第十五話「イグリス防衛戦Ⅱ リンカーフェイズ・アナザー」
十五話目の投稿となります。 どんどんとフラグの回収などなどで頭がこんがらがってまいりました。
同時に次のイベントへの成立と本筋の開始。
一日の本数が減ってきそうです。
イド…アリス。私はお前達に何も残せてやれない。 そう思っていた。
いや…レガートには残せるモノが無かった…か。
そして、残せるモノがまさか、敵国にあるとは予想すらしていなかった。
あの若さで自分の形はどうあれ、意思を強く持ち。そしてその意思を支える強さをも育て上げる国か。
レガートでは考えられない事だ。ただ決められた事をこなす。
それ故に強さの水準も低い。ただ手駒の数を増やして作る事を目的とした機関体系。
言うなれば、レガートは質より量。イグルスは量より質…何より人間性を失わない。
ドール…名すら与えられていない少女の方を見る。
「ドール。貴様はどうだ、私が憎いか?レガートが憎いか?」
ドールは何も言わず、表情も変えず私の方を見ている。
その少女に私は引き続き語る。
「…感情すら放棄させられるまでに至ったレガート。
イグリスをじかに見て、私はこれが本当に正しいのか疑問になった。
ドール、私はここで死ぬ。だが貴様は生き残るが廃棄されるだろう。
既に実験段階は進み、別のドールが作られている。
今回の実験で貴様はもう用済みなのだ。…私もな」
その言葉にやはり何も答えず。ただ私を見ている。
「貴様と出会って数年。ある程度は娘の様に扱ってきたつもりだったが
…やはり感情は育たなかったか…残念だ」
私はドールの肩を優しく抱き、こう言った。
「私は死ぬ。だが貴様は生き残る。そして…貴様はあの者達と共に歩け。
レガートに戻っても何も無い。だが此処には確かに在る。
いずれ貴様のその暗い闇の様な目に、光が戻るだろう」
私の独り言とドールを見ていたケルベロスが、口を開いた。
「長い付き合いであった。中々に楽しかったぞクラド。
どうやらあの相手、俺の手には負えない様だ。
人の姿はしているが、別の生物の魂を感じる」
口を開いたケルベロスを見て、不思議そうに私は答えた。
「別の生物…。魔族か?」
それに首を振るケルベロス。
「いや、もっと巨大な何か…神でも無く・・・判らないが、俺ではまるで歯が立たないだろう。それは確実だ」
「…貴様を持ってそれを言わせるか」
私はケルベロスからドールに視線をを向ける。ケルベロスも視線を移し、右の前足を出す。
「ドール、やってくれ」
そして、私も右腕を差し出した。
表情も変えずドールは小さく口を開く。
「…やくそく・・・」
私は驚き目を丸くした。
「貴様…自我が?」
「あるく…いぐりす・・・」
長い事、感情を育て様として、レガートの目を盗んでは話しかけてはいた。それも成らずと思っていた…。
どうやらガットという少年の烈火の様な感情が切欠になったのか。どちらにせよ。思い残す事は無い。
「ああ、その通りだ。彼等を守ってやってくれ。貴様も異才を持つ優秀な魔人だ
さぁ、やってくれ」
「クラドよ、お前との数年…非常に痛快であった」
「…しんぱくどうき…こんぱくぎゃくてんれんけつかいし・・・・・・
めいんを…けるべろすに・・・りんかーふぇいず…あなざー…」
「おいおい…まじかよ」
「だから…みたくなかったのオーミ…」
「何度見ても不愉快ですわ」
「確かに」
「ほう…面白い事をするな。あの様な使い方があったのか…ワシは初めて見た」
「力は強いけれどぉ…リンカーが戻れないのよねぇ…」
「自分の肉体を、質量の違う全く別の生物に強制的に変化させからねっ!
