第五十一話 「過去」
五十一話目の投稿となります。
トータルPVが10万を越えていました。
まだ投稿して日数もあまり経っておらず。
投稿以外に宣伝もしておりません。
それでこれだけ見て頂けるとは夢にも思っておらずでした。感謝です。
頑張って完結まで持っていきます。
地の精霊アラード。 ヨヒアの地を守っていた精霊。
封印を守っていた地竜セラカト。 ヨヒアの封印を守っていた竜。
私は、幼少の頃よりアラードの声を聞き、それを学んでいた。
そして、アラードの住む山の反対側。
村よりも少し離れた山奥に居るセラカトと良く会っていた。
無造作に生い茂る木々を押し倒すかの様な風が強いある日の夜。
私はセラカトが心配になったのか、彼の元へと。
かなりの高齢で、一日に動く量も日増しに減ってきている。
大きめの入れ物に水を汲み、食べ物を抱えて山道を歩く。
強い風が木々を通り、時折人の声の様にも聞こえる。
暫くして、赤茶色の大きな竜が、寝そべる様に寝ているのが見えてくる。
私は、声をかけ、食べ物と水を置く。
彼は少し優しい目でこちらを見る。
然し食べ物どころか、水も口にしなくなった。
死期が近いと精霊アラードには聞いていましたが…、
物心つく前から色々と教わっていた竜。
彼が死ぬ事がとても辛かった。
どうにかならないか、そればかり考えていたある日。
そう、そのある日がこの晩。
もう殆ど意識も無く、まともに動く体力もない程に弱った体。
私は、泣き疲れてセラカトの傍で寄り添う様に寝ていた。
風が更に強くなってきたのか、木々のざわめく音で目が覚める。
その木々のざわめきに、人の声の様なものが混じっている様な錯覚。
いや、錯覚では無く確かに聞こえた。
セラカトを助けたければ、置くにある洞窟に来いと。
彼が助けられる。それが嬉しかったのか、私はそこへ向かった。
そこはセラカトからも立ち入りを禁じられていた場所。
中に何が在るかは聞かされていなく、ただその言葉に従う様に中に入る。
暫くして、青白く光る魔法陣の中心に大人の男性と少女の石像があった。
良く見ると、中央に何かの実の様なモノが置かれている。
その直後また、声が聞こえる。
その実を砕いてセラカトに飲ませれば、まだ当分は生きていられる…と。
それが何であったか、その時点では判る筈も無く。
ただセラカトがまだ生きていられると言う嬉しさからか。
私はその実を砕いてしまった。 封印の楔を安定させる為のモノであったとも知らず。
その後、大きな地震とともに、石像は割れ、衝撃で私は気絶してしまう。
一体何があったのか、外に出ると、セラカトの姿は無く、
慌てて探しはするものの周囲には見当たらず。
泣く泣く村へと戻ると、崩壊したヨヒアと、その中央で死んでいたセラカト。
そして、反対側にある精霊アラードの住む山が崩れかかっていた。
その時、崩れ行く精霊アラードから私が行った事の罪の重さを聞かされた。
それは、砕いてはならないモノであった事。
そして、同時にその石像の男の話を聞き、村を破壊した者がその男と知る。
少女の方も、アラードの余命が無かったのか、詳しくは教えて貰えませんでしたが、
ただその少女だけは護れと最後に言い残して崩れ去った精霊アラード。
その少女が一体何を意味していたのか、今日に至るまで判りませんでした。
ただその男。ファラトリエルの名前と、危険であるという事。
そして、少女を護れという事。 そこから考え出された私の私に対する罰は、
私の生きる時間全てを少女に費やす事。 それのみをして生きる事。
それが私の罪に対する罰である。 そう言い聞かせ続け、彼女、リセルの傍らに在り続けた。
見つける事は容易かった、いや誰かが引き合わせたのか? それは判らない。
もう古い事なので、顔すら覚えていない。
ただ、身よりも無く近隣にあるイグリスに引き取られた先、近所にその少女が居た。
どこか儚げで余り感情を持っていない彼女がそこに居た。
それから私は彼女と共にあり続けて数年、彼女にあの弱々しい…いや、精神が壊れていた。
