第三十四話 「誇り Ⅳ」
三十四話目となります。今回で誇りの話は終了となります。
メインは引き続きリカルド。
前回は台詞をメインに置き、今回は台詞よりも表現の方に傾いております。
まだライトノベルの文章構成のバランスが判っていないので、結構偏ったりします。
嵐の前の静けさ。とでも申しましょうか。
明らかに我を失っているリセルさん。 然しこの中で平然と立っている。
私は、先程これ以上のモノを受けていた為か、なんとか立ててはいますが、
怪我の痛みもあり、少し気を抜くと気絶してもおかしくはありません。
少し下がり周囲を見回す。
精霊セアド、この隠者の森の守護者、争いを好まない精霊。
白で統一された美しい容姿。
その彼女は泉の上に立つように浮いて、相変わらず険しい表情でケルドを見ている。
私が下がった理由もここにありますね。 彼女がいるならばこれ以上悪化する事は無い。
そう思えたからです。
魔族の二人。 泉の浅瀬に二人並んでいます。
サキュバスとインキュバス。 女性の方はそれは美しい方。
黒く長い髪に彫りの深い整った顔立ち。 目は黒くその中に浮かぶ血の様に赤い眼。
スタイルも大変素晴らしく、比べた事がバレたら怒られそうですが、リセルさんとは比較になりません。
リセルさんは、細い体に胸やお尻といった部分の肉付きが目立つという感じでしょうか。
対してディエラさんは、全体的に肉付きのバランスが良いと申しましょうか。
色気。そう色気が比べ物にならない。 そして、これがなんとも…最早紐と申していいでしょう。
それに見えそうで見えないなんともうしましょうか。ええ。そういう容姿をしております。
男性の方は…少々視覚的に宜しくない容姿で御座います。
筆舌に尽くし難い容姿。 四角い顔に丸い鼻。分厚く赤い唇。
それに反して人形の様な目。目はディエラさんと同様ですね。
長い睫、と金色の髪は何故かクルクルと巻かれており、横の髪は縦に渦を巻いています。
体は相当鍛え上げているのか、恐ろしいまでの筋肉。そしてその体を現す様な鋼色の肌。
…何故男性の彼がディエラさんと同じ服…というか紐といいましょうか。ソレを着ているのか気になりますが。
その二人が浅瀬に並び、やはりケルドを睨んでいます。
先程ケルドが一人と申しました。これは彼等が当の魔王であると言う事に相違無く。
ともすれば、リセルさんは何者なのか。 魔人であり、いまこうして魔王の力らしきものを…。
それすらもケルドの手の内。ともすれば、会長もそれを知っているのでしょうか。
二人から会長へと視線を移す。
ガット君同様に、その性格を現すかの様な赤い髪。違うのは片目を隠しているという事だけ。
片目で相当遠い距離まで見えるという事。
もう片方の目になにかあるのか、判りませんが。赤く無造作な髪。茶色の眼。
健康的な体。といえば一番宜しいかと思われます。 余りスタイルには気を使っていない方ですし。
学園の服に血が結構な量ついて乾いている所をみると、以前として遺体の弔いは済んでない様です。
その影にゼメキスさん。私と同じく銀の髪。ただ伸ばしているのか腰近くまであります。
白い肌に、黒い眼。少々頼りなさを感じますが、彼のシャドウストーカーと会長が揃えば。
それはもう…酷い反則です。一方的に相手を叩きのめしますからね。
おや、精霊セアドが力を解いた。 リセルさんの邪魔になると思ったのでしょうか?
にしてもこの方は厳しいですが、どこか母親の様な印象を受けます。
その精霊セアドも少し下がりましたね。 そこまで危ないのでしょうか。
私も更に下がる事に。 会長は泉のほとりから相変わらず腕を組んで立ってますね。
…。然し静か。先程も申しましたが、静か…ですが何かおかしい気がしますね。
ふと、私はリセルさんの足元。泉へと視線を移す。
良く見てみると、その違和感の答えが出てきました。 泉にいる魚が浮いている。
死んでいる? いや気絶でしょうか。 微妙に痙攣している所を見ると。
何故魚が…ふと、視線を魔族のお二人に移す。
そして再び判ったかの様に、リセルさんの足元に戻す。
推測ですが、風。それを無意識に使っていると。そう思いました。
風は目に見えませんがもその影響が周りの生物に出始めていると。
然し何故。 考え込む私にディエラさんが気付いたのか、転移でこちらに来て小声で話してきました。
「風空自在…魔王の力よぉ…。 風に類する全てを支配下に置いて、それを操る…」
風空自在。支配下。 つまり風の精霊を従えさすと。
察する所、魔力で強引にねじ伏せるといった所でしょうか。
「成る程。然し意識が無いご様子ですが、大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ…。 それでもセアドには敵わない…」
風の精霊を従えて尚、精霊セアドには敵わない。 一体どれ程の者。
おや、段々と泉が…。
「そろそろきますわねぇ…」
「と、申されますと」
私はディエラさんと同じ方向に視線を向ける。
