第十九話 「赤は暁と共に」 第一幕完結
十九話目の投稿。 これにて第一幕の完結となります。
続きは後書きにて。
「ここが…生物が生まれ変わる為に訪れる場所か」
ワシは年甲斐も無く、若き頃の好奇心が蘇るかの様に周囲を見る。
いくつもの記憶だろうか、それが現れては消えて往く。中には懐かしいモノもみかける。
然し、懐かしむ時間も好奇心を抱く暇も無いだろう。
ワシは少女の方を見ると、無言で遠くの方を指す。
場所が判るのか、それは判らないが、この娘についていく他無い。
「その先に、在るのか。神と…この朽ちかけた老体で戦えるモノが」
ワシは、少女に連れられるがまま、そこへと往く。
目に入ったのは、記憶にあるモノ。
神々の時代に存在した者。
「少女よ。主の才とは一体…。メディと同様、神々の時代まで遡り、
更には人間・魔族以外と繋ぐ。…死ぬ前にまた謎が出来てしまったか」
ワシはその者を見つつ、再び口を開ける。
「まぁ、それは次なる生にてゆっくり考えるとしよう」
神々の時代。そう。神々と人間・魔族・魔人・精霊・竜族が戦っていた時代。
人間に異界の者。魔族に魔王。魔人に異界の者と魔王の娘の子。
そして精霊に大精樹ユグドラシルが居た様に、我等竜族にも当然居る。
双極竜セオ。そして…凶風。
双極竜セオは力と知を極めた竜…我等竜族の誇り。
凶風は力のみを極めた竜。力に狂った我等竜族の驕り。
我等や他種の同胞。神もろともに殺し続けた忌まわしき竜。それが我が目の前に居る。
「せお…つなぐ・・・」
奴とか? …。それよりも、ワシの生まれる前が奴とは。不快と言うに他ならない。
ワシは争いを好まぬ。が、奴はその逆。 然し、神と戦うにはこれ以上無い力。致し方あるまい」
「凶風。ワシはサザ。 ぶしつけで悪いが…」
「神が相手か。悪くない…が、その必要があるのか? そして不可能だ」
「どういう意味だ」
「そう言う意味だ、貴様の中から見ていたが。あの状態の下級神程度ならば…あの異界の少年。
まだ一人では無理だろうが。
俺の時代には無かった力を備えた魔人…いや魔族に限りなく近い魔人もいるでは無いか。
そして、何より貴様には俺の力に耐え得る精神はあっても肉体が最早無い」
魔族に限りなく近い魔人。リセルとかいう娘か。確かに奴の力ならば倒せるかも知れぬ。
「確かに。可能性は無いわけでは無い。そしてワシが耐え切れぬのも承知の上だ。
例え塩の柱となろうとも…いや、若者達を支える柱となれるならば本望だ」
それを聞いた凶風が再び答える。
「俺には理解出来ないな。自分以外の為に命を捨てるか?」
「最早この命も長くない。 そうだな…主に合わせて言うなれば…」
「朽ちる前に戦って散るか」
ワシは…、静かに大地に帰りたいのだがな。
「その通りだ」
「本音が聞こえているぞ。だが、いいだろう。然し長くは持たんぞ。
そして・・・奴を倒せる力を引き出す事は不可能だと知れ。
引き出した瞬間貴様は塩の柱と成る。 願い成らず無意味に散る」
それは困る。…八方塞か。
「案ずるな、あの者達…相当に年長者のいう事を聞かないと見えたが?」
「・・・まさか」
「さぁ時間が無いのだろう。やるがいい」
「そうだな。・・・感謝する。 さぁ、やってくれ。少女よ」
それを聞いたのか、ワシと凶風の間に入り両腕を広げた少女」
「しんぱくどうき・・・せつぞくかくにん・・・」
「一つ聞きたい。主は力に溺れた竜ではなかったかな?」
「力を求めた理由が違う」
「ふむ…成る程。心中察するに余りある」
「ふん」
「・・・りんかーふぇいず・・・」
「ここまでくれば…大丈夫ねぇ」
「凄いっスねぇ転移。便利っスわ」
俺は改めて周囲を見る。何か忘れている気がしてならない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あーっ!!!!」
その声にリカルドがコッチを見た。
「どうかなされましたか?オオミさん」
気絶しているリセルを背負ったリカルド。
察する所、あの魔法陣ふっとばすのに力全部使ったってとこか?
ゲームで言う所の、まさに魔法使いだな。一撃がデカいが耐久力が極端に無い。
「ああ、ガットだっけ?アイツ置き忘れてきてなくないか?」
驚いた様に答えるが、何故か平気だろうと言う表情をしている。
「ああ!そういえばそうですね。…ですがまぁ、大丈夫でしょう。
彼は物凄く頑丈なんですよ。そして禁じ手を使っても戻ってこられる子でもあります」
ああ、そういえば言ってたな。一人だけ質量が近くて戻ってこれるのがいると。
しかしまぁ、あの再生能力だ。確かに生き残りそうだ。つか頑丈。
壁キャラか。見たまんまったらまんまだなおい!
