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第二十話「彼方と此方」 第二幕 

これより第二幕の開始となります。

ある程度明るくなった過去。キャラクター・アイテム。

そしてほんのり浮き出た主軸。


これより物語は、一つの流れから分岐し、いくつかの小川に別れます。

 より強くより大きく結びつき大河となり海を渡る為。

  


 夕日が落ち、皆が街中へ戻る。 やはり、というか当然というか。

焦げた臭い。建築物もそうだが、人間や魔人・家畜の焦げた臭い。

 嗅ぎたくない嫌な香ばしさと、瓦礫に潰され無残に圧死。

 至る所に乾いた血糊がこびり付いている。…中には誰の内臓か判らない程に飛んで其処にポツンとあるものまで。

  そんな惨状が血の臭いを更に際立たせている。 

然しサザとガットが巧く立ち回ってくれていた為か。結構助かった者もいるが…。



     果たして生き残った方が幸せだったのか?


その思いが頭から離れない。声にならない声で泣き崩れる大人。親を探して泣き歩く血まみれの子供。

 死んだ方がマシなぐらいの怪我でうめいている者も少なくは無い。

この世界に回復魔法は無いのかよ。 そう思い隣に居る姐御に聞いてみた。

   「なぁ…シアンさん」

   「ん? 戦いってなこんなモンさ」

   「あいや、そりゃ判るんスけどね。 この世界に回復魔法とか無いんスか?」

   

呆れた様にコチラを見てくる。


   「はぁ? そんなものある筈無いじゃないか。 まぁ…海の向こうへいけば判らないがね」


ああ、成る程。この大陸では神聖系の術は無いのか。

 いやそれ以前に神が敵だしな。ヒールなんて期待した俺が馬鹿だった。


それにしても俺は身寄りが無い。世界が違うので当然だが。

 姐御にも爺さんいただろうに。 生きてるのを知ってるからか?

  立場上、そうもいかないのか? どちらにせよ芯が強過ぎる人だ。

だが、この手の人程、壊れた時の反動が凄いんだよな。

 壊れそうにも無いが。


爺さんといえば、メディが意の一番に家に飛んでったな。 ・・・当然か。

 そいや、メディにも両親が居たんだよな。 つか俺の親も心配してんだろうな。

 …でもだ。 こんな体力的・精神的にもキツい世界だが、何の刺激も無い世界に戻りたく無い。

 そっちの方が強い俺は駄目だろうか。 正常だと思いたい。



  「さて、遺体を集めるよ」

  「うース」


そう。遺体を集める作業。正直マグロ拾いするとは思っても見なかった。

 死んだら光の粒になって消えたりしてくれよ!!! 

と、脳内で叫びつつ瓦礫から手が出ていたので、手を掴んだ。

冷たくて硬い。死後硬直という奴があるが、時間が立つとそれも解除されるのか。

 硬いが指の関節が曲がる。知りたくも無い知識まで得てしまう。

そして、俺はその腕を引っ張ると・・・。


…ズルリと出てきたのはなんと、下半身がもげて…というか押し潰れて切れた上半身。

 ま…まぁ、切れているのよりはマシだ。傷口が見事につぶれてるからな。

 性別確認するかと顔…顔…。 思わず俺は手を放し その場でこみ上げてくる何かに耐え切れなくなった。

 凄まじい苦悶の表情と、半分潰れて中身が見えてしまっている。

 目玉も潰れると白い液がでるのか、目の周りにそんな液があるのか知らないが垂れ出ている。

 俺は思わずその場でこみ上げてくる何か。胃液。朝から何も食べてないので助かったが、

 激しい息切れと共に胃液を唾液とともに出した。 喉が焼ける様に痛い。

 ・・・洒落になってネェ。 戦時中ってこんなんだったんだろうな。


  「やっぱり吐いたね。 ほら水のみな」

  

