表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/129

第百二十話 「リーシャの破術」

          


        「くそ…」

        「どうかしたのじゃか?」

        「…鷹一本で脱出出来なかった」

  あれから数日が経ち次の目的地へと向かう途中、近場にある島におり焚き火をし朝を待っている…のはいいが。

   飛んでいる間に思い出した事に絶望したかの様に、俺は四つんばいになっている。

  そう、鷹一本で完クリ出来なかった事に絶望していた。そしてそれを呆れた顔で体裁気にして死ぬのか主は?

   と言われてしまう始末。 まぁ…その通りか。

        「結局いくつか見落としたな…イストあそこ詳しいだろ?

            天井崩れる仕掛けが分からんかったんだが…」

        「今、主が知っておる事とワシの知識の交換でどうじゃ?」

  うーわっ、してやったりという顔で覗き込んできやがった。 …いや、頃合か。 そろそろ飛鳥の情報と、

   俺の持っている情報を結合しないとな…。 視線をイストに向けては頷くと、先に天井崩れの原因を聞いた。

        「あれはのう、溶岩のあった大部屋に蔦があったじゃろ。

           アレがあの部屋への亀裂作っておるのじゃよ」

  …。 岩に根を張り巡らせて水中に咲く花…ちなみに根から熱と水を養分としているらしい。

   そりゃ切れにくいワケだわ、あれだけ重量かけても。

   で、その根が結構な部分に張り巡らされて、大きい地震がくると天井の地底湖の重さに耐えかねて崩壊か。

  成る程な…って、早くしろと言わんばかりに掴んで急かしてくるなっての。

        「分かったよ。 分かりやすく吼竜の谷の仕掛けから、最初の三本の道…」

  覗き込んできたな。 まぁ、これは俺と飛鳥。二人の情報を結合しないと

   破綻する様にリーシャが仕組んでいる。 続けてそう伝えてからまず吼竜の事を話す。

  一本目、浅い奴が、従属神・メディ・リセルだ。 楔になるり途中で未来に飛ばされる。

         メディだけは別の目的でユグドラシルの根へと飛ばされる。

   二本目、リーシャだ。深く真っ直ぐ続いている。 現在まで至る。

   三本目、飛鳥だ。ここはお前の情報があって初めて確信になるので伏せる。 そう伝えた。

  そして、イストの方に向いてイストにそれを結合して貰わないと答えが出ない事も告げる。

        「成る程の、…ワシは、そう確かにあの時死んだ。 然しその前にリーシャに…」

  焚き火に顔を向けて淡々と語り出したイスト。そのイストを見ながら話を結合していくと…。

   飛鳥・先ずはリーシャに出会って『輪廻の鎖』の完全な状態な物を受け取る。その時にリーシャは、

    飛鳥の知っている飛鳥の世界の知識を貰う、そこから滅亡のシナリオを回避する為の破術を組み上げた。

   飛鳥はその後、リセルと共にあの現世を繋ぐ力を持ってケリアドと戦うが今一歩及ばず、死ぬ事になる。

    それは飛鳥も分かって居た事だ。で、一つの矛盾。 

   何故、飛鳥が居るのにケルドから力をリセルは受け取れたのか。 これは簡単だ、『輪廻の鎖』その力。

    ケルドは現世では倒せない。つまり殺しても飛鳥はロキとして一度戻る。 そして…。

   ここで一つ。アルテミスにフェンリルを引き合わせ仲良くさせた。 アルテミスは確か親縁か何かに射殺された

    筈だ。それを利用して『殺される瞬間に輪廻に引っ張り込んだ』 この力が飛鳥や俺が、肉体そのままの状態で

   こちらの世界に来た理由。 そして、その時点で飛鳥はその力を不要とするが…リーシャに頼まれていた通り、

    フェンリルにその引っ張り込む力と押し込む力。その部分と記憶を持って転生する力。

   その二つを食い千切らせた。これはフェンリルを輪廻に留まらせる為であり、俺を呼ぶ為でもある。

    そして、フェンリルに力を与えた場所は輪廻だ、自分がコチラの世界に戻る瞬間に千切らせた。

   そしてロキとして二つの力を失うかわりにロキの二つの力を手に入れて、、この世界に戻り時を待つ。

    その時とは、アルセリアの従属神ファラトリエルが風の精霊フィアに殺される時。 その後、

    ファラトリエルとしてすりかわる。 これが何故か生き返ってきたトリックだろうイストの言った事、

   それと俺の知る過去を結合した結果だ。 飛鳥・ファラトリエル・ケルド。これは同一である。

    ちなみにちょいと突付いてやったら、のろけ出してセアドの自慢話を始めやがって…、

    メディ思い出したじゃないか。僅か少しの間だったが楽しく一緒に暮らせたと。

 