・・・俺はふとリンカーフェイズを解いたメディに視線を送る。
うわ~…全てを置いて逃げろと言われてから、慌ててこっちも周囲見る暇も無かったが。
改めて見ると酷いな。あんまり顔には出して無いが、ちょっとつついたら泣きそうだ。
声かけない方がいいな。この場合。残してきたあの爺さんの事もあるしな。
爺さんといや…お? 丁度目が覚めたな。
「ん?…ここは?」
相当痛いのか、腹部に右手を当てている。
顔は平静装ってはいるがやはり痛いのだろうか。どことなく血の気が失せている。
「あ、シアンさん大丈夫っスか? つか一体誰がアンタみたいなバケモンそんな目に」
う…つい口が滑った。 姐御にちょい睨まれたが痛みでそれどころじゃないらしく。
「アンタね…。まぁいい。どこまで知ってるんだい?」
メディを除いた全員が集まってきたな。 メディは放心状態に近いのかありゃ。まぁいい。
「神の封印とかなんとか解かれたって事と、シアンさん倒された事だけっスな。
サザが残って戦うみたいっス。あとガット置き忘れてきたみたいで」
抑えていた右手を額に当てる姐御。
「あ~…それは判る。どの道つれてこうとしても無理だ。禁じ手使ってたみたいだからね。
むしろタイミングが良かったと言える」
「確かにそうですね。彼なら生き残ってても不思議ではありません」
壁だからか。
「リセル君は…まだ意識戻らないかい?」
心配そうにリセルの方を向く姐御と、その視線を追う様にリカルドが横を向く。
「ええ。オオミさんに張り合って、無茶しましたからねぇ」
それに続くようにオーマが無意味にポージングしつつ喋りだす。
「そうっよっ! つっいっにっ!! 対神空間圧縮魔法を手に入れたっのっよっ!!
まだまだ実践で動く相手には無っ理っだっけどねんっ!」
驚いた様に気絶しているリセルを見る姐御。
「へぇ。サボってると思ってたけど。ちゃんとやる事はやってたみたいね。
ふむ…リカルド君。リセルを叩き起こしな。水ぶっかけてでもいい」
おいおい。気絶するぐらいとんでもないモン使った奴にそりゃないだろ。
「シアンさん、逃げるだけっスから。そっとしておいて・・・」
「バカタレ! 勝てる見込みがあるのに逃げてどうする!
サザは知らないんだろうね。封印の事は詳しく」
ああ、俺も知らんわ。つかアンタ知って・・・ああ雷竜と会ってたな。
「いいかい。封印は二つの事で成り立っている。
一つは神を封じる為にユグドラシルの実を使っている。
封印の機能を維持する為のモノなんだよ。本来あの力は。
それを術者の体力回復にも使用出来るってだけの話さ」
ああ、成る程。そういやセアドもいってたな。今は必要が無いが時がくりゃ必ず必要になると。
「じゃ、なんスか? この実でもう一度封印しなおすんスか?」
「そいつは無理だ。 エルフィ族が居ない。あいつらじゃないと封印の印を結べない」
成る程。つか単純に囲って…むにゃむにゃオリャー!ぎゃー我はかならず・・・。じゃないのかよ。
「でだ、封印するのに必ず必要な物は二つ。一つは実。一つは神そのものだ」
は?神を封じるのに神をつかう? ・・・ああ。神の力で神を封印するのか。しかしどうやったんだ。
「いやでも、神の力で神を封じるのは判ったスが…どうやって捕獲したんスか!?」
「そいつは雷竜に聞きな」
「う…うス!」
「取り合えず、あそこで解かれた神は暴走してる。だからこそ勝ち目があるんだ。
自我が無いから戦い方次第で勝てる。リセル君達とアンタ達がいるからね。
…自我があれば良かったんだけどね」
リセルのあの馬鹿げた力で吹っ飛ばすのか? まぁ…だが当るのか? あんな大技あたるのか!?
つか自我があったほうがよかったって…神すら鍛錬対象にする気かよ!!!
っとお? リカルドに頬軽く叩かれ続けてたリセルが目をさました。
「ん…あらやだわ。私ったら」
「お見事でしたよリセルさん。よくアレを」
「そうねぇ。まだまだ未熟だけど」
「ですわねんっ!まだっ振り回されてるけれどんっ!」
あれで未熟かよ。
「あんな魔法陣どころか雲まで吹っ飛ばすのが未熟なんスか?」
「んもうっ!魔力を制御全く出来てないってことよっ。でもあれを体内に巧く使えるかしらねっ!?」
「そう…あれだとただ爆発させただけ…本来はもっとデリケートなのよぉ…」
成る程。未完成ってことか。それで破壊力だけ出てしまった。本来はもっと別の何かってことか?
制御つか加減が出来て無いってことか? 判らんが。
「そう…ですわね。あんな状態のままつかっていたら、体も世界も持たないですものね」
なんつーか何。この世界の核みたいなものなのか? もうますます判らん。
その会話を切る様に姐御が割り込んで喋る。
「未熟でもなんでもいいさ。他に何か情報は無いかい?」
ああ、あるな。
「あのドールの子っスかね。サザとリンカーフェイズしたみたいっス」
「なんだって!それは本当かい!?」
おお!びっくりした。
「つ…」
あ~ほら、叫ぶから傷口に…てアバラでも折れたのか? 抑えた位置見る限り。
肺大丈夫なのかよ。
「取り合えず…リセル君ちょっと無理させるけどいいかい?」
おお?
「構いませんわよ。…シアンさんが無理させなかった事なんてありまして?」
その通り!!
「その通りですね。常に無茶させつづけますからね会長は」
「ぶん殴るよ。 で、メディ!アンタもちょっときな!」
その声に相当驚いたのか、放心状態だったメディが一瞬飛び上がってコッチを見た。
「は や く き な」
顔が笑ってない姐御。それを見たメディがあせってこっちにくる。
「大丈夫?シアン義姉さん」
「そりゃいいから。アンタはオオミ君になんだっけ?フェンリルかい?
アイツを繋げてやりな。そいつに言って以前暴走させた時と同じ力を使わせるんだ」
ておいおい!! また暴れてしまうじゃないか!
「義姉さん!? 無茶だよ」
「無茶じゃないさ。今の彼なら辛うじて耐えれる筈さ。その為に鍛えたんだからね」
ああ、何か確かにいけそうな気はしなくもないが…。
「ただまぁ、意識はあっても振り回されるだろうから。
ひたすらガットとサザと一緒に暴走した神の注意を引くんだよ。攻撃は一切考えるな。
防御と再生に全て回す様にサザとガットにも伝えるんだよ」
ん?ああ、成る程。単純だが効果的なボスキャラの倒し方だな。
回復役いないがリジェネでなんとかするって事になるが。
壁で囲って 魔法で打ち殺す。
「アンタ達はただ耐えればいい。 じゃあアタシは、ゼメキス君を叩き起こして、回復させたら向かうから。
しっかりやるんだよ! これからはあの程度の神相手にするワケでもなくなるだろうからね」
あの程度って。あの程度って。 どんなのか知らんが、下位だろうが神捕まえてあの程度って!!