吐くの判ってたのか、姐御が水を持ってきた。

 この人は慣れているのか、表情一つ変えない。

  「あ~…近所の人だね」

  「マジすか」

  「ああ、さっき泣いてた子供いたろ。 その親だよ」


ぐげ…よりによって大当たり引いてたか。

  「…どうするんスか? 子供」

  「どうするもこうするも、生きてる奴が育てる。それ以外にあるかい?」

  「ああ、その通りっスね」

  「変な事聞くねぇ」


あぁもうなんつーか。習慣つーか。世界がまるで違う。アッチ感覚だと壊れるわ精神が。

 




そんな事を繰り返し繰り返し。 何度吐いたか。忘れた。

 文字通り精根尽き果てた。そんな俺が、街の瓦礫に腰をかけてある風景を眺めている。


さっきは、視覚・嗅覚・触覚・味覚的にキツかった。

 今度は、視覚・嗅覚・聴覚的もキツい風景。 なんつーか五感の責め苦フルコースだ。


 目の前に広がるのは、集められた人達の遺体。

  そしてそれを一度に纏めて積んであり、燃やしている。


ムスカじゃないが、別の意味で人がまさにゴミの様だ。

 ゴミの様に積まれ、ゴミの様に燃やされる。 酷い有様だ。

燃やされた焼死体は別として、圧死した生の方が視覚・聴覚にストレートにダメージを与えてくる。

 パチパチパチと燃える音だけならまだ良い。

 起き上がるんだよ。理屈しらんけど何か起き上がってくるんだよ!!

  ゾンビみたいにゆっくりと。



あかん・・・頭がおかしくなりそうだ。 肉の焼ける嫌過ぎる香ばしい臭い。 

 腹の中にガスでも・・・ああメタンか。あれに火がついたのか、たまに破裂音も混じる。

 


最悪だ。



俺は一際大きい溜息をつく。そこに横から差し出された、干し肉…か?

   「ほれ、くっときな」


いや食いたくネェ…つかアレみながら肉なんて良く食ってるなこの人。

   「食おうにもくえま・・・むごふ!?」


無理矢理口に押し込まれた。しかもそのまま押さえつけられた。

   「これからここで生きてこうってんだ。…甘ったれた事いってんじゃないぞこら」

必死で抗うが、力の差が激しすぎるのか抵抗できず、目に涙を浮かべながら無理矢理飲み込んだ。

   「おし。それでいい。 どんだけ食いたくなくてもな。食える時に食っておけ」

   「う…うス。…葬式とかしないんスか?」

   「なんだい?そりゃ」

   「ああ、弔ったり…ん~なんていえばいいんスかね。 

     ああ、死んだ人に祈ったり手厚く葬ったりスな」

   「ああ。残念だ人数が人数なんでね。こういう方法しかない。

     そもそも肉親の確認が取れない程酷い有様のが多い」


ああ、焼死体だと判別出来ないな。コッチだと。

   「成る程っス」

はぁ…さっきは帰りたくないといったが、帰りたくなってきた。

 こんなとこ一秒ももう居たくない。





  そんな嫌な夜が明け、 朝日が差し込む中、その凄惨な街がより明確に姿を現す。


遺体はある程度見える範囲では片付いたが、…この瓦礫の下にもいるかもしれない。

 あの瓦礫の下か? それともここか? もしくは全部か?


死 死 死 死 死 死 死。


その単語が脳内メーカーの様に頭を埋め尽くす。

 …寝る所も時間も無く、疲れきった体。死んだ魚の目といえばいいのか。そんな感じで街中をうろつく。

少しでも気分が…あれは、リセルとメディとリカルドか?


誰にも今は話したく無いので、遠くから見る。 

 良く見るとリセルが真ん中に生き残った奴等…服装からすると学園の奴等か。

 そのリセルが何か指示してるな。 昨日の今日だっつーのにタフな奴だ。

ん? 何かこっちまさか気付かれた? 何か結構な数がこっちにくるぞ?

 ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!

なんつー人だかり! なんで俺の方へ来る!! しっ!しっ!!!


  「きゃーっ見てましたよ先輩」

ナヌ?

  「格好よかったー!」

おほ?

