第百二十三話 「氷華雪原 Ⅱ」
「やっぱアンタかよ…、だが…なんでアンタまでいるんだよ」
「帰りの時間考えてくれたのじゃないかの?」
…帰りの事も考えて動いて来た俺の予定。 それを木っ端微塵にしてくれた奴。
闇空の姫君、ヤミゾラなのかアンクウなのか知らんが…ディエラだ。 そして…
「んもうっ! 待ってたっわっよーっん!」
…。岩石という他無い輪郭に、潰れた鼻。博多明太子が如き真っ赤な唇。
それに見合わない人形の様な円らな瞳と長い睫。クルクルパーマの金髪に、クロワッサン!
鋼色した鋼の肉体に女物のビキニをつけた色男ならぬ男色のインキュバス。
「オーマ…お前がやっぱ…頭痛してきた」
安らぎは既に見つけていた。 それを教えたのはディエラかリーシャだろう、それがコイツ等が
セアドの森に居た理由。 同時にノヴィアから帰った時に情報を集めた時に聞いた事。
リセルがディエラに風空自在を教わった。 リカルドはセアドとオーマに鍛えられ、砕を習得した。
単純に個別にやっていた、そう思っていたが。こいつらもリーシャと関わりのある者な筈。
そんな単純なモノじゃないと、で…風魔王が二つに分かれた…物理的に分かれた理由が見つからんわけだ。
元々分かれていなかった。
とどめに凍らすのは確かに凍らすが…この容姿で相手がフリーズするだけだろ!!
そもそもどこが姫君!? どう見ても暴君だろ!! 言葉の暴力?違う! 視覚の暴力!!
「でも…ちゃんとここまで辿り着いたという事は…?」
「キッチリとリーシャちゃんの考えを知った様ね!?」
入った氷の家の中で、寒く無いのかコイツ等はほぼ全裸といっていい格好のソレで、氷の椅子に
座っていらっしゃる。 おかしいぞコイツ等! 物理的に色々おかしい所がありすぎるんだよ!
まぁ、それはいい。 取り合えず俺は脱力したのかその場に腰を下ろした。
「で、まさか典文の二大魔王二人と戦えと?」
流石に無茶だぞ…つかこんな氷山の中でマトモに戦えるかよ、生き埋めになるわ!!
いやだぞ何千年も先にアイスマンとかなんとかつけられて発見されるのは!!
…なんだよ。無駄に肉付きの良い芸術的にエロいボディをしたディエラが…。
ええい! 絡み付いてくんな! まぁ白熊だし、この体毛が邪魔してあんまりおっぱいの感触が。
「一応…確認しておこうかしらぁ…? どこまで認識したのか…」
あ~成る程。 つかまぁ、オーマがあの時学園で俺を凝視していた理由はこれかよ。
それはまぁいいか。取り合えず飛鳥の事と、シアン・俺・メディ・リセル・リーシャ。
知り得る限りの事は話した。 勿論此処から先の事は言っていない。 …ん? なんだ、
ディエラとオーマが顔を見合わせて、やっぱり確認して良かった。 そういってきた。
「どういうこって?」
俺もイストも何か間違いあったのかと、首を傾げると言って来た。リセルに与えた力。
それをイストがもう一つ忘れていると。 意識的か無意識か? 分からんがそれを聞いた瞬間
イストの頭を軽く殴っていた。
「痛いのじゃ! ワシも人間じゃぞ!」
まぁ、そりゃそうか。成る程、実際にその場に居て長寿の二人を確認用に置いたワケか…。
ここで真偽の確認をさせて仕上げに移らせるつもりだったのかよ。
で、イストの忘れていた事。 言われてみりゃそうだ…、魔人の祖の力。リンカーフェイズの力。
『繋ぐ力』がなけりゃ話が繋がらないわな。 それはいい。
俺はオーマに視線を向けて、ここでアンタと戦ったら氷山が崩れて生き埋めになるぞと。
そう伝えると、相変わらずの低い声でキモいぐらいにハイテンションな言動で答えてきた。
そうならない様に力を抑えて戦う事も大事と。 なんで戦う事を今更…。
座り込んだまま腕を組んで頭痛に苛まされつつ考えていると、ディエラが俺に尋ねてきた。
バーレを滅亡に追いやったのは何かしら? と。 …。
「成る程。天石を作ったのもバーレ人…いやリーシャか」
それを二人に話すと頷いた。 …。あの二神を止める為に新たに作られたモノってわけか。
が、結局の所崩壊を更に悪化させるだけの物にしかならなかったと。
それを俺に集めさせた理由…そうか。 コイツは俺に使わせる為じゃないな。
「天石やら二神の持っているだろうソレ。 破壊させる為だろう?
