第三十一話 「誇り Ⅰ」
三十一話目となります。 この話で二幕の複線はある程度できります。
という事で、主人公・リセル・ガット・シアン。四本の道に分かれました。
二幕はガットの道が本筋となります。
それに残りのキャラのサイドストーリー…いやこれも本筋の筈なのですがまぁ、中間といいましょうか。
この話は、リセル・リカルドメインとなります。
…R18入らない様に加減しないと大変で御座います。
修正
最後の文: リセル~ > そうでもないぞ?
追加文:ディエラ・オーマの容姿描写に若干の文章再追記
:リセルの魔族二人に対する呼称の誤字
:ディエラの台詞の修正 展開等には一切触れておりません。
「ふう…。やっとここまで着ましたわね」
「そうですね。 何度来ても素晴らしい眺めです」
セアドの森まであと僅か。 峠を登りきったので少し休憩を取る私達。
眼下に広がる広大な森。そこへ向かう様に一本の川が流れ、セアドの森を貫き地平へと続く。
「まぁ、暢気にしている暇は余り無さそうですし。さ、いきますわよ」
「判りました。 では、参りましょう」
私達は、休憩を終え峠を下って行く。 段々と見えていた地平が見えなくなり、
変わりにセアドの森の木。その巨大さからか、距離感がおかしくなってくる。
「相変わらず、無駄に大きい木ですわねぇ」
「確かに。 然しそれほど精霊セアドの力が強いという事にもなりますね」
「そう言えばそうですわね」
段々と近づいている様で、近づいていない。 そんな違和感を抱きつつ歩きながら私は考える。
普通の木でコレほど大きい、セアドの力の象徴とも言える木。
それならば大精樹ユグドラシルはどれ程大きいんですの?
そんな大きな木。 場所が判らない筈が無い。例えそれが海を渡った先であったとしても、
こちらにも伝わらない筈が無いですわ。
何か、魔法か何かで隠されているのかしら…。 考えても無駄そうですわね。
視線を少しリカルドに戻す。
「ん? 何で御座いましょうか?」
「いえ、ただなんとなくですわ」
「そうですか。 ちなみに一つお聞きして宜しいでしょうか?」
あら、珍しいですわね。 リカルドがたずねてくるなんて…なにかしら。
「何を改まって。…でも、珍しいですわね」
「そういえば、私から尋ねた事はありませんでしたかね」
「どうでしょう。 忘れましたわ…で、なんですの?」
何か、嫌な予感が致しますわ。 余り表情を変えないリカルド。
銀髪に短く切った髪を後ろに纏めて、やや細目の顔立ち。
そのリカルドが少し笑う? …なんでしょう。 笑うというよりもニヤけるといった方がいいのかしら。
「なんですのよ。 気持ち悪いですわよ。その笑い方」
「すみません。少々出来心と申しましょうか」
「だから何ですの?」
リカルドが、少し私から視線をそらして、再び視線を戻してきましたわね。
出来心?
「では、お聞きします。 オオミさんの事がお好きでしょうか?」
!
「なっ…なななななっ。何を! 私があんなお馬鹿好きなワケ無いじゃないですのよ!
ち…ちょっと頼り甲斐のある所が…」
「所が…なんで御座いましょう?」
「…怒りますわよ?」
「ははは。良く判りました」
…不快ですわ! 何か誤解されていますわね!!
私がどうしてあんな…あん…。
「おっと、さ、参りましょう。そろそろリンカーフェイズして一気にいっても宜しいかと」
「あ、そ…そうですわね!
心拍同期…解析開始!!」
私は手早くリンカーフェイズを済ませ、ガーゴイルの翼で森へと向かいましたわ。
オオミのフェンリルみたいな馬鹿げた速度は出ませんですけれど、
リカルドのガーゴイルも早いもので、
すぐに森へとつき上空からディエラの住処へと降りましたわ。
リンカーフェイズを解いた私達の前に二人の魔族が、
作りの粗い少し傾いた木の小屋みたいな家から出てきましたわね。
「あらぁ…待ってたわよぉ? お二人とも…」
相変わらずのんびりした口調ですわね。 …魔族サキュバス・ディエラ。
黒く長く、真っ直ぐで綺麗な髪。 青白い肌に尖った耳。 目が黒いのですわよね。
その中に赤。 ちょっと怖い目ですわ。 スタイルも…く、悔しいですわね。
それに、恥ずかしくないのかしら、こんな紐みたいな下着しかつけて無いなんて…。
…私もこの状態になってしまうので見てて恥ずかしいですわ。
「んんまっ! いらっしゃいっ! まってたわよ~んっ!?」
何か良く判りませんが、自分の筋肉を誇示する様な仕草のオーマ。
…魔族インキュバス。
何というか、岩石? みたいな顔にお人形みたいな目と髪。なんでこんな縦に巻いてるのか判りませんですけれど。
そして、ディエラと同じ目ですわね。その顔立ちに不釣合いな…釣り合ってるのかしら。わかりませんけれど。
鋼色の肌に物凄く鍛え抜かれた体。 魔力とか必要なさそうですわ。
それにしても…なんで男性ですのにディエラさんと似たような下着つけてますのよこの魔族は!!!
