第四十一話 「創生と双生」
四十一話目となります。
ここで創生神話が出てきます。
修正:争いの原因は の部分の消し損ね。
夜もふけ。焚き火だけが周囲を照らすテントの中。
俺は、スアルと抱き合う様に寝ている。
もう何回やったのか…食い殺されないだけマシだが。
疲れた。
「あれだけやれバ、子は宿るだろウが…まだやレ」
…いたのかよ。 つか見んなっつーの。
「ああ、まぁ。なぁ聞いていいか?」
テントの支柱から、俺の目の前に降りてきたアリオ。
「なんダ? いってみロ」
「シアンさんの事なんだが、あれだけヴァランに会って神の知識を得て来いと」
アホ面を更に近づけてくるアリオ。
「判らんか? やっぱりオマエはアホウだナ」
「アホウいうんじゃねぇ」
「ケルドの力は読む力。そしテ、読んで裏をかく力。神慮思考ダ」
…神慮思考かよ。読む力、必ず裏をかく力。
確かゲームで似たようなのあったな。
「厄介だな~…読めば必ず裏かいてくるって奴だろ?
だからといって力だけで戦っても」
「そうだ。力のみで戦ってもそれを利用してくる。
知恵で戦っても裏をかかれ、力で戦っても利用される。
それが神慮思考だ」
俺は、視線を天井に移す。
相変わらず焚き火の明かりが、テントの皮の部分に当って温かみのある色を出している。
「俺がアホなのは十分承知してるが、シアンさんはそれにどうやって。
それにアリオ、オマエがいけば全てカタがつくんじゃないのか?」
「オマエは本当にアホウだ。オイラが行けばケルド如き瞬く間に殺してくれる。
然しメディと世界は救えない。 とどめに奴は死んでも死なんのダ。
オマエがメディと交尾して、ケルドもなんとかするしかないのダ!」
再び、アリオに視線を戻す。
「交尾言うなと!!。…なら今回の戦いはケルドを倒す事が目的じゃないって事か」
「そうダ。レガートのリンカーの数をナメるナよ。あの少人数では数で押されル!」
「その為の無風活殺か。つか、死んでも死なないってどういうことだ?」
「アイツは確かに、昔かあちゃんに殺された。
だガ、不可解な事に別の神に宿るが如く生き返ってきた。
オマエの異界の知識でこの不可思議な事を見抜けるカ?」
再び、テントの上部に視線を移す。
死んでも生き返る。定番だよな。
だがどうやって? 変身能力…身代わり。違うな。
万物を見る事が出来る精霊相手にそれは通用しない。
風の届かない所で何かをしている。そう言う所だろう。
風の届かない。万物の存在しない…輪廻か。 てことはリンカーフェイズが何か関わってそうだな。
「あ~…。万物の存在しない。輪廻の中で何かしている。ぐらいだな今は」
「オマエでもそこが限界なのカ」
「ああ。今はな。だが、シアンさんなら気付いてるかもしれないな」
「アイツもケルドに引けを取らないからな」
「そもそも知恵も力も両方通用しない相手。それにどうやって勝つのかすら判らんわ」
「まぁ、それはオイラも正直判らン」
「精霊をもってしてそう言わせる…か」
また、アリオの方を向く。
「さぁ、最後にもっかい交尾しておケ。夜があけてヴァランから話を聞き知識を得るのダ」
「ここの神ってどんなのが居たんだ?」
「知らん!」
「・・・・・」
ん? 起きたのか。俺の太股に股を挟みこんできた。
恐ろしいな。居る間はずっと抱かせる気かよ。
本当に食い殺されそうだな。
「強い命の力をこの地に。だそうダ」
「ゴキブリ並の生命力で悪かったナ」
「なんダ、それハ」
「頭潰しても死なない生物だよ。 まぁ、頭潰すと飯が食えなくて餓死してしまうが」
「頭を潰して尚生きているのか。凄まじい生命力ダ」
「繁殖力も凄まじいぞ」
「素晴らしい生物ではないカ」
「ここの世界ではそう取られるのか」
「・・・・・」
ん? 強く抱きよってくるスアラが、俺の顔にキスをしてくる。
「早くしろ。だそうダ」
「やっぱ命令形なのなこの娘」
「その分これでもかと鳴かせてやれバいいだろウ。交尾で」
「お前な…」
その後、結局朝まで彼女を抱き続けた。いい加減タフだな俺の息子も。
翌朝、俺達は再びヴァランのもとへと行く。
相当疲れているのか、丸くなってまた寝ている。
「お疲れっスな。ヴァラン」
「おや、おはよう。流石にあれだけ雷を撃つと…疲れたよ」
「そりゃすんませんっス」
「いや、久しぶりに楽しめた。 まさか全力で撃てるとは思ってもみなかった」
少し起き上がり、お座りに近い姿勢。その姿勢から俺達を見下ろしている。
「じャ、話してやるといいゾ」
「そうだな。そうしようか」
俺とオズとスアラはその場に座り込む。…スアラ言葉判らんのにな。
まぁ、見ておきたいといった所か。
「先ずは空に浮かぶ二つの星。 双生の神」
「ああ、やっぱ双子とかそういう係わり合いだったんスね。あの星」
少し俺の方を向いて答えたヴァラン。
「その通り。 二人の神。
一つ聞こう。君の世界にも罪と罰はあるかね?」
ん? そりゃあるわな。 つかなんだ。
俺は首を傾げてヴァランに答える。
「そりゃあるっスよ。罪を犯せば罰が科せられる。当然スね」
ん?ヴァランが空の星の方に顔を向けた。
「では、罪を犯した者。それに罰を与える者は存在するかね」
そりゃ当然とばかりに頷く、それに勘付いたのか俺の方を見る。
「重い罪を犯し、罰を与えられ命を失った。
では罰を与えた者が善の名の下に命を奪う。その行為に対する罰は誰が行うか」
…。
「何か、罪と罰は連鎖っつか、水の波紋みたいに広がっていく。 と言いたげっスな」
「その通りだ。罪と罰は広がっていく。 それがあの二つの星。そして あの争いの元凶となった」
ん?イマイチ良く見えないぞ。
…双子でその罪と罰に対する意見の相違でもあったのか?