         「成る程な。で、リセルに与えた力は結局何だったんだ?」

   再びイストの方を見て尋ねると、思い出すかの様に答えた。 予想はついている、それが無いとダメだからな。

    『記憶を持って転生出来る力』 輪廻の鎖とはよく言ったもんだ、千切れる様に作られている様だ。

   勿論千切れば本来持っている力は失われるが…それは既に不要なものだからだ。 で、肝心のリセル。

    恐らくは…これは確証は無いが確信はある。 リーシャにでもあの後に会って、

   性格や口調はある程度隠す様に言われたのだろうが…。 癖までは抜けないだろう、リセルも潔癖症な所があり、

    同時に俺が裸の美女とか言っただけで態度がコロリと変わった理由…。

   メディ以外に浮気してんじゃないですわよ! が思わず出てしまったと。ちなみにコレもリーシャの手の内だ。

    何でディアリアが眠りから覚めたか…その事を考えると合点が行く。 砂漠での出来事だからな。

   リセルの性格はメディを大事にしている。 そのメディを裏切る様な素振りを俺にさせて、リセルだと

    いずれ気付かせる為だ。 勿論この飛鳥の情報を手に入れた時点で分かる様に。

   何故、そんな事をするか。 最後にリーシャに会った時『リセルにそっくりなイストに、いずれ全ての力を授ける』

    これが原因で捻くれているが、リセルに力の全てを授けるという事。 

   つまり俺はもう一度リーシャと会う必要がある…来世でな。 

    現世では破術が邪魔をするからそれを捨てさせる必要があるからだ。 この破術を打ち破れるのは…破術だけ。

   だが、バーレを滅亡に追いやったのは、破術。 この破滅を回避するのには破術を途中で捨てる必要がある。

    頭の悪い馬鹿が一人居るワケだ。 それは誰か…ムカつくが俺の事だ。

   資質と資格。真偽眼…つまり偽りと真実を見抜く眼。 資格、頭が悪い事。 

    リーシャが今回求めた破術の絶対条件。頭が悪い方が思考領域の広がりに時間が掛かるってこった。

   その間、間違った事正しい事。色々と考えさせるワケで、そして限界が近づくと考えをやめさせる。

    実際に目で見ないと真実は絶対に分からない。 それを再認識させる為だわな。 


   少し、頭痛が酷くなってきたので、夜空を見上げる…。雲が少なく星座がどれがどれだか分からない。

    それほどに無数に散らばる星に一際大きく輝く双星。それを見ながらイストに俺は、

    『始めから在った破綻』を話す。

         「言われてみれば…そうじゃな。 世界を創ったアルセリア。そして弟のケリアド。

             この二人は如何にして生まれたのじゃろうか」

   同じく夜空の双星に視線を移すイストに俺は、確信も確証も無い推論を一つ教える。

         「バーレの在ったサルメア大砂漠。 それ以外が一度全て崩壊していたとしたらどうだ?