こっ…股間が気になって仕方ありませんわ!! しかも何故男好きなんですのよ!!
「どうしたのぉ・・? 私達ジロジロみちゃって…」
「うふんっ! もっと見てくれていいわよっ!? この に く た いっ!!」
オーマ…貴方は見たくありませんわ。とは、口が裂けてもいえないのですわよねぇ。
「いや~、美しいオーマさん。ますます美しさに磨きがかかっておいでで御座いますね」
「あ~らわっかるぅ~ん? 毎日ちゃんとお手入れしてるからよっ!」
「それは素晴らしい。 その日々絶やさず美しさを求め続ける姿が、
美しいオーマさんが美しさを保つ秘訣で御座いますね」
「そのっとぉ~りっ! よ~ぉぉおおんっ! もう可愛いわねぇリカルド…抱きしめちゃうっ!」
「美しいオーマさんにそう言って頂けるとは、光栄に御座います」
・・・顔色一つ変えずにそんな事スラスラと良く言えますわね。リカルド。
助かりましたけど…アレに抱きしめられて気持ち悪く無いのかしら。
「さ…。時間は待ってくれないわよぉ…?」
その二人のやりとりを見ている私に、横からディエラが話しかけてきましたわね。
確かに、時間は待ってくれないですわ。
「ですわね。 リカルド! 準備いたしますわよ」
準備しようとする私達にディエラが割って入る。
「うふ…。駄目よぉ? リセルは…私と」
「リカルドは ワ タ シ よっ!!」
…へ? 個別…ですの? どうしてかしら。
でも、その前に言うべきことがありますわね。
「あの、一つだけその前に聞きたい事がありますわ」
「魔王エヴァリア…。かつて、異界の者と共に在った魔族」
あら? 来る事も予想してましたし…レトが伝えておいたのかしら?
判りませんけれど。 言う手間が省けたですわね。
「その事なのですわよ。 私がその血を引いているとか」
「魔族に愛なんて…存在しませんわよぉ…。
長く生き、好きな様に生きて、好きな様に死ぬ…」
つまり、私には関係が無かったと。
オオミの言う流言という奴でしたのね。
「じゃあ…私は」
「うふ…でも貴方は魔王エヴァリアの力が使える…まだまだですけどぉ…」
…明らかに何か知ってますわね。 気付くまで答えない気かしら。
「そこなのですわ。 私が…まさか魔王そのものってワケでも無さそうですし」
「そう…ねぇ…。どういえば良いかしら。
リンカーフェイズ…オオミさんからどれくらい聞いてるかしらぁ…?」
それは…オオミから聞いた範囲では、生前の生き物を繋ぐ力と聞いてますわね。
だから、オオミは動物しかいない。オオミの世界にモンスターはいない。
…でもフェンリルはどうなのかしら? 明らかに異質ですわよね。
「その顔からだと…生前を繋ぐ力。 そう考えてますわねぇ…?」
「違うのかしら?」
「当らずとも…遠からず。 禁断の力。それを流したのは…」
「ケルドですわね。 じゃあ何ですの、
この力も魔人の生誕も彼が仕組んだと言いますの?」
「どうかしら…彼は姿をすぐ変えてしまいますからぁ…
心も読むしぃ…。 判断出来ないのよねぇ」
「じゃ、じゃあその禁断の力ってなんですのよ。
そもそもそんな力どこから?」
そう言い終わるとディエラは、考え込む仕草をする。
「それは私達にも判りませんわぁ…。ただ一つ。
でも、今はまだ早いですわねぇ…」
「ど、どうして早いのですの? 気になりますわ!」
そういうと、リカルドが私の肩を叩いてこう言って来ましたわ。
「過ぎたる知識は、身を滅ぼす。 地の精霊アラードのお教えです」
・・・。
「・・・。 わかりましたわ。 つまり今の私では確実にそれに耐えられない。
そう仰られるのですわね?」
「耐えられない…そう。その通り。 だからこそここに貴方は来たの…。
例えそれがケルドの手の内であったとしても」
これもケルドの手の平だとでもいいますの?
冗談じゃありませんわ。 思い通りになつてたまるものですか!
「ケルドは貴方達が思っているよりも、遥かに狡猾で残忍。
そして相手を利用する事に長けている。
裏をかいたつもりでいて、裏をかかれる。
その裏をかいたとしても、その裏をかいてくる」
ば…化物ですわね。
魔族にそこまで言わせるなんて。
「神慮思考…それがケルドの能力の一つ。相手を読み、そして利用する。
利用…いえ、もっと他の理由があるのかしらぁ…それはわかりませんわぁ…」
「私もじかに騙されましたからね。 並大抵の読みでは簡単に裏をかかれてしまいます」
リカルドまで…。ケルド、一体どういう風に私を…油断できませんわね。
「ん~まっ! でも! アナタ達の中にねっ!それをっ!!
打ち破れるかもしれない者も当然いるのよっ!?