生きたまま体内をこねくり回される様なものよねっ」
うげ…いまいちピンとこなかったが…アレは。目に優しく無い。
既にリンカーフェイズした男が、更に何かに内側から変異しているのか、体の至る所が隆起したりこう…煮沸してる様な。
余程苦しいのか、顔が苦悶とか苦痛とかそういったレベルで表現できるモノではなくなっている。
口や尻からは、胃や腸にある内容物が、
まるで歯磨き粉の底に残ったチューブを、絞りだすかの様に垂れでている。最早見るに耐えない。
「目、つぶっていいっスか? 吐きそうっス」
「オオミ貴方ね。次の本隊がこっちにきたら、こんなのばっかですわよ?」
「そうです。なるべく相手側も避ける様ですが、押され気味になると…」
「うぅ…」
メディは既に目をつぶっている。 ずるいぞ!!! 俺もこんなん見たくもないわ!!!
「うつくしいわっ!命を代償に力を得ようとする姿っそそるわぁぁあああっ!!!!」
お前は黙れオーマ。
「ボウヤ…? ちゃんと見ておかないとぉ…これから大変よぉ?」
「う…うス!」
見たくも無い敵の変異に再び視線を戻す。
本体が耐え切れなくなったのか、四つんばいになったぞ。相変わらず煮沸した様に体の至る所が隆起している。
っ…頭が三つに割れ・・・た? 遠くて助かったが、
中身っつーか脳味噌っぽいのが、垂れ出て…つかどんな細胞分裂速度と再生速度だよ。
納豆が糸を引く様に脳味噌が、餅の如く伸びて切れ、三つに割れた頭の中にそれぞれズルリと戻っていく。
足元には大量の血液、体も・・・というか血の海といえば早いのか。血達磨と言えば早いのか。
「良くアレで死なないっスね」
「もう、死んでるわよ」
「オオミさん。リンカーは既に絶命していますよ。あの時点で痛覚によるショック死をしています」
「いや、それだと。戦えなくねっスか?」
「お馬鹿」
「簡潔に申し上げますと。リンカーフェイズでは変異する時の基盤を繋ぐ者が決めるのです。
基本的に質量問題もありますので、人間をベースにしないといけません。
ですから、能力にある程度制限はつきます」
「つまり…基盤を人間じゃなくて、転…あいや、魔の部分にしたってことっスか?あれは。」
「そうですわよ。魔の質次第ですけれど質量的にも無理だから、常に再生能力に全て回して体を全て作り変えるのですわ」
成る程。再生能力を使って全く別の生物に強制的に変化させるってことか。 たまったもんじゃないな。
{うん…そして二度と人間の姿に戻れないし…死んでしまうし」
「だから私達の所では禁じ手とされていますわ。まぁ…若干一組み。普通に使って戻るのいますけれどね」
いるのかよ! ・・・ああ、質量的な問題か。質量が人間に近ければ痛みはあるけれど、耐えられれば生きて戻れると。
・・・まだ化物みたいなのこの学園にいるのかよ。どんだけだよ。
再び俺は視線を敵の方に戻す。
今度は、腹部の内側から肋骨がまるでハサミを開いた様に・・・と言えばいいのか。
それぞれが身を引き裂く様に血の糸を引いて出てきた。 同時に真っ赤に滴る内臓が…こいつも煮沸した様に動いている。
ここからだと、側面しか見えないが、確かに腹部がそう開いている。中には必要ない内臓があるのか?
ボチャリと血の海となった地面に落ちた。顔の方は既に形成が成されたのか。既に終了している様だが…。
犬っぽい顔三つ…? 四つんばい・・・。
「ケルベロスっスかねアレ」
「オオミ貴方、本当に妙な所だけ知ってるわね。シアンさんも言ってましたけれど」
「そうですね。赤竜サザの悩みも解消して差し上げた様ですし…」
「異界にも似たような生物や物が存在し、オオミはその知識を得ている。それだけだ」
ナイスフォローサザ。また長々と言わなくちゃならんのかと思ったぜ!
「…成る程そういえばそうですわね」
「確かにそうですね…」
「けどっスね。シアンさんでもケルベロスは…厄介過ぎるんじゃないっスか?
