第三十六話 「ノヴィア」
三十六話目となります。 今回から少し主人公メインが続きます。
俺達は、あの後野宿して、明け方にオズとリンカーフェイズを試した。
残念ながらフェンリルまでは行けなかったが、動物は普通に行けたようで。
早速、鷹と繋げて貰って飛んで行ってるワケだが…。
「デケェよ! この大陸デケェよ!!!」
飛んで二日経ったが、ふと気付く。 一向に海が見えない。
どんだけデカいんだ。
水平線の向こうに微かに海っぽいものが見えるが、それが海かも判らない。
「ったく。フィールド移動長過ぎだっての」
「何をワケのわからない事をいってる!」
俺の背中に張り付いている青白い色したインコ似の喋る鳥。アリオ。
つか…。
「テメェ鳥の癖に飛べよ!! 張り付いてんじゃねぇよ!!!」
「オマエが早過ぎるんダ!!」
「デブ鳥が運動不足なだけだろ!」
「…でぶ…とり…」
「デブじゃない! 羽が大きいだけダ!」
あ~…こんなやり取りしつつ飛んで二日。 まだ見えないのか。
「もう少しダ! あの山の向こうだゾ!!」
お? ようやくか! …いや山っつーか…。
眼下に草原が続く中に一際大きい…山。何か見たことあるモノが。
エアーズロック。といえば一番ピッタリだろう。
草原のど真ん中にズドーンと。
まぁ、それはそれとして、ようやくか!
「これ歩いて20日で済んだのか?」
明らかに一ヶ月かかっても無理そうな気がしたんだが。
「知らん!適当ダ!」
「毟るぞコラ」
「ヤメテー!!!」
「…やま…」
そのエアーズロック似の山っぽいものを越えると、
確かに民族が住んでますと言わんばかりの建物っつかテントの様なモノが見えてきた。
結構な規模で住んでいるようだ。
「おい! 気をつけろヨ!」
「何がだよ」
「…や…」
「や?」
俺は自分の足を見る。
相変わらず無表情でミニマム化したオズが、
矢ガモの如く貫通したモノを指差している。
「イデェ!!!」
気付かないと痛みは感じないもんなのか、その太股を貫通した矢があった。
俺は飛んできたであろう方向の地面を見る。
弓を構えて再び矢を射ろうとしている人が見える。
「おい! 俺は動物じゃねぇ!!!」
まさか狩られる側になるとは思わなかった!
と思った瞬間また物凄い速度で飛んでくる矢。
「避けロ!!」
言われんでもソレを滑空してかわし、一気に降下してそれを射った主の所まで降りる。
「コラテメ! 殺す気か!!」
「お! スアル!!」
「なんだ? 知り合いか鳥」
何かもういかにも遊牧民という服装。
しかしまた女か? 何かまた嫉妬増大フラグたってないか。
喋る鳥アリオが、その子の頭の上に飛んで行き何か喋っている。
取り合えず俺は貫通した矢を引っこ抜く。
「いでででででで」
無理矢理抜く、簡単に思ったが…太股の肉がひっついてくる。
中々抜けないつか、例えれば肉が矢を噛み付いて放さない。
「ぬけねぇよ!!!」
「…ち…たくさん」
「うげぇ…」
無理矢理抜こうとして、抜けずに引っ張った分だけ出来た肉の隙間。そこから血が大量に流れ出てきた。
「・・・・・・・・」
あん? さっきの子が何か喋ってるが…またかよ!!! また言葉判らんぞ!!
なんだ? 何か俺の足を押さえつけたぞ。
何をす…。
「ぎゃーっ!!」
いきなり取り出した刃物で斬られた!! 麻酔も無しで矢の貫通した周囲を斬られた!!