「う…うス!」
「じゃ、ここでリンカーフェイズしていきな。 ディエラ君とオーマ君も力の温存。
リンカーフェイズしたオオミ君に連れて行ってもらいな」
「あら…ボウヤの力…楽しみだわぁ」
「うふんっ!この距離を移動できるのかしらっ!?」
「あ・・・あ~・・・確かに制御できれば一瞬とまではいかなくても、速攻でつくっスね。
んでも振り落とされないっスか?」
「うふんっ!アタシ達がリセル達しっかり捕まえておくわよ!」
ああ、この魔族に物理法則通用しないのか。
「んしゃ。んじゃメディやってみるか」
「う…うん」
心配そうだな。俺だつて心配だっつーの!!
そして再び俺の胸に手…ってなんで抱きつく!? 手を当てるだけでいいじゃないか!!
まぁいい!キモチイイからいい!!
「心拍同期…解析開始!!」
「まぁ、耐えて出てくるだろうさ」
「大丈夫なんですの!?」
「少々気になりますね」
「暴れたらっこのワタシがっ取り押さえてっあげるわんっ!」
「うふん…どういう力なのかしらぁ…」
「さて、さっさとフェンリルの所までい・・・ぬぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「きゃっ」
「早くしろ」
うわー、流石戦闘狂ってとこか。我慢出来ずに向こうからきたぞ。
輪廻の中に来た瞬間いきなりフェンリルのデカい顔ってか鼻と口が目の前にあった。
食われるかとおもったわ!!
「う…うス! あの」
「全て視ていた。問答無用だ」
「うん。じゃいくよ~。
「心拍同期・・・接続開始…魂連発現!!」
「ぐ…ちょっ。 キツッ。」
前は渦の様なものに飲まれて速攻判らんかったが、辛うじて耐えて意識があるのではっきり判る。
渦というよりもあらゆる方向から押し寄せる激流。
ソレに逆らって立っている様なモンだ。
ちょっと油断したら危ないぞこりゃ。
「お、意識あるみたいだねオオミ君」
「相変わらず綺麗な色ですわね」
「少々心配しましたが、いや成長しましたねぇ」
「あらぁ…影じゃなくて光。…神族かしらぁ?」
「どちらにせよっ!美しいわっ!」
まだ収まって無いのか、銀色の影というか光で輝いて辺りの森を照らしている。
「…シャレにならんっス! さっさと捕まってくださいっス!」
「オーミだいじょ…ぶじゃないよね」
何納得してるんだよ!! そんなこんなゼメキスさんと姐御以外が俺の体に捕まった。
軽く歩いて姐御から先ず離れる。
「じゃ、巧くやるんだよ! 戦い方次第で自分よりも強い奴は倒せるもんだ。
リセルをしっかり守って戦えば勝てる」
「うス!! じゃ軽めに走るっスよ!」
彼が軽く走る。そう言うと、蹴り足が地面を抉る。座ってるから深さまではわからないがね。
その瞬間、姿が消えたと思ったら、街まで一直線にだろうかねぇ、
木々が根こそぎなぎ倒されていくかの様に折れていく。
「速いとか言うモノじゃないねあれは。さて、ゼメキス君起こして回復しないとね…」
「よしゃー! 形成終了さっさと戻るぜ! /え~!?ボクでてきたばかりだよ!
うるせぇ!!戻らないと師匠に殺される! /それはこまるよ・・・」
「ガット…あなた本当キモチワルイ!!
何でアンタの意識が混ざってるのよ!!!ワイバーンをメインにしてるのに!!!」
「当たり前だ! 俺様より目立つのは許せん!! /もう~…」
「そんな理由でそんなキモチワルイ事平気でしないでよ馬鹿!!!」
俺様は、アリセアを無視して街中央を見た。何か出てきてるな…。それにさっきの援護の奴等。
南にいったと思ったが…アイツが親玉ってわけだな!!
俺様が倒してやる!!!