  「あんな大きな竜支えて重くなったです?先輩」

なんのなんの。



何か質問責めというか、何このヒーローインタビューうけてる様な、しかもやたら可愛い子が多い。

 目移りするぐらいに、あの制服のたわわなおっぱいが結構な数で揺れて踊って…ウホ。

 リンカーフェイズ無しで思わず野生化しそう。 その刹那向こうから鷹の目の如く鋭い視線が二人分。

 一人はメディとしても…なんでお前まで見るかな。ああ…妹みたいなもんだったな。メディは。


  「あ、ほいほい。ちょっと失礼失礼」


何かすんげぇ可愛い声で呼び止められるが、これ以上は死亡フラグバリバリに立つので退散退散。

 

  「おいーす。もう精神的に限界だったスが、思わぬ所でヒールかけてもらったスわ」


おっぱいという名のヒールだが。


その瞬間、俺は二つの衝撃に飛ばされた。 真後ろに面白いくらいに倒れる。そこから覗くメディとリセルの足の裏。

 だからテメェまで何で蹴るんだこらちくしょう!!

 

  「モテるのも大変で御座いますね」

  「モテてねぇよ。ありゃどうみても物珍しさだろうが」

  「いや、そちらではなく」


あん?なんでリセルの方を見る。 まさか俺を? 馬鹿な。

 確かに気の強い子と付き合いたいと願ったが、ツンデレと付き合いたいなぞと願った覚えは無いぞ。

 アニメや漫画でならツンデレはいいが、実際目の前にいるとあんま気分の良いモンじゃない。

  「ほら、馬鹿いってないで、調達いきますわよ?」

  「調達?」


さっき取り囲んでた女の子。・・・男もいたのか。 それらが戻ってくる。

  「そうですわよ。 これだけ破壊されてしまっては、

    住む所も食べる物も調達してこないと間に合いませんわよ」


ああ、成る程。

  「それなら俺が向いてそうっスね」

  「あら、何故かしら?」

  「いやほら、動物は食う為とか巣を作る為の本能っつか、まぁそういったモンが」

  「ああ、その通りで御座いますね。 私達ではそういう使い方は出来ませんし」

  「じゃあ、集めるのは貴方達に任せようかしらね」

  「ああ、任せておいてくれーい、なぁメディ」

  「・・・え? あ、うん」


明らかに爺さん見つかってなかったな。 まぁ触らん方がいいだろう。

  「ほいじゃさっさといくっスか。メディよろしく」

  「うん・・・。


   心拍同期・・・解析開始アクセス…」


元気無いな。仕方ない…ちょっと寄り道すっかね。

  

 リンカーフェイズの影から出てきたのは当然、鷹。こいつが一番使いやすい。

  「じゃ、いってくるっスわ」

  「ええ、楽しみにしてるわよ」

  「出来るだけ沢山お願いします」

  「おー!まかせとけ。使い道が無い程取ってきてやるぜ!」


そういうと、風を翼で作り、地面に叩きつけて飛んでいく俺。あっという間に街の残骸が小さくなっていく。

 変わりに打って変わって美しい自然が一面に広がる。


  「ふーい。 あの臭い正直キツかったからなぁ、スッキリスッキリ」

  「・・・うん」


あちゃー。コイツでどうだ?

 俺は勢い良く降下し、地面スレスレで急上昇。その間にちゃっかり走っていた適当な動物捕まえたのは秘密だ。

 とりあえず、その捕まえたのを街のリセルがいた付近に、ある程度の高さからボトリと落とす。


  「・・・」


だめだ。フリーフォールで驚かしたろうと思ったのに、効果無い!

 引き続き、周囲の動物。何か判らない食えるのかも不明な動物を根こそぎ捕まえて街中へ落としまくった。


 次は…建築に使用するったら木と…あのレンガみたいなのは一先ず聞かないと判らないな。

  お? ありゃなんだ? 一際デカい。

  「なぁ・・・ありゃなんだ?」

  「あ、あれは。食料になるよ。保存食にもなるし美味しいし」

  「そうなのか。あの何、象の様でけむくじゃら。 マンモスの様で虎の様なカラーリング。

    虎の様で愛らしい猫顔。 不気味と言う他ならないな」

  「え?…うん。食べられるけど、食べられちゃうよ?」

  「肉食か…しかもあのデカさ。全長4~5mか。あんなデカさで肉食。

    もはや恐竜だな」


然しどうする。あいつを捕まえたら、食料は申し分なさそうだが・・・。

 俺式コメットだと骨も残らんつかそもそも動いてるから当らん。

 蜘蛛・・・あのサイズだパワーで引き千切られる。 ゴリラ…力では負けるか。


フェ・・・


( 手は貸さんぞ )