地獄の番犬ケルベロス。火は吐くわ獰猛だわ無茶苦茶再生能力高いわ強いわで」
「地獄ってなんですの?」
「どこかの地域の名称でしょうかね」
「ああ、牢獄みたいなもんスよ」
「貴方の世界…牢獄の番人がアレですの!?」
「どんな世界なのですか…」
「中々に面白い世界の様だな」
いや、いません!普通にいないから!居たら大変だろ!!例えが悪かったか!まぁいい。
「つかそれよりもっスよ?シアンさん 大丈夫なんスか?」
「心配する必要無いですわ。それよりもほら、そこの二人みたいに集中して貴方も見ておきなさいな。
見る事も経験の内ですわよ!」
ん?ああそいや、さっき蹴り飛ばされてきた二人。
良く見ると既にリンカーフェイズして…トカゲ?いや羽がはえてるな。
鱗もあるし爬虫類…でも翼? …俺は悩んで足元に視線を移す。
…ああ、ドラゴンか何かか。つか何気に凄いモンを輪廻から引っ張り出してきてるな。
「なんだテメェ! ・・・は!さては俺様のこのワイバーンの姿に見惚れているな!?
見たまえこの荘厳な雄姿! まさに俺様に相応しい姿だぜ!!」
俺に気が付いたのかいきなりコッチを見て喋りだした。成る程、ワイバーンなのか。
何か、すげぇこう。何。子供の頃にヒーローごっこしたのを思い出したぞ。
それを実際変身出来たとしたら、子供はこうなった。そんな感じだ。
「また馬鹿な事いって! ほらさっさと会長の方みなよ!」
お、相方の方か?既に小さくなってる。緑髪のショート。ボーイッシュな感じのする女の子だ。
中々気が強そうな印象。 と、リセルの視線がさっきから痛いので敵の方に視線を戻す。
お~殆ど形成が済んでいるのか、完全にケルベロスになってやがる。姿はゲームに出てくるのとかわらんな。
黒の毛並みに頭と首が三つ、体は一つ。足はよっ・・・あれ?6つ!?4つじゃないのか。
スレイプニルみたいなんだなコッチのは。
そいつが、既に形成を終えたのか、コッチを見ている。 不味いんじゃないか?
明らかにコッチを襲いますって目で見てるぞあれは!
ほら…ほらほら、こっち見て、後ろ足と、なんて言えばいい?真ん中足?の四本を屈めて跳躍しようとしてる。
つか姐御どうしたよ!? さっき影に飲まれたまんまで、姿がどこにもいないじゃないか!!
そういうと、さっきのヒーローごっこ気分のお子様が立ち上がり、ケルベロスを指差して叫びだした。
「テメェは既に後10秒の命だ!!!!!!!!!」
「もう馬鹿!ガットがやるんじゃないから黙ってなよ!!」
…10秒? あれを10秒で倒すってのか? 冗談だろ。
つかそれよりも、ほら! ジャンプしてこっちに…ってうお!?
地面からケルベロスがジャンプした瞬間、ケルベロスの影が小さくなるのでは無く、
伸びてケルベロスを捕まえて地面つか影に引きずり込んだ!?