「おら!予定変更!! この騒動の親玉ぶったおすぜ!!! /意識のっとらないでよう…」
「え?! 何ドコってきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!」
俺様は有無を言わさず街の中央。光の柱のあった所へ飛んだ。
「体が…軽い」
いや、軽いというよりも。痛みが無い。 今までこの体を支えるだけで激痛を訴えていた節々。
その痛みが無い。思うが様に動く手足。翼…体。 まさにに若返った様だ。
「しかし…確かに長くは持たんな」
全ては寄こせない。そう言っていた。確かにこれ以上は危険としか言いようが無い。
ワシは、街の中央へと翼を広げ飛ぶ。…速い。以前の比では無いだろう。
飛ぶというよりも風そのものになったとも思える。凶風の翼。
眼下に広がるは火の海。砕け落ちる街の建物。そこで逃げ惑う様に走る人間や魔人…。
瓦礫に敷かれ絶命しておる者もいれば、火に巻かれ苦しむ者も見える。
然しこの人数いかようにもし難い。そして目の前に居るのは、下級とは言え神。
戦う場所はここしか無い様だ。どこかに連れて行く事すらも出来まい。
すまんな。この地に住む者達。
「さざ・・・まもる・・・いぐりす」
一際小さくなった少女が喋りかけてきた。それしか言えぬのか。言葉を知らぬのか。
どちらにせよ、この娘は死なせてはならぬ。この娘もまた…進化し新しい力を手に入れる可能性がある。
「では往くぞ・・・」
ワシは少しでも被害を減らそうと、いまだ完全に意識が戻って無いのか放心状態の神。
それを上空高くに叩き上げ様とした。その時。
「オラオラァーーーーーーーーーッ!!/ いっちゃえーっ!」
「イャァーーーーーッ!!!馬鹿が増えた!!!!」
なんと…この地にも竜が?…いや竜のリンカーか。 驚いたなそれもあれは…。
「小僧!無闇に突っ込むで無い。 上空に上げる事を考えて動くのだ!」
ワシはリンカーの小僧に叫んだ。本来なら逃げろと言うべきではあるが。
竜そのものになっている。まだ子供とは言え、死にはすまいと踏んだからか。
「お!?赤竜のジーサンか!!! / あれ…仲間だ!」
「サザさん!? 助かったぁ! 皆は? さっきの援護してた人達。
みんな目の前でいきなり消えちゃったんだけど!?」
消えた…。そうか。
「それは槍と呼ばれている。気をつけろ。直線的で読みやすいが…触れる物全てを消し去るぞ」
「はっ! 上等じゃないか! 俺様が逆に消し飛ばしてやるぜ!! / やるぜっ!」
「あーもうっこの馬鹿二匹!!!」
ふう。これは思ったより厄介になりそうだな。
ともあれ…む。
どうやら完全に気が付いた様だな。
「気をつけよ。意識が完全に戻ったようだ。」
「はっ! そんなもっ・・・うぉぉぉおおおおっ!? / ギャッ!」
「キャーーーーーーーーーーーーっ!!」
無造作に振り下ろした右手。それの軌道の先にある大地。 そこにたどり着くまでの空間が歪む。
「なんっだよ!! / ばけもの?」
「逃げようよ! あんなのどうやって!」
「奴は意識はあるが意思は無い。
攻撃自体は直線的で読みやすい。それさえ気をつければ良い」
「おう! わかったぜ! / わかったぜい!」
「判ってないでしょ!!絶対判ってないでしょ!!?」
そう言うと、何も考えて無いのか、神に向けて一直線に飛んでいく小僧。
「おらぁぁぁぁあああああっ!! / おらー!」
「だから直線さけなさいって言ってるでしょ!?
ってキャアーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
再び無造作に振り下ろされた右手は小僧の方へ向く。
そして振り下ろされた。その空間の歪み。当ればいかな竜とてただではすまない。
故にあの様に向かっていく者はまず居なかった。 考えもしなかった事をする小僧だ。
空間が歪んだ際の衝撃をそのまま翼で捕まえ、
利用しているのか旋回しながら勢いをつけて向かっていきおる。
「素晴らしい…」
彼の身体能力はどれ程の物なのか。興味をそそられる。
そしてその勢いのまま、爪で神の腕を切り裂いた。…が血飛沫をあげもせず、即座に元に戻る。
どうやら驚いているようだな。そう。神には並の物理攻撃なぞ通用しない。魔法も然り。
故に封印するしかなかったといえよう。 あの時点では。
暫し若者の戦いぶりを観戦していた。そして彼等はワシの所へと飛んでくる。
「ジーサン!! なんだよありゃ!? いくら斬っても焼いてもすぐ元に戻るぞ!!! / なにあれ?」
「とんでもない再生能力ってことじゃない!」
「復元。 再生とはまた別。再生は治す。 復元は作る。そう考えれば良い」
「え?じゃ、切られたりしたらその部分を即座に作るの?」
「そうだ。正確には…言う暇もなさそうだ」
こちらに纏まっているのを確認したのか、再び先ほどの槍が飛んでくる。
ワシは小僧を咥え、大きく滑空してかわす。
そして、咥えた小僧を放し、こういった。
「小僧、先ほどの立ち回りをもう一度やれるか?
あれはワシには出来そうにも無い。あの勢いを使い、先に奴の動きを封じてくれ。
そしてその後からワシが上空高くまで叩き上げよう。被害を最小限に抑えるのだ」
「お!俺様がリーダーか!? / いっちばーん!」
「あなた達こんな時にまで馬鹿いってないで!!!」
「そうだ。小僧。主だからこそ出来る。頼んだぞ」
「任せろジーサン!! / おまかせ!!」
「ちょっと!? また…きゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
再び神の元へと行く小僧。 これで被害をこれ以上増やす事はあるまい。
小僧よ、気付いてはおらぬ様だが。主の背負った責任は重いぞ。
ワシは神の元へ勇敢か…無謀かはたまたその両方か。その小僧に視線を向け、力を溜める。
「オラオラオラ!!! / おらおらっ」
「もうっちょっと! 無茶すぎるわよ!! 当ったら消し飛ぶってきいてなかった!?」
「当らなければ消し飛ばないだろ!? / だろ?!」
「馬鹿! もう!!」
俺様は何か妙に歪んで飛んでくる風?みたいなモノをいくつもかわして近寄る。
そして一際デカいモノが飛んできた。
「よっしゃコイツだ!! / こいつだぁっ!」
「ちょっと! 一番何か大きくない!?」
「あたぼうよ!! / ぼうよ!」
「…無茶ばっかり!」
俺様は限界近くまでその妙な風の付近に近寄り、その周囲で巻き起こる風を翼で受け止めて旋回し、その勢いをそのまま上昇に使った。
「オッシャー!! / おしゃー!」
「目がまわるっ!!!」
そのまま神とやらに再び急接近する。っつかコイツ意識無いのか? 表情も変らんとか。
金髪で白い服。後は何かやたら光っててわかりにくい!!ソイツ目掛けて正面から体当たりした。
「ついでにコイツだ!復元か何か知らんが、要は作っても意味無い状態にすりゃいいんだろ!/だろ!」
「どういう意味よ!?」
俺は口から火玉を吐き、神とやらの顔に当て、そのまま腕で押さえつけ温度が下がるまで貼り付けた。
「意思無いってんなら、目見えなくすりゃ戦いやすいだろ!」
「あそっか!」
これで・・・
「ジーサン! い・・ってうお!? / すごっ」
「う…うわぁ…」
さっきのジーサンの腹が居様に膨れ上がってる。 ホンモノの竜のブレスかよ!?
