第二十六話 「誰が為に」
二十六話目となります。
今回はシアンメインとなります。
目的地。そう。
彼女なりの今後の身の振り方。それ見つける為の話となります。
「さて、ちょっとリセル君たちの所いってくるから、
ココは任せたよ。 ゼメキス君」
「あ…はいです」
相変わらず頼りないネェ…、力も弱いし…あ~もう。
あれぐらいの瓦礫の重みに耐え切れず倒れてしまったよ。
「行くといってるのに、行かせないつもりかい?」
「う…ごめんなさいです」
彼が下敷きになった瓦礫をのけると、溜息を一つつく。
「はぁ。 まぁ、君はそれがあるから君なんだけどねぇ。
ケルドの奴を出し抜くには君が必要不可欠でもあるし」
「ぼ…ぼくが?」
「ああそうさ。 奴は神、そして…まぁいい。
さっさと出来る事から片付けていきな。無理せずに」
「…? あ、はいです」
そ、神は傲慢。故にゼメキス君みたいな奴は、
足元に落ちている小石ぐらいにしか思わない。アイツを倒すにゃ…骨が折れそうだねぇ。
アタシは街の中心付近へと歩いていく、その途中で見かけた子供。 昨日の泣いてた子供だね。
親も死んでいた。…まだ物心ついたばかりだろうに。
そういやリセル君も…このぐらいの歳だったねぇ。
街の入り口で、結構な距離を歩いてきたのか、破れた服。磨り減った靴を履いて。蹲って泣いていた。
親は判らないが、魔人である事は耳をみりゃわかる。
アタシはオヤジから色々と聞いて、この国の特殊な奴は大体把握しているが…いまだにリセルが判らない。
リンカーフェイズも在り得ない事をする。 才能? 違うもっと別の何か。
才能なら、他種族、つまり魔族以外とも出来る筈。それが出来ない。何度も試したからね。
魔族も魔族で数が少ないから確かめるにもあの二人ぐらいしか無い。
全く、考える事が多くて困るよ。…オヤジはもっと苦労してたんだろうな。
そうこう考えつつ、瓦礫の山と化した街中を中心に向かって歩く。
お、いたね。 食料を詰めて準備をしている二人を見つけた。
「そろそろ行く準備かい?」
干し肉やらを、皮袋に詰め込んでいる二人に声をかける。
「あ、これはおはようございます。会長」
「おはよう、リカルド君」
ん? なんだいアタシの顔をジッと見て。
「どこか体調でも悪いのでしょうか?」
「アンタに心配される様なヤワな鍛え方はしてないさ」
傍から見たらそう見えるのかい。 …確かに参り気味かもしれないね。
少し、オヤジの眠る地下に視線を送ると、また二人に視線を戻す。
「シアンさんが体調崩すなんて考えられませんわ?
壊したらそれこそ世界の崩壊の前兆ですわよ」
「ぶん殴るわよ」
「いたっ…殴ってからいわないでくださいですわ!」
手が思わず動いてたかい。まぁ、それはいいとして。
「森に行っても油断するんじゃないよ。
特にリセル君、アンタだ」
「判ってますわよ。 騙しにくるんでしょう?