サーセン。 聞こえてたか。


考えろ。アレに対抗できる様な動物動物・・・。毒・・はだめだな。

 むう。ん?考える事もなかったな。

 俺は、あの珍妙な虎マンモスに向かって急降下し、その首を爪で切り裂いて、再び上昇する。


  「これでどうだ」

  「暴れてるね・・・」

  「そりゃ首かっきられたらなぁ。人間つか動物でも首を切られると出血多量で死ぬからな」

  「首…そうなの?」

  「ああ、デカい血管・・・あーとまぁ、血の通いが一番激しいとこ。そこ切ったら一巻の終りってこと」

  「う…うん」


ほれほれ、段々動きが鈍く・・・あれ? まだ動いてるな。

  「動き悪くならないね…」

  「おかしいな、急所が違うのか?」


明らかに血が大量に吹き出ている。急所には違い無い。

  「そろそろ心臓やら脳に血液いかなくなってもおかしくないんだがなぁ」

  「心臓なら…二つあるよあの動物」

二つかよ。 つまり血液が他より多いのか。まぁ、あの巨体だ。心臓一つじゃ血の巡りも悪いだろうしな。

  「つまり時間かかるって事か。…お、倒れた」

  「倒れたね。というよりもアレ…何人かで苦労して捕らえる動物なのに」

  「おほ? 何てことは俺もしかして?」

  「うん。びっくりしたよ」


何か狩猟とかそういったの強い様で解剖知識自体はアレなようだな。この世界。

  「おし、後はあれを引っ張って…引っ張れるのか?」

  「どうだろう」


取り合えず、降下して、地面におり。名前がわからんので虎マンモスとしておこう。それの傍に行く。

 うん、やっぱ虎マンモス。 なんともマヌケな組み合わせ。

 つか何かこの世界アッチと微妙に生物重なってる部分多いな。

それはそれとして、さっさと蜘蛛に変わり、糸を絡ませて、嫌だがゴリラになる。

 コイツじゃないと引っ張れそうなのがいないワケだ。・・・無理だ。無理だぞ畜生!!


・・・考えろ。文明人の知恵を見せろ俺。 取り合えず周囲を見回す。

 見えるのは生い茂った木々のみ。


んがー。デカいモン運ぶ…使えそうなモンが・・・ん?そいや船とかは陸で作って海に沈めるよな。

 確か転がしながら・・・おお! そうだ。木材集めついでに丸太にして街まで敷けばいいんだ。

 そうすりゃアレだ。楽に運べて木材も集められて一石二鳥!