そうセアドから聞きましたね。
精神が壊れていたが、彼女を養っていたご家族は、…私の所もですが、決して裕福ではなかった。
その所為かそれとも、
記憶の一部にあった戦いのソレを体が覚えていたのか。
育ての親の為でしょう、瞬く間に彼女は繋ぐ者としての才覚に目覚め、
戦いの中で壊れた精神を取り戻していった。
イグリスの学園始まって以来。異例の若さで戦場に立つ事になる。
ご家族を養う為だろう。私は常に彼女の盾となり共に在り続け、メディさん達と出会う事になった。
…然し、盾で在り続けるだけでは、その罪の重さに耐え切れるモノでは無い。
それを実感し、セアドの前に立っている。
白で統一された、優しい母親の様な容姿。その中にはとても厳しい一面を持つ彼女。
私は今、彼女の元でアラードから授かるも会得出来なかった、砕を会得する為の試練を受けている。
「随分、受け入れられる様になりましたね。 リカルド」
彼女の力の圧力。それは周囲の小さめの岩に亀裂を入れる程の物。
それに耐え、彼女が木々の根を操り私の体目掛けて打ち付ける。
それをかわし、目標の岩を砕く。 ただそれの繰り返し。
それが繰り返され、ついに一つの事を会得するに至る。
それは、彼女の力の圧力、それを跳ね返すでも受け流すでもなく、受け入れる。
受け入れてそれを利用して動く。 脱力から動く瞬間に必要な部分だけ緊張させて動く。
そういう感じのモノで説明するに難しい。
それだけに精霊セアドはソレに対し何も語らないのだろう。
「これで、少しは…これからの戦いに私もついていけるのでしょうか」
少し表情が険しくなる精霊セアド。
「罪重き人間。 貴方はいつまで着いて行くのです」
「と、いわれます…ぐ…ぁあっ!!」
まだ本気も出していない。それは判っていましたが、受け入れる 受け流す。
そういったモノを遥かに凌ぐ圧力がかかり、周囲の岩が砕け、
叩きつけられた地面は隆起し、大きく陥没した。
「もう一度聞きます。 着いて行くだけですか?」
そう。彼女に着いて行く。そして護り続ける事こそが…更に圧力が増し体中の骨がきしむ。
「ぐ…ぁぁあっ!!」
それ…以外に何が…。
「一体いつまで逃げるのです」
激しい痛みが意識を奪おうとする。 しかしそれを阻む様に太い木の根が背を打ち付けてきた。
…。着いて行く。そう付き従い護り続ける事こそが私の罰。
それ以外に何が。
「判りませんか。 罪を犯した者は罰を自らで受ける。
その罪と罰を背負い続けなればならない。
まだ貴方はリセルを、言い逃れの対象としていますね」
…背負う。…そうですか、まだ私は罪から逃げようとしていましたか。
ならば今貴方が加えたこの重みをも、背負って歩いてみせなければなりませんね。
私は、渾身の力で、右腕を地面につきたて、全身の力を使い立ち上がる。
「立ちましたか。 リカルド、それが貴方の答えですね」
「罪と罰は受け入れ、そして…背負い続けるモノであると…そういう事で御座います…ね」
陥没した地面から、一歩一歩、ゆっくりと全身を奮い起こし彼女に歩み寄る。
「そう。言うなれば覚悟。 貴方にはそれが無かった。 もう大丈夫でしょう」
彼女がそう言うと、周囲の圧力が消え。元の重さに戻る。
私も同時に全身の力を失い倒れこみましたが、彼女に抱きとめられた。
「アルセリア様の教え。これも失われた部分があります」
力を使い果たした私の体を、赤子の様に抱く彼女は優しく微笑む。
「罪を犯した者は自分自身で罰を与え、それを背負い続けなければならない。
そして、それを認めた者は罪深き者を赦し、その重さを分かち合わなければならない。
それが、アルセリア様の教え」
不意に頬を涙が伝った。 何故かは判りませんが、とても安らぎを覚えました。
然しやはり疑問は生まれる物。
「お言葉ですが、とても素晴らしい教えと思いますが…」
「行う事は難しいでしょう。 然し、行おうとする姿勢にこそ、その意味があるのです」
返す言葉も無い。私は静かに目を閉じて彼女の言葉を聞き入れた。
