第三話「襲撃」
引き続き三話目の投稿となります。
この辺りから少し表現の一部にグロい部分が含まれてきます。
苦手な方はご注意下さい。
…寝心地が良過ぎて寝れない。そんな贅沢な悩みに、ベットの上で、豪華な天蓋を眺めつつ寝ている俺。
脳裏に過ぎるのは、これからどうするか、どうなるか。まぁ、考えても詮無き事な気もしなくもないが…。
取り合えずは言葉か。一番苦労しそうだよなぁ。
さてさて、まぁ、寝る…か。
静かに目を閉じて無理にでも寝ようとしたその時。体が一瞬ベッドから跳ね上がる様な衝撃。地面が縦に揺れた。
地震か?と、視線を窓に移して外を見る。 夜もふけているというのに、妙に明るい…というより赤い?
いくらなんでも赤くなるのは何かあったんだろうと、慌てて窓の外を見る。
なんだこりゃ。明らかに地球外生物と言っていいモンスターっぽいのが街中で暴れている。
周囲の建物と比較すると中々の大きさ。3~4mはあるだろうか、それがひーふーみー・・4体。
容姿は同一のモノらしく、何か見たことあるような形状。ああ、ミノタウロス。あれに近いというかそのまんまだ。
巨人に牛の頭、それに槌。まさにミノタウロスだろうか。更に遠くを見ると、壁が一部粉砕されている。
さっきの衝撃はこれだったのか、と理解した。
然しながら、俺が居て何になるという話だ。あんな化物相手にする事も出来るはずも無く。
ここに来る途中で見た、チェインメイルを着込んだ騎士達がなんとかするんだろうと思ったワケだ。
そう思いつつ、ボーッとその光景を眺めていると、メディが飛び込んできた。
「オーミ!嫌な予感があたったよ!!」
相変わらず意味不明な言語。何か焦っている。まぁ、焦るだろうが。然しどうする事も出来ない現状。
取り合えずジェスチャーでどうするのか伝えてみ…おい。俺の腕を強くひっぱりどこかへ連れていこうとするメディ。
どっか避難するんだろう。そう思い俺はついていった。
ところがどうだ、あろうことか避難どころか危険の真っ只中に向かっているではないか!
冗談じゃないぞ!俺は必死で踏ん張り抵抗し出す。当然だ!あんな化物の近くにいったら命がいくつあっても足りない。
「何してるのよ!早くいくわよ!!」
これは判る、明らかに何を逃げようとしている!と言っているに違いない。目がマジで怒っている。
怒ってもどうしようもないだろうアレ。無謀としか言いようが無い。
異世界に来たから、その世界の重力が地球より遥かに軽い為、俺に超人的な力が備わっている?
そんな便利な設定も無く…だ。
実はさっき試してみたんだよ…ドレッサーを持ち上げようとして。無理だった所を見ると重力も変わらないようだ。
なんたる不便っ力が何か備わるわけでもなく、ただの一般人としてきちゃってるよ俺!はぁ。
嫌々ながら、あのミノタウロスの付近まで来てしまった俺。辺りを見ると美しい街並みの一部が相当破壊されている。
というか何でこんな化物が、…だからこそのあの城壁だったのか。理解した。
どうやら、のどかで美しい世界というワケでも無い様だ。どこの世界にも争いはあるもんなんだな。
ふと、半壊した家の屋根の上で、2人の男女が立っていた。見た感じ騎士とかそういった類でも無さそうな。
メディと同じぐらいの年齢。服装。ただの一般人にしか見えない。
俺は現状では、ただ流れを見続けるしか出来なかったワケだ。
「リセル!」
「あら、メディじゃない。危ないから下がってなさいよ。リンカーがいない。
いかに異才をもってしてもそれに耐え得る器が無いんじゃ意味はないわ。
さ、リカルド、ミノタウロス如きさっさと排除してしまいましょう」
「了解した」