早速俺はメディに言って鷹に戻り、森へと飛んでった。


  「ねぇ。スラクは?」

  「スラク?ああ、さっきの奴か。あれは後回し。運ぶ為兼建物の材料先に集めるぞ。

    少しほっといた方が血抜きにもなるだろうしな。」

  「そ・・そうなの?」

  「だな。多分」

さて、森についた俺はあの動物を探した。

 確かフィリドだっけな一振り三役味塩コショウ的な動物。

お、いた手ごろなサイズ。 早速また上空に飛んで捕まえる。 本当に便利だ鷹は。

 叩き落して殺し、降りてきた。


  「よし、んでこの肉を」

  「たべるの?」

  「いやいや、加工する」

セアドに行く時に作ったあのナイフってか槍の穂先。 あれをポケットから取り出して、

 皮を剥ぐ。そんで肉を厚く大きめにとる。

更にそれを近場にあった平たい岩に乗せ、更に石で片方だけ平たくする様に叩く。

  「な…なにしてるの?」

  「ん? 斧作ってる斧。木を切り倒すのに」

  「あ、なるほど…」

大体斧のようなカンジになってきた。 柔らかい内に形を整えて焼いた方が良さげなんだよなこれ。

 それに木の棒を太い方に突っ込む。


んで、あの木だ。燃料になる樹液を集めて、

ある程度地面を掘った中に、槍の穂先と出来損ないを打ち合わせて火花を散らし焚き火をする。

これで、さっきの平たい石を窪んだ焚き火の上に空気はいる様に石を挟んで置く。

そんでその平たい石の上に斧の原型になった奴を置いて焼けるのを待つ。


  「良し、後は焼けてガチガチになるのを待つだけだ」

  「何か…シアン義姉さんといるみたい」

  「ん~? ああ、まぁ姐御程じゃないだろうけどな」

  「姐御?」

  「あしまった。つい口が滑った」


意味は何故か判ってる様だ。笑っている。 つかようやく笑ったな。

 ぼちぼちまだ焼けるまで時間もあるな。

ふと、俺は街の方へと視線を移し考える。 復興出来たとしてレガートが攻めて来ないとしてもだ。

 元の活気に戻るんだろうか? それが気になる。










  「びっくりしましたわ・・・」

  「器用に捕まえてきますね」


オオミが飛び立って暫くして、空から動物。…中には食べれないのもありますけれど。

 沢山降って来ましたわね。 結構な量ですけれど、これでもまだ足りない。

止まった所をみると何か別のことやっているのかしら。

  「落ちなくなりましたわね…。今の内に食料加工と、

    食べれないのは皮だけとっておいた方がいいですわね」

  「そうで御座いますね。 彼ならスラクでも今度は持ち帰ってきそうですよ」


それは無茶ですわ。あんな大きいの。それも獰猛で危険ですし。

 でもあれ一匹いれば、色々と助かりますわねぇ。

  「取ってきたら…流石に私も驚きますわよ」

  「ハハハ。さて、加工を続けますか」

  「そうですわね」

  「ってこら!ガット!! つまみ食いするんじゃありませんわ!!」


こっそりと、隠れる様に腹ばいになって、加工した肉にかじりついている男の子。

 見た目通りというかこの子の赤髪どれだけ硬いんですの?ビンビンに立ってますわよあっちこっちに。

 それに釣りあがった茶色の目。ホントに気の強いというか、

  恐れを知らない子ですわ…勿論それに伴った力もあるのですけれど・・・問題はこの…

  

  「うるへぇ! 腹へってんだよババァ!」

  「ばっ…言うにことかいてババァですって!?」

  「ババァでわるけりゃ年増ーブースブース!!」


こ…この野性味溢れるお馬鹿っぷりですわ!


  「ちょっと待ちなさいコラ!!!」

  「うぇ~! ヒスった年増ババァが追ってくるうぇ~!!」

  「お黙り!このお馬鹿!!!」


私は思わず作業をほっぽりだして、逃げるガットを追いかけていきましたわ。








  「何か、…お似合いというか。仲の良い姉弟に見えますねぇ」

  「リカルド先輩…仲が良く見えます? あれ」

私は、遠くに逃げていくガット君と、追いかけるリセルさんを見ながら、肉の加工をしている。

 そして、その横から声をかけてきた少女。アリセア君。

 緑の髪を少し短めに切った男の子っぽい印象の女の子。

 ああ、余り女性をジロジロ見るのは宜しくありませんね。 私は作業に視線を戻す。

  「大変仲が宜しいかと思われますよ?」

  「そんな感じなのかなぁ」

  「おや…リセルさんに嫉妬ですか? アリセア君」

  

手を振り慌てて訂正しようとするのが良く判る声で答えてくる。

  「いやっ!ウチ別にあんな馬鹿なんて! あのまま死んでくれた方が清々しますよ!!」

  「リセルさんといい君といい。素直じゃないですねぇ」

  「いやだからっ!! ちっ…違いますよっ!!!」

  「そういう事にしておきますか」

  「んもう!!」


さてさて、オオミさんの方はうまくやっているのでしょうかねぇ。

 いや、きっとうまくやっているのでしょうね。 私は街の外へと視線を移した。










けたたましく森から木を叩き斬る音が響く。

  「ゴリラパワー全開だ!」

  「その姿いやー!!」

  「ゴリラをなめるな! ゴリラ・ゴリラ・ゴリラなんだぞ!」

  「意味わかんないよ!!」


あえて言おう…デカ過ぎると!!! 気にもしなかった巨木。

 実際目の前に立ってみると凄まじい事この上無い!

