第四話「リンカーフェイズ」
これで第四話目の投稿となります。お気に入り登録の数もまた増えておりまして、大変励みになり、嬉しい限りです。
今回から、色々と少しぶっとんだ内容になっていきます。良い事も辛い事も含めた物語としたいものです。
暗い…腕を伸ばすと手が見えなくなる程に暗い。それに空気も重い…いや痛み?良く判らないが、痛々しい空気。
上下左右どちらが地面なんだ?…判らない。暗闇の海に成す術なく漂っている感じだ。
「あの子、またリンカーを潰したんだって」
「まじかよ。何人目だ?」
「冗談じゃないな。いくら才能があるからって、許して良いものじゃないだろう」
なんだ?何か聞こえる。リンカー? 才能? 潰す? どういう事だ。
「迷惑者」
「おちこぼれ」
「邪魔者」
…おい。何か個人的にも苛立ちを覚える言葉が連なり、俺は思わず声の方へ向いた。
そこにぼんやりと光が浮かびノイズの混じった映像らしきものが浮かび上がっていた。
これは、メディ…か?少し今よりも子供のようだが。
「呪われてるんじゃない?」
「寄るな!呪い殺されたらたまらない」
「異才じゃなくて、ただの破壊者だよ」
ひでぇな。子供は善悪の区別はつかんのは判るが…。石やら何かトマトっぽいものまで投げつけられて…お?
「やめなさいよ!」
「げ!リセル!」
「逃げろ」
お~、いるもんだな。こう正義感溢れる子供ってのもって…どこかで見たな。このウェーブのかかった髪の色と紫の瞳。
ああ、さっきの家の上にいた女の方か。両手を腰に当て堂々とした姿勢で、
苛めていた奴等からメディらしき子供を庇う様に立ちはだかっている。
「全く。人の苦労も知らないで結果のみを見るなんて、愚かこの上無い事ですわ」
相当出来た子だな。普通その年齢。見た感じ10歳前後か?そんな考え持つなんて在り得ないだろう。
「メディ。貴女も貴女、ちょっとは言い返しなさいよ」
「…」
「はぁ、相変わらずだんまりね。まぁ…判らなくも無いけれど。
それでも貴女は力を持って生まれて来た、ちゃんとそれに面と向かって生きないと駄目ですわよ?」
「…うん」
軽く、メディらしき子の頭を撫でるリセルと呼ばれた女の子は、厳しい視線を空に向け、優しく呟いた。
「そう、いくら才を持っていたからといって、それから目を逸らせば今まで失敗して、犠牲になったリンカーも浮かばれないですわ」
…待て!今なんつった!?犠牲?つまりアレか?失敗したら死ぬとか…聞いてねぇ!聞いて無いぞ!
しかも後戻り不可じゃね!?もうやっちゃった状態だろこれ!
「私は先に行くけれど、ちゃんと追いついてきなさいよ。いつか必ず貴女に相応しいリンカーが現れるから」
ん、まぁそれはそれとして、なんつーか姐さん肌っぽいなこの子は。面倒見がいいっつーか。人の上に立てる器っつーか。
お?映像が変わった。
これは、更に若くなって無いか?見事に幼女。誰かすらわかり難いが多分メディだろう。
さっきはなんつーか、死人みたいな顔していたが、コッチは普通の女の子っぽい明るい顔してるな。
そんなメディの頭を撫でているのは、…ご両親ってとこか?
「メディ。そろそろあなたもリンカーを見つける時期ね」
「ああ、そうだ。俺はこの子に特別な力があるとそう見ている。確証は無いがリンカーとしての勘だ」
「あら、アナタがそう言うのですもの、きっとそう。願わくば多くのリンカーを纏め上げる子に育って欲しいわね」
「その通りだ。俺達の跡を継いで立派な繋ぐ者となって欲しい」
ちょっと映像が悪くなってきたのか、ほとんど声だけしか聞こえないな。
けど、和むなぁ、親子の暖かさっつうかまぁ愛情。こういうのは見てると和む。
然し、あの屋敷にゃ両親居なかったが、留守だったのか?