リセルとリカルド。私と同じ年。そして私と違う才に恵まれた女の子。ややウェーブのかかった薄い紫の髪、綺麗に整った年齢にそぐわない顔立ち。
スタイルだっていい。私に無い物を全て持っている、別種の才。いわゆる天才。常に学園でも主席を維持し、人望も厚い女の子。
そして、そのリンカーであるリカルド、銀髪に短く切った髪に、逞しい体。もしかしたら私の力に耐えられるかも知れなかった人。
二人とも学園の服を着てここにいる辺り、ミノタウロスを排除しに来たのだろうと。
「わ…私だって見つけてきたわよ!」
私は、オーミに右の掌を向けて、二人に声を上げた。それに驚いた様に二人はこちらを見る。
「え?貴女に見つかったの? 今まで何人もリンカーの自己崩壊を引き起こすしかできなかった貴女に?」
「それは素晴らしい。おめでとう御座います。お二人の出会いを心より祝福致します。」
対照的な二人、でも学園どころかこの国で並ぶ者が居ない程の実力者でもある。
ミノタウロス4頭。難なく排除してしまうんだろうけれど…でも私だって。
「さ、無駄話は終わりにしましょう、これ以上被害を広めては私の名に傷がつきますわ。
リカルド!」
「承知」
リンカーフェイズ。過去、傲慢な神族を討つべくして、人間は魔族と共に歩む道を選び、魔人を生み出した。
魔人は、人と人の中に潜む魔を繋ぐ力を持ち、魔族と共に神族を封じるに至った。
その力は魔族に勝るとも劣らない、いえ魔族そのものになる力。
リセルは、リカルドの胸に右の掌を当てる。すると黒い影がその周囲を包み込み、二人の姿が見えなくなる。
現れたのは、リカルドの深層に眠っていた魔。ガーゴイル。頑強な岩の鱗に包まれた体と、大きな翼。
ある程度、人間の形は取り留めていてその立ち姿は紳士を思わせる。然しそれはもう人に在らず。魔と人を繋いだ状態。
「さぁ、軽く排除してしまいますわよリカルド」
「承知」
ちょ…なんだよありゃ。人が化物になった!?どういうこっ・・速っ!
黒く細いしかし見るからに硬そうな体に生えた翼を一度羽ばたかせると、ミノタウロスの遥か頭上へと飛んでいた。
速すぎないか!おい!目が追いつかないって!
と、ツッコミを入れた瞬間、ミノタウロスの一体が股から頭まで裂ける。…うぷ。俺は思わず目をそらした。
血飛沫とともに、詰まっている臓器が、ドロリ…と腹圧から開放され聞くに耐えない鈍い音と共に出てきている。
そして激しい地響きと共に一体が崩れ落ちた。断末魔を叫ぶ暇も無く絶命させたようだ。
化物になった二人…か何か小さいのが周りについてるが、黒い体を朱に染めつつ次の獲物へと休む間もなく。
「凄いでしょう。あれがこの国一番のリンカー・リカルドと繋ぐ者・リセル」
何か二人?を見て羨ましそうにしてるメディ。…ああ、成る程ね。俺もああなれと言いたいのか。
それがメディの神頼み。相方を見つけたかったと。理解した。 しかしグロい。
アレほど美しい街並みが一瞬にして壊されるどころか、
血と臓器が飛び散り吊り下がり、脈打ち地面で蠢く赤と緑と白に彩られた阿鼻叫喚地獄絵図と化している。
瞬く間に4体もいた化物が片付けられてしまった。…が何か空が明るい、いや青白い?妙な違和感に夜空を見上げた。
「厄介ね…近辺に召喚者がいるわね」
「左様で御座いますね。それも相当な力を持った者の様です」
「積層型…」
何か三人が納得しているが、俺一人置いてけぼりなんですが…空に何かデカく重なった青白い魔法陣っぽいのがあるのは判るんだが。
まさか、アレか?アレから壊れた蛇口の水道の如くドバーっと化物でてくると…出てきたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
つか出過ぎだろう!壊れたどころか水道管破裂だよあれじゃおい!!