 もうこれユグドラシルでいいんでね!? 

何かもうここだけジブリってるよ!! 

 ほらそこの木の根に入ったらトトロの寝てる所にいけそうだよ!!

それぐらいデカい木にひたすら即席斧を振りかざしている。

 ゴリラパワーをもってしても未だに一本も倒せて無い。

つかこれ倒しても丸太にするの無理でね? と思いつつもひたすら木を叩き斬る。

 ちょい疲れてきたのか、なんとなく別の木に視線を移す。

 斬る音に釣られたのか、変な動物が木の陰からコッチを見ている。



・・・・・・ ・ ・ ・


  「トトロってホントにいたんだね!」

思わず言ってしまった!!

  「ト・・・なにそれ?」

  「ああ、俺の世界の精霊みたいなモン。存在しないがな」

色こそ違うがデカい太った鼠みたいなのがコチラを見ている。

  「アレは何て動物だ?」

目だけであのトトロの色違いみたいな奴の名前を聞く。

  「え? あぁ…レトっていう動物だよ。好奇心が強くて人がいたり、音がすると見に来るの」

成る程。

  「危害加えてきたり?」

  「とっても強いけど、森汚したりしなければ…」

それってまさか・・・。

  「うん」

その瞬間、辺りから大量のレトと言うトトロもどきが、

  リヴァイアサンの大津波の如く顔を出した。

  「という事は…ご立腹と取っていいのかい?」

  「かなり、怒って…る?」

冷静だなおい!

  「このままだと、どうなるかな?」

  「う~ん。怒られる?」

へ? 食われるんじゃなくて怒られる?

  「怒られるってどういう風…うお!!」

いきなり一際デカいレトいう生き物が斬っていた木の陰から顔を出した。


  「でけえ!?」

  「あ、レトごめんなさい。 街が…」

  「見ていたよ。仕方ない…持って行きなさい。然し一欠片も無駄にしてはいかんよ。

    この木が育つのにどれほどの年月が必要となったか」


うげぇ! マヌケな見た目に反してやたら知的! やめてくれ!!!!

  「うん。ありがとうねレト」

  「ああ。然し昨日のあの騒ぎはなんだい?」


  「あ、えと。街に封じられていた神の封印を、レガートに解かれたみたいで…」


・・・なんつーか。理解。その言葉が空しく思えてきた。

 ミニマム化したメディが一際巨大なレトの前でふよふよ浮遊して会話している。

  「成る程…。ともすれば、これから世界が大変な事になる様だね」

  「あれ? レト何か知ってるの?」


そういや、喋る鳥なんかもいたな。アレどこいったんだ?

 まぁいい。取り合えず手を休めて二人の会話を聞いている俺。

  「ああ、知っているとも。 あそこに封じられている神は私達の友だったからね」


ん?何か思わぬ所から情報が?

  「友達…だったの?…神が?」

  「そうだとも。 君達は神は絶対悪と思っている様だが、彼等には彼等なりの理由がある。

    勿論、全てがその理由を納得している事もなかったがね」


ふむ。何かしら事情ありきか。神の方も…見た感じ自然破壊で怒ったからというワケでも無さそうだよな。

  「理由・・・?」

  「そう理由。彼の名はファラトリエル。 とても優しい神だ。

    ・・・覚えておくと良い。 争いが起こる。それには必ず理由が存在するという事に」


まぁ、そりゃそうだわな。

 つかそんな知的な会話取り合えずやめてくれないか。そんなマヌケな容姿で。

 まぁ、なんつーか。あの時に攻撃が何かおかしかったのが、なんとなく想像ついたぞ。

攻撃ができなかったっつーよりも、ファラトリエル。その精神とでも言うのかまぁ。

 それが内側から暴走を必死で抑えていた。と考えるのが正解か。 

 どちらにせよこのレトからはこれ以上聞きだせそうに無いな。あの口ぶりは。

  「うん。でも理由って・・・」




  「聞いて知れば、それは成らず。

    気付いて知れば、それは成る」




やめて聖人ぶるのやめて!! その容姿でやめて!!!