つか俺達も逃げないとこれは無茶だ! 俺は視界だけ奪ったらさっさと遠くに飛びのいた。
その直後に、物凄い熱量のモノが下から飛んできた。あんなもん食らったら蒸発しちまうぜ!
つか…これで倒してしまってもおかしくないだろ!?
そんぐらいの勢いのある溶岩に近い塊が神とやらを巻き込んでさらに上空へと飛んでいく。
「あっちぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!/ あつっあついっ」
「こんな距離なのに肌が焼けそうよ!!」
…どんな熱量だよあのブレス。俺達もそれなりに耐火防御あるってのによ!!
いやそれよりもだ。俺はその飛んでった先を見た。
かなりぶっ飛んでったな! よく見えないぞ! 俺達は追いかける様に飛んでいった。
だんだんと近くなってきたが…さむっ!!!
「ガット!!あがりすぎっ寒いよっ!」
「仕方ないだろ! 我慢しろ! / しろよっ」
「息も苦しいし! 我慢しろって無茶なことを!」
それよりも神とやらは…おいおい。 ものすげぇ速度で再生してやがる。というよりも部分的に崩れ落ちてないか!?
「あれが…復元? 作る…」
そりゃ再生より速いワケだぜ! 要らない部分捨てて即座に作り出してやがる。
こんなんどうやって倒す…リセル先輩とあのニーチャンがいればなぁ。
俺は復元を行っている神とやらから地上に視線を戻す。
「く…そっ! 意識とぶっ!!」
抱えてる連中も必死の様だこの速度。 後ろを見ると走った数秒後に木々がなぎ倒されてる。
どんだけ速いんだよ!
「凄いね・・・」
お前は平気なのかメディ!!!
「なんで…平気なんだよっ」
「わからないよ~」
ええいっ考えてる暇は無い。 と、早速見えてきたな。つか鷹とまではいかなくても目がかなり。
あそこにいるのがサザか? おっしゃ!
「一気に飛ぶから捕まってろよ!」
「う…うん」
その勢いのまま地面を蹴る。 何かクレーターみたいなのが出来た気もしなくも無いが。
一瞬でサザの付近までこれた。もうこれ瞬間移動といってよくね!?
止まった衝撃であのデカい。10m以上あるサザが大きく傾きつつ、驚いてコッチを見ている。
「主…オオミか? 何故きた」
俺は抱えていた奴等を放す。 ディエラさんとオーマに二人は抱えられた様だ。
「ああ、シアンさんが勝ち目のある戦いから逃げるなってよ!
つかあの程度の神から逃げる様なら、この先で生きていけないってどやされた!」
「無茶を言う。…しかし。あながちそれも無茶ではなかったか」
お? サザの視線の先を見るとガットか? それっぽいのが神の足を止めている。
すげぇな。攻撃はしてない様だが、確実に避けて足止めしてるぞ。
「すげぇっスね」
「ああ素晴らしい。さて、ワシ等も往くぞオオミよ。 リセルといったな。
主等は…」
「わかってるわ…でも、一発が限界ですわよ」
「十分だ。 確実にこちらで動きをとめてくれよう」
「俺どうするっスかね?」
「主もそうだ。 防御と回避に全て回せ。間違ってもあの空間が歪んだ所には飛び込むな。
体がねじ切れて消滅するぞ」
か…体がねじ切れて消滅とか。即死攻撃かよ。ってまて、良く見たらそれっぽいのが雨あられじゃないか?あそこ。
俺は小さいからともかく爺さん無理だろ?
「いや、俺は大丈夫っスけどサザあんたじゃ」
「舐めてくれるなよ」
「うほっ。すんませんっス」
そういやそうだ。この巨体でも鈍重とは限らんしな。
「さて、往こうか」
「んし、んじゃサザ。ちょいと我慢してくださいっス」
「む?」
俺はサザの背中を押す様に、そのまま…そういやこれどうやって飛んでるんだ?
何かこう飛ぶというか何か踏んでるんだが。まぁいいか。
サザを押して上空に跳ね飛んだ。
「ちょっ…。なんて脚力してますのよ」
「というか空を蹴りましたね」
「あらぁ…もう。色々と凄いじゃない。 速度だけなのかとおもったらぁ…」
「うふっ! 美しいわねっ! さっ! こっちも準備よっ!?」
あ…あんまり気が進まないのですけれど。はぁ…仕方ありませんわねぇ。
私はリンカーフェイズで先にリカルドと。
そして、再びリカルドと魔族の二人を繋げた。
「・・・死ぬかと思ったぞオオミ」
「あ、すんません! 加減がまだ」
「というかオーミ苦しくないの?」
「ん? あ、そういえばそうだな」
そいや、あの激流が確かにあるがそこまで苦でもなくなってるな。
これが下位神とやりあう最低限なのか・・・?
( 移動の時よりも減らしておいた、半分程か )
げ。聞こえてるのか。 つかあの時の半分でこれっスか!?
( そうだ。 破壊力は今回必要ない。 速度のみだ )
成る程、攻撃力はリセルがいればいいってことか。
じゃ、精々敵さんを撹乱してやりますかね!
「お! ニーチャン!! よくきたな俺様の戦いよくみとけ!! / みとけー」
「キャーっ! ちょっと余所見してる余裕無いでしょ!?」
ありゃ…ガット…だよな。でもなんかまんま竜。・・・あそういやそうか。
「メディ、舌噛むから後ろにひっついて黙ってろよ!」
「あ、うん」
もぞもぞと背中の銀色の毛に隠れたメディ。
それを確認した俺は、今度は…試しに加減無しで走って神にぶつかってみた!