「さ、国から選ばれた優れたリンカーの資質を持つ子よ。早速リンカーフェイズを」
おお、また切り替わった、メディの初のリンカーフェイズ?という事か。
「はい、お父様 お母様」
「よろしくおねがいします」
「こちらこそ」
まぁ、礼儀正しいな。両方とも育ちが良いのか?ともあれ、さてどうなる。
「心拍同期…解析開始」
<ザ…ザザ…ザ…>
ん?映像が乱れだしたぞ。
「グ…ガ…」
なんだ?
「メ… 大丈…助…」
良く判らんというか、途切れ途切れで、全く判らんぞ大事な所が!!
宙に漂うような感覚の中、途切れた映像に悩む俺。その横から声がする。
「オーミ!見つけた!!」
おお?何か言葉が解るぞ! この声はメディだな。
「メディ?近くにいるのか?」
「あ!言葉が通じてる…良かった~!」
そりゃ良かったよ、これで知りたい事も聞けるしな。つーよりもあの映像は一体。
「私の記憶、見てたのね。今、私とオーミは繋がっているから記憶の一部共有されているの。」
ああ、成る程。どうりで言葉も解るしさっきの映像も納得だ。しかし何で途切れたんだ?
本人にとって忘れたい事だったのか?…だとしたら聞かない方がいいな。
「ああ、何かリセルとか言う子がメディを守っている映像がちらほらと」
その言葉にメディは、嬉しそうな不貞腐れた様な表情をしつつ答えた。
「あ~…うん。色々と助けて貰ったりしてたからね。ちょっ…と性格というか口が悪いけど」
「悪いのか?」
「うん、口が悪いというかプライドが高いというか、そんな感じ」
「成る程、そういう奴なのか、それはそれとして、これからどうするんだ?」
先程の現状を思い出し、俺はメディに尋ねる。
「そうね、早い所見つけにいこう?君の深層。そこよりも深い部分に眠る魔を」
「深層より深い部分?」
俺は少し理解出来ないのか、首を傾げて尋ねる。それに対し自慢げに語るメディ。
「そう、私は他の人よりももっとずっと深い部分まで解析して行く事が出来る。それが私の…
リセルと違う、異なった才能。それが足枷になって今までずっと耐えられる人が見つからなかったの。」
成る程。半ば沈んだ表情で語るメディを見て、納得した。強過ぎる力に耐え得る受け皿がなかったという事か。
で、俺ならそれを受けきる可能性があるかもしれない…と。だが問題は。
「ちなみにメディ。それに失敗したら俺はどうなるんだ?」
「良くて自我の崩壊を引き起こして暴走か廃人。悪くて体の変化に耐え切れず肉体の崩壊を引き起こして塩の柱になるね」
…サラリと言わないでくれるか?無茶苦茶リスク高くねーっスか?
「ちなみに成功確立はいかほど?」
人差し指を口元に当て、可愛らしく考えるメディ。暫し沈黙の後。
「解らないの。でも、魔神阿修羅が繋いでくれた縁だし。成功すると思ってる」
「ここまで神頼みか!ま、まぁ確かに縁を結んだ奴が本当に神様なら…って魔神かよ!」
「うんそう。魔神阿修羅。彼もオーミと同じく異界の者。過去に何処からか現れ、
この世界の魔族と人間と共に戦い神々を封印した神なの。ただ…
人でも魔族でも無く、神族である彼は、この世界では忌み嫌われている。だから社に主も居ずに荒れ果てていたの。」
ふ~む。この世界では神は人間の敵対者って事か?てか魔族…悪魔が味方なのか。
まぁ、あっちの世界でも神話次第では嫉妬深い神が多いしな。解らなくも無い。
「じゃあ、その神々の中でただ一人味方についた魔神が繋いだ縁。確かに、頼り甲斐はありそうだな」
「当たり前だよ!必ず成功する。私はそう信じている!」
純粋だねぇ。まぁ、もう後戻りも出来ないし、阿修羅様に頼るしか無いか?