フェンリルの馬鹿げた力なら十分に可能だろうし」
ん? 首を振った…どういう事だ?
「んもうっ! ここから先は貴方がきめるのよんっ!?」
「その力を使うかどうか…リーシャは試したいのよ…?」
成る程な。 んなもん答えは決まってるだろう、身に余る力を持った者はどうなるか。
バーレ・リセル・リーシャ・現在進行形の俺。 どう考えても破壊の一択しかネェわな。
「ああ、尋ねた俺が馬鹿だった。 破術で酷い目にあってるってのに」
その言葉に二人は満足そうに頷くと、ディエラは俺から離れ…お?
何か静かだなと思ったら、俺とディエラの板ばさみになっていたイストが床に尻から落ちて
暴れて怒り狂ってる…どうりでおっぱいの感触が微妙だと思ったら…。
「さて、ほんじゃ一丁やったりますか! 魔王相手にやるってんだ。
動物じゃちょいと役不足だな」
「フェンリルとやらでこないと、死ぬわよ?」
うへ…常時テンションが高いオーマがマジな顔して喋った! 何か余計にキモさが増した気がする。
「じゃイスト、頼むわ」
「うむ。…けど怖いんじゃが…」
「アイツは弱者にゃ見向きもしネェよ」
恐る恐るリンカーフェイズを解くと、俺達は輪廻に戻りフェンリルを呼んで力を借り、
再び現世に銀色の光を周囲に放ちながら銀の毛並みを持つワーウルフの姿で戻ってきた。
余程まぶしいのか、ディエラが手で光を遮っている…ああ、周囲の氷に反射して尚更眩しいか。
「さて、オーマ死んでも文句言うなよ?」
そう言うと、軽く吼えて軽く中腰になり地面に体重を乗せると、
その周囲に亀裂が走り冷気も巻き上がって雪を蹴散らしていく。 まだ10%なんだが…。
「ワタシをナメてるわね? …死ぬわよ」
と、オーマが言うとあの超重力場を作り出してきたのか、周囲の氷の花が一瞬にして全て砕け散り、
床の至る所に亀裂が走り出す。 …氷山壊す気かよ!! …外に出たらイストが寒さに耐えれるのかよ。
そう言うと、俺はイストの方を向くと…おいそんな便利なのあったのかよ。
風を周囲に作り出してそれを回転させてるのだろう、多分属性防御の高いシールドみたいなの張りやがった。
…ああ。 あの玉の風かよ。 ったく…まぁんじゃ遠慮無くいきますか。
「生憎だが、その力場はフェンリルには無意味だぞオーマ!」
そう言うと、一度大きく息を吸い込み一際大きく吼えた。 周囲の冷気と雪を四方に吹き飛ばすと同時に、
魔力で形成された重力場。 それが吼え声の届く範囲全て無効果する。
「あらやだわ! 魔力がかき消されるなんて!?」
「狼の吼え声は、退魔の吼え声でね」
そう言うと、オーマは…うわー…似合わネェ! 不敵な笑みを浮かべて右手を顎にあてがいやがった!
そして、俺に元々魔力に頼った醜い戦い方は好きじゃないのよ! と…いやお前自体醜いと思うんだが!
「さぁ! ワタシに美しい戦いをさせてちょうだいねっ!」
やめろ! お前が美しいなんて言葉口にするな! 美しいという言葉が汚される気がしてならんわっ!!
必死で嫌悪感を隠しつつ、身構えると…ちょっ!!
「いでぇっ!!」
一瞬視界から消えたと思った瞬間、俺は奥の壁に背中から叩きつけられ、体の半分は壁にめり込んでいた。
そこから亀裂が走り、大きい地鳴りの様なものが響き、天井の氷が崩れ出してきた。
「まじで…ここ壊す気かよ…」
油断したとはいえ、10%だとはいえ、フェンリル使っている状態で一撃食らわされたのは初めてだ。
見た目はアレで魔王なんて古臭い呼ばれ方はしてるが…伊達じゃないってか。
口から多少の血の味がするが…これならすぐに再生するだろう。
体を壁から引き抜きつつ俺はフェンリルに30%の力を頼むと、
良くわからないがこう体の奥底から湧き上がってくる感覚を覚える。 これならいけるだろ…。
軽く吼えた瞬間、地面を強く蹴り余裕カマして立っているオーマを殴りつけると、オーマが
物凄い勢いで壁にめり込んでいった。 そして後ろを見ると…やりすぎた!!