「おらぁっ!」
神の体を真っ二つに粉砕して、そのまま更に上空に行き過ぎ、慌てて上空を蹴飛ばす。
何か後ろですげぇ衝撃波出たみたいだが気にしない。
「かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええっ!!! / かっけぇ!」
何か下の方で仰け反って叫んでるガット。 余裕だなおい。 再び神に視線を戻す。
うげ。なんじゃありゃ。割ってやったのに、もう殆どひっついてやがる。
ってうお! 修復しながら攻撃してくるのかよ! さっきサザが言った空間の歪みがいくつも飛んでくる。
つか手…どころか動かずに攻撃してなくね!? どっから出てくるかもわからんぞこれ!
最初のボスキャラの癖になんつー戦い難いんだよくそ!!!
お! サザがってスゲェ! なんだありゃ。
俺に攻撃の矛先が向いたのを確認したのか、サザが攻撃に移っている。いや構えてる?
翼に何かこうなんだ。良く見えないがって見てる暇ねぇ! さっきの奴の数がはんぱねぇ!!
下から数えるのも嫌になるほどに飛んできた、このわけのわからん攻撃。
それを必死にかわし続けるしかない俺。いやこれでいいんだよな!?
「良し。次はワシか。小僧良く見ておけ。主も火が扱える様だ。
いずれこれが可能となるだろう」
「おお!? 何かくれるのか! うけとっておくぜ! / おくぜい!」
「もう馬鹿! もうちょっとちゃんと答えなさいよ!」
翼を大きく広げ、下級神の頭上まで飛ぶ。
そして翼を軽く羽ばたかせ、周囲の空気が渦を作る。更に己の火の息を絡ませた。
「うぉおおおおおおおおおっ!? でけぇ! かっけぇ! / うわー…」
「何か…ガットの火玉の比じゃないっていうか、赤竜そのものが火の塊になってない!?」
そしてそれを自身の体に絡ませる。
「やべぇ…! 何だあの燃える体!! / あつくないのかな・・」
「あんなのやらないでよね!? やられたらウチが持たないわよ!!」
そのまま滑空し、オオミの方へ攻撃を集中させている下級神を上空から叩き落とし、
その勢いのまま、先に旋回しつつ下へ回り込み尾で打ち上げた。
「速!? つかなんであんな体でそんな速度出るんだ! / わぁ」
「力の源を作り出して吸収でもしたのかしら・・・」
ふう…やはり堪えるな。吹き飛んだ下級神はこちらに攻撃の対象を移す。
そして槍の雨が降り注ぐ。
「ジーサン避けれるのかよ!? / かよ!」
「ちょっ危ない!」
舐めてくれるなよ若者…。
ワシは、降り注ぐ槍の雨をブレスで相殺し、小僧の元へと飛んだ。
「すげぇ!そのブレスくれよ!! / くれよ!」
「すごい! 本物の竜ってこんな強いんだね!」
「いや…ワシの中におる凶風の力だ…今のはな。然し・・・意識が持ちそうにないな」
今のブレスが相当堪えたのか、先ほどのブレスなのか。どちらにせよもう限界が近い。
「お? っしゃー! 次は俺が攻撃集中させてやるぜ! / さっきのいくぜ!」
「っ!? まさか! ウチいること忘れて無い!?」
「知るかよぉぉぉぉおおおおっ!! / しるかよ!」
「ばかぁぁぁぁあああああああっ!!!」
小僧。一度見たからといって出来る筈・・・なんと。
ワシの息子でも…今はどうか知らぬが出来なかった事を易々と。
僅かな時間で、瞬く間に火を体に纏った小僧。末恐ろしいとはこの事か。
「ハッハー!! 完成!! / だー!」
「あついってば!! あついって!!!」
「俺達の火耐性が多少繋がってるから平気だろ! / だろ!」
「熱いモノは熱いのよ馬鹿!!!」
「おら! いくぜぇっ! / いくぜぇ!」
ほ。元気だな。 ワシは飛んできた槍をかわしながら、下にいる者達へと視線を移す。
「く…まさか…一日で二回もこ…れ」
「頑張って下さい」
「さぁっ! 動きとめてる連中も限界があるわよっ!?」
「そうねぇ…いくら下級神で意思が無いからって、戦闘本能に火がついたら…大変よぉ?」
「わ…わかってますわよ! いきますわよ!」
私は、右手を出しディエラの魔力で、下級神の周囲。その空間を取り囲み始める。
「む。来たようだな…」
ワシはその場から離れながら、小僧に叫んだ。
「小僧!退け!」
「お!きたか! っしゃーっ! / きたかー!」
「きたって…ぇええええ!?」
ワシとは反対側へと、引く小僧。 更に上空ではオオミがこちらを見ている。
「お、きたっぽくね?」
「そうなの?」
背中に隠れているので、見えないのを忘れていた。
「ああ、何かあっけない気もするがまぁ、序盤のボスキャラだしなぁ」
「なにそれ?」
「あいやこっちのこと!」
いや然し、おかしいっちゃおかしいな。 いくらなんでも下級神だったとしても。
攻撃力は確かに凄そうだが…何か当てる気あるのか? 適当に撃ってる様にしか見えない。
いや、適当に撃たせている? 何かそんな感じだな。
封印の事自体も詳しく知らんから。雷竜に会わないとわからんか。…アレとやるのかと思うとゾッとする。
リンカーフェイズしたとはいえ、あの良くわからない即死攻撃を相殺したブレスを吐いたサザを見る。
お?何かきたぞ! 風がキツいな!! つか なんだ風と雷…ヴォーテクスみたいな奴か!?
そんな感じの奴がさっきから動かない。…動こうとしない? 判らん。
その神を取り囲む。 ・・・あれに捕まったら逃げられそうに無いな。
巨大な竜巻みたいなモノに挟まれだした。そして更に何か別の魔法ぶつけてないか?
両端から空間ごと圧縮するみたいに…空間圧縮!? 洒落になってねぇぞ!!!!
俺は慌てて、ガット達を捕まえ、サザに悪いが体当たりしてそのまま降下した。
俺の背後で圧縮する空間。 見るまでも無い。ごくごく小規模だが…ビックバンかよ!
