第五十二話 「再興」
五十二話目となります。 今回はシアンメイン。
「は~…思ったより酷いねこりゃ」
あの後からも引き続き、遺体の回収と弔い。そして瓦礫の除去作業。
日が経つにつれ悪化していく現状。
遺体の腐敗。腐臭が漂い心身ともに衛生上良く無い。
焼死体はまだマシだけどね…圧死した遺体が…。流石にもう見てられないよアタシも。
腐った肉を貪る蛆虫が大量にわいている。 見た目も悪けりゃ臭いも酷い。
アイツ等がいりゃ楽なんだけど、ケルド達にどこかに飛ばされてあれから音沙汰も無し。
ケルドに殺されちまったかね…。
あれこれ考えながら遺体の腕を引っ張ると、腐った肉だけが千切れ、遺体の手に纏まってしまう。
「だーっ! 掴んで引っ張る事も出来なくなってきたよ…ん?」
半ば諦めていたアタシの視線に入ったのは、ゼメキス君。
あの気の弱い彼だ、この臭いとこの状態とても耐え切れるモノじゃない。
そう踏んでたんだけどねぇ。 変わればかわるもんだよ。
流石にこの遺体を触る事は出来なくても、運ぶ手伝いはしっかりしている。
大した変わり様だよ全く。 寝込んでてもおかしくない筈なんだけどね。
引っ張り出すのが駄目。なら少々荒っぽいが…。
遺体の上に重なっている瓦礫、それを叩き壊す。
地面に深く足跡が付き、震脚と共に拳をいくつも重なった瓦礫に叩きつけ破壊した。
「ふうこれで……うげぇ」
砕けた瓦礫から覗いていたのは、右半分のみ潰れて裂けていた体。
当然腐敗が進行して臭いも酷けりゃ見た目も酷い。
四散した内臓に蛆虫が大量に蠢いている上、
いままで密封状態だったのか…鼻を突く様な痛みにもにた刺激臭が一気に広がる。
流石にこれには堪えたのか、後退り。
「こりゃ流石に…」
お手上げだよ全く。 その場に座り込んでその遺体を眺めていた時、
間の抜けた声と共に、心待ちにしていた声が聞こえてきた。
「あら~…凄い事になってますね~え…」
「すみません会長。連絡が届いてすぐに戻ったのですが、
エルフィから何か出れなくて」
半ば諦めていた、この状況を打開してくれる声。
あのケルドも恐れて、エルフィにまでいかせた程のリンカー。
オリエ君とナグア君。
「生きてたかい! アンタ達!!」
思わず立ち上がり、二人纏めて抱きしめる。
「く…くるしいですよ~…」
「かっ、会長胸あたってます!胸!!」
思わず抱き潰しそうになった。 それ程までに力強く抱きしめた所為か、
二人とも中腰で咳き込んでいるいる。
ナグア・ワトネード。三年のリンカー。オレンジ気味の髪をした坊主頭の元気な子だよ。目はちょい垂れ気味の茶色。
体格もそれなりで、その所為かガットにいつもケンカ売られている。 面倒見の良い奴。
オリエ・シャルト。同じく三年で魔人。水色に近い青の髪を左に纏めて流している。
力の抜ける言動に力の抜ける目付き。頼りない所はあるにせよ、しっかりした面もある。
「で、いくらアンタ達のは飛べないからといって遅すぎじゃないか?」
ん?互いに顔を見合わせて悩んでいる。…なんだ。
「それが…もう少し早く帰ってこれたのですが」
「エルフィの…国境~をその~…あの~」
ああっもう相変わらずいう事もトロいねこの子は!!
「国境がどう…ああ。オオミ君達がエルフィに入った直後だったのかい。
そりゃ仕方ないね。 大精霊クァの結界張られてたからね。
ん? ともすればオオミ君も近い内に戻ってくるのか」
二人とも不思議そうにコッチを見てるね。
ああ、面識無かったね。
「大体事情は判ったよ。 オオミ君てのは…うわさだけは聞いただろ?