             従属神で大陸一つの形を変えるぐらいの力があったんだろ」

   その言葉に目を丸くして俺を見てきたな。…まぁそりゃそうだ。 

    神だから何でも出来る何があってもおかしくない。 そう言う心理的な部分もリーシャは使ってきたワケだ。

         「じゃとすると…、ケリアドが大砂漠に変えたのは変えたそれは確かじゃが…。

              リーシャが護った後を…じゃな。という事じゃな」

   まぁ、そんな所だろう。いくらリーシャでもそれが限界だったんだろう。 軽く頷いてイストの目を見て、

    二人の神の類似点を聞くと、首を傾げてしまった。…頭は良いが勘は鈍そうだな。

         「言創と言視。 二人とも言葉を力の源としているだろ。

                   で、二人は結局何をしていたよ?」

   少し考え込んだ仕草で俯き、互いを説得しあっていた。と答えた。 それが世界崩壊・バーレ滅亡の原因だと。

         「じゃが、バーレを滅亡においやったのは破術じゃろう?」

   軽くイストの頭をポンポン叩いて、破術自体は破壊力はネェよと答えた。 そして、お前や俺、シアンもだ。

    ケリアドを倒す為に何をやっていたか、それを考えさせた。

         「…成る程。 進化論。その栄華を極めたが為の…まるでアトランティスじゃな」

         「滅び方が逆だがな。単純に言うと警告。 が…まだ続きがある」

   うぉおっ! コイツまじでリセルまんまだな。 謎とかになると食いつく所なぞもう…。

     おもっきり急接近して俺の右腕を掴んで引っ張り、早く続きを言えと煩いのなんの。

         「これも双星の神に会わないと確証が無いが…」

   再び俺は夜空に顔を向けて、双星の神に尋ねる様に口を開いた。

    人間・魔族・魔人・精霊・竜…まぁ、存在する力のある種族間交配の末に生まれたのが…、その二神だろうと。

   そして、典文に記されていない残りの石。 リーシャは『双星の神の力は魔術・神術。それのどれにも類さない。

    個の力である』そういった事をイストに思い出させた。

         「まさか…双星の神は男女…記されていない石も二つ…それに精霊術がないのう」

         「そうだ、そしてバーレ最強のリンカーであり、俺達みたいな寄生型の魔精具を持っている。

            それも…恐ろしく強力な精霊のな」

         「セアド…の直系…じゃろうか」

   ユグドラシル。これについても隠されている事があるが、確信も確証も無いので伏せておこう。

   で、リーシャが言っていた『二人で一人』それはこの魔精具の事。双星の神もそうである。

    形が無いから術に見える。それを隠していたんだと俺は推理しているが…実際見るまでは分からない。

   イストに視線を向けて軽く笑うと俺は、この天石を探す旅。そして俺達がここまで生きて、見てきた事。

    それはリーシャが破術によって生み出した、バーレ滅亡の真実を見せる為であると。

         「成る程…、大砂漠の蛇神も合成生物じゃしの。そして劣化ケリアド」

   頷いて、焚き火に視線を戻したイストの頭を再び叩き、まだリーシャが隠している事を告げた。

         「イスト、お前なら目の前に穴がある。それを知っているとして、

            その穴に落ちようとしている人間がいたらどうする?」

   呆れた顔で俺見られたぞ。 言い方ヘタだったか?…まぁいいか。

    つまりそう言うことだ。 リーシャは、滅亡のシナリオを組む事と同時に回避のシナリオも組んでいる。

    俺達がどうやって劣化ケリアドを倒したか、それまでの経緯もそうだが…

   それは一人では不可能だ。大抵にして頭の良い奴が滅亡を招く。 

    が…頭の悪い奴が回避のシナリオ、それに気付く様に仕組んでいる。 だから飛鳥と俺。

   二人が時間差で呼ばれたワケだ。 飛鳥が滅亡のシナリオを遂行し、

    俺達が跡を継いで回避のシナリオを遂行する。 飛鳥のシナリオだけだと破滅・破綻するし、

    俺達のシナリオだけでも、同じ。 そういう仕組みにしていたんだよ。あいつは。

   頭を抱え込んだな。 まぁ気持ちは分かるが…これらを踏まえて過去を顧みると、

    俺とシアンさんが最終的に別の道を歩み、破滅のシナリオを回避する様に出来ている。

         「まぁ、それを気付かせる為にあるのが、天石を探させる事だ」

   ペンペンとイストの頭を叩きつつ、今までのリーシャの試練を振り返る。

    先ず、砂漠だ。ここでは破術の資質と資格。それに劣化ケリアド・合成術みたいなものだろう。

     それだけでは気付かない様に、色々とやって教えてくれたワケだが。

    ノヴィアの一件。厳しい環境から生きる為の進化。それを思い出させる為に、ヴァランを守護者にした。

     この時点ではまだ気付かない。 次に吼竜の谷のあの大噴火と崩壊、そして考える事が辛くなって来た。

    混乱・困惑…まぁ破綻だわな。 其処で初めて俺が破術と真偽眼の真意を知り今に至る。