つかなんつーモンあるんだこの世界!! いやゲームでも最終的に魔法で出てきたりするがよ!
序盤でこれかよ!!!! その内メテオとか使い出すぞ絶対あの女!!!!
空間の圧縮が、臨界点っつかリセルの限界?に達したのか一気に膨張する。
その衝撃に飲まれて更に落下速度が速まる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てめぇリセル!加減しやがれぇ!!」
物凄い速度で落ちる。しかもサザやらガット。ドラゴン抱えて。
どうみても地面に落ちたら隕石落下だろ。
俺は無理矢理…空っつか空間てか足元を蹴った! 相当衝撃があったのか、蹴った右足が吹き飛びやがった。
上でも激しい衝撃が巻き起こってるが、こっちもこっちで相当な事になっちまった。
上下で衝撃波が肉眼で確認出来る程ハッキリと、円を描く様に遠くまで広がっていく。
「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええっ!!!」
「ちょっ…オーミ!?」
「うひょー! 危なかったぜ!
死にはしないが食らってたらどこまで吹っ飛んだだろうな俺達! / 隣の国まで!」
「冗談じゃないよ!そんなに飛んだら大変よ! ありがとうございます先輩」
先輩。女の子にいわれると凄いなんかこう…興奮する俺は駄目か?
まぁ、そんな事は置いといて。
「オオミ。すまぬな。主等を過小評価していた様だ」
「ん? いや 神の様子がおかしいんっスよありゃ」
「どういう事かな?」
「わからんス。ただ本気出す事が出来ないって感じだと思うっスよ」
「ほう。何故か」
「それが判らんス。封印自体そもそも神をどうやって捕まえたのかってのも。
そのあたり雷竜に聞かないとなんとも言えないスな」
「成る程・・・そこまではワシも・・・む?」
「どしたんスか?・・・うげ!」
しつけぇっ!!! あんなモン喰らってまだ消滅せずに生きてやがるだと!?
どんな復元だよ…細胞一つでも残ったらそれから即座に復元するってのかよ。
俺はリセルの方へと視線を移したが、駄目だ。また気絶してやがる。
俺も俺で右足これだ。再生中でこう…骨がリアルタイムでジワリジワリと生えて、
血管やら筋肉組織も凄い速度で再生…気分悪くなってきた。自分の体と思いたくない。
「ちょ…! もうリセルも気絶してるみたいっスよ」
「ちくしょお! 俺様がぶっ飛ばしてやるぜ!!! / ぜ!」
「案ずるな。地平を見よ」
なんだよ。そんなの見てる余裕は…夕暮れ? どうしたってんだ。
「神の復元能力の高さは朝と昼が特に高い。 そこから日が落ちるにつれ・・・」
「成る程! 夕暮れに差し掛かってるスから今なら完全に消し飛ばせるってことっスか」
光属性故の弱点て奴でいいんだろうか。 てことは魔族は夜に近い程能力が高くなるってことでもあるよな。
・・・もう少し時間が遅れてれば倒せてたんじゃないか! 畜生。
「それはいいっスけど、打つ手がなくないスか?」
サザも限界に近いし、ガットがそこまで攻撃力高いワケでもなく。俺も肝心の足が…リセルは気絶。
魔族の二人はどうだ? 俺は視線を下に戻した。 あ、駄目だ手が塞がってる。その上疲れが見えてる。
…そいやあの二人の魔力使って出してたんだよな。
手詰まりじゃないか!!! あとちょっとだろおい!!!
「凶風がおる」
ん?なんじゃそりゃ。
「まがつかぜ ってなんスか?」
「ワシ等竜族には双極竜セオという誇りと凶風という驕りが居る。その凶風がどうやらワシの生まれる前の様だ」
「何かすげぇのだったんスね。つかセオってこの国の爺さんと同じ名前スな」
「む? とするとあの娘…成る程」
「いやいや、たまたま同じ名前だったんじゃないスかね」
「いずれ判る」
「そっスね」
成る程。それなら姐御の化物染みた力も合点がいったわ。
つかんじゃ尚更そんなの倒した奴どんだけだっつーんだよ。
「それは判ったスけど。もうサザも戦え無いってか限界きてるっスよね」
明らかに辛そうな顔をしている。
「正直、無理をし過ぎたか。 まぁ…元より死ぬ覚悟。さぁこの娘も。」
「さざ・・・さる・・・いぐりす・・・まもる」
うお? 何があったのか、今度は聞き分けよくリンカーフェイズ解いて俺の頭の上に落ちてきた。
「おふっ!? 首がっ・・・。
というかリンカーフェイズ解いたら・・・凶風の力つかえなくないスか?」
「この小僧達と、下の者達を連れて地面におりると良い。先程思い出してな・・・最早ワシで十分」
俺は自分の足を見る。 まぁ、なんとか走れ…るとは思うが。
つか何でだろうな。 死ぬという事に少し抵抗が無くなった気がする。
コレがこの世界では当たり前なのか。それとも本来自然はこうあるべきなのか。
自然から離れすぎて死に恐怖を持つ様になった人間。それが俺の住んでいた世界なのか。
まぁ、何か考える事が出来たが、今はそれどころじゃないな。
「判ったっス。 サザ。アンタの死に様しっかりと息子に伝えておくっスよ」
そういうとサザは遠く、凄まじくデカい夕日に視線を移す。
「ああ、頼む。かなり気が荒く、主等も苦労するだろうが。頼む」
…またいやなフラグたったな。つことはコイツがその内移動用キャラで・・?
