第四十六話 「遺児」
四十六話目となります。
今回も引き続きガットメインとなります。
「さて、参りましょうか」
「おう!」
俺様達は、服を着替え朝食を済ませ、暫くして来たケルドのニーチャンに連れられて城内を歩いている。
テキトーに伸ばしている赤い髪に、この黒い服は中々映えてていいな! ちょい窮屈な気もするが。
アリセアも似たような感じで、ほとんど露出も無い軍服に近い服だ。
さっきから黙り込んで俯いて歩いてるが、何か考えているのか?
判らないが、取り合えずイドとマリアの居場所が判るわけだな。
歩きながら周りを見ていると、灰色で統一された殺風景な通路。
たまに窓があるが、それ以外は何も無いといった感じだ。
何か牢獄みたいだな。
それを見ながら、暫く歩いていると、道が左右に分かれる。
そこを右に曲がり進む。 ん? 何か窓が多い、俺様は少し覗き込んでみると…あれは。
「何で赤竜のジーサンいるんだよ」
窓にへばりついて見ると、明らかに死んだ筈の赤竜のジーサンみたいな竜が、
何か良く判らん魔法陣の中心で丸まって寝ている。
「え? どこどこ」
ぐぁっ、首が折れるっ!! 俺様の頭を押さえつけ、身を乗り出してアリセアが覗き込んできた。
「あれ? ホントだ。 でも…サザじゃない気がする」
ん? ああ、ジーサンにしちゃ、確かに少し小さいな。
だとすると別の赤竜か?
「ああ、あの竜はレガと言う赤竜ですよ。
大変気性が荒く、捕獲するのに多くのリンカーが死にましたが」
レガ? 何かどっかで…ああ! ジーサンの子供か! こんな所にいたのか…。
「じゃ、じゃあ。サザの…」
「そうなりますね。 今は見ての通りですが、暴れだすと手の施しようがありません。
ですので、動きを封じさせて頂いておりますね」
何で動きを…つかそれ以前に何で捕まえる必要が…。
「これは申し上げる訳には参りませんが…、まぁじきに判る事ですから」
んだよ。 もったいぶりやがって。
「ドールと関係してるのね。ケルドさん」
ドールってなんだ?! つか俺様だけ置き去りになりそうだ!!
アリセアが、レガという赤竜からケルドに視線を移した。
「ああ、そういえば02がそちらの物になりましたね。
はい。そういう事になりますね」
02…? ああ。あのチビか! オオミのニーチャンと一緒にエルフィにいったが大丈夫なのか?
「おや? オオミ君がエルフィに。…成る程道理でエルフィにいる者の連絡が途絶え、
私も入れないと思いましたら。 クァが邪魔しているのですか」
んだ!? また考え読んできやがっ…しまったぁぁ! 手の内教えちまった! 師匠にぶん殴られる!!
「あんた…もうちょっと隠す事を覚えなさいよ」
俺達二人を見て、ケルドのニーチャンは軽く笑い再び口を開く。
「はは。まぁ、少々意地悪をしたくなっただけですよ。
オオミ君がエルフィに行くのは先刻承知済みです。
今頃は…ガット君、君よりも強くなっているかもしれませんよ?」
なんだと!? 俺様より?! 帰ってきたら勝負だオオミのニーチャン!!
「あんた今…、帰ってきたらオオミ先輩と勝負しようと考えてるでしょ」
「本当に考えが顔に出ますね。 ガット君は」
こ い つ ら!! 馬鹿にしやがって!
二人が顔を見合わせて笑ってやがる!!
つかなんだ!この雰囲気。ケルドのニーチャン敵なんだろ!
なんだこの和んだ雰囲気!! わけわからんぞ!!
「まぁ、もし彼がクァの力を手に入れたとしたら…厄介ですね」
「ケルドのニーチャンにそんな事言わせるぐらい強くなるのか!?」
「ヘタをすれば、私が殺されてしまいますね。
ただ…精霊の力を得ると言う事は…」
んだ? 何か教えてくれるのか!
「なんだ!?」
「いやいや、それは会えば判りますよ。 彼にそれが耐えられるのか。
並の精霊ではありませんよ。クァは。 ヘタすれば死んでいますね今頃は」
「オオミ先輩が!?」
お? 何かアリセアがケルドのニーチャンにしがみついたぞ?