     つまり、破術を見つけて色々と考えて生み出した対神必滅方法。物理的な力に魔術を上乗せして、

    神の強力な復元能力を打ち破る力。 これがリーシャが考えた対神用の切り札だ。   

     だがそれは、同時に破滅をもたらすモノでもある。 それが吼竜の谷でのメッセージだ。

    そして…、ここから先のメッセージは無い。 俺が決める事になるワケだ。

         「成る程のう…。今まで主が与えられた試練は全て、リーシャからのメッセージ。

             …じゃが何故に、文を残したり直接言わぬ?」

         「お前な、核の作り方を原始人に教えて、そいつ等即創れるか?」

    そう、わざわざこんな大掛かりなメッセージを残した理由だ。

     いきなり凄まじく膨大な量の計算問題を突き出されて、即座に答えられる奴がいるかよ。

      それも文明の衰退したこの世界でだ。伝えて仮にそれが成ったとしても、膨大な時間を必要とする。

    その間にその問題は様々な論に枝分かれして、原型とは全く違うモノになる。

     そう、イストに伝えつつ頭を叩いて遊ぶと怒り出したが…、また疑問をぶつけてきた。

         「じゃが、それなら何故直接ワシ等に言ってこぬ?」

         「それは、リーシャが破術師だからだ」

    理由は二つ、一つ目。破術は人間の手に負える代物じゃない。脳の進化を促進して自己破滅を起す副作用がある。

     自分の頭を軽く叩いてそれを伝えると、当然ながらイストは、何故リーシャは自己破滅していないか?

     それを尋ねてきた。 イストから焚き火に視線を移し、ソレに対してリーシャはお前とメディ・リセルに何を

     したのか? それを告げると両手を叩いて答えた。まぁ、時消操術の副作用だわな。

    破術が脳の進化なら、時消操術は脳も含めた…身体的な退化だ。 だが、身体的な退化の方が強い為、

     ゆっくりと、若返っている。 その間にもどんどんリーシャは記憶を失っている。

    だから、メッセージを残し、アルセリア暦というまぁ暦を作ってそこをスタート地点として破術を執行した。

    二つ目、それを破るのもまた破術である。

         「成る程のう…。ワシのシナリオ・主のシナリオ・そして

           自分のシナリオも並行して行っておったのか…」

    こいつ…妙に鈍いな。 この頭の中身はトウフか? さてはトウフだな?このトウフめとイストの頭を叩いて遊ぶ。

         「豆腐では無い!!」

    手を振り払って怒りやがった。軽いジョークだろうに…。

         「回避のシナリオはどこにいったよ? 俺のだけじゃ回避のシナリオにならんぞ」

         「どういうことじゃ?」

    …首を絞めるなっ!! あーもう。 足りないだろ、封印を護ってケリアドを倒す為の方法。

     破滅のシナリオに現在向かっているシアン達が。 それを食い止める為の俺。

     それを言うと、再び焚き火に戻す。

         「それは分かったのじゃ。…が、主のシナリオとはなんなのじゃ?

             それが分からぬ。 主は何を考え、何をしようとしておる?」

         「それは…まだ言えない。 せめて確信を得るまでな」

     覗き込んでくるなよ…あんまり顔を見られたくねぇ…。

         「主、その事になると必ず悲しい目をするのう…」

     ここから先は、俺のシナリオ。破術を持つ俺がソレを持って答えをあの二神に叩き付ける。

      その答えが…、まだ良くわからないな、これが本当に正しいのか。

      それはリーシャにもう一度来世であったら、リーシャが答えるだろう。 

         (我もだ。貴様は何処へ行く? 我の力を携え何をする?)

     お前もそうだな。 その力『引っ張り込む力と押し込む力』それに必要な、覗く力。

      これは確信も確証も無く、妄想でしかなかったが…これで確信したわ。

     俺をこっちの世界に引きずり込んだのは飛鳥じゃない、お前だ。

      理由は分からないが…俺がまだ気付いて無いソレをお前に与えられた時、教えてくれよな。

         (よかろう)

     そのまま後ろに倒れ込み、夜空を見上げる。 頭痛に耐えて考えたが…本当に時間は無い。

      俺もそうだが、リーシャもな。 最後の仕上げをするのに必要なモノと力が失われる前に、

      俺は次の所で確信を得て、フェンリルにイストを委ねて…。 痛…そろそろ限界か。

         「大丈夫かの? そんな調子じゃと次の…」

         「大丈夫だ…が、あの敵はある意味最強最悪だ…」

         「気付いておったか…」

     軽く頷いて、そのある意味最強最悪の敵を想いながら、イストを抱え込み、

        次の目的地、アイスランドだろうその大陸へと思いをはせて眠る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