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第五十話 「魔人の祖」

五十話目となります。 今回はリセルメイン。



あの出来事から、リカルドが姿を消した。

 オーマが言うには、セアドの元に行ったと。

理由は聞くなといわれましたけれど、気になりますわね。

 相変わらず、私は巨大な木が周囲を囲う波一つたっていない泉の前で、

  ディエラに教えられた事を繰り返している。

魔人である私が魔族…それも昔話に出てくる魔王の力を使える。

 それは魔王の娘であるという事。 …でも、当の本人達が魔族は愛を持たないという。

愛は持たなくても子供は作れるみたいだけれど…うーん。 わかりませんわ。

大体そんな昔の事。 血脈が受け継がれていた? でもそんな大それた血なら伝わって無いとおかしい。

…判りせんわ。


それよりも、オオミはうまくやっているのかしらね。 

エルフィにあの子供とアリオと行ったみたいですけれど。

 生身の状態で雷竜と戦うなんて無茶過ぎますわよ。

少し、泉を離れ木の木陰に座り考え込む。


メディ、大丈夫かしら…。

 シアンさんの考える事もわかりませんし。

本当…判らない事ばかりですわよ。

俯きながら、考える私の前に一つ影が落ちる。

  「あら休憩…? でも、随分と使い慣れてきたみたいねぇ…」


黒く長い髪に、彫りの深い整った顔。目は黒く眼が赤い…。

 スタイルはもう…悔しい事この上無いですわ。

ディエラ。 魔王と呼ばれた者の片割れ。

 そもそもなんで二人に? ふう。

  「少し、考え事ですわ」

私のすぐ隣に座り込んだディエラ。

  「自分の出生が…きになる?」

  「勿論ですわよ…私の本当の親も判らない。どこの生まれかもわからない。

    何者かすらも判らないなんて…」


私の頭を軽く撫でてくるディエラ。

  「そう…ねぇ? 少なくとも、リカルドは知っている…」


え? 私の出生を? そういえば…ずっと私についてますわね。

 子供の頃から、リンカーだからと思ってましたけど。 

  「でも、それを知っているって事は、ディエラも知っていますわよね?」

  「あら…つい」

撫でられた手を払い、ディエラに詰め寄る。

  「私は誰ですの? 魔王でも無いのにその力が使える。

    魔人なのに、魔人のそれとは違う事が出来る。

  本来女性がリンカーになる事自体ありえないのですわよ」

困った顔で泉を見るディエラ。

  「そう…ねぇ」

  「そろそろ、頃合の様ですね」

あら? 聞きなれない声ですわね。ふと声の方に視線をやると、

 白で統一された細身の綺麗な女性が立っていた、そして、隣にはリカルド…。

と言う事は、この人が精霊セアドかしら。

  「そちらも順調の様ですね」

立ち上がり、リカルドの傍に歩み寄る。

  「一体何処で何してましたのよ? リカルド」

笑いながら返してきましたけれど、全身凄い傷ですわね。 一体何してたのかしら。

  「リカルドその傷は…?」

  「いや、あはは。 少し修行をつけて頂いていたのです。偉大な精霊セアドに」

  「セアドに…そういえばオーマがそういってましたわね」

  「はい」

視線をセアドらしき女性に移すと、彼女は軽く微笑んで口を開く。

  「では、リセル。 貴女はこの時代の魔人ではありません」

この…時代の?

  「どう言う事ですの?」

泉の方に視線を移したセアドは続きを語りだした。

  「空に浮かぶ双星。そこに封印された神。

    アルセリアとケリアド。 互いの教えが代行者となった者達の争いの元となりました。

   私はアルセリアの代行者。 そして魔王エヴァリアはケリアドの代行者」

ディエラは少し脅えている…のかしら。 

 そういう声色で喋りだしましたわね。

  「そう…ね。 もうセアド貴女を敵に回したくないわぁ…」

  「ディエラ。貴女は自らの罪を受け入れ自分の力を二つに分けた。

    戦う力の大半を捨て、この森に住まう者を護る事を罰と定めた。

   アルセリア様もお喜びになられるでしょう」


今度は嬉しそうに答えるディエラ。

  「そう…。ありがとう」

でも、代行者…?