「終わりましたわね」
「そうですね。10秒後には死骸が飛び出てきますよ」
何がどうなのかさっぱり判らん。
「あの…全然意味がわからんのスけど」
「あのねオーミ。 ゼメキスさんの魔がシャドウストーカーっていってね。
影の中に居る魔なの」
「ですわね。要は影の中にいるから、普通に攻撃は無理なんですわよ?」
「そして、ゼメキス君単体には攻撃力はありません。本来は監視や偵察に特化した魔ですから」
「うん。その攻撃力の無さを、シアン義姉さんが補ってるの」
・・・。
「つまり、相手は一切攻撃出来ない。けどシアンさん達だけ一方的に攻撃出来る。という事でいいんスか?」
「影に引き釣り込まれると、相手は身動きすらとれませんわよ?」
「視界も無くなりますね?」
何かお前等やられた様な口ぶりだな。
「リセル…様とリカルドまさか、やられた事あるんスか?」
「ありますわよ?戦闘訓練で、全く歯が立ちませんわ。 見えない触れない動けない。とどめに音も聞こえないですわね」
「ええ、その中で動けるのはシャドウストーカーと繋がっている会長だけ」
ん?何か…まさか。
「そして、小さくなってもシアンさんはシアンさんですわよ? 相手が絶命するまで殴り倒しますわ」
「私達はそこまでではありませんでしたけどね・・・当然ですが。」
「反則だろそれ!!!」
「オーミ、だから皆反則だっていってるじゃない」
「そうですわ。だから反則なんですわよ?」
「当らないですからね相手の攻撃。」
「中々恐ろしい者を秘めているな。あの娘と少年」
「…でもねぇ? リセルもリセルで…ねぇ?」
「そうよっ!ワタシ達だってとっても美しくつよいのよっ!!」
ワタシ達? そいやリセルもリセルで天才だったな。…そいやメディの異才。
深層に深く潜るという事では無かったんだよな。セアドの話しから察する所。
相当過去の前世、現世を繋ぐ力があるって事だろ?
才能が並みだと、比較的過去には遡れない。 メディは神話に近い所まで遡る。
その読みが正しければ…扱えるかもしれないな。俺にも。
「どうしたんですの?オオミ戦闘中に意識を逸らすのは自殺行為ですわよ?」
「ん?あ、すみませんっス」
「それにしても、遅いですね。もう10秒経っているのですが」
「へ?いや10秒はあの子の見栄とかそんなんじゃ?」
「テンカウント。どんな相手も10秒で倒してきたのですよ会長は」
雷竜ヴァランの事は知らないのか。まぁ言ってないってことは言わない方がいいのか。
「成る程。で、10秒以内にカタが着かないのがおかしいと」
「ですわね。余程相手が耐久力あるとしかおもえませんわ」
「あ・・・でてきた!」
うほ!メディが身を乗り出して、出てきた所をみている。
うげ…六本の足がそれぞれ別の方向に普通曲がらない角度で曲がってたり、
首の数が2つで一個はリンカーフェイズを既に解いてる姐御の左手に、血を垂れ流し、長い舌をベロリとだしている。
ひでぇな。腹も腹で何か腸っぽいのが見えてる気がするが、ここからだと確認しにくい。
てかどんな攻撃したんだよ。何をしたら素手であんなデカい奴絶命させられるんだよ。
姐御も姐御で、血を相当被ってるのか、白い学生服が真紅に染まっている。
一瞬どことなく悲しそうな表情をしている様に見えたが…気のせいか。
にしても、なんでゼメキスさんが横で倒れてるんだ?
「なぁ、敵が倒れたのは判るが、なんでゼメキスさん倒れてるんスか?」
「ああ、影の中では呼吸も出来ないからですわ」
「会長はその中で無呼吸で戦いますからねぇ」
「人間じゃないだろもうそれ」
「だからこその10秒ですわね」
「ですね。ゼメキスさんが10秒しか持たないのですよ」
「うんうん」
…成る程。ただ格好つけて10秒以内に倒すじゃなくて。
リンカー自体が10秒以上持たないという事か。そりゃ多対一には向いてない筈だ。
まて、つことは何か? この後の敵さん本隊、あの鬼神抜きで凌ぐしかないってのか?
大丈夫なのか…?
「もうっ。後の事を心配してるわね!?」
聞きたくも無いゴリトークが耳元で…。
「このワタシ達を忘れてはこまるわよっ!? リセルもいるしね!」
「そうねぇ…たまに運動しないとスタイル崩れちゃうし…」
「おや、では久しぶりにお願い出来ますか?ディエラさんに、美しいオーマさん」
リカルドお前!よくそんな化物にそんな心にも無い事スラスラいえるな!!