あの元気なボウヤとかねっ!」
おかしくありませんこと? あんな考えの読みやすい…というよりも考えてない…。
考えてないとどうしても動きが単調になって逆に読みやすいですわよ。
「うふふ…。リセル…?」
な、なにかしら。妙な笑い方して。
「な、なんですの?」
「この広大な森に沢山生えた木。 その同じ木の中で何も印がつけて無い木を一本。
それをを見つけられるかしら?」
「そんな事無理ですわ!」
「そう…普通なら無理。 でもケルドなら可能。 そういう事ですわ」
…ケルドに出来る事をさせる? ・・・判りませんわ。
「うふふ…。シアンさんからオーブで一部だけ聞きましたけど…。
流石は双極。知と力を極めた。いえ、極め様とした竜の娘ですわねぇ…
私達でも答えが…みつかりませんわよ…」
でも、こうやって話すだけで何処かに居るかもしれないケルドにバレませんこと?
・・・話がおかしすぎますわよ。
「で…でも!」
「さ、時間は待ってくれませんわよ…? オーマとリカルドのボウヤはもういってしまったわ…」
え? あら、そういえばいつの間にか、居ませんわね。
…知りに着たのに、余計に判らなくなってしまいましたわ。
この事を考えるのはやめておきましょう。 頭がおかしくなりそうですわ。
それにしても、リンカーフェイズ。まだ全てが判っていない禁断の力。
一体なんですのよ。 もう謎を解くのは好きですけれど、情報無さ過ぎですわ!!
そんな得も知れないイライラした気持ち。そ
れを抱きつつ私はディエラと共に泉のほとりへとやってきた。
とても静か。波一つ立たない泉。 穏やかで…安らぎを覚える泉。
周囲の巨大な木がその泉を取り囲む様に生えていて、水面にとても綺麗に映っている。
「ここで…どうするのですの?」
「リセル…以前にあなた。誰か叩いたりした事・・・ある?」
「ありますわね。 ごく最近、オオミを張り倒しましたわ。
わっ…私の胸をあんな…あん…あ…」
「リセル? …可愛いわねぇ。 ほらしっかり…」
そういうと、軽く私の背中に触れた瞬間、電気の様な衝撃が突き抜けて我に返った。
「はっ! 私…私ったらまた」
「うふ…。さぁあなたにはコレが出来るわ…」
「…え。 ぇええええええええええっ!?」
ディエラさんがそういうと、波一つ無かった泉が、激しく渦を巻きだした。
それも風一つ周りでおきていない。 どうやって…。
「ふふ…魔力の使い方。 あなた自身気付いていないみたいだけれどぉ…。
あなたにもこれが出来るわ…。 魔王の力…風空自在。
風と、それに類するモノ全てを支配下に置く力。
対神空間圧縮魔法はその一部」
え。でもそれは精霊の力…じゃないのですの?
「おかしいですわね。 風の精霊の力じゃないですの?」
「支配下に置く。 つまり…」
「力で従えさせる。ですのね」
「そうよぉ…」
それは判りましたけれど、それが私に出来る。
だとしたら私と魔王は関係ある。 でも・・・あーっもう! イライラしますわ!!
「さ…これを会得しましょう…?」
「一つ判りましたわ」
「あら…なにかしら…?」
「考えても無駄って事ですわよ!!!!!!!!!!!!」
「クス…そうねぇ…。 その通り…この力は考えても無意味…」
「そういう意味じゃ御座いませんわぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
半ばヤケになった私は、使い方も判らないソレを必死で出そうとして、あれこれやりましたわ。
完全に日が落ちるまで。
「も…もう駄目ですわ」
「頑張ったわねぇ…そんな一日二日で出来るモノじゃないわよ…?」
「わ…わかってますわ!」
「じゃ…夕飯の準備してくるわねぇ…」
「あ、はいですわ」
…ふう。もう汗でびっしょりですわよ。
オオミを張り倒した時の様にやってみましたけれど、そもそも叩く相手がいませんですし。
あ~…頭痛してきましたわ。 考えてもおいつきませんわ全く。
このイライラどうしてくれましょうかしら。
取り合えず、せめて体だけでもスッキリしましょう。 泉の前ですし。
周りにリカルドは…いませんわね。 ケルドも。
私は周囲を確認してから、服を脱ぎ、木の根に引っ掛けて泉の浅瀬へと入った。
もう…肌荒れ気にしないとは言いましたけれど、髪も肌もボロボロですわね。
私だって一応は女…!?
泉の浅瀬で体を洗う私の背中。 誰かに突然抱きしめられた。…誰ですのこのお馬鹿は!!!
「だっだれっ」
「そうでもないぞ?」
「へ!? この声…オオミ!? なんで!? ちょっ…めっ…や…」
突然後ろから抱きしめられて、私の頭の中は真っ白になってしまった。
ただ、私の体を伝う手の感触だけが…。 私の意識を繋ぎとめて…。
三十一話最後まで読んで頂いてありがとう御座います。
さて、次回は…珍しくエロメインとなります。
何かリセルの扱いが酷いなと思いつつも。