第百十五話 「氷華雪原 Ⅳ」
「雪に成る程の熱源があの山中の下にあるってんだろ?」
「じゃな。 確かにあるにはあるが…」
んだよ! 取り合えずやるしかネェ。 天石使えば倒す事も出来るだろうが…。
穴が複数あるってことは、同時に出して組み合わせて使うって事だろ。
単体であの破壊力だ、複数同時に使ったら大事だぞ。 少なくともリーシャはそれを望んではいない。
コイツは破壊させる為に集めさせたと思うべきだ…フェンリルだけでも手に余るっつーのに。
周囲を見回しあの雪原のある山を探すと結構離れた所まで、飛ばされていた様だが。
空中を蹴り、後方に衝撃波を作り出しながら僅かな時間でそこに移動する。
「よっしゃ、こいつを…」
氷山目掛けて蹴りを幾度も見舞い衝撃波をぶち当てると、轟音と共に氷の雪崩が巻き起こり形が崩れていく。
が…。 でか過ぎる上に崩れるだけで無理っぽい!!
「当たり前じゃろう…崩す事は出来ても無くす事は出来ぬぞ?」
うーがーっ計算ミス!! ってうおっ!? また例の凍気が後方から沢山飛んできた!
空中を蹴り飛ばし、大きく回避して飛んできた先を見ると美形化してるオーマが表情変えずにコチラを見て
きて、右手だけこちらに向けている。
「アレになってから物理攻撃なくなったな…」
物理的な攻撃と防御が下がったのか? 特殊能力使うかわりに…然し触るに触れんしなぁ。
だー…八方塞りかよ! 遠慮なく飛んでくる凍気をかわしつつ考えるが…どうする。
「スヴィア…? 力の使い方は一つじゃないわよ…?
リセルは対神空間圧縮魔法…風と冷気で作り上げたけど…」
んだ? 急に横に現れたディエラが…。 そいやリセルはディエラとオーマの二人の力借りてたよな。
確か風で相手捕縛して、その後ヴォーテクス起して…温度差か。
イストは使った所を見て無いが、風だけでやれる…成る程。 形は式次第で多少異なるが原理的には似た様な
モノになるってか。 然しそれが何か…。
「どういう事だよ!?」
「鈍い子ねぇ…? 無風活殺…ケルドを倒した時。 どうしたかしら…?」
…。 そう言う事か、無風活殺はまだ基礎は学んだが自分で式を組み上げていないと。
「よく考えてね…? 風を捕らえる事がどういう事か…」
凍気をかわしつつ、使い方を色々と考えてみたが…弱点は知ってるんだが…ん?
弱点。 イグナに教えて貰った時に弱点をそのまま攻撃に使ったよな。 これはいけるか?
「いいのか? 相方殺す事になるかもしれないが…」
「アイギスリース…甘く見たらだめよ…?」
視線はオーマから離さず、それに頷くと、大きく空中を蹴り一速にオーマとの間合いを詰める。
そのままの勢いで空中を蹴りオーマより下に衝撃波を打ち込むと、その瞬間に後方を蹴り、
衝撃波の先に回りこむ。そしてその衝撃波を腕で捕らえて空へ向けて力の限り振り払った。
「おるぁっ!!!!」
「なんじゃそれは…」
衝撃波ならそのまま捕まえられると思ったら巧くいった様だ。 衝撃波の破壊力が軌道を変え
爪の様に空を裂きながらオーマの体に大きな傷を付ける。 よしダメージあっただろ!
血の量もはんぱねぇ! …ん?
「ようやく気付いたわね?」
なんだ、姿が元に戻ったが…。 終わりか? 一応これで勝ったのか!?
「勝ちってことでいいのか?」
「主は力の使わせ方を知っておるが、自分の力の使い方。
それを全く知らぬからじゃろな」
成る程…確かにそいやそうだ。 とことん鍛えるつもりかよ。 つかアレ喰らって平気なのかよ…。
空に浮かんでいる分厚い雲に爪で裂かれた様に青空が覗いてるが…。
その威力ってかいままで拡散させて吹き飛ばすしかなかったからな。それを圧縮させたって所か。
空を呆然と仰ぎながらソレを見ていると、二人が近寄ってきた。
戦意は無い様なんで気を抜いても平気だろう。
「中々強くなったわね!?」
「最初に会った時は…コボルドに追い掛け回されてたのにねぇ…?」
言うな! 普通の一般人がモンスター倒せるワケねぇだろが!!
ってお? ディエラとオーマに肩を触れられると、一瞬視界が暗くなり…あつっ!