「で、どこに行けばいいんだ?俺にはさっぱ・・お?」
言うや否や、メディは俺の腕を掴み…つか…
「裸!?」
俺もそうだが、メディまで裸である。なんたる仕様! 暗くて良く見え無いが小さくて形のいいおし…んがうっ!?
いきなり不意打ちで目潰しを食らってしまった。
「スケベ!あんまり見ないの!!」
「サーセン…」
こうして俺はメディに引っ張られて、俺の深層意識?の更に深い部分まで行く事になる。
然し、やっぱり裸に目がいく男の悲しいサがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! また目潰しを食らった…失明しかねないからやめておこう。
「数が…多過ぎるというよりも、キリがありませんね。あの魔法陣をどうにかしない事には」
「そのようですわね。全く魔界と、この街イグルス上空を繋ぐなんて、無茶にも程があるわ」
さて、どうしたものでしょう。いくらなんでもあの魔法陣を消し飛ばすなんて芸当は不可能ですし。
この広い街周辺に隠れている召喚者を見つけ出す以外に方法が…あれは?
「厄介なのが出てきましたわね…スライムなんて」
周りのリンカー達も魔法陣より垂れ下がる様に出てくる。緑色の半透明で巨大な物体を見て愕然としている。
スライムはあらゆる物理攻撃に抵抗を持つ。物理攻撃を主とする我々にとって天敵と言っても過言では無いのですから。
「左様ですね。どう致しましょう。あれが街に落ちてこれば、強力な酸で街が…」
周囲のリンカー達も同じ事を考えているでしょう。然しながら止める方法が無い。
「然し、やるしかありませんわね…リカルド。」
「はい。何とか押し返すしかありませんね…皆さん!防御の高いリンカーの方々はスライムを押し返しますよ!
その他の方々は、街の周囲に隠れている召喚者を探しだして下さい!」
その言葉に様々なリンカーが私達と共に、落ちようとしているスライムの周囲へ、そして召喚者を探して散って行きました。
「さぁ、ちょっと痛いですが、我慢して下さい?リセルさん」
「こんな痛みどうという事は無いですわ。彼女が背負い続けた痛みに比べれば…」
「玉に傷とはまさにこの事でしょうかねぇ。」
「…おバカ」
私達は、落ちようとしているスライムを受け止め、押し上げ、魔法陣へと押し返そうとする。
然し、強力な酸の所為か、体の至る部分から白い煙があがり、焼け爛れる。
既に耐え切れずに力付き、体の半身を失い白い煙を上げつつ地面に落ちて行く者も少なくは無い。
「これは…思ったより苦しいですね…」
「…何よこの程度で音を上げるの?私のリンカーが?冗談はよしてよ」
「はは…これは手厳しいですね」
強気ではあるものの、リセルさんの表情から察するに限界も近いでしょう。私もそうですが、周りの方も。
相手が相手。せめて、エルフィ族の精霊術さえあれば。
「居ない者を願っても何もなりませんわよ!現状で出来得る事で何とかしないと駄目ですわ!!」
「それもそうです…ね!」
一際激しく押し上げ、やや、魔法陣へとその体を押し返しつつある。もう少しです。もう少し。
早く召喚者が見つかるか、押し戻さないと取り返しがつかない。
せめて、せめてメディさんがリンカーフェイズを成功させて下されば、事態は好転するかもしれない。それまでは身命を賭して耐え抜いて見せましょう!
「本当ねあの子…まだかしら、せめてメディの力。あの時見せた力さえあれば…」
「左様で御座いますね。もしかするとスライムを一気に押し返す事も出来るかも知れませんが…」
暗い海の様な空間を更に深く潜るメディと俺。いつまで潜るんだ? 途中でいくつかの映像…いや、記憶か?は見たものの、
力のそれっぽいものもなく…だ。と思っているとメディが俺の腕を強く引っ張ってこう言った。
「あったよ。彼が君の魔の源のようね」
おお?ついにたどり着いたのか? とメディの視線の先を合わせる。
…ん?何か見た事あるぞ?