  「ねぇ、セアド。 代行者ってなんですの? 今聞いた限りだと、

    神の教えを執行する者。という所かしら?」

ディエラから視線を私に移す。

  「そうです。 アルセリアの代行者、大精樹ユグドラシル。

    ケリアドの代行者は善を唱える者全て」

  「…! じゃあ、貴女が、ユグドラシル? メディの…」

う…何か気に触る事いったかしら。少し表情が険しくなりましたわね。

  「そう。ですがそれは誰にも言ってはなりません。

    メディにも同様です」

  「そんな! メディのお母様なのに、せめてメディには…」

  「なりません。 本来は種がその生涯を終え大地に芽吹くまで、その力に気付いてはならないのです。

    ですが、ファラトリエルはそれを気付かせようとしている。

    そして彼は貴女と共に封印の楔になる事を望み。 今度はその封印を解こうとする。

    正直私にも何を考えているのか判りません」


メディが可哀想ですわ。それじゃ…。って、 今…なんて…。

  「私と共に…ですの?」

  「そうです。 貴女はファラトリエルと共に封印された魔人の祖。

    時が血を薄め、本来の魔人の力が失われた現在。

   彼の取った選択は間違いでは無かった。そう思いますが、何故封印を解こうとするのか」


本当に判らないみたいですわね。 考え込んでますわ。

 …あら? 何かリカルドが言いたそうですわね。

  「どうしたのかしら? リカルド」

  「その、ファラトリエル…ケルドの封印を解いてしまったのは私です」


…! じゃあ…。

私はリカルドからセアドの方に視線を戻す。

  「その通り。彼がイグリスで起こった事の全ての元凶です。

    そして、彼の故郷ヨヒアも滅んでしまいました。

    その地で封印が解かれた時、貴女は記憶と自我がほぼ無い状態で彷徨いイグリスにたどり着きました」

  「そして、それを追う様に私もイグリスへと、

    そしてリセルさんの事は、地の精霊アラードより聞いておりましたので、貴女を護る事。

     貴女の護ろうとするメディさんも、護る事を私自身に対する罰と定めました」       


じゃあ、私は魔王の娘の子供で魔人の祖だと。本家本元の力があると。

 それよりもリカルドが…。私はリカルドに視線を移すと申し訳なさそうな顔で口を開く。

  「すみません。騙すつもりもなかったのですが、過ぎた知識は…」

  「精霊アラードの教えを守っていたのですわね?」

  「はい」


じゃあ、後は魔人の本来持っていた力。 血が薄れて…ってことは他にも居たのかしら。

  「血が薄れたって事は、他にも子供が居たって事ですわね?