結構離れた所にある火山地帯の方へと転移したみたいだ。 周囲てか眼下に溶岩というか、
高温の泥が煮え滾っている。 急に寒い所から熱い所にくると余計に暑く感じるな。
「確認かと思ったら…そういう意味かよ」
「そうよ…力も考え方次第で姿はいくらでも変わる…」
成る程ねぇ…。無風活殺は基本的に防御の力。 使い方次第では攻撃型にも転じるってことか。
そいや風の精霊が防御の力で、ファラトリエルを倒した。 …そう言う事か。
別の何かと組み合わせて攻撃の力にして倒した。 基礎だけしか知らなかったワケだ俺は。
「成る程。よくわかった…が少し天石勿体無いな。 折角の魔精具が…」
「生物がより強い力を求めるのは…当然よ? でもその先にあるのは…」
…。これ生物なのか? …寄生型…ああ確かに。
「それを欲するのは愚か者だけってか。
そして他の属性石でも代用は効くと? 威力は下がるが…」
「それは…当然」
まぁ、そりゃそうだわな。 イグナも二種類使い分けてたしな…だが天石は過ぎた力。
纏めて使えばヘタすりゃ何か副作用でもあるかも知れない。 確証は無いが。
「わかった。 で、アンタ達はどうするんだ?」
それを聞くと、俺達をノヴィアに送った後にイグリスに戻ると言う。 …ありがたい。
正直もう頭が持たない…頭痛と眩暈が酷過ぎる。
「頼む。 俺も俺で余り時間が無さそうだ」
そう言うと、ディエラの肩に掴まると、視界が暗くなる。再び視界が広がると眼下に海が広がっている。
流石に長距離らしく数回に分けて行く必要がある様だが…便利だなおい。
少し時間が掛かりそうなので、頭痛しながらも考える。
何でまだ俺を鍛える様な事を…いやあれば助かるが。 やっぱまだリーシャは隠してるな。
ソレに対しては確信した、まだ何かを忍ばせている。
後は…封印が解かれた後の事件の発生原因。一つがリーシャが原因とすると…、
これは来世で確認が取れるな、イグリスで情報集めれば確証が得られるだろ。
て、お? 早いな。転移欲しいわ! 便利過ぎる…。 気が付けば眼下に懐かしい荒野が広がっていた。
遠くで動物が走って、あのデカワニの居た川も見える。 少し変わっているのは大きな水源を得たノヴィア
が結構な植物に囲まれている事だ。 かなり豊かな暮らしになった様で木製の小屋も見受けられる。
再び視界が暗くなり…地面に降りたんだろう。 目の前でヴァランとクァが居る。
「きたナ! その二人と一緒だと無風活殺の応用も覚えたようだナ!」
「始めから教えろアホ鳥!」
横になっているヴァランの頭の上に、乗って翼をバタつかせて怒っているが無視!
それよりも…。
「ヴァランの影にでも隠れてんだろ? セレンさん…いやリセルのがいいのか?」
「あらいやですわ。 …見抜かれてましたわね」
何か懐かしい喋り方だな。 ヴァランの後ろに隠れていたんだろうセレンさんが横から顔を出してきた。
照れくさいのか知らんが覗き込んでいる。 何故照れくさがるのか。
「ふぅ…気が抜けた。 んじゃオーマ。 最後の天石くれね?」
「いいわよっ!」
隣にいたオーマが、俺に残りの天石を手渡す。 火の様に揺らいでいる形…火だな。
使ってみたいがダメだ。 天石の中でも一番攻撃的なものだろう。だからこそ最後に手渡された。
水・風・土・火。 この世界で属性石の攻撃力の低い順だろう多分。 それも教える為と思っていいか。
左腕に埋め込んだ天石三つを取り出し、軽く地面を蹴り空ににあがり被害の及ばない高度でそれを
更に上空に放り投げて力の限り蹴りを打ち込み、粉々に粉砕する。 …少々惜しい気もするが…。
世界を破壊する原因の一つだとするなら、そんなアホなモンはいらねぇ。
再び地面に降り立ち、クァ達にこれでいいんだろ。と言うと全員が頷いた。
「然し…勿体無いのう…古代の遺産…」
「遺産は遺産だが…脅威になる様な遺産は要らんだろ」
納得したかのか、頷いたイスト。 ん? なんだセレンさんが歩み寄ってきて…。
「暫く見ない間に、随分と逞しくなりましたわね?」
「色々手の上で振り回されたからな!」
軽く笑うと、クァやヴァランも笑うが…真剣な顔つきになって尋ねてきた。この先はどうするのかと。
…そろそろ言うべきか。 その場に座り込んで俺がすべき事、二神を説得する方法。
この世界に必要不可欠なモノが存在していない事。 それを伝えた。
全員が驚いた顔をした所、聞いて無いのか。 まぁ、此処から先はリーシャのシナリオじゃないからな。
「貴方…本当にそれでいいんですの?」
