第百二十四話 「氷華雪原 Ⅲ」
「流石美しいオーマさん! 戦い方も美しいですね!」
口が裂けても言いたくない言葉だが…。 俺は力の限りソレを大声で叫ぶと、付近の氷の瓦礫。
そこの影から当然ね!とか何かもうどうでもいい返事が聞こえてきた。
「そこかオラ!!」
全力で地面を左足で蹴り、その氷の瓦礫を隠れているオーマごと右腕でぶん殴ると、見事にヒット
したらしく、豪快に頭から遠くの亀裂の壁へと吹き飛び、ぶつかった衝撃で中央部分から氷が雪崩の様に
轟音と共に雪崩落ちてその周囲を埋めてしまった。
「どうだこんちくしょう!」
「卑怯じゃのう…」
うるせぇ! 戦いに卑怯もへったくれもあるか! 勝った方が正しいんだ! …アレなんか俺…まぁいいか。
吹き飛んでまだ埋まっている間に、イストに再生能力に全て回してもらいつつ、吹っ飛んだ左腕を回収して
傷口に押し付けて再生させながら右足を見ると、骨は再生終わった様で筋肉やら肉が纏わりついてきている。
あんまり見た目よろしくない再生能力…。 まぁ、回復魔法とかあったら実際こんなもんだろうと。
体力はユグドラシルの実があるから問題無いが…。
「みにくい…わっ!!!」
うお! 低い掛け声とともに、吹き飛ばした先にある氷の瓦礫を、
両手を空に広げて吹き飛ばして出てきやがった。 フェンリルの一撃喰らってまだ生きてるかよ。
どんだけタフなんだ…30%だぞ! 重力遮断かけてるとは言え、蛇神を上空彼方まで蹴り上げた威力より上
のソレを食らってまだピンピンしてやがるだと!? 過去の戦いってどんな化物いたんだよ…。
冷気の煙っぽいのが段々晴れてきて、オーマの顔がよく…うわー…一応ダメージはあるが。
額から血管浮きでまくって、そこから血が噴出し、鼻血までドバッと…視覚的破壊力三割増し。
「アナタ許さないわ…。よくも美しい戦いを汚したわね…」
ん? 何かブツブツ俯いていってるが…ってちょ! 地面を右手でぶん殴ったと思ったら、
クレパスが出来てこっちに走ってきやがる! 慌ててそれを左に避ける…がはっ!
避けた先にオーマが居て、顔をおもっきり蹴り飛ばされ、反対側にある壁に激突…してたまるかよ!
身を翻してその壁を左足で蹴り、その反動でそのままオーマに向かって…。
「あ! すっげぇ良い男!」
「え!? どこっどこなのよ!?」
顔を激しく左右に振って周りを探しているオーマに、渾身の右ストレートを打ち込みその背後の壁に
叩き付け、更にそのまま地面を蹴って吹っ飛ばした先にいるオーマの腹部に蹴りを見舞う。
その瞬間、衝撃波が波状に広がると同時に周囲の氷も根こそぎ吹き飛ばし、身を翻して着地する。
「じゃから主…卑怯じゃと」
すっげぇ呆れた顔で見られてるが仕方無い! 正攻法でやって勝てる相手じゃないんだよコイツ!!
次の行動を警戒して身構えつつフェンリルに40%まで引き上げて貰う。
どうする? そろそろか…いやもう一度怒らせておいた方がいいな。
「んもーうっ! 許さないわよっ!!!」
うっわー! 鼻血を滝の様に噴出して顔面血だらけのオーマが、
地面が爆発したかの様な勢いと共に出てきやがった。 …ダメだ直視できネェ!!!!
その瞬間こちらに真っ直ぐ殴りかかってきた…よし大分攻撃が直線的になったが…まだだ。
「あ! 裸のリカルド!!!!」
と、左を指差した瞬間オーマも反射的にそっちを向いてしまった。 そこを再び腹部目掛けてぶん殴る。
あたった瞬間衝撃波が波状に広がり、一瞬だが空間が歪んだ様にも思える破壊力。
それが周囲の氷も何もかも吹き飛ばしつつ、オーマを地面に叩きつける。
反撃を恐れて俺は一旦その場から離れ間合いを取り、無風活殺の無構えを取る。
「じゃから…」
イストが完全に呆れ果てていらっしゃるが…そんな余裕ネェよ! 余裕カマしたら死ぬっつーに!
つか魔法陣とか吹き飛ばすぐらいの破壊力がある一撃貰って、まだ死んでないとか…どんだけタフ。
「ぶちきれたわ…許さないわよーーーーーーーっ!!!」
うっわーダメージ無いのかよ! 元気に起き上がり両手を空に向けて魔力でも放出しやがったのか。
さっきの一撃で隆起した周囲の氷を根こそぎ吹き飛ばしやがった。 …が、これでいい!
激昂すればする程攻撃力はあがるっぽいが…攻撃が直線的になる。 …多分!!
吹き飛んできた氷塊を無風活殺で弾き・砕いて周囲を探る…そこか!