   それは良いとして、 本来持っていた力。 それがケリアドを追い詰める決め手になった。

    そういう事で宜しいの?」

  「そう。血は薄れ、その力は失われました。

    ケリアドの脅威が去り、使う必要がなくなった所為でしょう。

    ですが、何れ封印は解かれる。 そういったファラトリエルは貴女と共に楔となった。

   本来の力は、生まれ変わる前と、今存在する多くの者とを繋ぐ力。 

   貴女はまだ幼い頃、精霊・魔族・人間・神族。

    多くの者を繋ぎ合わせ、一人の新たな神となりケリアドを追い詰めたのです。

   ただ、その力に耐え切れなかったのか、滅ぼす前に精神を壊してしまいました。

   ですが…どうやらイグリスでの時間がそれを癒した様ですね」


私の力。繋ぐ。 生まれ変わる前も現在も? …それでケリアド、創生神の一人を。

 とんでもない力ですわね。 でもそれでも倒せなかった…でもどうやって封印を…。

  「でもどうやって封印をしたのですの? 神…ああ。 味方側にもいたのですのね。

   アルセリアという創生神の一人が」

  「そう。そしてアルセリアがケリアドと共に従属神4人を楔にして空へ封印したのです。

   そしてそれは、自身とケリアドの罪に対する罰であると」


成る程ですわ。

  「大体の事は理解出来ましたけれど、イマイチ実感がありませんわね」

微笑みながら私にこういってくるセアド。

  「貴方は記憶の大半を失っています。 ただその力の認識が強まった。

    ですが今はまだ使えないでしょう」

  「ど…どうしてですの? ケルドを倒す決め手になりそうなのに」

  「記憶を失っている。 余程の事が無いとその力は目覚めません。

    それでもファラトリエルならば、倒す事は易い。

    ですが、完全に消滅させる事が出来ない」


どういう事ですの。次から次へと。首を傾げて私は悩む。

  「どういう事ですの? 倒す事は出来ても消滅させられないって」

  「過去に風の精霊フィアに倒されたのです。

    アルセリア様が説得している最中に。 ですが、暫くして彼は生き返ってきました」


殺されたのに生き返ってきた? なんて奴ですの。

 俯きながらふと周囲に目をやると、リカルドも真剣に聞いてますわね。

 ディエラも…。

  「じゃ、じゃあ、何で生き返ってきたのかしら」

  「それは、私にも判りません。 ただ彼は行動に統一性が無く、

    相手の考えにより自分の行動が常に変わっています。

   時に敵であり、時に味方であり。ただ価値が見出せなくなる。

   もしくは、別の者に興味を持つと、敵味方問わず殺してしまいます」


良く判らない奴ですわね。

 まぁ、でもスッキリしましたわ。

私が何者なのかそして、ディエラとオーマが私のお婆ちゃんになるのですわね。

 まだ見た目若いですのに。

  「判りましたわ。 胸のつかえが取れましたわ。ありがとうセアド」

  「いえ。そろそろ頃合でしょう。 魔王の力も使い慣れてきた様です」


それに頷き、視線を泉に移し右手を泉に向ける。

 あの時判りましたわ。意識しても無駄。 ただ思いみたいなものを込めるだけ。

それしか例え様が無いこの力の使い方。

 その直後、泉の水は風を伴う事も無く、巻き上がり、再び泉へと雨の様に落ちた。

  「こういう具合ですわよね?」

  「もう…大丈夫そうですわねぇ…」

  「素晴らしいですね」

  「ですが。必要以上に振るわない事。 本来は過ぎたる力と知りなさい」


流石に、自分で自分を罰する事を伝える者ですわ。 本当に厳しそうですわね。

 でも、確かに余り使ってはいけない。そう思いますわ。

  「判りましたですわ。 勿論気をつけますわよ」

  「宜しい。では、リカル参りましょうか」

  「承知致しました」

私とディエラに一礼して、背を向けたリカルドに、右手を軽く振る。

  「リカルド、貴方も頑張りなさいですわよ?」

  「勿論です。 では」


あら…何か素っ気無いですわね。振り向きもせずに行ってしまいましたわね。

 ま、いいですわ。 私も私でやる事を。

その場を去っていくセアドとリカルドを見送って、視線をディエラに移す。

  「結局、お婆ちゃんでしたのね。貴方」

少し怒った様な表情を見せるディエラ。

  「もう…まだお婆ちゃんなんて言われる歳じゃないのよ…?

    だから言いたくなったのに…」

  「それが理由だったのですの!?」

  「まだ私も…若いのよ…?」

  「な…何千年も生きてまだ若いなんておかしいですわ!!」

二人して、泉の方へと視線を移す。


  

  「ま、まぁ。全く実感沸きませんですけれど。

    …肉親が居たのに安心しましたわ」

  「でも、お婆ちゃんは…やめてよね…?」

  「いつもどおりディエラと呼びますわよ。 

    今更お婆ちゃんとか言い難いですわ」

  「そう…」

そのまま暫く黙って、私達は泉を眺めていた。




私の事は大体判りましたけれど、聞いた限りだとアルセリアは良い神だったと。

 でも、ケルドの奴もアルセリア側。 封印の楔にまでなった。

ソレを何でリカルドに封印を解かせて、今また封印解こうとしているのかしら。

アルセリアを助ける為? でもそれだと彼女の意に背くでしょうし。

ケリアドまで野に放たれますわね。 私達にケリアドを討たせる為? …判りませんわ。


…オオミが何か掴んでいるかしらね。

 そういえばオオミ大丈夫かしら。 ち…ちょっとだけ心配ですわね。      

五十話目、最後まで読んでいただきありがとう御座います。


今回でリセルの出生やら素性等が出てきました。

 ある程度ケルドの行動も出てくる様にもなりました。


次回はリカルドの過去となります。

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