第四十三話 「男」
四十三話目となります。
今回もガットメインです。
目の前でオバサンの手から力なく落ちた小さい手。
全身の力が無くなり息絶えた赤子。
それを強く抱き抱えて泣き崩れたオバサン。
なんだよここは! わけわかんねぇ!!
俺様はレガートの城下街の上空に飛び、街の構造を見ながら同じ事を繰り返す。
「ぶん殴る!!」
さっきから俺様の耳を引っ張りながら、アリセアが何かいってるが聞こえねぇ!!
ただぶん殴るという考えだけで動いていた。
街を見ると、中心にデカい城があり、その周囲にかなりデカい庭。
それを取り囲む様にさっきよりはマシな家が取り囲み、その周囲にさっきの廃墟みたいな街並み。
まるで地位がそのまま街の形を作っている様な配置。
然し見分けやすい! あそこの城の連中ぶん殴れば良い! 俺様は一気に城の方へと翼を広げて向かう。
もう少しか、城付近。庭あたりの上空まで来た時、大勢のリンカーに囲まれる。
「ち。 有象無象どもがどきやがれ!!!」
敵が何か言ってるが何も聞こえず、手当たり次第に地面に叩き落し城に向かう。
もう少しという所で、明らかに周りの雑魚とは違う者が立ちはだかっている。
その存在感に俺様は我を取り戻したのか、それとも我を取り戻さないと勝てないと思ったのか。
「なんだテメェは!!」
「落ち着きなさいよ馬鹿!!」
「耳ひっぱんな!!」
まだ耳を引っ張っていたらしいアリセアが怒って耳を引っ張っている。
いや、それよりも今目の前にいるリンカー。…コイツも竜のリンカーか。
「小僧、ここに何の用だ」
「あら~? イグリスにいたワイバーンのぼうやじゃな~い? キリウ」
なんだ? こいつらもあの時にいたのか? 俺様を知ってる口ぶりの魔人。
「テメェも竜のリンカーかよ! おもしれぇ!!」
「ちょ…気をつけなさいよガット!! この人…クラドのオジサンと同じぐらい強いかも」
「んなもん見たらわからぁ!!」
クラド。その名前に反応したのか、何かの竜のリンカーの方が声をかけてくる。
「クラドと戦った小僧というのは、貴様の事か。 大層な腕を持っている様だな」
リンカーフェイズして余り容姿が判別しにくいが、茶色い髪を無造作に伸ばし、顔はやや痩せてる。
体は結構鍛えてる感じはする。 それよりも何の竜かがわからねぇ。
もう片方はアリセアみたいに小さくなっている女。 深い緑色の髪を後頭部で止めてたらしている。
体は何かランカーフェイズしたら寸胴と丸がひっついた様な感じに皆なるらしくよくわかんねぇが。
こんな容姿の奴等は見かけなかったよな。 と、小声でアリセアに言うと、
アリセアも小声で、隠れて偵察してたのよ。と返してくる。 成る程な!!
「腕は口で語るモンじゃねぇだろ! オッサン!!!」
その言葉に、応の声と共に飛び掛ってくる。 しまった先手を打たれた!!
頭を狙ってきたのか、オッサンの左拳が頭部目掛けてくる。 それを受け止めようとした瞬間。
左腕が目の前で止まり、腹部に鈍い痛みが走る。
「げは…フェイントかよ!!」
そのまま反射的に前かがみになる。
「ちょっ! 危ないガット!!」
その言葉が聞こえた瞬間、今度は首の後ろに強い衝撃を覚え
オッサンの揃えた両手で、首の後ろを強打され地面に叩き落された。
巻き上がる土煙。 その中で起き上がりオッサンの方を見上げる。
何も考えて無い様な無表情でコチラを見ている。
「ちったぁやるじゃねぇかよ!!」
「強がりいわないで逃げるわよガット!」
逃げる? 俺様が? 馬鹿な!!
「逃げ道は、無いぞ」
周囲に取り囲む様に他のリンカーがいる。
ちっとやべぇな!
「小僧、一つ聞こうか。 クラドを知っている様だが…それは良い。
何故、単身でレガートに来た」
あん? おもっきり見下した目で見やがって…腹立つな!!
