしか見えませぬな」

「セオ殿に同意致します。私も見ておりましたが、今後のレガートとの戦も近くありましょう。

 確かに禁忌の力ではありましょうけれど、そもそも古い言い伝えをそのまま鵜呑みにするのもどうかと思われますが?

 私は実際にその力を見ましたが、結果的には被害を最小限度に抑えこの国を救った彼とメディの力。

  ・・・言い伝えを鵜呑みにする事は愚かだと考えますが」


ふむ・・・どうやら危惧する必要も無い程に、劣勢では無い様じゃな・・・むしろ優勢という所か。


「然しだね。今はそれが切り札と成り得るモノだったとしても。いつ何時如何なる理由で我等に害を及ぼすかも判らない力をだね・・・」

「確かに、そうなれば打つ手がなくなりますな。この国一番のリンカーであるリカルドとリセルがまるで相手にならなかった所を見る限り」


ふむ。まぁ、それも一理あるじゃろうが。・・・どうしたものかの。この私怨に先走った者達を説得する・・・む?

 突然、大きく音を立てて、部屋の入り口の扉が開く。ワシも含め皆の視線が入ってきた者へと向けられた。

 入ってきた者は・・・リセル・ハーネットじゃな。何やら眉間にシワを寄せて大層不機嫌な・・・。


「リセル・ハーネットです。大事な決議の最中失礼致しますわ」

「何事かね騒々しい」

イストル殿が、リセルに問い、そしてリセルが即答したのじゃが・・・これまた彼女らしい思いやりの溢れた真っ直ぐな言葉。

 ・・・少々行き過ぎじゃが、イストル殿の目を覚ますには良い薬かも知れぬ。老いぼれには無い若さという勢いのある薬が。

「イストル様。ご子息が戦死なされた事には心中察するに余りある事ですわ。・・・ですが」

「ですが・・・なんだね」

「誤った判断を下された際。私達の怒りが全て貴方に降りかかる覚悟は決めて置いてくださいませね。

 私達は貴方の私物でも、ましてや貴方の私怨を手伝う気なぞ毛頭御座いませんわよ・・・」


ほっほっほ!若さ溢れるとはまさにこの事か。上の連中に見事な啖呵を切ったものじゃのう。

 イストル殿も顔が青ざめておるわい。然し、ちと言い過ぎじゃな・・・少々後で助け舟を出してやらぬと。


「・・・我等を脅しにきたのか?身の程を・・・」

「弁えるのは貴方ですわよ? 私達を怒らせれば、どうなるか・・・判らない程のお馬鹿ではありませんですわよね?」

「ぐ・・・っ」

ストレートじゃのう。然し決議場の空気が一斉に緩み、僅かに笑いが出始める始末。

 リセルの真っ直ぐな覚悟の前にさしものイストル殿もぐうの音も出ない様子じゃな。

「まぁ、少し落ち着きなされ。リセルや・・・。」

「セオ様?お言葉ですけれど。あの惨事を最小限度に抑えた者を処刑などと。断じて許せませんわ。落ちついていられませんわ全く・・・!」


ふうむ。いつも冷静に判断をするリセルらしく無いのう。・・・まぁあれだけ妹の様に大事に守ってきたメディの、大願を妨げておるのじゃ。

 冷静になれと言うのも少々無理があるかの・・・。


「ともあれじゃな。どうかね・・・?イストル殿と他の方々。思わぬ所から、決議する者以外の率直な意見を聞けたわけじゃが。

 確かに、あの力は禁忌かもしれぬが・・・ワシは信用したいのじゃがね。リセル同様、この国を守る力足り得るモノじゃと」


暫く沈黙が続く。思わぬ所から伏兵が来たもので半ば力押しとなってしまったのじゃが・・・この沈黙は処刑否決ととって良いじゃろうな・・・。


「ふむ。どうやら反対の意見は無い様ですので、彼、オオミ殿の処刑は否決で宜しいですな?」

「私はもとより否決です」

「同じく」

「・・・仕方あるまい、ここは引くしかありませんな」


「イストル殿・・・言い方に少々不穏な影が見えておりますな」

「おお、これはすまないね。悪気は無いんだよ。ただ息子が殺されて少々苛立ちを抑え切れなくてね」

「ふむ。それは判りますがのう・・・迂闊な発言は控えてくだされの」

「うむ、失礼した」

・・・ふむ。これはどうやら暫くは安心出来そうに無いようじゃな。

 敵は外だけに在らず。真に厄介な敵は内に在り・・・か。

「セオ様、申し訳ありませんわ。いてもたってもいられなくて・・・つい」

「ほ?ほほほ。良い良い。それにリセルや、お主はいずれ此処にに来る者じゃ。先に混ざって勉強しておくのも良いじゃろう」