んなにあのニーチャン心配なのか。
「おやおや、移り気ですか? アリセア君」
アリセアがその直後に顔を真っ赤にして腕を振り出したぞ。
「いやっ…そんなんじゃなくて! 心配してるだけです!」
「そうですか。 まぁ、クァも馬鹿ではありません。
生き残る力があるか、それを見定めてからでしょうしね」
何か安心したのか、急に大人しくなったな。 コロコロ変わりやがるこの女は。
「そ、そうですか」
「お前やっぱオオミのニーチャン好きなのか?」
ぐはっ! その瞬間アリセアの右拳が俺の顔面にめり込んだ。
「そんなわけ無いでしょ! 馬鹿ット!!」
「はは。では参りましょうか」
その場を後にし、再び城内を進む。
一際大きい左右に開くドアが見えてきた。
ケルドのニーチャンが、そのドアの中心を押すと、左右に開く。
今まで薄暗かった通路の所為か、差し込んできた光が目に痛い。
「なんだ? 天井無いのか!」
「眩しい…」
「はは、ここで戦闘訓練を行っております」
俺様は、右手を目の上にやり光を遮りながら辺りを見回す。
壁がかなり遠くの方にあり、天井はやっぱり無い。
俺達がいたのは一階だったのだろう、地面に土があり、木も生えている。
「ああ、あそこに居ますね」
「どこだ! …てうお!?」
「すごっ…」
そこで見たのは、5才ぐらいだったよな! クラドのオッサンの子供と思わしき子供。
その二人が、数人の大人リンカーが横たわった所でコチラを見ていた。
「おやおや、またお強くなられたご様子」
「あんな歳で…」
「は! おもしれぇ!!」
ケルドのニーチャンがその二人の所に歩み寄っていき、何か話しをしている。
そして俺様はアリセアの方を向き話しかける。
「こりゃ確かに相手に不足はなさそうだな!」
「返り討ちにあわないでよね? 恥ずかしいから」
「わかってら!!」
向こうで話がついたのか、こっちに歩いてきたな。
男の方…イドだろな。 こいつはクラドのオッサン似なのか、黒い髪をかなり短く切っている。
女の方はマリアか。 母親?みたことないが、そっち似なんだろう金髪で肩にかかるぐらいか。
ただ両方…あのチビと似たような感じで表情無いな!! いやな感じだぜ。
「さ、では早速始めましょうか」
「ケルドのニーチャン。この二人、あのチビと似たような感じだな。
感情が無いっつかそんな感じするぞ!」
「そ、そうだね。」
ケルドのニーチャンは軽く笑いながら答える。
「イド君もそういう教育を受けておりますからね。純粋に戦う事のみを。
マリア君は試験体03。 舐めて掛かると…死にますよ?
そこで横たわっているリンカーみたいに」
!? 俺達は揃ってさっきの倒れているリンカーを見た。
「なんだって! じゃあいつら」
「…子供にそんな」
「はは。そういうことです。 ですから君達の相手に丁度いいと。
さ、互いにリンカーフェイズして頂きましょうか。
なるべく周囲の建物は壊さないで下さいね。
対象のみに狙いを定めるのも、戦闘では大事な事ですよ、特にガット君」
…名指しで呼ばれてしまった!!
それを見て腹抱えて笑うアリセア。む…むかつく。
「アハハハッ確かにガットは…!!」
「和んでんじゃねぇ!! いくぞおら!!」
「はいはい」
そういうと、俺の胸元に手を当てる。 アッチもそれを見たのか、同じ仕草。
「心拍同期…解析開始!!」
互いに影に包まれて、影が取り払われると同時に姿を現す。
「はっ! さて、何のリンカーだ!?」
「いきなり油断してんじゃないわよ馬鹿!!」
向こうはまだ不慣れなのか、影が晴れない…お、晴れてきた。
「…何のリンカーだこりゃ」
「見たこと無いね…でも、綺麗」
「ははは。珍しいでしょう。 神の使徒。堕天使のリンカー。
恐らくは彼らだけでしょうね。この世界では。
油断していると死にますよ? ガット君」
堕天使…神族のリンカーかよ! とんでもねぇな…だが!
