第五十七話 「溶岩の海」
五十七話目となります。
視点の切り替えを一話ごとに変えて試しております。
今回はシアンメイン。
「にゃろ!! アリセア!仔竜になんぞ!」
「バカタレ! そんな事したらなる前に首を折られるよ!」
ケリウという男に捕らえられ、首を押さえられているガット。
それから逃れようとアレをやろうとしたみたいだけど…。何処まで頭悪いんだかねこの子は。
「その通りだ。迂闊な事はしない方が利口だ小僧」
「竜化なんてさせたらちょっとやばいしね~?」
どうにもならんかねこりゃ…。 ちっ! さっきの子供。神族のリンカーか…力場をぶつけてきやがったわね…。
「く…また難儀なモン作ったねレガートは!」
然しこの力場に奴等も耐えている事になる、アタシはそこまで動けないワケでも無い。
逆に都合が良いか。…ん?
その瞬間、周囲にいくつか何かの塊が落ちて、瓦礫が砕け散る。
「ありゃあ、リセル君達かい…ケルドに足止めされてるね」
その声にも男の方はアタシから目を離さない。…ちっとぐらい意識向こうに行くと思ったんだけどね…。
そのまま暫く睨み合いが続く。
「だーっ! もう師匠! 俺様ごしぶん殴れ!!」
「生憎とこの状態だと手加減できなくてね!」
下手すりゃガットまで殺しかねないからね。
さて、どうす…今度はなんだい! 再び上空に視線を移すと、オオミ君が来た様だね…って。
あの時のアレをやるってのかい。 ここに居る事知ってるのかね!?
…まぁ、巧く外してくるだろうから、その爆風を利用してガットを助けられるか。よし。
「ガットとアリセア君。ちっとキツいのくるみたいだから頑張って耐えるんだよ!」
「何がくるってんだ師匠? て、なんだありゃ!?」
「どういうこ…きゃーっ!!」
上空から巨大な火の玉が空気の渦を巻いて落ちてくる。
以前に見せたオオミ君の技の一つだね…、魔力も何も使わないのにヤケに破壊力のある。
その瞬間、少し離れた所にソレが落ち、激しい地響きとともに爆風と瓦礫の破片が飛んでくる。
「ぐあっ!? なんだ!」
「なになに! 今度なによもう!」
瓦礫の破片が男の背中に突き刺さる。
それに意識を取られた瞬間を狙って一気に詰め寄り、ガットを掴んでいる腕を引きちぎった。
「ぐっ…貴様!!」
更にガットを遠くに回し蹴りで蹴り飛ばし、その回転力で更に裏拳を男の顔面に見舞う。
大きく横に仰け反った男。それにもう半回転して蹴り飛ばす。
その直後に、熱を帯びた土煙が今度は爆心地から雪崩の様に迫ってくる。
「あつっ…! ったくオオミ君も手加減をしらないねぇ」
男は…だめだね。視界がほとんど…今度はなんだい!!
再び激しい地響きが起こり、今度は地割れがいくつも足元で起きる。
「上で何してんだい全く!!」
いくらケルド相手にしてるってもね。 こっちの事も少しは考えて欲しいモンだね!!
「師匠みっけ!!」
「あつっ!!目にほこりがっ!」
「ああ、無事だったかい、 それよりアンタ達この地下に何かあったかい?」
爆心地の少し向こう、さっきの何かが落ちた所。
そこに…よく見えないが…人影が二つ。 さっきの小さい子のリンカーは爆風に巻き込まれて行方が判らない。
「地下? ああメディ先輩がいるぜ!」
「確認はしてませんけど、ケルドさんがもういかにもそこって目で」
成る程。 んじゃさっきの地割れで出てきたか、ケルドに連れ出されたか。
どちらにして…ぐはっ!!
「なん…だいこりゃ」
「おもっ!!!」
「重い…っていうか…潰れちゃうよ!」
周囲の瓦礫が砕け、地鳴りが酷い。 なんだいこの馬鹿げた力場は。
まさか…メディ。…ユグドラシルの実かい。
「アンタ達、油断するんじゃないよ。 どうやら一番恐れていた事になってる様だ」
「どういう事だよ! つか重過ぎて立ってるのがやっとだぜ!?」
「体がきしむよっ!!」
「ユグドラシルの実…メディの精霊力といえばわかるかい?」
「かーっ! メディ先輩ブチキレてんのかよ!!」
「…まぁ、そんな所だ」
ん? 少し軽くなったね…上空にケルドが連れていったのか。
それを見上げていると、目の前にケルドが現れる。
「ふう。流石に至近距離だと耐え切れませんので、こちらに」
「ケルド…アンタ。 なんて事してくれたんだい。 封印の方がまだ可愛いじゃないか」
「ケルドのニーチャン!! メディ先輩に何しやがった!!」
全くだ。 然しこの状態だと戦…冗談じゃないなんだいありゃ。
周囲のモノを燃やしながら、粘度の高い赤い溶岩がゆっくり中心に向かって流れてきている。
「溶岩…!? メディか…」
「うげ!! 何か向こうから…いや、あっちからも溶岩流れてきてるぞ!!」
「いやーっ!!」
「ああ、先程メディさんが力を使った時に、溶岩が外周から噴出しましてね。
まぁ、もう外周の者達は生きてはいないでしょうね流石に」
その言葉が終わるや否や、ガットが飛び出しケルドに殴りかかる。
それを転移でかわして、瓦礫の上に立つ。
「てめぇ…!!」
「ガット落ち着きなさいって!!」
「なんて事してくれたんだい全く。 もうこれじゃレガートはお終いさね」
さて、どうにもこうにも、取り合えず溶岩から逃げないとね。
…!! なん…だいこりゃ。 まともに立っていられない。
さっきとは比べ物にならない力場が圧し掛かる。
その直後、上空で耐え切れなくなったのか、オオミ君達が落ちてきた。
激しい土煙を上げて、必死に起き上がろうとしているけど…とてもじゃないけど無理だねこりゃ。
「大丈夫…かい? アンタ達」
「シアンさんか! 洒落になってネェよ! なんだこの重さ!!」
オオミ君はわりと余裕あるのか口が聞けるが…周りの連中は口も聞けない様だね。
「ハハ。…流石に私も辛いので、少し逃げさせていただきますよ」
そういうと、転移で消えてしまったケルド。
「畜生…!!」
ジワリジワリと流れてくる溶岩、更に圧力を増し続ける力場。
冗談じゃないね! このままだと全員お陀仏だよ!!