「う、う~ん。私の世界のリンカーの辞書には無い形状をしているね。姿も見た事が無いし」
その姿を目を凝らしてよく見て見ると、暗い海にほんのりと光る銀色の毛並み。スッと通った鼻筋にピンと雄々しく立った耳。
そして、良く斬れる刃物の様な眼。…どう見ても犬。というか狼だな。
「狼っぽいな」
「オーカミ?」
「オ オ カ ミ だ。こっちの世界にはいないのか?気高く賢くそして、強い動物だよ。だが…」
「だけど…何?」
「でかすぎるわっ! なんだあのデカさ!在り得ないだろ。これじゃまるで北欧の神々を噛み殺した魔狼フェンリルじゃないか!」
その言葉に、メディは驚きを隠せず…いや、喜びを露にしていると言った方がいいか?
「君の世界の神々を噛み殺した狼…?」
「ああ、そうだよ。その口は山をも飲み込むってぐらいの巨大な狼。まぁ、戦いの神に大地に封じ込まれたってオチがあるにはあるが」
「じゃあ、早く繋いでしまおうよ!早くしないといい所全部リセルにもってかれちゃうし」
いや待て、急くのは判るが…相手が相手だぞ。さっきの奴も何かちょっとした魔物っぽかったが。
こっちはそれどころじゃないだろう!? 噛み殺されるぞ!っておいメディちょっ!!
「君がオーミの中に居る魔? 私はメディ・アルト!君と、君が住む彼、オーミを繋ぐ者。」
私は、期待に胸を膨らまして、返事を待った。
静かに目を開けて、視線を私とオーミに向け、そのとても大きな口を開いた。
「メディ…アルト。繋ぐ者…聞いた事が無い。が、何用か。我は寝ていたいのだ」
「私は君と、こっちのオーミを繋いで一つにする者。お願い力を私達に貸して?」
少し沈黙が続き、再びフェンリルとオーミがいった者が口を開く。
「我に何の利があるのか? 仮に力を貸したとして」
「そ…それは」
「無い様だな。去れ」
「あ…」
再び目を閉じて眠ってしまった。何て事…今までいくつもの魔を見てきたけれど、どれとも違う異質。
どうしよう。どうしよう。…私はオーミの方を見て尋ねる。
「あ~…まぁ、相手がなぁ。生半可な奴じゃないぞありゃ。然しまぁ神話通りだとすりゃ」
「なんとかなる?」
「ああ、まぁ、な。うん」
然し、騙しに近くないか?騙したとバレたら確実に殺される。どうす…うおっ。そんな期待の眼差し送らないでくれないか?
「オーミ、お願い」
ちょっ…いやマジデ危険なんだよ。多分にやっこさんも別世界だと知らんだろうし、神々と敵対している。
その神々を倒す為に力を貸してくれといや、まぁ、動くかも知れないが。実際問題神々が現状存在してるのか?ということがな。
まぁ、居なかった時はそんときゃそん時だろ。どの道足戻り不可ルートっぽいしな。やってみるか。
「もっかい目を開けてくれないか?フェンリル!」
その声に、再び鋭い目を見開きこちらを見る。
「ほう?何故我の名を。ならば再び尋ねよう。我が力を貸すとして、我に何の利があるのか?」
「それは…」
「それは、何か答えよ…小僧」
ごくり…と唾を飲み、一息に答えた。
「神々を倒す為だ!俺とアンタの居た世界とは全く別の世界に今居るんだ。俺も正直信じられないが。
その世界では、神が傲慢で、魔族と人間が手を組み、魔人を生み出し。そして人間とメディの様な力を持った者と魔族が神を封印した」
「…ほう。異世界、面白い話だ。が…既に神が封印された世界で我の力を何故必要とする?」
「それは、近い内に封印が解け、また戦いが始まるらしい。その為にかつて神々すら歯が立たなかったアンタの力を借りに来たんだ」
「ふむ。…ではその時がくれば楽しませて貰うとしよう。その時がくればまたくるが良い」
「それは…」
「去れ」
あ~…だめだ。流石に神族に匹敵する様なバケモン騙すなんてできっこな…ておい!?