左側から襲ってきたオーマの右腕に絡んだ風を捕えて左で弾き返し、右足で地面を踏みつけ上半身を捻り
全体重を乗せた右をオーマの腹部に打ち込むと、体を大きくくの字に曲げて遠くの壁まで吹き飛び激突した。
その衝撃で壁の氷が砕けてオーマの上へと轟音と共に雪崩の様に落ちていく。
「これで…おわっただろ?」
「成る程のう…冷静さを奪ったのじゃな」
誰かさんの得意技だからな。 軽くイストに視線をやり再びオーマのいるだろう其処へと戻す。
さっきのは完全に手ごたえはあった…死んでるとは思えないが。それなりのダメージはあったはず。
「ふう…ちょっとはやるようね?」
え? いやまって冷静さ取り戻した上に…効いてネェだと!? 普通に氷の瓦礫を押しのけて立ち上がり
体に付いた氷やら取り払いやがった…。 倒せるのかコイツ…。
「どうしたの? 天石は使わないのかしら?」
冗談じゃねぇ、使ってたまるかよ! どうするこれ以上は…。
「じゃあ…ワタシも本気でいくわよ!?」
そう言うと、両手をまた空に掲げて魔力だろうそれを放出し、周囲の氷を吹き飛ばす。
それから巻き起こった激しい冷気の渦と、そこから空へと飛び出て空中で止まっているオーマ…オーマ?
「あの…ドナタデスカ?」
誰だよ!! 金髪のクルクルパーマにクロワッサンは分かるが…普通に美女になってるが!?
鋼色は変わらんがこう、リセルタイプの細身にいい具合にでた胸と尻。目は変わらないが…
顔もこう…ロシア系美人というか…。 どういう事だよ!!!
「この醜い姿にさせた事…後悔させてあげるわよ」
「いやまて! どう考えてもおかしいだろ!!」
何で自分のその芸術的とも言える容姿。それを毛嫌いする様な顔をして喋る!?
コイツの美的感覚どうなってんだよ! タフさも狂ってるが美的感覚も狂ってやがる!!!
「あれが氷極の姫君アイギスリースじゃの。
触れる物全てを凍らせて砕く絶対零度の魔力を使ってくるのじゃぞ」
待て! 俺物理攻撃しか出来ネェのに絶対零度とか触れたらダメとか勘弁してくれよ!!!
勝てる気しねぇっ…つか ふざけっ…ぶわーっ!!!
軽くオーマが右手を振り払うと、周囲の大気も何も凍らせて一直線に何か良くわからん不可視物質だろう
それが飛んできた。 触れたら確実にヤバい! 正面を大きく蹴り衝撃波でそれの軌道を大きくズラす。
その不可視物質だろう何かの軌道がズレ、付近の氷の壁にぶつかると…ぐはー氷がダイヤモンドダスト?
あれみたくに綺麗に砕け散りやがった。 …まてまてまて!!! むりむりむり!!!!
「まてーっ! どうやって勝てってんだよ! 弱点無さそうだぞありゃ!!」
「探せばあるじゃろ? 完全無欠なぞ存在せぬ」
探せといわれましてもね!? 流石に魔王…陳腐で使い古された呼び方だが…強い事に変わりはネェ!!
一度弱点を見抜くのに大きく地面を蹴り、氷を隆起させつつ空に逃げる。
…さむっ!! 氷の風というかもう…寒さがまるで槍の如く突き刺さってきやがる。
どう考えても弱点なんて無いだろコイツ!! しかも属性的にこの氷のフィールドだと攻撃力三割り増し
とかそんな感じじゃネェか!? ったく…。
「逃げるのは許さないわよ…」
更に右手を振りかざして例のダイヤモンドダスト化させる冷気というよりも凍気といえばいいのか、ソレを
放ってくるが、コイツは衝撃波でなんとなる!! ソレが飛んでくる方を大きく蹴り衝撃波で迎撃する。
それがぶつかった瞬間、そこが一瞬だけ時間が遅れたかの様にスローになり、互いの軌道が反れ俺の衝撃波
が地面の氷に衝突して周囲の亀裂の谷間を大きく埋めていく。 …どうするよ。
弱点って…一旦空中を蹴って逃げ…ぶわーっ! またアレ出してきやがった。
ひたすら空中を蹴り飛ばし衝撃波でそれを迎撃するが…キリがネェ!! 弱点弱点…。
男好き…ん~もう通じないだろうな。 何か何か…。
ぐあっ!? しまった考えてたら頭痛が酷くなって一瞬眩暈が…。 !?
「いでぇぇぇぇええっ!!」
「油断致すな!!」
がーっ! 左腕にあの凍気まともに喰らって左腕が砕け散りやがった。 洒落になってねぇ!!!
見た所アレだろ! 触れても絶対零度のバリアみたいなもので俺の方がダメージ喰らいそうだ。
どうする…こんな無茶苦茶な奴…。 …いやまてよ。
そうか、よしこいつでトドメだコレなら勝てる!! …多分。
「む? 弱点でも見つけたのかの?」
「ああ、多分こいつでなんとかなる!!」