ワシは髭を撫でつつ、頭を下げているリセルにそう言った。その後ろで、すごすごと隠れる様に出て行くイストル殿と数名。

 それを後ろにやや振り向きつつ確認したのか、リセルが口を開く。

「セオ様・・・なんであんな連中が学園の上に居座っているんですの?」

ほ!?なんとまたストレートな物言いじゃな。いや、まぁ確かにその通りなのじゃが・・・この娘も娘で危ういのう。

「ハハハ。リセル。君はまだ若い。今はそれで良いと思う。失敗を恐れずに経験を積んでいくと良い」

「ですな・・セバル殿」

ワシは同じく髭を蓄えた、ややまだ黒髪の残った壮健な男性であるセバル殿に相槌を打った。

「然しまぁ、なんとも思いやりのある娘に育ったものじゃのう。ワシ等も鼻が高いわい」

「なっ・・・何を仰いますの?わっ・・・私は別にメディの事なんてこれっぽっちも気にしてませんわ。

 ただ、あんな私怨だけで判断されて彼女の大願・・・それも生半可な痛みでは無い苦痛に耐え抜いて、

 ・・・ようやく手にした相方を失わせたく無いだけですわよ」


じゃから・・・それが・・・うむ。なんとも不器用な娘になってしまった様じゃな。

「まぁ、ともあれじゃな。決議は否決。すぐにでもオオミ殿を牢獄から解放する様に伝えてこようかの」

と、ゆっくりとワシが腰を上げると、食いつくようにリセルがワシの方に駆け寄り、息が掛かるほどに顔を近づけてこう言ってきよった。

「セオ様・・・っそれならば私にご命令下されば今すぐにでも向かいますわよ?さぁ早くご命令なさってくださっ・・・いっ・・・なっ!」

「こっ・・・これ年寄りをそんな揺するものでは無いぞリセル」

「ハハハ。やはり早く二人を引き合わせたい一心の様で御座いますな」


「なっ・・・ちがっ・・・ただ命令なら現状、私が一番早く伝えられるからでありましてですわっ!!」

「ふ~む。では何故そんなに顔を赤くしておるのかの?というよりも顔に書いてあるのじゃがな・・・早く二人を引き合わせてあげたいと」

「如何にも。面白いぐらいに書いておりますなぁ」

「なっ・・・なっ・・・なっ・・・!!!?」

目を丸くして慌てて顔を摩るリセル。本当にこの娘は・・・。ワシもセバル殿も流石に耐え切れず笑い出してしまった。


「もうっ。冗談は止して下さいませ。・・・でっでは早速伝達してきますので失礼致しますわねっ!!」

そういうと居ても立ってもいられないのか、走って場を去ったリセル。

「こ・・・これそんなに慌てたらこけて怪我を・・・いってしもうた」

「戦場では、この上無く冷静な彼女も、大事な妹とも言えるメディの事になると見る影も無いですな」

「いや全くじゃな」

その後、決議場は、処刑の事ではなく、リセルの事で談話が弾み、そして朝が来た。





「おはようですわ。アルヴェ」

「む・・・?これはリセル殿。こんな所に何の・・・ああ、オオミ殿ですね」

「ええ、セト様からの伝達ですわ。早急に彼を解放して差し上げて下さいませね」

「というと・・・」

「処刑は否決ですわ。当然ですけれど」

「そうですか。それは良かった。可決ならば一体どうなっていた事か・・・」

「それよりもほら・・・っ。早くあけて下さいですわ!」

私は、何でこんなに焦っているのかしら。正直・・・私らしくないと自分で思うわね・・・。

 アルヴェが牢の鍵を開けるのを見つつ、悩む私。まだ私もそうだけれど、尚更未熟な二人を見てただジッとしていられない・・・?

 メディがどれだけ苦労苦痛を重ね続けたか知っているから気になって仕方ない?・・・うん多分これですわね。きっと。

頭・・・じゃなくて、痛そうに腰を抑えて出てきたオオミを見て少し意地悪をしたくなったのかしら。第一声はこれだったわね。

「初めての牢獄の寝心地は如何でしたかしらね?オオミ」

「あ~・・・最悪だ。あのごつごつした岩肌の所為で腰がいてぇ・・・」

あら・・・意地悪が通じないのかしら・・・? 普通に返してきましたわ。

「そう。じゃあ、処刑は否決。さっさとメディの元にお戻りなさいな。帰り道は判りますわよね?」

「あ、多分記憶にあるんで、いけるかと」

「・・・そうね。メディの記憶が混在して今は整頓しないといけない時期なのね。じゃあ仕方無いわね。私が送りますわ」

「あ、そうか?じゃ頼むわ」

・・・少し言葉遣いがなってませんわね。というよりも正した方がいいかしら?