驚く事にリセルさんの足元、泉が渦を巻き彼女を取り囲んでいる。
しかし、ソレほど激しい渦を巻いているというのに風が静か。
「力で従わせる。つまり…」
「魔力で束縛しているという事で御座いますね」
「そう…魔力で風を包み…意のままに操る」
ともすれば、風の流れを感じて次の行動を予測すると言った事は不可能。
どこだったでしょう。どこかの海で、突然足元から波が突き上げてくる。
三角波と呼ばれる波が起こる海があると聞いた覚えがあります。不可避の波。不可避の力。
む。渦は更に勢いを増し、ケルドの周りにいくつかの水の竜巻が。
にしても不可解。その様な力を前にして、
まるで、こうなるのを待っていたかの様に愉しんでいる様に笑み。
おかしい。全く持って行動が理解出来ない。何故この様な。
「おやおや、怒らせてしまいましたかね? まだ気付かない力を無意識で…。
いや意識的に使っておりますか」
顎に右手の人差し指と親指を当て、確かめるように言うケルド。
そして、そのまま視線を会長へと移す。
「まぁ…これは久しぶりに楽しませてくれそうな、貴女へのプレゼントです。
シアお嬢様」
「はっ! えらい気前がいいね! 何考えてるか知らないけどまぁありがたくうけとっとくよ!!」
自分が不利になるように自ら仕向けた? …何故。
まるで遊びを楽しむかのような顔で会長に一礼をするケルド。
そして、精霊セアドに視線を向ける。
「さて、争いの種は去る事に致しましょう。
少々、森を騒がせた様で申し訳御座いません」
精霊セアドに敬意を払うかの様な仕草。
精霊セアドがソレほどに位の高い精霊なのでしょうか…。
「ファラトリエル。 貴方は一体何を考えてこの様な事を繰り返すのです」
「それは…」
核心をついてきますね。 然し、私も知りたい所。
いや全員でしょうか、視線がケルドに向きました。
「楽しいからで御座います」
…楽しい?・・・アレほどの死者を出して楽しい?
いや、それ以前に何を楽しむ。
苦しむ者を見るのが? ・・・一体その真意はどこに。
考える私の心を読んだのかこちらを見るケルド。
「リカルド君。 苦しみや悲しみ、そういったものもまた…」
・・・! それが終わる前にも彼の周囲に巨大な木の根が泉から現れる。
「ファラトリエル。 命を何と心得る」
明らかに怒りを露にしている精霊セアド。
それを嘲笑い答えるケルド。
「脆い玩具…で御座いますね」
ファラトリエル。ケルドの本当の名。
いや、それすらも偽りかも知れない。
言動全てが不可解…理解出来ない。
考える私に再びケルドは言う。
「まぁ…興味はありませんでしたが。美味しく頂きましたよ?リセルさんを」
・・・。
意識が飛んだ。 意味の理解よりも体が動いた。
体の痛みも無い、感覚が無い。 その瞬間、誰かに取り押さえられた事だけは確かに覚えていた。
そして、気付いた時には、私はディエラさんの家のベッドで寝ていた。
横を見ると、少し離れたベッドでリセルさんも寝ている。
…私は、…。
「大丈夫よぉ…? 彼女はまだ汚されていませんわ…」
反対側に座っていたのか、私の心中を察した様にディエラさんが声をかけてきた。
「ディエラさん…」
「大丈夫。 彼女は自分で自分を守れましたわよ…」
自分で、自分を…。
私はベッドを起き上がる。 骨がいくつもやられている事を痛みが思い出させ、地面に片膝をつく。
「ほらぁ…重傷なんだからぁ…無茶しないで」
ディエラさんの細い手が私を掴もうとしましたが、私は入り口を向いたままその手を払い立ち上がる。
「あら…」
「うふんっ! 男のプライドねっ!?」
少し離れた所にオーマさんもいましたか。 倒れそうな体を支えて歩く私を見て、再びこう言われました。
「リセルにはうまく言っといてあげるわ。死なない様に叩き上げられてきなさい。
誰でもない、貴方の…」
「誇りの為に…ですね。 感謝致します」
そうすれ違いざまにオーマさんと言葉を交わし、私はディエラさんの傾いた粗い作りの木の小屋を出る。
奪われて初めて気付く。 私にも誇りがあった事に。 リセルさんの中にこそ私の誇りが在った。
そう思っていた。 しかしそこに私の誇りは無く、彼女を守る私の中にこそ私の誇りが在ったと気付かされた。
…いや、誇りというよりも、彼女を愛していた。 という方が正しいのか。
それはまだ良く判りませんが、唯一つだけ確かな事、それを取り返しに向かう。
そう、誰でもない私の誇りの為に、精霊セアドのもとに。
未だ成らぬこの力。砕を会得し、奴の体に叩き込み、奪われた私の誇りを取り戻す為に。
三十四話、最後まで読んで頂いてありがとうございます。
恋愛要素まで絡んで複線が凄い事になってきました。
既にストーリー構成の大まかな図式は出来上がっていますが、複線が多すぎてごちゃごちゃしております。
頭の処理が追いつけば宜しいのですが。
ケルドの性格もちょっと出てき始めましたね。
さて、次回はヒロインがようやく顔を出します。