  「う・・うん」

  「いつか君達が気付き、全ての生物が共に歩ける日が来る事を祈っているよ。

    それと、伝えて欲しい。

  魔王エヴァリアの血と黒よりも暗い色を持つあの娘に、君には君に相応しい力が共にあると。

     あの力は…危険だ」


何かまたぶっ飛んだ事出てきましたよ。魔王とか。

 …いや既にビックバンやらぶっ飛んだモン一杯出てきてるが、つか誰だよ魔王の血を…一人しかいねぇか。

つか普通そういうのメディじゃね? 立場的にメディじゃね!?

 なんか最終的に俺があのツンツンとひっついちまうみたいなフラグたってね!? いやだぞ!!

  「ま…魔王」

  「リセルの事じゃね? あの力ってほれ。魔法陣吹き飛ばしたり無茶苦茶な破壊力してるアレかと」


  「その通りだ。あの力は何れ災いをもたらす。完成させてはならない」


なんだよ!完成させた方が威力上がって被害小さくなるんじゃネェのかよ!!!

  「うス。そう伝えておくっスわ」

そういうと、レトが斬っている木に、凄まじく短い手を触れる。

  「さ、持っていきなさい」


そういうと、倒れるどころかいくつかの無造作に割れたデカい薪になった。

 そして頭上からその木の葉が舞い落ちてくる。

  「うお!? なんだ! どうやった!!!」

  「レトは…何か特殊な力をいくつももってる動物だよ」


  「特殊な力では無い…、自然、万物には必ずその形を形成する部分が存在する。

    その部分のみを叩けば、その形成された形を保てなくなる。

   これも・・・覚えておくと良い」


何か本で見たことあるな。 確か形成するってよりも核っつかツボっつか。

 その一点を叩けば崩壊するとかなんとか。 実際出来るのかしらんが目の前でやられちまった。

舞い落ちた、無駄にデカい木の葉。これも皿に使えるので集めておくか。

 ・・・ん?

  「全部いなくなったぞ?」

  「あ、うん。レトはあんまり人前にはでてこないよ? 

    好奇心は強いけどこっそり見てるだけなの」

  「アレも精霊の一種。といった方が早いのか」

  「そうかもしれないね」  

  「まんまトトロだな」

  「オーミの世界にもいるんだね」

  「だからいないって。 ある人の妄想の産物!!」

  「そ…そうなんだ」




俺はクソデカい薪っていうか角ばった丸太というか。

 それを担いで、さっきの虎マンモスの所を往復し、その周囲に積んでみた。



  「改めてみると・・・」

  「凄いね…」

  「凄いっつーか。この虎マンモスよりデカいよなあきらかに、この積み上げた丸太っつか角太?」

  「元々あっちの方が大きいし」


とんでもない量だ。つか転がしにならんぞ。これ角ばって。どうする?

 運ぶどころか余計に荷物が増えたぞおい。


・・・フェ


 ( 知らん )


