第二十七話 「滅私」
二十七話目となります。
今回は出番の少なかったリカルドメインです。
追記:微妙に文法可笑しい所の修正
私は、瓦礫と~
年頃だから~
セアドの~
彼が何かを~
「コチラは、準備出来ました」
私は、オオミさんが取ってきた動物。
それを加工して作った皮袋に、干し肉等食べ物。
そして途中の川で水を汲む為の入れ物を詰め終えた。
「駄目…だ…あ…」
何と申しましょうか。…少し嫉妬を覚えなくもありません。
長い間共に歩んできた女性。 異性として意識してもおかしくはありません。
オオミさんが少し、憎くも思えます。
ですが。私、リカルドにその様な事は許されず。
私の犯した過ちは重い。
自らを戒め続け、彼女達を守らなければなりません。
その為ならば。あの阿修羅の社のある崖、そこから喜んでこの身投げ捨てましょう。
私は、瓦礫と化した街と森の風景。
そしてその少し遠くに見える一際高い崖に彼女から視線を移した。
そう言えば、…阿修羅の社。 オオミさんが現れた場所。
いくらメディさんが、幼少の頃より通い続けたとはいえ、異世界より現れるという事。
意味。そう、意味。 私が過ちを犯し、そして世界が危機を訴え、彼を呼んだ?
私は、静かに首を横に振る。 在り得ませんね。
何者かが裏で糸を引いている様にしか思えません。ケルド…。
自らの命を危険に晒す様な事をする筈もなく。
…。 考えても無意味の様で御座いますね。
その時がくれば、判るでしょうし。
私は、再び視線をリセルさんに戻しました。
相変わらず自分の頭の中でオオミさんに抱かれていますね。
そこまで好きなのでしょうか。
単純に男性の体と自分の体。・・・生殖行為に興味を持つ年頃だからでしょうか。
…願わくば、彼女に幸せになって欲しいものです。
さて、そろそろ目を開けて寝ているリセルさんに…起きていただきましょうか。
「リセルさん。そろそろセアドの森に向かいますよ」
「駄目…そこは…さわらない…あ・・・」
・・・凄い事になってそうですね頭の中で。
一体彼女の中のオオミさんはどんな男性になっているのでしょうか。
ご自分の…ごほん…胸を両手で押さえ身をよじっておられます。
少し鑑賞していても宜しいかと思われましたが、会長が遠くから睨んでいる。
そんな背筋に氷柱でも貼り付けられたかの様な寒気。
私は、目覚ましの一言。
「おや、メディさん。おかえりなさいませ」
「メディ!? どこですの!!?」
・・・。 本当に扱い易い方で御座います。
「どうか致しましたか?」
「え? 今メディが・・・?」
「空耳で御座いましょう」
「そ…そう」
ふむ。これは使えるかも知れませんね。
彼女の中ではどうやら、オオミさんよりもメディさんの存在が大きい様です。
私は、リセルさんの分も詰めた皮袋を担ぎ、リセルさんの肩を軽く叩きこう言う。
「さ、参りましょう。 メディさんなら心配ありませんよ。
私が言うのも何ですが。 ファラト…いえ、ケルドが必要としている限り安全です」
「そうですわね。 何をしようとしているかは判りませんけれど」
そう、ユグドラシルの種をどうしようと言うのか。
精霊の力は、本来一定の場所に縛られます。 今回の騒ぎでセアドの助力を得られなかったのもそれが原因。
ユグドラシルでさえ、その一定範囲より力は出せません。
然し、種であるメディさんは別。 大地に根付く前の状態。
その力、使用する場所が限定されていない。
世界の破壊が目的でしょうか…自らも住む世界を破壊する? 馬鹿な。
では何故彼女を必要とするのか。 理由が判りませんね。
ユグドラシルの力の枯渇。 ユグドラシル。精霊をこの世界から消す?