あろうことかメディが、フェンリルに急接近というか、顔の目の前で大声を上げた。
「ちょっと!大きいだけの図体しか能が無いから逃げてるのでしょ?」
「なん…だと?」
あーっ!メディなんつー無茶を!そんな煽ったら!煽ったらぁぁぁっ!!! 俺は両手で頭を抱えて大袈裟に困る。
それを見ているのかいないのか、まるで速射砲の様に続ける。
「神々を噛み殺した?とんだ眉唾ね?それとも自分で流した嘘?自作自演にも程があるよ!!」
「小娘…」
うわーっうわーっ寄ってる!すっげぇ目元っつーか口の上のとこにシワが寄りまくってる!!怒ってるってもんじゃないぞ!謝れ早く!!
「そもそも何?こんなトコで寝てるって…寝てるのじゃなくて神が怖くて脅えてるだけだよね?!」
「うわーっちょっと待てっ!すみませんごめんなさい悪気は無いんです!」
必死で弁解しようとする俺を他所に、物凄い眼光でメディをにらめつけるフェンリルと、それを怖いもの知らずにも程があるメディは睨み返す。
長い時間がたったように思えた、無言のガン垂れ。先に目を逸らしたのは驚いた事にフェンリルだった。
「フ…クハハハハハッ!!!面白い小娘!長らく我に怒気を飛ばす者なぞいなかった…飽いていた…飢えていた。戦いに。
小娘の様な蛮勇ならば、楽しい戦いの渦中へと誘ってくれそうだ。利が見えた…いいだろう力を貸す」
お?おおおぉぉぉぉっ!?すげぇ!単純に動物の本能を突付いて説得しちまったよ!…そういや狼だった。
人間相手の説得方法なんて通じる筈も無いわけだわな。
「本当?ありがとう…えっとフェンリル?だったよね。よろしくおねがいするね」
「任せるが良い、然しながら、我の力を受けきるだけの器が残念ながらその者には…無い」
ガーン。はっきり言われて死亡フラグ確定してしまった…!
「え、それじゃあ。」
「案ずるな小娘。我が全てを貸さなければ良き事。ただそれでも確立は五分と五分だろう」
半々かよ。然し、完全に無理よりはマシだな。半分とはいえ生存確率が50%なら試す価値もあるだろう。
「じゃあ、フェンリル。力を貸して。今私達の街に…」
「言わずとも視えている。どうやら貴様達の仲間の旗色が悪い様だな」
「え?嘘!?リセルがいるのにそんな事あるはずがっ」
「残念ながら、相手との相性が悪い様だ。持って数分という所か。急ぐといい。取り返しがつかなくなる前に我が力を貸そう。
本来はあのような雑魚を相手にするのは好かないが、今回は特別だ」
以外とサービスいいなこの狼。んじゃこれからどうすればいいのかと。メディに聞いてみよう。
「それと、そこの小僧。貴様の思考は全て我に届いているぞ。今後見え透いた嘘はつかぬようにな」
ギャーッ!!おもっきり思考読まれてんじゃないかよ!
「すみませんっした!」
「まぁ良い。さて、急ぐといい。時間は待ってはくれぬぞ…」
「そうだね。急ごう。じゃあ、オーミ、フェンリル。右手を出して。
お?何かまだ続きがあったのか?取り合えず、言われるがまま右手を出してみた。
「ふむ…これでいいのか?」
「うん。じゃ行くよ。心拍同期…魂魄を繋ぎます。 主をオーミに…魂連発現!
「ぐ…流石にこれ以上はもう…すみません。リセルさんどうやら限界のようです…」
「ちょっと!もう少し頑張りなさい! あ~もうメディは何してるのかしら。失敗なんてしたらただじゃおかないんだから!」
でも、私も限界か…な。気を抜くと意識が遠のいてしまいそ…あれは?