メディ君のリンカーになった異界の子さ」
「あ! メディちゃんの。 それは良かった。
で、やっぱ強かったのですか? あの子の力に耐え切れる程の人でしたら」
この子もこの子で、強いか弱いかで判断する癖あるんだよね。
ガット君と似たような似てない様な…。
ナグア君の肩を叩き、軽く笑って答える。
「来た時は、そりゃ頼りない子だったよ。
けど、もしかしたら次に会う時は、アタシより強くなってるかもね。
リンカーフェイズ無しの状態で」
二人とも目を丸くして驚いた後、笑い始めたね。 そんなおかしいかい。
「そりゃ在り得ないですよ。生身の人間で会長に勝てるなら、
雷竜ヴァランと互角にやれますし」
「そうだね~…でも。 エルフィ族の所にいなかったねぇ…?」
なんだい行き違いかい。 互いの顔を見合わせてる二人に言う。
「もし生きてりゃ。そのヴァランと互角以上にやりあってるさ今頃。
そして、うまくすればクァとの契約も済ませているかもねぇ」
エルフィの方を見て、そういうと二人は再び笑い出した。
「ヴァランと互角以上。 その上あのクァと契約。
会長も冗談言うのですね」
「信じられません~…」
オオミ君。散々だね。
まぁ、帰ってきたら判る事だ。
再び、二人に視線を戻し頼みごとをする。
「長旅お疲れの所悪いんだけど、遺体処理ってか移動がどうにもならなくてね。
ちょいと頼まれてくんないかい?」
「はい!勿論ですよ。 じゃオリエ軽くやってしまおうか」
「はい~…」
そういうと、アタシの見ている前で、ナグア君の胸に左手を当てるオリエ君。
「心拍同期…解析開始…」
勢い良く影が地面から浮き出し、包み込む。
見慣れたモンだけど、まぁ…今回は頼り甲斐がある所為かいつもより大きく見える。
影が晴れると同時に出てきたのは、灰色のややゴツゴツした体。
竜に似ているが全くの別物。 単眼の石化獣ガトブレパス。
既に腐敗が進行してるからね。一時石化してもらえると色々と助かる。
「じゃ、宜しく頼んだよ? アタシは瓦礫を砕いてまわるからさ」
「瓦礫を砕くって…。相変わらず生身でとんでもない攻撃力してますね。会長」
「魔人なんですか~…? ほんとに…」
両手を腹の前で叩き合わせて一言。
「ぶん殴るよ」
慌てて、その場にあった複数の遺体を石化して歩いている。
飛ぶ能力が無い分、別の能力に秀でるのは数多くいるけとね…この子達はゼメキス君と同じく特殊な部類。
流石に神族や魔族・精霊・竜には効かない様だけどね。
それでも十分な脅威であり、使い方次第では被害も最小限に食い止められただろう。あの時いれば…。
まぁ、何言っても後の祭り。 今生きてここに居るだけでもありがたいと思うべきかねぇ。
アタシは再び、街の外れ未だに遺体と瓦礫が多く散乱している場所へと。
「たまんないねこりゃ」
周囲に飛び交うハエを払いながら、瓦礫を砕いてまわる。
砕いた直後に中にたまっていた臭気が飛び出してきて、目に染みる程に臭い。
「う…」
流石に眩暈と吐き気を覚えるが、それでも引き続き砕き続ける。
あの子達が帰ってきたなら、瓦礫を少しでも多く除去した方が良いからね。
遺体を石化させて集めて、燃やす時に解除させれば良い。
同時に集めきれて無い遺体もこれ以上腐敗する事も無い。
まぁ…まだまだ瓦礫があるんだけどねぇ。
少し、手を休めて街の中心の方を向く。
「年単位でかかりそうだよ、こりゃあ」
その瓦礫の余りの量に溜息が一つ漏れた。
その向けた視線の先、まだ太陽が昼過ぎ。その方向に一つの影が見える。
逆光の所為かあまり良く認識出来ないが…ありゃ確かに…。
「ガーゴイル、リカルド君達も帰ってきたか」
段々と近づいてきて、アタシを見つけたのか傍に降りて、リンカーフェイズを解いた。
「ただいま戻りましたわ。シアンさん」
「オオミさんはまだの様ですね…。 ただいま戻りました会長」
お~。二人とも相当この短期間で頑張った様だね。
リセル君は内面的な物で外見的には何もかわらないが、リカルド君はこりゃまた酷い。
「お帰り! ボロボロだねリカルド君の方は。 相当セアドとオーマに叩き込まれた様だね」
そういうと、何も言わず頷くと同時に、近くにあった瓦礫をリカルド君は軽く殴る。
軽く殴った瓦礫はまるで統率力を失った様に散らばり、砂の様に崩れ落ちた。
「へぇ。地の精霊の力。 ちゃんと会得してきた様だね!