こっちも竜のリンカーだ性能的に負けてる筈はねぇ!!
「おら! いくぞガキ!!」
「ちょっと!」
有無を言わさず、翼を羽ばたかせ、風を地面に叩きつけて飛び、一旦空へと。
そのまま、火玉を吐いて相手の出方を伺おうとした。
「…」
げ! なんだ!? …こりゃあの魔族の時と同じ圧力!?
俺達は空から地面に叩きつけられる。
「ぐはっ!!」
「きゃぁっ! 何っ重いっ」
「君達は初体験ですか。 宜しい、お教えしましょう。
神族・魔族・精霊族はそれぞれ力の質が異なります。
その力でちょっとした力場を形成して、相手の動きを鈍らせて戦うのです。
残念ながら竜族にその力はありませんが…」
俺様は、地面に足をめり込ませつつ無理矢理起き上がる。
「そう。それに耐え得る強靭な身体能力がある。
ですが、それは竜そのものであった場合であり、
リンカーでその一部を使っているだけならば…不利な筈ですが…」
力場!? 関係ねぇ! 要はクソ重いってだけだろが!!
「うるぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」
「ちょっガット!!」
さっきから表情を変えないオッサンの子供の頭上に飛び、
その重さを逆に利用して、勢い良く蹴りを見舞う。
「ガット君の場合はその力場も意味を成さない様ですね。 面白い」
激しい土煙と同時に、俺様は後退し、出方を伺う。…なんだ?
飛び出してくるかとおもったら…。まともに食らって倒れてるだと!?
「おやおや。 いままで力場に耐え切れる方がいませんでしたから、
対応できなかったのでしょうか。 気絶されてますね」
あんだよ!! 相手にすらなんねぇじゃないかよ!!
いだっ!! 小さいアリセアが俺の耳を引っ張りやがる!!
「馬鹿!! 子供になんて事するのよ!!」
「無茶いうな!! あんな事出来る相手に手加減なんて出来るか!!」
「だからって!」
いがみ合っている俺達の間に割ってはいるケルドのニーチャン。
「いやいや、あれぐらいで結構結構。 彼らはあれぐらいでは死ぬ事はありません。
むしろ、彼らより強い相手が見つかったのでレガートとしては好都合です」
ほれみろ! て…この気配。
「おい! そこの木の陰に隠れてる昨日のオッサン!!」
「え?」
俺様は後方にある木の陰でこっちを見ていた男に指を差す。
それに答えるかの様にコチラへ歩み寄ってくる。
「ほう、気付いたか。 そしてその子達を容易く気絶させるとは。
ケルドの目は確かな様だ」
「はは。彼等の力は大したものですよ。 それは貴方も良くお解りではないですか?
キリウさん」
キリウ。 あの時のオッサン!!
俺様はオッサンを指差してこういう。
「おら! オッサンさっさとリンカーフェイズしやがれ!
今度こそ勝つ!!」
「こらガット!!」
オッサンに軽く笑われた。
「どうやら気だけは人一倍の様だな。 相手の力量も見抜けない未熟者が」
「はは。しかしキリウさん。貴方の相手も見つからない様ですし、どうでしょう?
手ほどきしてさしあげては」
「上がそれを望めばそうしよう。 俺がどうこう言う事では無い」
「それもそうですね。 ではまた後日にでも」
「ああ。 小僧、精々そやつらと戦って、腕を磨いておくといい」
あん? こんな一撃で気絶する様な…うお!? 立ってやがった。
「はは。天使。使徒とはいえ、神族。 復元能力はありますよ?
そしてクラドさんの遺児。 戦う度に強くなります。
さぁ、続きを」
はっ。上等じゃねぇか!! ぶっ飛ばしてやるぜ!!
「おら! いくぞアリセア!!」
「ちょっと!! 無茶しないでよ!?」
結局、その日から数日はその子供の相手をする事になり、
俺様も俺様であのわけの判らん磁場でそれなりに動ける様になる。
同時にその子供も俺様に追い付く様に強くなってきた。
それが続いたある日、ついにキリウのオッサンの相手の許可が下りたらしく、あのオッサンとまた戦う事になる。
四十六話、最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
お気に入り登録数が、数日前と比べて倍化しており、
大変励みになります。感謝感謝。