「つまり…なんスか? 双子の神の間でその事に関して真っ二つにわかれたとかスかね?」
「その通りだ。
罪を犯した者は、自らで自らを罰しなければならない。 姉、アルセリア。
罪を犯した者は、神とその使徒が罰しなければならない。 弟、ケリアド。
二人の神が、互いを説得しあっていた。
結果、その答えは見つからず、一つの世界を創り。その答えを住む者に見出させるに至る。
アルセリアの代行者。 厳しくも優しき者。大精樹ユグドラシル。
ケリアドの代行者。 これは生物全てである。善を唱える者全てに、その権利を与えるものとする」
成る程。つか不利っぽくね?
俺は、立ち上がりヴァランに近づく。
「数的に、不利じゃないっスか。それ」
「アルセリアは、その考えに絶対の自信があり、ユグドラシルのみ選んだ。
然し、罪と罰。その教えの広まり方はやはりケリアドの方が早く、
その姿と形は様々な教えに枝分かれした」
宗教・神話の分裂ってとこか。
「成る程っス。で、それが元で争いが起こったと。で、アルセリアがケリアドの教えが間違いであると。
けど、自分で自分を罰せられる奴なんて…そうそう居ないっスよ?」
「そして、争いの原因は全て代行者にあるとケリアドは言い出した。
ケリアドは、自らがそれを罰するべく世界に生きる全ての代行者を滅ぼそうとした」
うわー。すげぇ我侭つか自己中な神だなおい。
半ば笑いながら俺はヴァランに言う。
「それが、この世界に伝えられている神の傲慢。悪神たる所以スか」
「その通りだ」
「オマエ、アホウの癖にそういう所の飲み込みだけ異様に早いナ」
「うるせぇ」
俺はアリオのトサカを掴んでやろうとしたが、オズの服の中に潜り込みやがった。
「で…だ。アルセリアはそれら全てを自らの罪である。そう言い、
ユクドラシルと共に、僅かにその教えについてきた者達と共に説得した」
「とことん非暴力主義なんスな。その女神は」
「そうだ。だが、説得は届かずついに代行者は、何処とも無く現れた異界の者と共に、
ケリアドを追い詰めた。 然し力及ばず…」
再び空を仰ぐヴァラン。
「封印するしかなかった。 で、封印するにも力が強過ぎて、
どうにもならなかった所を、自らを罰する為にアルセリアは従属神みたいなモンを楔にして、
ケリアドと共にあの空へ封印したってトコっスかね?
けど、神の暴走は…。」
「アホウ! オマエは生身に釘を打ち込まれて痛くないのか?
ヘタに復元能力がある神には尚更ダ! 自我を捨てねば耐えれるモノじゃないゾ!
そして、その封印を護る為に4体の竜が名乗りを上げタ。
イグリスに双極竜セオ エルフィに雷竜ヴァラン。そして、
レガートには凍竜イスリフア ヨヒアに地竜セラカト。然しこの二匹は既に無い」
成る程。 水滴を一定間隔で落とし続けられる様なモンなのか。
つかヴァランもかよ! んじゃ目は何かそれが原因で、でも何で封印を離れているんだ。
まだなんか判らんとこ出てきたな。
「その通りだ。封印は4つ。イグリス、エルフィ、レガート、そして今は無きヨヒア。
この大陸に集中した理由は…」
「この地にアルセリアの代行者が居るから。 っスな。
つかユグドラシルって相当デカい木じゃないんスか?」
オズの胸元から顔を出すアリオ。
「オマエはアホウなのか頭いいのかわからんナ」
「お前な、オイラを見て判らんカ!」
「判らんわ!!!」
「アホウめ! ユグドラシルは確かに巨大ダ。それに違いは無イ!