スパッ。 まさにスパッ。 こう剃刀で誤って自分の体の一部を斬った時。
斬った瞬間痛みは起こらないが、だんだんこう…焼ける様な痛みがじわ…っとくる痛みのソレ。
「いだだだだだだだ!!!!」
「…ち…たくさん…」
そりゃ見たら判る! 大量の血がっ。…まぁ再生能力に回して貰ったらすぐ治るけどよ。
痛いもんは痛いんだよな。 そんなこんなどうやら矢を抜いてくれた様だ。やり方はどうあれ。
「オズわりぃ。ちょっと再生能力の方に全部回してくれ。 痛くてたまらんわこれ」
「…」
黙って頷いたオズ。 お~、斬られた部分から泡が噴く様に出ている血が治まっていく。
まだ少し時間かかりそうだが。
「狩られる側の感想どうだっタ! オオミ!!」
「お前が食らってみるか焼き鳥」
「イヤダ!!」
「毟るぞこら」
「イヤダ!!!」
相変わらずのこの鳥。 しかしなんつー野性味溢れる事してくれるんだこの子は。
ふと俺の事をジッと見ている女の子。見た目14ぐらいか? 大体そのくらい。
「あ~…言葉通じますか?」
一応、イグルスの方の言葉知ってるという可能性を信じて声をかけてみる。
「・・・・・」
だめだ。どうやら判らん様子。
手入れせずに伸ばしたグレーっつか灰色の髪。目は青色。
日焼けしているのか地肌なのかこんがり小麦色。
おっぱいがわりとこう…メディが少し成長したぐらの大きさ。
布っつか皮? 良く判らん素材のクリーム色の生地に妙な模様の赤刺繍。
腰もそういう感じのを巻いている。 足は何も履いていない。裸足、いたくないのか?
なんというか、うん。 これはこれでいいな。
「・・・・・」
なんだ、何か言ってきてるがわからんぞ。
「ノヴィアに何か用か聞いてきているゾ!」
「お前言葉わかるのかよ」
「オマエみたいに馬鹿じゃないからナ!」
「毟るかもう」
「ヤメロ!!」
まぁ、通訳いたんで助かった。
「つかノヴィアってなんだよ鳥」
「この子の民族の名前ダ!」
「ああ、成る程。 雷竜ヴァランに会いに着たっていってくんね?」
「イヤダ!」
「お前な、何のためについてきたんだよ」
「知らん!」
こ…この鳥。 俺は鳥の長いトサカを掴む。 そしてさっき足を射抜かれた矢。
それを鳥の口の中に押し込み、グリグリと捻る。
「おっおぶっ!?」
「おらおらおら、通訳しないとこのまま串焼きにして食うぞ」
主人公の台詞かこれは。
青白い羽も相まってか顔色が明らかに青ざめている様に見えなくも無い。
「わっ…わばっは!!!」
「よし、んじゃ頼む」
俺は鳥の口から、押し付けた矢を放す。
「ふ~…無茶苦茶するナ!」
「いいから早くしろ!」
何か笑われてるからっ! しかも何かこう…カワイイからっ!!
そのスアルという子の頭の上に跳んでいったアリオがまともに通訳している。
というか、あらかたの事情掻い摘んで話しているのか。 少し時間がかかっている。
ん? 何か俺の耳を引っ張るオズが、足の方を指差している。
足の方を見ると綺麗サッパリ治っていた。
「…あし…」
あ~…治ったのか。 んじゃ。
「んしゃ、また射られたらかなわんから、リンカーフェイズ解いてくんね?」
「…しんぱくどうき…かいじょ…」
元の姿に戻った俺。 そして戻った俺の方をジロジロと見ているスアル。
なんだ、まさかこの子も気が強いというアレか?
いや気が強いだろうな野生児っぽいし。
「・・・・・」
いやすまん。全く判らんぞ。
「ノヴィアはお前を歓迎する。 だそうダ!」
「あ、そりゃどうも」
軽くお辞儀をする俺。
元にもどったオズは相変わらず俺のズボンの裾を掴んでいる。
「・・・・・」
「守護者に挑むお前は戦士か愚者か。結果を楽しみにしている。だそうダ!」
…そういう部族かよ。
「あいよ。 つか守護者ってこたあそこに居るのか?」
「・・・・・」
「居る。供物を捧げる代わりに知識を与え、そして我等を護っている。 だそうダ!」
まさか、あの集落のど真ん中に寝てないだろうな。
普通遺跡とかそういう所にいるだろ。
つか供物って…餌付けかよ!!!