「ああ、決めた事だ」
少し呆れた顔されたが…馬鹿だから出来る事だろうからな。 痛…そろそろ時間が無いな。
頭を抑えながらそろそろ限界が近いので残りのする事をさっさとしようと伝えると、
イストが俺の胸元に手を当ててくる。
「うむ。では輪廻の鎖を主に託す。 後は任せたのじゃ」
「ああ。 これで選手交代だ」
何か、よく判らないが胸元に熱いモノがこみ上げてくると同時に、いくつかの事が記憶に混じってくる。
多分輪廻の鎖の事だろう。 それを探ると…成る程、魂を縛る様な…で胸元に手を当ててるワケか。
「じゃ、コイツも持っていけ」
そう言うと、俺はイストの胸元に手を当てて、記憶を持って転生する力をイストに移した。
フェンリルはもうコイツに対して見向きもしない筈。 後は…ゆっくりとセアドと暮らせば良い。
勿論、罪と罰は消えない。 それを背負った上で…の話になるが。
「主…これはワシには」
「持っていかないと後悔するぞ」
首をかしげながら頷いたイストを見てセレンさんが隣によってきて、私も一緒に行くと。
だろうな。来世で必要になるからな。 それに今度は転生先を選定出来る。
フェンリルが押し込む力を持っている。 フェンリルが輪廻にいる理由。
引っ張りこみ、押し込む事は出来ても、自分は入れない。 生まれ変われないんだ。
全てが終わったら、俺がフェンリルを生まれ変わらせてやる必要がある。
その為に輪廻の鎖がいる。
「よし、じゃいくか。 じゃヴァラン・クァ・ディエラ・オーマ。
魂の抜けた遺体は手厚く弔ってくれよ?」
そう言うと、頷いた所を見ると分かっている様だな。輪廻に入るという事がどういう事か。
魂だけ、一時的な幽体離脱みたいなものなのだろう。 だからあんな空気も無い様な空間にいられると。
「じゃ、いきますわよ。 心拍同期…外部接続確認…
解析開始!!」
ま、楽に死ねていいわけだ。 俺達はリセルの現世を繋ぐ力で纏めて輪廻の中に。 …うぉおおっ!!
「なんじゃこりゃぁっ!?」
吹いた、膨大な量の前世の記憶が滝の様な勢いで現れて流れていく。 これが他者の前世も交えて
記憶を持ったまま過去に生まれ変わる力かよ。 それはまぁいい。
さて、俺は大声でフェンリルを呼ぶと、足元に広がっている暗闇からフェンリルがまた一瞬でかっ飛んできた。
相変わらず馬鹿げた速度。 瞬間移動に近いぞもうこれは。
フェンリルを見てまたイストが俺の後ろに隠れやがったが、フェンリルの前に押し出した。
「ほれ、お前はフェンリルに渡さなきゃならん。こりゃ約束だからな」
怯えながらも頷いて、フェンリルに向かって口を恐る恐る開く・・・が。
「す…すまなかっぷぎゅっ!」
…。 あまりの事に俺とセレンさん…いやリセルが呆然とした。 謝ろうとしたイストに目もくれず、
近場にあった人間の赤子…つか胎児の一歩手前だろうモノに前足で叩き込みやがった!!
「フェンリルお前! 空気読め! もうちょっとこう…オブラートに包んでこう」
「眼中に無いって感じですわね」
「我が憎んだのはロキだ。あの様な弱い生物では無い」
ダメだ、こいつもツンが強い。 何気にいいコンビじゃねぇかリセルと。そんな思いを視線でリセルに送ると
察したのか怒った顔で尋ねてきたが、肩をすくめて両手を開いた瞬間、顔を殴られた。
「いてぇなっ!」
「私はこんな不器用じゃありませんわ!」
俺の方を見て怒鳴り散らしてくるリセル。 何か懐かしいなこのやり取り。
そんな痴話喧嘩にも似た事をやっている俺達を見かねたのか、大きく一度吼えると、
俺にそれで良いのか? そう尋ねてきた。
「構わネェ。 俺は英雄なんてクサいモンは真っ平ごめんだからな」
「貴方らしいですわねぇ…。 まぁ、後は任せて好きになさいですわ」
んだよそりゃ。 まぁそれよりも、事件の方の種明かししたいんでさっさと俺は転生したいワケだ。
「じゃ、リセルも先に手ごろなイグリスの魔人に生まれ変わらせるぞ」
そう言うと、頷いたのを確認したリセルをイグリスで生まれる新しい命へと送り返した。
その後、俺はフェンリルの方を向いて、もう少し待っていてくれよと。
「分かった。 貴様が考え行う結末。 ゆっくりと見ているとしよう」
「あんまやりたくないんだがなぁ…仕方ない」
そして、俺も少し過去にあるシアンの子供の胎児を探し、そこへと入っていく。
最後に残した大仕事と、残った疑問を解消しないとスッキリしねぇ。
あの事件の事を調べるのにはシアンに一番近い人間に生まれ変わるのが一番だ。