言葉遣いにムッとしながらも、牢獄を離れ、学園から街の外へ。

「うわ~・・・」

「どうかしましたの?」

「いや、改めて見ると凄い事になってるなと」

またですわ。本当にメディといいこの男といい・・・イライラしますわね。

「オオミ。一つ言わせて頂きますわ。」

「ん?」

「百の謝罪を述べようと考えるなら、そこの瓦礫を一つでも拾って道の整理をした方がいいですわよ」

「あ・・・それもそうだな。いや・・・ごめ」

「ほらまた! その耳は飾りですの?もしかして右から左に直接繋がっているだけかしら?」

全く・・・!どうしてこう・・・意味の無い反省をしようとするのかしらね!・・・イライラするわ。

 

「じゃあ、日が暮れるまで街の修繕を手伝ってから帰るか。ここまででいいよありがとう」

「ぶち殴りますわよ?」

「ぶっ・・・ぶちなぐる?!」

「メディがどれだけ心配しているか、少しは考えなさいよこのお馬鹿!」

「いや、どっち取ればいいんだ・・・何かもうなんつーか」

本当にお馬鹿ね。どうしようも無い程に詰まってないのかしら。頭の中。

「はぁ。メディに会って安心させてから二人で手伝いにこればいいでしょう?」

「あ、それもそうか」

本当にお馬鹿。何度言っても言い足りないわ。お馬鹿お馬鹿お馬鹿あ~っもう!イライラするっ!!

「ほらさっさと歩く!」

「へいへい」

全くもう・・・先が思いやられますわね。

でも、キチンと見てあげないといけないわね。決議場であれだけの事をしたのですもの。私が面倒を見ないといけませんわ。

 悩みつつも半ば崩れかけた街中を歩く、その中に見慣れた男・・・どう見てもリカルドですわね。まだ腕も完全に治ってないのに。

 あっちもあっちで無茶をして困りましたわ・・・。良く見ると他のリンカー達もかなりの重傷で完治していないのにあちらこちらに姿が・・・。

  頭が痛いですわ。・・・でもまぁ、自分の体は自分がよく知っているモノ。無理の無い範囲で動いていると思うしかありませんわね。

「あ、見えてきましたわよ」

「お、ってあれ?」

あらららら、メディもメディでまた無茶してるっぽいですわねぇ。

「お~いメディ!そんな所で何し・・・うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」

あら、やっぱり相当心配していたのね。勢い良くこちらに走りこんできて、抱きつ・・・というよりも体当たりしてますわね。どう見ても。

 突然の勢いに負けて倒れこんだオオミを見て笑う私と、その上に馬乗りになって彼の首を掴むメディ。

「バ・・・カ!!」

・・・メディにまでお馬鹿いわれてますわ。救いようが無いですわね。

「ちょっいてぇっ!!はなせっマジで死ぬっ死んでしまうっ!!!」

「そのまま死んでしまいなさいなもう」

「冗談きついな!リセル!!」

「あら、私を呼び捨て?・・・いい度胸ですわね」

「あいえ、リセル・・さん」

「さん?」

倒れているオオミに差す光を遮る様に覗き込む私。

「あ、いやすんません。リセル様」

「宜しいですわ」

「ちょっとリセル。そんな呼び方させないでよ?」

不機嫌そうに私に言ってくるメディ。

「いいじゃない。男に様をつけられるの好きなのよね・・・私」

「うげぇ・・・ドS気質たっぷりだな。」

「なんですの?それ」

「あいえ、こっちの事でリセル様」

たまにわけのわからない事を言うわねこの男。・・・まぁいいわ。さて、用事は済んだし私はお暇いたしましょうかしら。

「じゃあ、私はこれで帰るから、判っているわね?オオミ。」

「へいへい判ってますよリセル様」

「何か言い方にトゲがありますわねぇ。まぁいいですわ。ごきげんよう」

私は軽く一礼をすると、再び学園の方へと歩を進める。まだやるべき事がありますわ。

 街の修繕を横目に足早に学園へと戻った私は、あのイストルの私室の前へとやってきた。

そして静かに、扉に耳を当てて中を探る。

「さて、どう致しますかな?」

「オオミという輩には消えて貰った方が・・・」

「然しどうやって?」

「何・・・荷の重い任務を与えてしまえば良い」


・・・案の定腐れた考えばかり張り巡らせていますわね。けれど、荷の重い任務・・・利用しない手はありませんわね。

 メディ達を鍛えるには丁度宜しいですわ。ここは捨て置きましょう。

私は、その場を後にし、街の修繕に向かった。



「それで・・・レガートとの件は如何なされましたかな?」

「ああ、順調だ。と、声が大きいよ君・・・」

「それは、申し訳ない」


「気をつけてくれ給えよ。私がこの国の実権を握る為の大事な事だ、他に漏れては困る・・・」

第六話。最後まで読んで頂きありがとう御座います。本当の所、展開はもつとヘビーな内容だったのですが、余りドロドロさせると重すぎるかな?と思いまして、軽量化をしてあります。今回はイベントフラグの成立・・・のような感じを目指して作りました。

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