て、何故俺はゲーム感覚なんだよ。
「ああ。大丈夫っスわ。しっかり教育してやるっスよ」
「頼もしい。まぁ、精々殺されない様にな。
あ奴は、竜族として最も強い年齢。半端な気持ちで往くと返り討ちにあうぞ」
絶頂期のドラゴンかよ!! 洒落になってなさそうだ。
「さぁ、世代交代の時だ。 老いたる者は礎となり。若き者は先へと行くものだ…生きる為に進化を求めて」
そういうと、復元速度が落ちた神だった何か良く判らない肉の塊になった所へと飛んでいった。
完全に消滅させる様な事出来るのか? いや、出来るから行ったんだよな。
「・・・焼き尽くすつもりだ! / だー!」
「焼き尽くす?」
何か知ってる様にガットが言う。
「焼き尽くすんだよ! 何もかもな!俺様がさっきやった奴を極端に増やすんだぜ! / ぜ!」
「判りやすく説明しなさいよ! 判らないって!!」
ん?何かガットが夕日を指差したぞ。
「だーっ! アレと似たようなモンになるんだよ! / よ!」
「ますます判らないってば!!」
太陽?・・・ああなる程。自己犠牲型…自爆かよ。
とすると相当強烈なのきそうだな。・・・さっさと逃げるか。
俺は更に降下し、有無を言わさず下の四人を捕まえて、地面へと急いだ。
地面に届いた瞬間、遥か上空で巨大な火の玉ってーか、太陽? とも思えるような巨大な火の塊が渦巻いている。
そして、それが遠く地平。太陽の沈む方へと雲を吹き飛ばしつつ飛んでいく。
コメットつかメテオってあんな感じだろうな的な勢いだ。
あれが消える頃には、塵一つ残って無さそうだな。流石に。
俺達は言葉も出ず、沈む太陽と共に消えていったサザを見送った。
不思議と涙は出てこなく、ただ先に進む。その思いだけが在った。
他の奴等もその様だ。誰も泣いて無い。つか俺の感覚がコッチではおかしいんだろうな。
「逝っちまったかい。 アイツも」
うおっ!俺の影から出てきた姐御。 それ心臓に悪いわ!
「っスね」
「で、どうだい?」
どうだいって何がだ。悲しいかってことか?
「んや、悲しいどころか荷物背負わされた気分スわ」
「それでいいさ。その通りだからね。けど今度の重みはあんな砂袋じゃないよ!」
「砂は砂っスけど砂鉄! あれ砂鉄!!!」
「どっちも同じだ!」
ひでぇ・・・!
それから、姐御も黙って沈む夕日が消えるまで見届けた。
沈む夕日が、イグリスを照らす。 酷い有様だ。まともな建物はほぼ砕けたり燃えたりで無いといって良い。
ここからだと見えないし考えたくも無いが、圧死した者やら…焼死したのもいる筈。
それが大量に横たわっていると思うと気が滅入る。
この状態でレガートが着たらどうしようも無いんじゃないか?
「シアンさん。この状態でレガートきたらどうしようもなくないっスか?」
「来ないよ。既に奴等の目的は達成された。この国に攻め入る理由が無い。
次はエルフィさ。 まぁ、エルフィにはそう易々と攻め入る事は不可能だけどね」
なんだ。そいやコッチと違って遊牧民に近いモンだったよな。
なのに何で攻め入り難いんだ?
「いや、なんでっスか?」
「あんた何も聞いて無いのかい? 精霊クァが護っている上に、
精霊を召喚出来る奴等が何人もいる。
その上、攻め入るには地の利がどうしてもエルフィにあるからね。
ヘタに人数で押し入っても返り討ちにあうのさ」
ああ、成る程自然の要塞みたいなものか。特殊砲台付きの。そりゃ攻め入り難いわ。
「さて、今後どうするか考えないとね」
「そういや…一つだけ聞いていいっスかね」
「聞かないでくれるか? 大よそ想像はついてるけどね。それは雷竜に聞いてきな」
ぐは…どうあっても俺に電気ビリビリ感電させたいらしいな。 感電で済めばいいけどな!!
「それよりも、中々どうしてソイツの力使えたじゃないか」
「あ、いや。これあの時の半分らしいっス」
「あの時の半分でアレかい。…全力出せたらどうなるんだいアンタ一体」
「神を軽く食い散らかしそうっスね!」
「ま、精々鍛えてやるかねぇ」
まだやる気かよ!!!! つか全員本当に静かだなおい! 黙祷にしても長すぎる。
いい加減痺れてきた俺。
「赤竜が太陽と共に去るってのも…良い死に様だねぇ」
なんだ? 何か失礼な事いってる様に思えたが、何か羨ましがってないか?
誰か無残な死に方でもした様な言い方にも聞こえるぞ。…まぁ、なにはともあれ街の復興と雷竜か。
雷竜は避けたいんだけどなぁ。 絶対髪の毛が凄い事になる気がする。
第一幕の終了となりました。 ここまで読んでいただいてありがとう御座います。
いくつか不明な部分。
未消化がありますが、それは第二幕の展開の種になっております。
第一幕では、キャラ設定・アイテム等。
そして、何より主人公の精神的・肉体的な成長。他の仲間と同等付近になるまで・・・ですが。 ですのでまだ馬鹿さや頼りなさが、第二幕でも随所で出てきます。
同時に頼り甲斐も出てきますが。 基本的に一般人であり、単体では何の変哲も無い人間である事にかわりありません。 それを知識で補う形となります。
そして同時に、他キャラクターの成長もあります。リセルが一番如実に出てましたが、第二幕ではシアン・リカルド・メディ・ガット・アリセア。そしてまだ出てきていない最後の一組。それぞれが過去の力。封印するしか方法の無かった神を倒す為の進化を遂げていきます。そして主軸の明確化。封じられていた神に抱いた疑問の答え。
お気づきになられた方も多いでしょうが。ダーウィンの進化論。
それにちょっと神話・ちょいエログロ付き戦記を混ぜ、ファンタジー構成されたストーリーとなります。
理屈臭い部分が多々見うけられますが、作者の癖の様です。
では、第一幕の終了。そして次回から第二幕の開始となります。
次回、第二十話 「彼方と此方」 第二幕となります。