「う~ん…ちょっと遊んでからぁ…状況次第かしらねぇ」
「まっ!美しいだなんてっ! 可愛いわねっ」
うげ、リカルドの奴、オーマに抱きつかれても眉一つ動かさず、いつものスマイルで返してやがる。
「ありがとうございます。 然し美しいオーマさん。残念ですが、今は遊んでいる暇はありせんので…」
「おっと!そうね? 相変わらず素敵な男の子ねもうっ!」
素敵というかすげぇというか。 何事にも動じない奴だな。
生理的に受け付けなくないか?その容姿は。
「そろそろ良い様だな。降りるぞ」
おっと、言うや否や、そのまま地面に爆風を撒き散らしつつ降り立ったサザ。
そして一番に飛んでいったのは、あの子供二人。
「師匠ーっ!10秒以上かかるってそこまで強かったんだな!」
「ん?ああ…まぁね。 それよりアンタ。本当にレガートにいくのかい?」
お? 待て、敵国だろ? そんな目に見えた裏切り行為許される筈が。
「おう!行って俺様があのオッサンの子供とレガートを俺様色に変えてやるんだぜ!」
「はぁ…アンタ達が子供だから、アイツも本来の役目を果たせなかったのかねぇ」
「あんだよ! 俺様が強過ぎたから役目果たせなかったんだぜ!!」
「バカタレ。アイツが本気だしたらアンタは簡単にやられてたよ」
うん?敵国にも…まぁそうだわな。敵国だからといってそれが全て絶対悪なんて事は無いしな。
あの敵は察する所、自国を憂い。そして残した息子ともどもこの子達に託したってことか?
で、それをアイツが実行しようとしてると。無理だろ。人を平気で捨て駒に使う様な連中が上にいる国で。
ん?なんだ? 姐御がこっちみたぞ!?
「おーし アンタ達もちょっときな! 指示するよ!」
「判りましたわ!」
「承知致しました!」
「あ、はい!」
「いってらっしゃいね…」
「がんばるのよっ!」
「う うス!」
俺達はさっさとサザから降りて、姐御の方へと行った。来たのを確認したのか、手際よく指示を出す。
「じゃ、リセル君リカルド君は、東を。
ガット!アンタもアリセア君と西の守りにつきな! アタシが許す派手に暴れてきな」
「まじか師匠!? 師匠公認の戦闘解禁だぜ! 派手に壊してやるぜぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「敵を倒すのよ馬鹿っ!! 周りの物壊してどうするのよ!」
その通りだ。何かこうなんつーか、登場する時にわざわざ火薬使って背景爆発させたがるタイプだな。
「ああ、あんまり壊したら承知しないよ。ガットの方には援護に向かわせるから。
リセル君達は魔族つれていきな」
「判りましたわ。でもメディとオオミはどう致しますの?」
「ああ、アタシが面倒見てやるから一番数の多い北を守る」
「会長?大丈夫ですか? オオミさんはまだ…」
「もう大丈夫さ。精霊に会ったんだ。本当のリンカーフェイズが出来る筈だ」
ん?輪廻転生を聞いたからか? いやまだ判ってないんスがあんまり。
「本当の…リンカーフェイズって何? シアン義姉さん」
「そうですわよ。理解出来ませんわ」
「具体的にどのようなものでしょう会長」
「俺自身もイマイチ判らないっスし。自信無いんスけど!」
「アンタ達は例え判ってても無理さ。 それが可能なのはメディの異才あるから故にだよ」
「私…の?」
「見たいですわね・・・」
「同感です。メディさんの力は深層より更に深い部分。そこへ潜る力だと聞いていましたが」
「当らずとも遠からずってとこだね。まぁ、さっさと片付けて北へくりゃいいさ」
「判りましたわ」
「サザ!アンタはここにいてくれ。この付近、南側は敵がいなかったからね。老体に鞭を打つのはもう十分だ」
「そうか。ではここで休ませて貰おう」
いや、サザいた方が良いんじゃね? 老いてもドラゴンだろ。
…ん? 誰だズボンの裾を引っ張るのは。
って、このダークグレーの光の無い目。茶色のベリーショートから存在感のあるオデコ。どこかで…。
て、あの時の子がなんでここに!?