「・・・・」
「ついてこい。 だそうダ!」
「あいよ。じゃ、案内されとこうか」
俺達は案内されて、草原を歩いて進む。
見渡す限り草原が続く、遠くに動物が群れで走ってるな。
イグリスも森に包まれていい感じだが、ここもここでいい。
風がこう…乾いてて荒野って感じもしなくない。 ちょい暖かい風が強めに吹く。
風・・・が…って。
「はいてネェ!!」
思わず口から出た言葉。 いや普通に出るだろこの言葉。
案内するスアルという子の腰巻が風でフワリと浮き、男の反応というかめまぁ、目がいくわけだ。
そしたらまぁ、何もはいてねぇよ下着はいてねぇ。 白いくてカワイイお尻がこれまた…やっぱ日焼けか。
「メディにいいつけるぞオオミ!!」
「言ったらその頭の毛を全て一本残らず毟るぞ鳥」
「ヤメロ!!」
「…むしる…」
「オマエもかオズ!!」
何か変な事ばっか覚えてきたなこの子。
そんなこんな歩いていると、ノヴィアという民族が住んでいる所の入り口へとやってきた。
お~…皆似たような服。 男は腰巻一丁。あんま見たくは無い。
女はもう・・・たまらんとしか。 はいてないと思うと尚更妄想が脳内を駆け巡るワケで…。
「顔にでてるゾ!オオミ!!」
「うおっと!!」
「…」
うへ! オズが何か見てる。 やべぇやべぇ。
隠す様にオズのオデコを撫でる。
「・・・・・」
お? 何か酋長っぽい爺さんが着た。 頭に羽飾りつけてていかにもだ。
だが何をいってるかさっぱりわからん。
「・・・・」
スアルって子が何か爺さんに言ってるみたいだが。身振り手振りから想像しようとしてみたが、サッパリだ。
「・・・・」
「雷竜に挑む若者、何故に彼に挑むか理由を述べよ。だそうダ!」
ああ、そういう方向か。
「赤竜サザから雷竜ヴァランに会って、神の知識を得て来いといわれたって…お前もそれ判ってるだろ!!」
「知らん!」
「毟るぞ」
「イヤー!!」
慌てて通訳する鳥。 まぁボチボチ…ん? 何かスアルって子がオズに近寄って…。
遠慮の欠片もないな、気持ちは判らんでもないが、
緑髪のベリーショートからこれでもかといわんばかりに目立つオデコのソレを叩いて笑っている。
気持ちは判るが、初対面でそんなベチベチ音立てて叩くかお前。
「・・・・」
「赤竜の使者、我々ノヴィアは君を歓迎しよう。 だそうダ!」
「あ、そりゃどうも」
わりと深めに頭を下げた俺。 ふと横を見るとまだ叩いてるよこの子。
オズの顔が段々怒ってきている様に見えなくも無い。
「・・・・」
お? 何か爺さんが向こうへ向いて喋ってるな。
「歓迎の準備をするらしいゾ」
「ん? そうなんか」
そりゃありがたい。干し肉と生肉しか食ってなかったしな。
野菜なぞあれば…無いだろうな。
「・・・」
ん? 何か叩くのをやめたスアルって子が近寄ってきたぞ。
「・・・・」
「歳はいくつだ。 らしいゾ!」
「16っていっといてくれ」
危うくまた彼女云々いいそうになったが。
…ん? 何かコッチを見ているぞ。
「・・・・・」
「16は一人前の男として試される歳。だそうダ!」
「…何かの成人儀式みたいなモンか?」
何か嫌な予感がしなくも無いぞ。
変な秘境にいかされたり…とか。
「・・・・」
「雷竜と戦う資格のある歳。だそうダ!」
ああ、成る程。 そっちか助かった。
と、お? さっきの爺さんきたな。
「・・・・」
ん? 何か案内されてるな、手招きしている。
まぁ、着いていくか。 俺達は案内された所にまでついていった。
…おいおい。 居るよ、ズドン!と座ってるよ雷竜っぽいのが。
何自然に溶け込んでるんだよドラゴンが!!!
もっとこう奥地とか遺跡とかに住んでろよ!! 餌付けされてんじゃねぇよ!!