私はそんなお馬鹿じゃありませんわ」
いや、騙すには違い無いが、もっと別のことだろう。
さっきのを見る限り…。
「アンタも鈍いからねぇ。 アンタの心の隙間を狙ってくるのさ」
「心の…隙間ですの?」
とことん鈍いよこの子は。 メディを大事に思い続けた分、自分の事に気が回らないのか。
どちらにせよ…。
「オオミ君に化けて、リセルさんをたぶらかしに来る。
そういう事で御座います」
リカルド君は良く判ってるみたいだね。 まぁ、常に一緒。と言うわけにも行かないから…。
頼みはセアドかねぇ。
「おっ…お馬鹿な事いっいっいっ…」
何想像してるんだいこの子は。 顔真っ赤にして体抑えて。 …いいねぇ若者は。
「いっておりませんよ。 本当の事です」
「ああ。アンタちょっと自分に素直になったらどうだい」
「わたっわっ私は…そっ…その駄目よ…駄目なの…」
駄目だこりゃ。オオミ君に抱かれちまってるよ、頭の中で。
リカルド君が少し可哀想だなここまでくると。
然し、確実に手篭めにされてしまうね。
まぁ、セアドが守ってくれるだろうし。リカルド君にもキッチリとおとしまえつけて貰わないとねぇ。
「じゃ、頑張りなよ。 アンタ達。 相手はずる賢い。それだけ肝に銘じるんだよ」
「駄目…駄目だから…そ…そんなとこ…いや…お馬鹿!」
「…リセルさん。早く戻ってきて下さい。」
「いいねぇ、若者は」
先が思いやられるよ。…さて、アタシは二人のもとを離れて再び中心から外れた所へと戻る。
この辺りまで来ると、まだ遺体が辺りに沢山横たわっている。
夥しい数だ。 焼け死んだ者、瓦礫やらに押しつぶされた者。
…早く弔ってやらないとコッチもコッチで臭いで参ってしまう。
まだ今はマシだ。後、二・三日もすれば腐臭を伴ってくるだろうからね。
そうなると…ゼメキス君がどうなることやら。
人手が足りない。 圧倒的に死者の方が多い。
この戦いが仮にこちら側の勝利として終わったとしても、…。
オヤジの戦っていた時代。 それこそ星の数程の死者が出たと、そう聞いている。
数多の同胞が死に、竜と魔族の数が極端に減った。
人間と違い、互いを想う気持ちが薄いからか、数も減少していく一方。
このまま人間・精霊を残してこの大地から竜と魔族が消えてしまうのかねぇ。
はぁ、頭が痛いよ。 ただでさえオヤジが死んで…。
あんな…無残な死に方をする為にこの国を守ってきたワケでもないだろうに。
守ってきた者。それに利用されて…。
正直アタシもいずれは、ああなるのかも知れない、
そう思うと、どこかで静かに…そうセアドの森で静かに暮らしたいと思うさ。
だけど、…奴だけは許せない。 アイツだけはこの手で必ず殺してやる。
昔、オヤジに憎しみに囚われるとロクな事が無いと説かれたけどねぇ。
無理だ。そんな理屈で納得出来るモンじゃないし、
誰の為にアタシゃ生きればいいのかすら判らなくなってきた。
ここに生きていた者達、その為に生きてきたオヤジ…。それがこんな結末。
オヤジの生きた様を否定したくは無いけどね。 この様を見ると否定したくもなる。
知と力を極めた。いや、極めようと二つを求めたオヤジ。
結末がこれか。・・・アタシはこうはなりたくないね。
力のみを極めた。極め様とした凶風。
コイツはオヤジから聞いたよ。
自分の家族、信じた者を殺されて怒り狂った竜。
その力は数多の神を同時に相手にし、
その力故に周りの味方まで消し飛ばすハメになったと聞いた。
過去の詳しい事は、流石に判らない。 あのヴァランであってもね。
クァや、ユグドラシル…精霊ならば知っているが。
中々会えない上に、答えるかも判らない。
だが、何かひっかかるな。 …似たようなこの手口。
・・・そうかい、そうなのかい。
凶風を凶風たらしめた理由。
オヤジ。そして凶風。 アタシがこれから生きる理由は、どうやらアンタ達の様だよ。
アンタ達の無念・怒り。必ず奴に届けてやるさ。
混ざり者なアタシだけど、竜族の誇りにかけてね。
その後の事は、それから考えればそれでいいさ。
さ、考える事はやめて体動かすかねぇ。
そう最後に頭の中で呟くと、無残に横たわる遺体を拾い集める。
そして、集めた遺体を焼く。
アンタ達の無念も…届けてやるさ。
二十六話 最後まで読んでいただいてありがとう御座います。
何かエロいフラグも立っていますが、
わりとシリアス寄りとなりました。
一話一話、評価点を頂いている様で、ありがとう御座います。
これまでの点数の上下から色々と学ばせて頂きました。
ガクンとくる部分も多いと思われますが、宜しければ引き続きお願い致します。
このストーリーは、習作としておりますので、
次回作は構成等統一して創りたいと思います。
・・・相当話数使いそうですが。 では。