流石に耐え切れなくなったのか、全員地面に這い蹲る形になり、その正面に…。
「メディ…アンタ…」
「メディ! やめろって…の!」
まだ喋れるのかい…アンタもいい加減頑丈だねぇ。
「…どうして私を捨てたの? オオミ」
なんだい? 何か言ってる様だけど…。
ってオオミ君、立てるのかいこの中で。
地面に足と腕を叩きつけて、歯を食いしばり立ち上がるオオミ君。
「捨て…てねぇよ」
「捨てた…捨てた!!」
捨てた? …何か良く判らないけど、どうにもこれは任せるしかなさそうだね。
…!! また地響き今度はなんだい次から次へと…赤竜?
メディとオオミ君の少し後方に赤竜がコチラを見て立っている。
「貴様か!! この力場の主は!!」
うわちゃ…怒ってるね。 然し流石に赤竜。この中であそこまで動けるのかい。
「あ…あんた。サザの…息子かい?」
何とか声を出して、彼の気を引こうとする。
「ん? 貴様もあの赤髪の小僧の仲間か。 そうだ俺はレガ。
サザは親父だが…それよりも…この力場の主を消し飛ばす方が先だ!」
くっ…口をあけた…まさかこんな所でブレス吐くつもりかい!!
「やめろレガ! 頼むからソイツはやめてくれ!」
「ガッ…ト! アンタ立って…」
「赤髪の小僧か。 然しコイツを消さねば全員が死ぬぞ」
「ニーチャンが止めてくれる! もう少し様子みてくれよ!!」
「…条件は果たした。 悪いが好きにさせてもらう」
「レガ!!」
そう言うと、あの時よりかは小さいんだろうね。
それでも強力なブレスを吐き、メディの方向とは違う別の場所。
溶岩が流れてきている周囲に大きく溝を作る様に吐き出した。
「これで時間は稼げるな。 親父の死に様を言わずに死なれては困る」
「流石…サザの息子だね。 気前が良いね…ぇ」
「ありがとよ!レガ…ぐはっ」
気が抜けたのか、一気に地面に叩きつけられたガット。
どこにそんな力あったんだい。
にしても、オオミ君がどうするのか。
「オズ。早く解いてくれ」
「…しんぱくどうきかいじょ…かいせきしゅうりょう…」
元の姿に?… オズ君が危な…何? ・・・ああそうか。
彼女も人為的に作られたとはいえ、ユグドラシルの実か。
この力場の中で普通に立っているオズ君とメディ。
二人とも化物かい全く。
「おら…早く俺にリンカーフェイズ…して、記憶見てみやが…れ。メディ!」
「…捨てた! みたくない…もう見たくない!!」
そのままオオミ君がメディ君の肩を掴む。
「いいから…見ろって。 俺ももう…まともに立ってられない」
「うるさいっ!!」
地面から突然生えてきた木の根がオオミ君の腹部を…これはヤバイね。
「ぐは…メディお前…」
大量の血を口から吐き、その血がメディにもかかる。
「もう…見たくない。 全部…全部!!」
更に圧力が増し、地面が大きく窪む。
ち…他の奴等気絶したかいこりゃ。…レガ?
地面ごしアタシ達を口に咥え込み、その場を離れる。
上空に来た所為か、わりと圧力が掛からなくなる。
「ふう…って、ゼメキス君!」
アタシは、飛び降りて溶岩の海になりかけている地面にむけて飛び降りる。
地面が近づくにつれ、圧力が増す。 そのまま地面に叩きつけられる様に着地する。
流石に耐えきれなかったのか、足の骨がイカレちまったね。
倒れこみながら周囲を見回すと、少し離れた所で、気絶しているゼメキス君を見つける。
「畜生…!! 思わず飛び降りたものの、どうにもならないねこりゃ…」
痛みと圧力の所為か、流石のアタシも意識が遠くなる。
五十七話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
次回はリセルメインとなります。