「・・・・」
ん? 何か雷竜にあの子が喋ってるな。
つか…サザもデカかったが、コイツもハンパネェな。
「・・・・」
「今日は休んで明日に、雷竜に挑め。 だそうダ!」
「疲れとってから…か。ほいほい」
「異国からか、久しぶりだな私を訪ねてきたのは。
…。 君はどこか違う匂いがするな」
また嗅ぎわけられたよ。 しかも何か思ってたより知的だなおい。
「サザにもそれ言われたっスね。 初めましてっス。
八坂大海というっスわ。
ご推察の通り、異世界から飛ばされ…いや落とされてきたっス」
静かにどデカい目を閉じて、暫く黙る雷竜。
「成る程。私はヴァラン…微かにシアンの匂いも混じってるな」
ああ、会ってたんだったな。つかどんな嗅覚してんだよ。
ん? 姿をよくよく見てみると、青灰色の鱗にどデカい体と翼。
しかし目が…ありゃ。盲目か。白いな。
「失礼な事聞くみたいっスけど」
「ああ、目は以前に見えなくなっている」
ああ、だからここにいるのか。成る程。
「それであのシアンさんとやり合ったんスか?」
「ああ。その通り」
すげぇ。心眼とかそういった類か?
「明日を楽しみにしている。 あの娘が遣わした者、何より異界の者」
「い、いや~。それが何の変哲も無いただの人間で落胆させそうっスけど」
「生まれた時から強者は存在しない」
「そ・そりゃそうっスね。 わかりましたっス」
なんつーかサザもそうだが、争い好むって雰囲気まるで無いな。
この竜も年寄りか。
「聞きたい事は、私を満足させられれば答えよう」
「う…うス」
やっぱ雷竜は雷竜か。
「・・・・」
「歓迎の準備が出来た、来い。 らしいゾ!」
命令形かよ! まぁいいか。
俺達はスアルって子に連れられて雷竜を後にした。
暫くすると、ウホ。何かの丸焼きやら野菜っぽいっつか果物っつか。
並んでる並んでる。 全部葉っぱの上に乗っててこう、民族だなぁと思わされる。
「・・・・」
「ここに座れ。 だそうダ!」
「へいへい」
そういうと、横にオズを置いて座る俺。っておい腹すいてたのか、速攻食いついてるぞオズ。
いいのか? いいのかよ! まぁいいや。 取り合えず俺は手をつけずに待った。
暫くすると、さっきの爺さんが何か持って着たな。
ん?…なんだこり。 手渡されたのは生の何かツヤツヤした肉の塊。
「・・・・」
「君の子孫繁栄をノヴィアは願う。 だそうダ!」
ああ、つまりここの慣わしかなんかってことか。…でこれを食えと?
何か丸くてブニッとしてツヤツヤテカテカ。 そして生。
あんまり食いたく無いな。 が食わねば相手の好意を蹴る事になるんだよなぁ確か。
意を決して口の中に放り込んで噛んだ瞬間。何かこう…苦い? ドロッとしたモノが潰れた肉から出てきた。
…粘り気の強いドロッと苦味のある、とてじゃないが美味いと言うか、生で食いたく無いソレ。
なんだこりゃ。
「ちなみにそれは、この周辺に生息するユトラという動物の」
「動物の?」
何かすげぇ嫌な予感がしなくもないが…。
「キ ン タ マ だ。 うまいカ?」
「ぶふぅっ!!」
思わず吐き出しそうになったが、子孫繁栄…なるほどそうきたか!!!
然し、相手の手前吐き出すのはアウトだろ。 必死で噛み砕いて飲み込んだ。
「・・・・」
お? 察してくれたのか、水…っ! 手渡された容器に入ってるのを一気に飲んだ。
「ぶふぅぁっ!?」
流石に噴いた。この生暖かい苦味と…色。間違い無い。
「出すモンフルセットかよ…」
「それはユトラの小便だナ。 ここでは水は余り取れないからナ!」
成る程…小便も貴重な水分ってことかよ!!
良く見ると、食い物に並んでいる容器に血液っぽいのから目ん玉から何から。
ちょっと食欲無くすモノがこう…ゾロリと。
「俺…戦わずに死ぬ、かも。」
三十六話、最後まで読んでいただいてありがとう御座います。
お気に入り登録数も増え続け、感謝感謝で御座います。
次回も引き続きこの話となります。