・・・だめかよ。


ゴリラよりも運搬向けで馬力のあるったら・・あるにはあるが。…あっちのが体デカいからな。

 その力がまんま使えるのかが問題なんだよなぁ。

  「どうしたの?」

  「あいや、運搬向けの動物いるにはいるんだが、そこの虎マンモスの親戚みたいな奴が」

  「じゃ、それになろうよ」

  「いやサイズが問題で、こうなんていうか…力が全部くるのか?という問題が」

  「くるはずだよ?」

  「そうなん?」

  「うん」


そうなのか。まだ判らん所あるからな。取り合えず、リンカーフェイズを解いて、

 アレと再びリンカーフェイズした俺達。


  「…何かおっきいね耳。 肌もゴツゴツしているし、鼻が・・・」

  「笑うんじゃねぇ!!」


ったく、主人公の筈なのになんでこんなみっとも恥ずかしい着ぐるみ変身ばっかなんだよ。

 とりあえず、先に蜘蛛で糸を絡ませておいたあの虎マンモスを引っ張りだす。

  「おぉ、動く動く」

  「力持ちなんだねその動物」

  「単純なパワーなら陸上最強じゃなかったけな?象は」

  「ゾウっていうんだこれ」

  「だから笑いながら言うなって。恥ずかしいんだってこんなカッコ」


まぁ、笑顔戻ったみたいでいいが。 とりあえずそれを街まで運び、

 再び戻り、あの丸太を複数回に分けて運んで着た。

それが終わる頃には既に、日が落ちかけていた。




  「ふい~…おもったより時間がかかった」

  「おつかれさま~オーミ」

  「メディこそお疲れさん」


お? 姐御こっちにきたな。 周囲が持ってきたモノを見てざわついてるのは置いといて。

 姐御の反応がきにならなくもない。

  「おー。 こりゃまた凄い量だね。 よくこんなに大量に一日でとってきたもんだ」

  「んとね。レトが手伝ってくれたの」


お?姐御が驚いてるぞ?

  「レト!? また珍しいのと出会ったね。 てことは何か聞いた様だね?」


相変わらずなんでも知ってるな。

  「うーす。封じられてた神が、ファラトリエルだっけ? 

   心優しい神で取り合えず、あの戦いはそのファラトリエルも一緒に戦ってくれてたってこと。

   あと魔王の血を引く娘に、あの力は使わせるなっていわれたっスな。何か代わりの力あるみたいっスよ」


  「そうかい。そこまで知ったかい」

  「え? そうなの?」


気付いてなかったのか。メディ意外に鈍いな。

  「まぁ、残りは雷竜だね」

  「シアンさん…俺をそんなに感電死させたいんスか!」

  「死ぬね。オオミ君、君が状況把握能力を開花させなかったら確実に」

  「相変わらず死中に活っスか」

  「その通り」

  「ほんとにシアンさん何者っスか? サザは気付いた様な感じだったスけど、聞きそびれちまったし」

  「アタシはアタシさ」

  「そりゃそうっスけど」

  「頑張ってねオーミ!」

  「人事だとおもってこの!」


どさくさにまぎれて、メディに抱きついてみた。

 一応気付かれない様に、頭をグリグリしつつ。

  「じゃ、アタシはヤボ用があるんで、これで失礼するよ」

  「うぃーす!」

  「いってらっしゃーい!」


そういうと姐御は足早にさっていった。本当に強いなあの人はいろいろと。

 俺達は、持ってきた虎マンモスの処理やら何やらを手伝い。そして完全に日が落ちてしまった。

















     「…おとうさま…」

アタシは、冷たい地下。半ば崩れて光も届かない隠された部屋に居る。

 まだ弔う事もされず、放置されている無残に殺された父の亡骸。


     「必ず…敵は…」


怒りにも似た一撃が、半ば砕けた床を叩き割る。


   「本当は…光の届く下で皆と一緒に埋めてあげたいけど…ごめんね」

悲しみか、力なく、露になった硬く冷たい土を手で掘る。

 爪が割れ、血が滲み出すが痛みも感じない。いや、気が付かない。

父の亡骸が埋もれる深さまで掘り、父をその中に静かに寝かせる。


    「ぐ…ぅぅ」

歯が折れそうな程に食い縛り涙を堪える。

 けれど、その姿を不意に見ると耐え切れなくなったのか、

既に事切れて時間のたった父の亡骸に覆いかぶさる様にアタシは泣いた。


   




  「おと…う ・・・さま…おとうさまぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」








泣きつかれたのか、光も届かない暗く冷たい地の底で眠る父の亡骸の上で眠りについた。













 



二十話目、最後まで読んでいただきありがとうございます。

 今回から、もっと温度差というものに気をつけていきます。


目標とするのは、ジャンプの黄金期。

 あの温度差は大変素晴らしいと思います。

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