んなもん理由は一つ! 言おうとした矢先に俺の口をまた塞いだアリセアが喋りだす。
「クラドのオジサンにレガートに仕官してみると良いと言われたんです!
見ての通りこの馬鹿は多対一で突っ込んでいく様な奴なので!」
嘘は言って無いが…違うだろうアリセアそりゃ! 必死で口を塞いでるからかまともに喋れない俺様!!
「ほう。 ではこの騒ぎは力を見せる為。と、見ていいのか」
「はい! ちょっと乱暴だと思いますけど。 こういう考えなしに動く馬鹿なのものでっ!」
何か、顎に手を当てて考え出したな。
周囲のリンカーもざわついてる。
「面白い。だがそれに見合う力があるか、…見せてもらおうか」
「キリウ~? あのぼうやに力があるのは判ってるじゃないの。
ただ戦いだけじゃいの~? クラドと戦って生き残ったあのぼうやと」
…なんだ? クラドのオッサンそんなに強かったのか?
まぁいい。何か知らんが判った事は一つ。
ここはアリセアに合わせた方がそさそうだ!!
「死んでも後悔すんなよ!? オッサン!!」
俺様は翼で地面に風を叩きつけ、高くに飛ぶ。
そしてさっきのアレをまたやる。
いや、やらないと勝ち目が無いと思えたからか。
「ちょっ…また!?」
興味深くこちらを見ているオッサン。 余裕カマしやがって…!!
「いくぞオラ! 赤竜ジーサンから貰ったこいつ食らって吹き飛べ!!」
翼で体を包むように丸め、一気に開き大きい風を作り、更に羽ばたかせて空気の渦をつくりだす。
「ほう…報告には無いモノだなそれは」
余裕カマして後悔すんなよクソ!!
一瞬できた真空に火を吐き、巻き上がった爆炎を一気に吸収する。
体は火を伴い、そのままオッサンに向かって急降下する。
右手でオッサンの左手のガードを突き破り、そのまま地面に叩き落す。
殴った後、そのままの姿勢で落ちたオッサンの次の行動を伺う。
肩ではまたアリセアが熱い熱いいって転がってるが無視!!
土煙が晴れるとも口から少し血を流しているオッサンが見える。
「ほう。これは思ったよりやるな。
クラドと一対一で戦い生き残ったというのも、頷ける」
またか! くそ!!一々計りにかけやがって…やる気あんの…消えた?
そういや、クラドのオッサンとやり合った時も、こんな…。
その瞬間、背中に強い衝撃を受け
肩で何かアリセアが叫んでいたが…気絶した。
「ガット?」
お? 何か目の前に元に戻ったアリセアが。
てことはリンカーフェイズ解いたのか。
ってここは何処だ!? …お前!!
「お目覚めですか? ガット君」
ケルドのニーチャン!? コイツの所為でイグリスがあんな目に!!
メディ先輩もそうだ!! ぶん殴ろ…うとしたらアリセアに体で止められた。
「ちょっと! 落ち着きなさいって!! 助けて貰ったのよあんた気絶してたから
知らないだろうけどさ!!」
助けた? ケルドのニーチャンが? …あーもう何かここきてワケわかんねぇ事ばっかだ!!
「混乱していますね。では、手短に判りやすく。
ガット君が戦ったのは、現在この国で最強のリンカーです。
その方と戦い、見事に負けました。 で、君の身柄が拘束されましてね。
色々あったワケですが、私が身柄を預かるという形で現在に至ります」
「そうだよ。 ケルドさん助けてくれなかったらどうなってたか」
いやまてよ!! ケルドのニーチャンも敵だろ!! なんでそんな事すんだよ。
「ガット君。 私は見てみたい。君の様な若者が、このレガートで何が出来るのか。
君が何を見て、何を感じ。 その結果がどうなるのか。大変興味がある。
何より、君の師匠と一戦交える事にもなります。
私の得意である部分であえて挑んでくる。
そんな方のお弟子さんを失わせるのは余りに惜しい」
確か考え読むんだったよな。 俺はアリセアに視線を移すと。
いかにも暴れるな!と言う目で睨んでいる。
「その通り、暴れない方が宜しいですよ。
私にも庇える限度というものがありますから」
…。明らかに頭ん中読んでやがるな!!
「いや、君の場合は読まずとも、行動と顔でわかりますよ?」
馬鹿にされてる!! ムカつく!!!