「お。アンタがドールの試作か」
「ドールってなんスか?」
皆知らないのか、姐御に質問する様に視線を送る。
「ああ、アンタ達が知らないのも無理無いね。
早い話、レガートが意図的に天才では無く、異才を生み出す研究をしている。その試作1番目。いや…」
何かこの子の袖をまくりだしたぞ? まだまだ凹凸もできてない様なプニっとした腕が露になる。
そこに…ひでぇな。焼印か?02と焼きこまれている。
「どうやら試作の2番目の実験体の様だね」
…人体実験かよ。いい気分はしないな。
「じゃあ、その子がメディと同じ異才を持っている子なのですの?」
「同じとは限らないさ。全く別種の才を持っているかもしれないね。まぁ、そこは判らない」
「つかシアンさん? 何でそんな詳しいんスか?色々と。
それに、ケルベロスの方のは解けてない様に見えるんスけど」」
「あん? 既に解けてる。というかケルベロスになった。そのまま姿のまま死ぬだけさ。
魔人自体は無傷で戻れるけどね。 で・・・さっきのアタシのリンカーフェイズ見てわからないかい?」
わからねぇよ!!
影に潜れるってだけだろ?
「会長は…というよりもゼメキスさんですね。影から影を瞬間的に移動可能なのですよ」
「そういうことだ」
…ゼメキスさんは戦闘能力皆無な分、偵察やらに特化している。さっき言ってたな。成る程情報量も合点がいく。
「さて、あんまり長話してる暇ももう無いね。セオ様にはガットの方に援護を全て回す様にいっておいたから」
「俺様一人で十分だぜ!!!」
「もう馬鹿!さっきのオジサンみたいになっちゃうかも知れないリンカーが沢山くるってことなのよ!!」
「それでも俺様が勝つ!!!!」
「ほんっっっとに馬鹿!!!」
すげぇ自信。俺もちょっと見習わないといけないかも知れないと思った。
「じゃあ、ガットそっちはアンタ達に任せるから頼んだよ」
「まかせとけ!ついにきたぜ!俺様が先頭の時が!!!!」
「先走るだけじゃない馬鹿!!!」
何か漫才してるよこの二人。
まぁ、姐御が任せてる所をみると強いんだろうな。うん。そしてこんな子が任されてるのに、
任されない主人公って一体なんだよ。
それにしても、意識それたけど、さっきからずっと裾を掴んでるこの子。
「シアンさんこの子どうするんスか? ドールとかなんとか」
「ああ、取り合えず保護だね。子供だし。…サザ!ちょっと面倒見ててくれないか?」
「…子守か。 まぁ良かろう」
「悪いね!」
ドラゴンに子守させるなよ…。いきなり名前も知らないドールと呼ばれた子。
その子を猫でも掴む様に首の襟を掴んで持ち上げた姐御。
力なくそのまま無表情でブラーンとしているこの子。…感情無いのか? だがジッと俺の方を見てる。
なんだよ。何か言いたいなら言えよ。
「何か、その子、俺にいいたそうじゃないっスか?」
「さぁね。だがそんな暇はないよ。もうじき隠れてる奴等来るからね」
ああ、まぁそりゃそうか。 そのまま姐御はその子をまるで荷物の様に放り上げた。
おいおい。怪我する・・・サザの背に乗っているオーマがキャッチしたので問題無いか。
「あらっ。これは可愛らしいっ! たべちゃいたいわぁんっ!!」
お前は結局可愛ければ男でも女でも関係無いのか!!