だが巨大の意味が違うワ!!」
「いいのかね? そこまで言ってしまうと、オオミは気付いてしまうと思うが…」
巨大の意味が違う。 木…おいおい。んじゃこれ。
俺は貰った皮袋に入れ替えていたユグドラシルの実を取り出す。
「そうダ! お前は既ニ逢っている!」
「あの森全てが彼女。 彼女を探そうとしても見つからずはそれが理由」
「まさに木を隠すには森の中っスね…いやちょっと違うか。もっと意地悪なひっかけスな。
クァもそうなんスな。 風は何処にもあるから何処にも存在していると」」
それを聞いたヴァランは軽く笑い、再び空を仰ぐ。
「然し、その封印も二つが破られた。 レガートも…じきに破られるだろう。
最早それは避けられない。 残るはエルフィ族が護る最後の封印」
「それもユグドラシルの力が枯渇しかけてテ、ヤバいんだけどナ!」
「成る程。けど一つ。ケルドの行動が不可解なんスわ」
「行動もそうだガ。 アイツはこの世界の神じゃないゾ。
異世界より何故突如として人間が現れタ? 世界が救いを求めたからか? アホらしい」
「確かにそっスね。 いくらなんでも次元の壁がそんな都合良く…じゃ俺は?」
「知らん!」
「じゃ、その飛鳥はどうやってココに来た? 仮にケルドと共に着たとして」
「知らん!」
「其処は我等にも判らない。 判るとすれば…」
明らかに空の星見てるな…てことは。
「女神アルセリアか悪神ケリアド。 そしてユグドラシルが知っている。
と言う事になるんスな」
再び俺の方へと顔を向け、静かに頷いたヴァラン。
「その通りだ。 一体如何にして現れ、そして何をしようとしているのか。
それは私達には判らない」
「アイツの行動わけわからないからナ! 統一性が全くなイ!
何より不愉快なのは、かあちゃんの力でぶちころされたのニ生きていた事ダ!」
触れねば斬られんつか。日本刀みたいなモンだなおい無風活殺。
そんなもので殺された奴が生きていた。 行動に統一性が無い。
そして異世界の神。…フェンリル・・・・・。
何か繋がった様でイマイチよくわからんな。 北欧神話が関わってるのか?
てことはアーティファクトか何か持ってる可能性があるな。
思ったより厄介だなおい。
「ああ、なんとなくケルドが誰なのかアタリはつい……」
うぉぉぉぉぉぉおおおっ!?
ヴァランとアリオが食いつく様に勢い良く近寄ってきた。
「それは本当か!」
「教えロ!!」
俺は慌てて後ろに飛びのく。
「ビビッた! あくまで想像スけどね。
俺の世界の神話に出てくる奴、それが俺の中にいるんスわ。
それが不思議な事に、他の前世と何か違うんスよね。
つまり、俺のトコの神話に出てくる神が何かしらアーティファクト。
神器を持ってココに来た。 と考えてもいいかなと。
確証も無いし、フェンリルに直接聞こうにもメディも居ないっスからね」
少し顔を引いて、座ったヴァランが大きい口を開いた。
「面白い…。 その謎を君が解いた時、よければ私に教えてくれないかな?
そして出来るならばまたこの地の多くの者に、君の血を残して欲しくも思う」
「解けヨ!」
「そんな簡単に解け無いっスよ! とんでもない昔の話っスよ。
せめてどの神か判る情報がもっとあれば特定しやすいんスけど。
っつかスアラ以外ともやれと!?」
アリオが俺の頭に乗ってくる。
「交尾してやレ! まぁ、リセル達もケルドと接触した様だからな、そいつ等に聞いて答えを探セ」
「いや、お前は世界の全てを見聞きできるんだろが!」
「アホウ! セアドにお尻叩かれル!!」
俺はアリオを掴んでニヤリと笑う。
「…それがお前の弱点か」
「オマエっ!! いうなヨ!!」
「さてな」
俺が手を離すと、アリオは再び俺の頭の上に。
「良シ! これよりオマエに無風活殺を伝えル!
手を貸してくれるナ。 ヴァラン」
ヴァランがアリオ…というか俺の方を向く。
「ああ、正直の所疲れたが。 まだまだ大丈夫だ」
え。
「あの、それって… ま さ か」
「そうダ。無風活殺を伝えるのには生半可な事では不可能ダ。
ヴァランの雷がそれを得るに丁度いイ!!」
「同時に、夜はスアラに子を宿さなければいけない。
まぁ、君ならば生きているだろう」
「待って! 朝昼夜24時間ぶっ通し!?」
これは…美味しい展開と思ってたら…とんだ落とし穴だった。 ガクリ。
これでサイドストーリーというか、まぁ本筋に近いモノが終了し、
次回より本筋のガット編となり、第二幕の終りへと。