第三十五話 「愛憎怨怒」
三十五話目となります。 今回はヒロインメインです。
時間軸は少し前話より戻ります。
「…オーミ…」
薄暗い部屋、窓も無くただ薄暗い部屋…。
食事を運んでくる女性から何処かは聞いた。ここはレガート。
椅子に座る私。その前にある丸いテーブルの上の蝋燭が揺れる。
風が何処からか…隙間風…か。 外が見てみたい…。
オーミを見たい…。
「ご気分がすぐれないご様子ですね。メディ様」
…また、音も無く現れる彼…ケルド。
私が言う必要も無く、私の心を見ているみたいに話しかけてくる。
「オオミ君でしたら、現在リセルさんと一緒にセアドの森に居るようで御座います」
また…リセルと一緒。 どうして…私を…私の傍に居ないの。
「ご命令下されば、私がその様子をこのオーブを通して見せて差し上げられますが」
…オーミを見れる。 今、何を…。
「うん。 お願い、ケルド」
椅子に座る私に、跪いた彼はこう答えた。
「かしこまりました。 では早急に行って参りますので、ここにオーブを置いておきます」
目の前の丸いテーブルに置かれた、丸いオーブ。
その横に置かれている蝋燭の光が、オーブを照らしてうっすらと私の顔を映す。
表情が…無い。 そう、オーミに出会う前まではこんな顔だったなぁ…。
「浮かない顔をしておられますね。 あ、そうそう」
私の顔を見て、ケルドは思い出したかのようにこう言う。
「近々、このレガートに、ガット君とアリセア君がこられるみたいですね。
勿論、彼等はクラドさんの遺志を伝えにこられる様子。
丁重にお持て成しを致しますので、ご安心下さいませ」
…ガット君と…アリセアちゃん、ここにくるんだ。
クラドさん…だれだろう。
「この国を憂いて、この国の愚かな者の為に、子供を残して死んだケルベロスのリンカーです」
…国を憂いて…?
「は。私も立場上余り強く言えませんが、人体実験を繰り返し、人為的に貴方様のような力のある魔人を作り出す。
そのような行いをしており。 更に人を人と思わず、人を駒として育て上げる国で御座います。
それを憂いたクラドさんは、反逆の疑いありと、捨て駒にされました」
ケルベロス。そう…また自分の為だけに相手を騙して利用して必要がなくなれば…。
「愚かで御座いましょう。 然しながらそれが人。
善もあれば悪もある。それは神もまた同じ」
え、でも神は心優しいって。
「心優しい神は大変多い。ですが、同時に悪神も存在するのは紛れも無い事実。
光があればそこに影は落ちます。 絶対なる善というものは存在しません。
善行の名の下に行われた命を奪う行為。 それに魅入られた神も確かに存在するのです」
ああ…そうなんだ。 神も…人も結局。
「そう、姿形は違えど善悪は必ず存在します」
じゃあ…私は。何の為に…?
「メディ様には、この世界を変える力が御座います。
それを善とするか、悪とするか。それは私が口を出す所では御座いません。
私は、メディ様の望む事を実行するただの僕に御座います」
…世界を変える力。
そんなものよりも…オーミに会いたい…オーミが欲しい。
「心中察するに余りあります」
立ち上がり、私の両肩を優しく掴み優しい目で彼は言う。
「出来るならば、私が今すぐにでもオオミ君をメディ様のもとへお連れしたく思います。
然し、双極竜セオの娘シアンさんを筆頭に、中々の使い手が多く。
そして更に、今はセアドの森。私でもおいそれとはいかず」
ケルドでも…。じゃあせめて。
私は再び薄暗い部屋のテーブルに乗っているオーブに視線を移す。
「判りました。 では、早急に行って参りましょう。
然し、セアドの力は強大です。 私の力が途中でかき消され、
オーブから見れなくなってしまう事も考えられますので、そこはご容赦を」
「…うん」
そういうと、深く私に一礼してその場からこの薄暗い暗闇に溶ける様に消えた。
もう…考えるのも嫌。 ただオーミの隣に居たい。 それだけが日増しに強くなる。
彼に会いたい。 彼のいい加減な所、彼の馬鹿な所。…。
立ち上がり傍にあるベッドに身を寄せる。
柔らかい…絹のシーツを抱きしめる。
安らがない。 ただ…虚しさだけが募っていく。
彼の胸で眠りたい…安らぎたい。 …好きって言われたい。
不意に頬を伝う涙が、枕を濡らす。
声にならない声で…私はただオーミの名を呼び続けるしかない。
何時間たったのだろう。…泣き疲れた私は寝てしまっていた。
…オーブにふと目が行くと、まだ反応も無い。
力なくベッドを起き上がり、椅子に座りオーブを眺める。
…。
「リセル…どうして…」
まだ信じたい。 彼女は今まで私を守ってくれていた。
それを信じたい。 リセルはそんな事はしないと。
でも…彼女もオーミが好きだったら…私は。
今までずっと守ってくれていた人。
…私が身を引くべきなのかな。
判らない。…オーミが選んでくれるよね。
私には…判らない。
考える私の顔を淡いオーブの光が照らす。
「あ、…ついた」
オーミが見れる。私はとても嬉しくなった…でも。
そこに映っていたのは、裸で抱き合うリセルと…。
幸せそうなリセルの顔。 絡み合う体…。
リセルが彼の口を口で塞ぐ…。
見たくない! 頭の中でそう叫んでいる。
けど、目が離れない…。
声は聞こえない…けど確かに、見詰め合って強く抱きしめあって名前を呼び合ってる…
…。 彼の口から発せられただろう言葉…それを見た瞬間、
私はオーブを床に叩きつけ床に四つんばいになっていた。
目から涙がとめどなく溢れ出る。…それを必死で堪えようと歯を食いしばり息を止める。
それを邪魔するように喉に熱い痛みがこみ上げてくる。
痛みが喉から口へ…耐え切れずにソレを吐き出した。
激しく咳き込み息を荒げる。
暫くその姿勢のままで何も考えず、割れたオーブを見つめる。
欠片に映る酷い顔の私。
逃れようの無い現実。
もう…私の安らぐ場所は…無い。
悲しい…。苦しい…。
憎い…この世界が。
なんで…どうして私だけこんな…ずっと苦しい思いをし続けないといけないの。
私は幸せになってはいけないの?
リセル…私を騙した魔人が憎い。 オオミ…私を捨てた人間が憎い。
シアン…私を利用した竜が憎い。 ユグドラシル…私を生んだ精霊が憎い。
魔族…リセルを助ける魔族が憎い 神…こんな世界を創った神が憎い。
もう…消えてしまいたい。 神も人も魔も精霊も全て壊して…
消えてしまいたい。 この…世界と共に。
三十五話。最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
ヒロインが酷い扱いで御座います。
次回はようやく主人公の出番。
キャラ編成からしてシリアスには向かない。
そんなキャラ達のエルフィ編。
先ずはエルフィの民族性やらから入っていきます。