オーマのアンバランスな顔を摺り寄せられて、顔が斜めに上下しつつも無表情でコッチを見ている女の子。
あれだけキモいのに全く顔色も変えない。本当に感情無いのか? まぁいいか。
「おーし! じゃあ各自散開して持ち場につきな!!!」
「はいですわ! いきますわよ?リカルド!」
「承知致しました」
「心拍同期…解析開始!!」
お~、手馴れてるから手際いいなこの二人。 サッと変わってしまう。本当に数秒だ。
そして、そのままサザの上にいるディエラさんとオーマさんを連れて持ち場に行ってしまった。
行動早いな! 俺は北側といってたが、どう見ても時間かかるぞ?この街のデカさ。現在地は南側。
「おーし!俺様もいくぜ!!」
「ちゃんと他の先輩達と連携とりなさいよ馬鹿!!」
相変わらずの勢いで飛んでいったあの子供二人。 そいや何年なんだ?…リセルとか先輩と呼んでた所を見ると
一年か。 一年で…持ち場任されるのか?
「なぁ、シアンさん」
「なんだい」
「ここから北側って…俺達だと」
「リンカーフェイズすればすぐじゃないか。アンタ精霊に何聞いたんだい?
生まれ変わりの話は聞いてるだろう?」
「ああ、輪廻転生の話っスか」
「オーミ、そのリンネテンショウってなに?」
「またアンタん所の言葉かい。まぁ同じなのしらないけどね。
とっとと潜ってきな!」
「いやだから…」
「バカタレ!生前の中のどれか。それは選べるんだよ。
勿論、それが可能なのは遡れる度合いによるのさ。その度合いが極端に深い。それがメディ。
それはアンタも気が付いてるだろう?」
「・・・シアン義姉さん・・・?」
メディが話についてきてないな。まぁそりゃ輪廻転生なんてモン即時理解しろってのもな。
首を傾けて必死で考えてるメディ。 時間が相当無いのか苛立っている姐御。
「魔人の少女。生物は死ぬと次の生物へと生まれ変わる。そしてそれは繰り返し行われていく。
主には、誰よりも深く遠くの者と、今生きている者を繋げる力がある。
言い返せば、その距離に存在する生前の者を数多く具現化させられるのだ。
その中で、現状に最も相応しい者をオオミと繋げてやるのだ」
うお!サザは流石だ。明瞭簡潔に答えやがった。俺も意味不明だった部分一発で!
「へぇ、流石に知を選んだ竜だけあるね」
「あ、判りました。・・・そうだったんだ。私の力。
ただ一番深い所にいけば良いものだと…」
「神々の時代にまで遡る事が出来る力。そんなものをまともに扱える筈も無い。
その深奥に居る者とは暫く繋げぬ事だ」
「あ…はい」
「何か今度は確実に成功しそうな気がしてきたっス!」
「当たり前だ! ここまで力の認識が出来て失敗したらぶん殴るよ!」
「勘弁してくださいっス!!!!」
よし、んじゃ早速いってみますか! 俺はメディの傍に駆け寄る。
メディも俺の胸に手を当ててきた。 大体は学んでおいたんでやり方は大丈夫。
コッチは結局何もしなくて良い。何もしなくて良いというか、あんまり心拍数上げないという方が正しい。
俺は目を閉じて…ん? 何かサザが呼び止めてきたぞ。
「オオミよ。力に振り回されるでないぞ。 そして力は使うのでは無く、知るものだと覚えておくと良い」
「う・・うス!」
「ま、それが理解出来たら苦労しないんだけどねぇ…アタシが。
と、ゼメキス君も頼んだよサザ!」
「判った」
「オーミ、いくよ~」
「ああいつでもいいぞ!」
「心拍同期…解析開始!」
「で、主は何者かね? 魔人の姿をし別の力を隠す娘よ」
「あん?何のことだい? アタシゃどうみても魔人だよ?」
「ワシの目は節穴では無い」
「はっ。こりゃ参ったね。まぁ、どうでもいいことさ」
「そうか…何者かは知らぬが、この国を守ろうとするあたり。
ここに何があるかも知っているのだな?」
「ああ、判ってるさ何もかもね」
「そうか。・・・食えぬ奴だ」
「食われたらたまったもんじゃないさ」
「・・・馬鹿を言う」
十五話最後まで読んでいただいてありがとう御座います。
ちょっとグロ要素がありましたが…15禁で抑えた…でしょうかね。
精神的な15禁も取り入れようかと思いましたが。それは展開で追々考えていく事にします。