神も魔族も減少し、人と魔人が増えてきました。
これがもし、彼が過去から仕組んできた事だと仮定すればどうでしょう。
人と魔人の為に、彼が何かをしようとしている? まさか。在り得ませんねこの惨状を見る限り。
私は、あの美しい街並みを思い出すかの様に周囲を見回す。
ほぼ全てが下から破壊されている。…地下に何かあり…封印でしょうか。
そこを見てみたい気もしますが、それこそ会長の鉄拳を頂く事になりますから…やめておきましょうか。
「どう致しましたの? リカルド」
「いえ。さて、参りましょうか」
「え、ええ。判りましたわ」
私達は、既に防衛能力を失った壁の残骸を避けて進み、街の外。
そう、街の外にある小川へとやってきた。
「これは参りましたね」
「濁ってますわね」
「昨日の豪雨で、上流にある山の土が流れてきたのでしょうね」
「どう致しましょうかしら・・・」
確かに困りましたね。 ここからの道のり。この川が再び道と交わるまでかなりあります。
「8時間程かかりますから、その間、水は無し…は少々堪えますね」
「…そういえば。」
と、彼女は言うと、濁った水を汲み始めた。
「それを、どうするのでしょう?」
「忘れたのですの? 余り揺らさずに持っていけば、土は沈んで下にたまりますわ。
汚い事に変わり無いですけれど」
「私は宜しいですが、お肌が荒れますよ?」
「構いませんわ」
迷いがありませんね。 会長に鍛えられているのは伊達では無い。と言う所でしょうか。
「では、汲んで先を急ぎますか。 本来ならリンカーフェイズして、一足にいっても良いのですが・・・」
「目立つ事は避ける。ですわね」
「左様で御座います」
まぁ、コボルドが気になりますが。 ともあれ、私達は先へと足早に歩いて往く。
こちらにも被害が及んでいたのか、木々がいびつに歪み、切り取ったかの様に消失している。
「槍。ですか」
「あの神の力ですわね。 直撃すれば捻れて消滅させられる。 こんなもの貰いたくありませんわ」
「確かに、然しながらリセルさんの力も同様で御座います」
「…対神空間圧縮魔法ですわね」
風と雷で相手を捕らえ、更にその周囲の空間を圧縮…。
未完成であの空にある厚い雲を地平の彼方に消し飛ばす程の威力。
・・・本当に完成させて良いのでしょうか。
もし、本当にレト…いえ、ケルドの言う通り完成させた時、
その威力で周囲の物がどうなるのか。 これはあの二人に聞けば判りますね。
そもそも、何故二人揃わないと出来ないのか。
魔王が使っていた力。 それをリセルさんに伝える二人。
確かに、血族であるという可能性は無い訳では御座いません。
リセルさんの出生は、会長ですら判らないと見えますし。
血族…魔族はそもそも愛は感じないと伝え聞いています。
しかし、過去に異界の者と結ばれた魔王の娘。
魔人の祖。 無いとも限りません。 …対神空間圧縮魔法。その姿は一体。
それを教えようとする二人。
何故?…。 それも追々わかりますか。 私はふとリセルさんに視線を移す。
「どうか致しましたか? リセルさん」
「……。 ! あ、いえ。何でも無いですわ」
また脳内で、オオミさんと?
…。ケルドに其処を漬け込まれ、メディさんは憎しみを植えつけられた。
まだ、今の状態ならば声は届くでしょう。 ですがこれ以上は本当に危険ですね。
ユグドラシルの力を場所の制限を受けずに使える彼女。
その彼女の世界が完全に崩壊してしまう前に、なんとかしないといけませんね。
最終的にそれは、私ではなく、オオミさんとリセルさんが救い出す事になりそうですが。
私は必ずそこに辿りつくまで彼女を守らなければならない。
・・・む? これは。
「コボルドが何か気絶してあちらこちらに倒れていますね」
「ですわね。 しかもかなり向こうの方まで延々と」
誰かが倒していったのでしょうか。 気絶したコボルドがまるで花道の様に。
…。余り見た目の良い花道ではありませんが、助かりましたね。
「さ、気絶している内に、参りましょうか」
「ですわね…。 でも一体誰がこんな」
「さぁ。それは判りかねます」
私達は、何故か遠くまで続いているコボルドの道を進んで、セアドの森を目指す。
リセルさんを奴から守る為。 彼女の力を確かなものにする為に。
そして、出来れば出生の手がかりも見つかれば、文句無しで御座いますね。
二十七話、最後まで読んでいただきありがとう御座います。
ようやく三組がイグリスを出ました。ガットは次回出てきます。
という事は、ギャグ展開となります。