そいつをケルドのドテッ腹に叩き込んでやんな」
「勿論で御座います。 奴には私の大事な物を奪われましたからね。
これを叩き込んで取り返してみせますよ」
ん? 何か雰囲気が変わったね。 自信…いや覚悟か。
リセル君の隣に付き従っていた時とは大違いだね。
そのリセル君に視線を移すと、不思議そうにリカルド君を見てるな。
「本当に何か雰囲気かわりましたわね。
それは宜しいのですけれど、大事な物を奪われたって何か奪われましたの?」
リセル君の言葉に一瞬戸惑った表情を見せた様に見えたけど、気のせいか。
「私の誇りで御座います」
成る程ね。 当のリセル君は気付いて無いのか、首を傾げている。
「で、リセル君の方はどうだい? 魔王の力きっちり使える様になったかい?」
「勿論ですわよ。ほら」
そういうと、右手を瓦礫の山の方へとかざす。
一人じゃ持ち上げられない瓦礫。というよりも半壊した屋根。
それを空中に浮かび上がらせる。
「こんな事も出来ますわよ?」
かざした掌を強く握ると、その半壊した屋根が粉々に砕け散る。
除ける必要も無い程に細かく砕けた破片が風に乗り、こちらに飛んでくる中、アタシは目を丸くして驚いていた。
「こりゃまた。 大した変わり様だよ。 アタシもこりゃ…うかうかしてられないね」
「シアンさんに肉弾戦で勝てる人間や魔人。そんな者いませんわよ」
「ですね。 私も勝てる気が致しません」
アンタ等言いたい放題だね。
また腹の前で両拳を叩き合わせて一言。
「ぶん殴るよ」
必死で弁解しようとする二人。 そこまで怖いもんかいアタシは。
それから視線をエルフィの方へ移す。
「そいや、エルフィの結界も解かれた様だし。
そろそろオオミ君達も戻ってくるだろうね」
リセル君が顔を近づけて聞いてくる。そんなに彼が心配かい。
「オオミ生きてますかしら。 雷竜とリンカーフェイズ無しでやりあうなんて心配ですわよ。
シアンさんなら心配しませんけれど」
…。
「それはもう会長が相手なら雷竜も腹を向けて降伏するでしょう」
…。
「ぶん殴るよ」
言葉と同時に二人の頭を拳が捕らえていた。
頭を抑えてこちらを笑いながら睨む二人。
「いたっ…叩いてから言わないでくださいませっ」
「相変わらず、口と手が同時に出ますね会長」
ったく。まぁ、何にせよ二人の戦力がアタシに近くなった。いやそれ以上か。
後は、オオミ君の成長次第だねぇ。
再び視線をエルフィの方へと少し向け。
二人を連れて、街の瓦礫の除去を始める。
大分はかどる様になったけど、それでもまだ再興の目処は立たない…ねぇ。やれやれ。
五十二話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
ようやく残りの一組出てきました。
飛べないと移動手段が酷いモノです。
次回はガットメイン。