「リカルド!目を開きなさい!!結果が出たようよ…ギリギリでしたけれど」
「あれは…メディさんのリンカーフェイズ…? あの時見たそれとは全く違う。いやそもそも黒い影では無いみたい…ですね」
「確かにそうね。異才だから全てが違うのかも知れないわ。でも綺麗な色じゃない銀色なんて、少し羨ましいわね」
「ですね。…ではもう一頑張りしますか!あと少し耐えればなんとかなりそうですよ!」
少し遠くで輝く銀色の影。というよりも光。リンカーフェイズは基本的に影が生まれるのに。本当に何もかも全てが違うようね。
これならこの、憎たらしい緑色のブヨンブヨンを何とかしてくれそうな気がしますわ。
あの光が、僅かに残ったリンカー達の気力を回復させたのか、先程よりもスライムを魔法陣へと押し返しているわね。
本当に…異才。どんな力なのかしら。早く出てきなさいよもう!
その瞬間、途方も無い吼え声の様な…吼え声というよりも衝撃波に近いのかしら。それが私達の体を貫く。
そして、あのスライムを一瞬で魔法陣に押し戻すどころか、その魔法陣ごと消滅させてしまった。
一体何があったのかしら、私達は衝撃波の去った先を見た瞬間、
見たことも無いそう銀色の毛並みをした獣の様なリンカーが、ただ走った後。というような動作後の背を見せている。
でもおかしいわね。翼が無い。けれど浮いている。稀に空気を踏む事の出来るリンカーがいるけれど、彼もそうなのかしら。
「…メディ…?」
「おまたせ!リセル!無事成功したみたい!」
「素晴らしい!メディさん。長い苦痛とこれでさよならですね!!」
「うん…ありがとうリカルド」
「へぇ、凄いじゃないの。物理攻撃の一切を受け付けないスライムを、一体どうやって。それも魔法陣ごと消し飛ばすなんて。
後で待たせた分きっちり聞きますわよ。」
「わ…私もわからないよ?」
あれ?でもちょっと待って、小さくなったメディは普通の様ですけれど、リンカーの様子がおかしくなくて?
「グ…グァ…ガァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「なっ…!!何事ですか!?」
私達も含め、周りのリンカー達が根こそぎ、その気合いともとれる吼え声だけで大きく飛ばされた。
半壊した家に衝突・地面に叩きつけられる者。更に上空に飛ばされる者。
半壊した家から身を乗り出し。崩れ落ちた瓦礫をのけて私達は、メディの方を見上げた。
「自我の崩壊…それもよりによって暴走の方だなんて…。なんてことですの」
「これはスライムよりも厄介な事になってしまいましたね。」
私は周囲を確認して、戦える者を数えなおした。
「40数名って所かしら」
「そのようですね。然し、むっ。危ないっ!」
戦力の確認をしていた私達を見つけたのか、とてつもない速度で落ちてきたメディのリンカー。
単純に落ちる。ただそれだけの筈なのに、地面が隆起し、中央付近は大きく窪んでしまいましたわ。まるで隕石の様ね。
そして、ゆらり…とこちらの方を向く。まるで獲物を捕らえようとするただの獣ね。
「ちょっとメディ!? ちゃんとリンカーの意識保ちなさいよ!!」
「やってるよ!けど大きすぎるの!声が届いて無いの!!」
「大きすぎるって何ですの!?」
「この力の、オーミの魔の源が、オーミの世界で神々を噛み殺したフェンリルっていう生き物らしいの!」
「か…神を倒せる様な力があったっていうの!?単体で!? 在り得ないわ!」
何てことかしら…確かに力は強い方が良いに決まっていますけれど、御しきれない程の強大な力なんて。
どうにか…どうにかして彼の意識を取り戻せないかしら。
「兎に角、押さえつけないと街が今度は消滅しかねませんね。リセルさん。」
「そ…そうね。本当にそうなってしまいますわ。」
「残ったリンカー全員で、押さえつけましょう。」
私達は、戦闘可能な状態のリンカー全員に合図を送り、暴走してしまったメディのリンカーを押さえつけようと、
上下左右から攻めかかった。圧倒的な力の差。策なんて簡単に吹き飛ばしてしまうでしょう。
出来る事は、押さえつけてなんとかリンカーの自我を取り戻させる事だけ…ああもうっ!!ほんっとに手間のかかる子ねっ!!!!!
第四話。最後まで見て頂きありがとう御座いました。
次回から、少し内容が重くなっていきます。