「ウチでも分るわよ馬鹿ット!!」
がー!こいつら!! まぁいいか。
取り合えず周囲を見回と、豪華な家具やらベッドやらが一揃いあり、
部屋もかなり大きい。 然し…さっきと比べてなんでこんな。
また考えを読んだのか、ケルドのニーチャンが部屋に右手を向けて喋りだした。
「ここはレガート。力ある者が全てですよ。 君の力に相応しいモノが与えられます」
…わけわかんねぇ。
「勿論、アリセアさんも優秀な魔人。 ガット君のパートナーとして相応のモノが与えられます」
…俺は与えられるなんて真っ平ごめんだぜ!!
部屋を出て行こうとしたら、ケルドのニーチャンに呼び止められる。
「残念ですが、今は私が身柄をお預かりしています。
何より暴れられては、困りますので暫くは部屋でごゆっくりしてただかないと」
つまりここから出るなと?
なんでだよ!!
「馬鹿!! ケルドさんがレガートに取り入ってくれてる最中だってことよ!」
あ、成る程。と俺はベッドに倒れこんだ。
「今度は何してるのよ」
「どうやら、理解してくださった様で御座いますね。 ではアリセア君の部屋もご案内しましょう」
ん? アリセアは別の部屋か、助かった。 二人がドアを閉めて出て行くのを確認して、
俺様は再び眠った!! 精神的に疲れた!!
どれくらい眠ったのか判らないが、とりあえず目が覚めた。
そういや…。この部屋、家具やらは揃ってても窓が無いな。
時間がわかり難いじゃないか、朝か昼か、夜か!!
…テーブルの上に置かれている食べ物を見ると、夜にはなってる様だが。
さて、これからどうする。 取り合えずジッとしておくのがいいか。
そういや師匠からあんまり暴れるなと言われたしな。
再びベッドに倒れこんだ俺様は、何も考えずに天井を見た。
オオミのニーチャン生きてっかな? エルフィは生きるのに大変だぜあそこは。
その時、ドアを軽くノックする音が聞こえた。
入ってきたのはケルドのニーチャンと、女三人? なんだ?
「大人しくされていた様ですね。ガット君。
では、ガット君はレガートの上層の方に認められました。
で、その方達より与えられたのはこの部屋と、この女性三人です」
…いらねぇ!! 連れて帰れ!!
「ちなみに…お断りになられると。この者達は、最初にガット君が見た所にいかねばなりませんよ」
不意に脳裏に映ったあの光景。…。
「脅す気かよ!」
両手を左右に軽く広げて喋るケルドのニーチャン。
「脅す? とんでもない…これがレガートです。 人を人として育てず扱わず。
人を駒として扱い育てる。…いや作ると言った方がより正確でしょうか」
作る? どういうことだ!
つかその女…ほとんど何もつけてねぇじゃないか!!
目のやり場に困る!!
「ハハハ。 じきに慣れますよ。 ガット君は大変優秀なリンカー。
上層が三人も女性を与えたのは、それだけ君に子供を作らせたいからです」
…最悪じゃないか!! いやだ! 俺はいやだぞ!!
「断れば…この女性三人は…」
「テメェ…」
選択権無しかよ!!
「その通り、ガット君よりも力の強い人間からの命令です。
この国に入ったからには、この国のしきたりを学んでくださいね。
では、三人とも。 ガット君を悦ばせて差し上げてください」
え…ちょっと待て!! いやだ!!
「では、私はこれで失礼致します」
笑いながら一礼して、さっさと部屋を出て行ったケルドのニーチャン。
そしてベッドの上で硬直したままの俺様。
同じくほとんど何もつけて無い状態の女三人もベッドにあがってきた!
…ちょっとまてよ!!
「おいお前ら! とりあえず何もすんな! わかったな!!」
…お? 頷くと俺の横で寝るだけになったな。
だが! 俺の左右と上に重なってこられて逃げ場も目のやり場も無いぞこれは!!
力のある者にゃ絶対服従ってこういうことかよ!!…あんまり気分良く無いな。
…つかアリセアの方は大丈夫なのか? アッチも似たような事になってそうな気がするが。
四十三話、最後まで読んで頂いてありがとうございます。
次回はアリセアメイン。