「良いですか。罪は決して消える事は無い。ですが、背負い歩く者の背を支える事は出来る。
それがアルセリア様の御心です」
成る程。 私は目を開けて、体を奮い起こし、彼女の胸から起き上がる。
「成る程。つまり…。アルセリア様は互いを支えあう事で、
憎しみを消し去ろうと考えておられると」
「そうです。 ですが、決して憎しみ…負の感情は消える事はありません。
それは紛れも無い事実。 ただ、それすらも受け入れて共に歩く事は出来る」
「生きている間に是非とも、その御心を学びたいモノですね」
私は空に浮かぶ双星に視線を移す。
精霊セアドも視線を空へと。
「それは、叶わない事でしょう。
ですが…いつかは封印は解かれ。その時に貴方の子孫がそれを学ぶ事もあるでしょう」
「そうですね。 私もケリアド様では無く。
アルセリア様の代行者たる貴方の教え。それを伝えて歩いていきましょう」
精霊セアドは私の方へと再び視線を向け、立ち上がる。
「彼女の教えは大変厳しい。 ついてくる者も数少ない。
共に歩める者が出来た事は嬉しいですが…、私の事は決して誰にも伝えてはなりませんよ」
「それは、重々承知致しております」
「宜しい。 では、リセルの元へ戻りなさい。私が教えられる事は、もう何もありません」
そう言い終わると、彼女は目の前から突如として霞の様に消えてしまった。
また、出逢う日が来ると良いですが。
…本当に強く厳しい方の様ですね。
自分の娘にあたるメディさんに、母親である事を伝える。
それが出来ないというのに。
あれこれと考えながら、体を引き摺りつつディエラさんの住処の前まで辿り着く。
そこに目に入ったのは、オーマさんでした。
「あ~らっ! 見事にズタボロねっ!? でもその顔を見る限り…」
「ええ。もう貴方の本気にも動じませんよ?」
見た目には動じたいと思いますが、それはさておき。
その日は体を休める事なり、ベッドで夜が来るまで寝ておりました。
年季の入った手作りの家具。
形は少し崩れていますが、それが逆に良さを感じさせる。
そんな室内を何気なく見ていると、入り口からリセルさんが帰ってきたのが目に入る。
「あら? 帰ってきてましたのね。…お見事なまでにに満身創痍ですわね」
心配してくれたのでしょうか。 いつもの憎まれ口気味の口調で歩みより、
私の寝ているベッドの横に座る。
「いやはや、精霊セアドの教えはとても厳しいモノです」
「どんな教え方されたのですのよ」
「それはもう…筆舌に尽くし難くで御座いますね」
苦笑いしつつ答えた。
それを不思議そうに見てくる彼女。
「…何か少し感じかわりましたわね? リカルド」
「そうですか? 私は私ですが」
首を傾げて考え込んでいますね。
私も自分がそんなに変わった様には思えませんが…。
「ま、良いですわ。 では明日からはリンカーフェイズして、
ディエラさんとオーマさん相手にしますわよ」
「かつての魔王を相手にする気ですか…。
いや、実に貴方らしい」
「なんですのよそれ」
それからは、ディエラさんオーマさん揃って、森の外で手解きを受ける事になりました。
化物。そう思い知らされる程の強さ。
それを繰り返す日々が続き、私達はイグリスへと戻る事になる。
ある晴れた、少し空気の冷たい朝。
既にリンカーフェイズして、ガーゴイルへとなっている私と、その肩に小さくなったリセルさんが居る。
「じゃ、いってきますわね」
「どうも、ありがとう御座いました」
軽く笑って答える二人。
「いえいえ…久しぶりに良い運動になったわよ…」
「んもうっ! もうちょっと強くならないと駄目よっ!?」
私は苦笑いを浮かべつつこう返す。
「いや…美しいオーマさんが強過ぎるのかと。
では、また」
そういうと、翼で風を作り地面に叩きつめて空へと。
私達は一路、会長の待つイグリスへと戻る事となった。
五十一話目、最後まで読んでいただきありがとう御座います。
これでリセルとリカルドはシアン達と合流する形となります。
次回はシアンメインとなります。