蹴った部分が亀裂どころか窪んでクレーターみたいになり、一際大きい亀裂が天井に走り出している。
だーっ! もうここ崩壊するぞこりゃ。 周囲に浮いていたイストを捕まえて、吹雪が入り込んでいる穴目掛けて
軽く走る。 全力だと走った所全て崩壊するんだよ!
ディエラは転移あるんでほっといても平気だろうから無視!
そのまま吹雪の中を駆け抜けて一気に山頂近くの穴から出ると…さっぶ!! 強烈な冷気と吹雪が体を貫いてくる。
「さぶっ!」
「ワシ平気じゃ」
てめぇ…便利だなおい!! 羨まし…いやいや、それどころじゃない。視線をイストから眼下の山中に移して
オーマを探す。 壁に激しくめり込んでいったがアレで死ぬとも思えないワケだ。
さて…どこか…どわっ! 急に足元から悪寒が走ったので、思わず空中を蹴った衝撃波で、
その足元の悪寒を迎撃すると、砕けた氷塊が光を受けて散らばりながら落ちていく…オーマじゃないか。
周囲を探るが…その気配は無し。 どこにいやがるよ!! 器用に姿を隠して氷塊投げつけて…またかよ!!
今度はいくつだおい!! 数えるのもダルい程の氷塊が山中から飛んでくる。
「ええい鬱陶しい!!」
大きく体を捻って、渾身の力で空を蹴りその衝撃波で飛んできた氷塊を全て打ち返す。
その瞬間、両手で叩かれた鈍い痛みが背中に走り、氷の迷宮と化している亀裂の中へと叩き落された。
亀裂の上部から鈍い音と共に、砕けた氷と冷気がコチラに向けて雪崩の様に落ちてくる。
「いてぇ…つかあぶなっっ!」
背中を押さえつつ、張り付いてるイストを確認していると、頭の上からその雪崩が落ちてくるのに気がつき
巻き込まれる寸前の所でその場から抜け出す。背後では地響きが木霊し冷気の煙とでもいえばいいのかそれが
巻き上がり、氷の弾丸を無数に飛ばしてる。それをかわして一度体勢を整えようとするが、更に追い討ちを
かける様にオーマの蹴りが俺の右側面を捉えて、雪崩の中に叩き込まれた。
「つめてぇっ!つか痛冷てぇ!」
「しっかりせぬか」
便利だなそれ! この雪崩を全く意に介さない風の防護壁…クァもなんか似たようなの使ってたなそいや。
然し、どうするとりあえず崩れた氷に手足とられて身動きできネェわ、肋骨折れたっぽいわ。
息がし難い所を見ると肺も潰れたんだろう口の中に血の味がどんどん広がってくる。
とどめに上下が全く分からんワケで…とりあえず出てくるまで待ってるんだろうから、再生させてか…
「げはっ!!」
なんて余裕カマす相手じゃなかった様で、氷の雪崩ごし攻撃して吹き飛ばしてきやがった。
そのまま痛みで余り動け無い状態で宙に浮かされた俺の腹を殴りつけて地面に叩き落し、
地面の氷が隆起し、巨大なクレーターが出来てその中に埋められてしまう。 …洒落になってねぇ。
「ぐへ…単純な力だとこっちのが強いんだろうが…」
戦いの場数が違い過ぎてしゃれになってねぇ!!
体の再生がおいついてないな…右足が変な方向に曲がって骨が突き出てるわ、左腕が見当たらないわ…
うわ、あんなところにあった。 2m程先の所に俺の左腕が転がっている。
どうりでさっきから背中が妙に生暖かいと思ったらくそ! 結構な量の血液がでていたが、
外の冷気のお陰で止血になっているらしく、もう少量しか出ていない…が、…やばいな。
身動きがとれねぇ…。 畜生…場数を埋める様な方法…まてよ…。
よし、これでいくか…。 オーマの弱点は既に見つけているそこを突破口にするしかないな!!
体を無理矢理起し、周囲を探ると気配はあるが…どこにいるかがわからない。
が、これなら確実にやれる!! 右腕で地面を殴りつけ、その反動で左足で立ち上がり俺は
一つの事を行う、 それは…。