何かもうさっきのミノタウロスっぽいのから、何か何、リザードマンみたいな小型のから色々降って来てるんだけど!?
いくらあの二人が強いからって多勢にぶぜ…何か向こうからまた来た!何だこれもう俺よく判らん!!
「あら援軍ね」
「流石にこの量は骨が折れますしね、感謝しましょう」
「ところで、貴女はリンカーフェイズしないのかしら? 学園史上最強のおちこぼれさん?」
「…リセルさん。それは言い過ぎでは無いでしょうか?」
「いいのよどうせ何も出来ないんだから。さ、さっさと排除するわよ」
「…承知。申し訳御座いませんメディさん。リセルさんは嫌味でいってる訳ではありません。メディさんに期待しているだけだと思います」
「…毎度の事だから気にしてないよ」
二人は、魔法陣より降って来た大量の魔物に向かっていった、そして後方から既にリンカーフェイズを行った者達も。
私も…私だって!
「お? ってなんだマジな顔して」
「目を閉じて!」
「は?いやちょ、何言ってるかわかんねぇって」
凄いなんつーか、切羽詰った顔で俺の元に走ってきたメディが、喋っているが、全く判らない…事も無い、どうやらアレになれってとこだろう。
それはそれでいいとして、やり方とかさっぱりわからんのだが。
「目を閉じてっていってるでしょ馬鹿!」
…何か一つだけ理解した、明らかにバカにされた。そう取れた。こういう言葉だけは言葉じゃなくても通じるんだよな。
焦るのは判るが、言葉を選べよ。…はぁ、んな事言ってる場合でもなさそうだ。
なれるもんならなって手伝わないとだからな。一宿一飯どころかこれからお世話にもなるもんだ。
俺はさっきの二人の初動を思い出してみた。確か銀髪の男は、目を閉じて体の力を抜いてたな。取り合えず真似だけしてみるか。
俺は目を閉じて、体の力を抜き、メディの反応を待っていた。
「そう!それでいいの、でも、オーミは全く判らないでしょうから、私が全てやらないといけないね。」
ん?何か柔らかいモノが腹部に当ってるような。薄目を開けて見て見ると、なんとメディが抱きついている。
「ちょっおまっ!いきなり何してんだ!?」
俺は慌ててしまい一歩下がろうとしたが、ガシッと捕まれていて逃げられない。流石に不意を突かれたからか少し恥ずかしい。
「なっ、何恥ずかしがってるのよ!こっちまで恥ずかしくなるからジッとしてよね!!」
メディが明らかに赤面して怒っている! ジッとしてろってことか。しかし恥ずかしいんだよ何か!
女の子に抱きしめられる屈辱的いやんな感じ!!
と、とりあえず雑念捨てて目を閉じて集中してみるか何に集中するのか知らんけれど!!
「心拍同期…解析開始!!」
あの二人と同様に、私達を黒い影が包む。上手く行けば…いえ必ず上手くいくよね、魔神阿修羅に繋いで貰った縁だもの。
上空より豪雨の様に落ちてくる魔物と、それを排除するリンカー達。
「む、どうやらリンカーフェイズに入った模様ですね。メディさん」
「あら…幾人も失敗に終わったけれど、今回のリンカーは毛色が違う様ですし、案外上手くいくかもしれませんわね」
「左様で御座います。さぁリセルさん。頼もしき好敵手の誕生を邪魔させない様に頑張りましょうか」
「…興味無いわ」
「素直じゃありませんねぇ」
私リカルドは思う。何故今までメディさんが、リンカーフェイズに失敗し続けたのか。リセルさんと並び立つ才を確かに持っています。
ですが、それが異才故に合う者が現れず、失敗し続けたのか。いくら異才とはいえ、並のリンカーフェイズなら行えた筈。
その答え、じきに判る事でしょう。例えそれがどんな結末が待っていたとしても。
第三話最後まで読んでいただいてありがとうございました。
このあたりから、世界観等が判っていく流れになってきます。